少々の行き違いから、紗矢華が那月、アスタルテと交戦してしまい、帰ろうとした那月だったが、紗矢華が落ちた床を見て
「……そこの床を斬ってみろ」
「はあ? いきなり何よ。この下って、人工島の構造体部分でしょ?」
那月の指示に、紗矢華は意味が分からないという風に首を傾げた。今居るのは、明久がアスタルテとオイスタッハを見つけた製薬会社跡地だ。
那月は残った証拠や隠された場所がないか確認しに来て、同じように調査に来ていた紗矢華と勘違いから互いに交戦。
勝ったのは那月で、鎖から解き放ったところだ。
「いいから、斬れ」
「まったく……はっ!!」
呆れながらも、紗矢華は六式の空間切断で床を切り崩した。すると床下には、広大な空間が見えた。
「これって……」
「恐らく、何らかの魔術で入る事を前提にした隠し研究所だな……降りるぞ」
那月は鎖を顕現させて、掴んで降りた。紗矢華も後を追うと、見えたのは夥しい数の調整ポッドと血まみれのベッド。そして、腐乱死体と機械部品が置かれた棚だった。
「これは……!?」
「人形師の隠し研究所か……この数……行方不明の魔族や人間だけではないな……ホムンクルスもか……」
血なまぐさい臭いに紗矢華は鼻を抑え、那月は端末を操作した。恐らく、警備隊に連絡したのだろう。
「イカれた奴って聞いてたけど……常軌を逸してるわよ、こんなの……」
これまで、様々な事件の調査や解決をしてきた紗矢華でも、ここまで業が深いのは見た事が無かった。遺体の中には、明らかに子供と思われる者もあり、更には人間とは思えない見た目の遺体もある。
「これは……」
「無理やり眷獣を埋め込んだんだろうな……アスタルテのように」
流石に子供の遺体に、那月の表情も険しいものになっている。何処からか布を手元に出して、その遺体に被せた。
(そういえば、学校の教師って書いてあったわね)
紗矢華がそう思っていると、何か思い出したように
「ここが人形師の隠し研究所って事なら、待ってたら奴を捕まえられるって事よね」
「いや……待つ必要はなさそうだぞ」
紗矢華の言葉に、那月はそう言って奥へと歩き始め、紗矢華も後を追った。
一番奥の様々な資料や部品、生体調整ポッドの並んでる壁際に机があったのだが、その前にジーパンと汚れた白衣を着た乾いた遺体があった。
「なに、これ……」
「服装から考えるに、こいつが人形師だろう……だが、どういう事だ」
その見た目から、明らかに水分が喪われて死んでいる事が分かる。しかし、オイスタッハやアスタルテの証言や周囲の死体からつい最近まで生きて研究していたのは明らかだ。
那月が人形師の遺体に触ろうとした時
「警告、上に動態反応!」
とアスタルテが警告してきて、那月と紗矢華は後ろに跳んだ。その直後、上の配管の隙間から数体の人形が現れた。
恐らく、人形師が自分を守らせる為に配置した物だろう。だが、壊れている事が見て取れた。
一体は頭が破損し、包帯が乱雑に巻かれていて、別のは片腕が無い。更に別のは両手の指が歪に折れている。
「ふん……さっさと片付けるぞ」
「見てらんないのは同意するわ」
その後、那月達は瞬く間に人形達を破壊し、人形師の遺体があった場所を見たが、戦闘の衝撃でか崩れた後だった。
「……何があったのか、調べる必要があるな」
那月は心底面倒だ、という風に呟いたのだった。