「まったく……こんな街中で、一般市民相手に煌華麟を振り回すとは……何を考えてるんだか。舞威姫の質も落ちたもんだね」
夕方、黒猫を胸元に抱えながら紗矢華は、その黒猫に説教されていた。
何故こんな状況かと言うと
1、任務で絃神島に来た。
2、駅近くを歩いていたら、ナンパされた。
3、登録魔族だったのだが、煌華麟を抜き、動きを止めた相手に思い切り膝蹴りを叩き込み、意識を失わせてしまった。
4、警備隊に捕まり、事情聴取されていたら、黒猫の縁が来て釈放してもらった。
5、絃神島の出張所に向かいながら、縁から改めて説教中。←今ここ
「ところで、私が呼ばれた理由を教えてください。さっさと終わらせて、休暇を取りたいんですけど」
紗矢華がそう言うと、黒猫は不機嫌そうに目を細めながら、器用に首輪の隙間から写真を取って、紗矢華に差し出した。
「こいつは?」
「ザカリー・多島・アンドレイド。欧州ヒスパニア国籍の日系人。国際指名手配中の魔導犯罪者さね。通称、人形師」
「……人形師?」
人形師の呼び名は、紗矢華も知っていた。だが、詳細には知らない。
「この男は凄腕の魔術師でね。特に生体操作を得意にしているらしい。この男が調整した人工生命体は芸術品とすら呼ばれていて、今でも凄まじい高額で取り引きされてる。セビリアの大学では、医療魔術の大学すら任されていたそうだよ」
「大学教授、ですか……」
セビリアの大学というのも、紗矢華は知っている。一流の魔導系大学で、そこの教授ともなれば、あらゆる分野の先駆者と呼ばれ、羨望の対象だ。
「そんな人が、どうして魔導犯罪者に……」
「この男は確かに凄腕の魔術師だが、良心というのが決定的に欠けていたのさ」
「良心?」
紗矢華が首を傾げると、また首輪の隙間から紙を取り
「こいつは、自分の研究の為に、分かってるだけで200人以上の人間と魔族。人工生命体はその十倍以上は殺してる」
「なっ……!?」
差し出された紙には、犠牲になったと思われる各地の人数と、判明した研究所で見つかった遺体の写真が印刷されていた。
余りに常軌を逸したとしか思えない所業に、紗矢華は驚いた。
「おまけに、魔導犯罪者として指名手配された後も、アンドレイドに仕事を依頼する輩は後を絶たなかった。こいつが造り出す人工生命体や機械人形には、それだけの性能と価値があるって事なんだろうさ」
「……その凶悪犯が、今は
紗矢華は、堅い声で問いかけた。本来は外国が主な任務地の舞威姫が、絃神島に呼ばれた理由を、ようやく察したのだ。
「二枚目を見な。先週捕まえた密売人が、尋問で話したのさ。アンドレイドに、軍用規格の部品を売ったってな」
「軍用規格……」
二枚目を見た紗矢華は、驚愕した。
明らかに人を殺す目的の軍用人形の部品が、大量にアンドレイドに売られている事が書かれている。
その気になれば、大量の機械人形が暴れて、島の一つ分の命が奪われてしまう。
「相手が国際指名手配の魔導犯罪者なら、そいつは
「つまり、このザカリー・アンドレイドを見つけ出して確保するのが、今回の私の任務ですね」
そう言って紗矢華は、肩に掛けていた楽器ケースの肩紐を強く掴んだ。
「やれるね」
「はい」
縁からの問い掛けに、紗矢華は頷いた。
無実の人々に、犠牲を出す訳にはいかない。紗矢華はそう決意した。
だが
「あのー……師家様、終わったら休暇を申請したいんですが……」
と紗矢華が問い掛けるが、黒猫からは返事が無い。
それどころか、黒猫は可愛らしくにゃあ、と鳴くだけだ。
「え!? 師家様!? 私の休暇はどうなるんですか!? 師家様ぁぁぁぁぁぁ!?」
紗矢華は黒猫をガクガクと揺さぶるが、黒猫は遊んでもらってる感覚なのか、楽しそうで、道行く人々は警察を呼ぶ考えなのか、携帯を取り出していた。