リディアン絃神の地下層に、那月とアスタルテは居た。人工島管理公社のセンサー類が、その場所にスワニルダが居ると報せたからだ。
しかしその地下層は、一面が霧で真っ白になっていた。
「アスタルテ、どうだ?」
「検査完了……人体に有害な物質は確認されません。ザカリー・アンドレイドの人形が、魔導具を発動した際に発せられる霧と推測します。資料と一致」
「魔導具か……どんな魔導具かは知らんが、ここにスワニルダとやらが居たのは間違いなさそうだな」
アスタルテの報告を聞いた那月は、魔術で周囲を捜索した。しかし、生体反応は無いから、スワニルダは居ないのは分かった。
「しかし、何故こんな位置で魔導具を……」
『緊急報告! 正面から近付く反応あり! 数は80!!』
「80だと!?」
通信機から聞こえた予想外の数に、那月は驚愕しながら空間魔術で霧を吹き飛ばして、接近してくる敵を見た。
「しまった!? そういう事か! スワニルダが、リディアン絃神の地下層で魔導具を発動したのは!?」
那月はスワニルダが使った魔導具に気付き、更にスワニルダの狙いに気付いたが、最早遅かった。
その頃、リディアン絃神の婦人服売り場では
「うーん、雪菜ちゃんには何が似合うかな……」
「凪沙……分かったから、その手つきを辞めようか……表情と合わさって、完全に変態の領域だからね……」
雪菜の為に服を考えている凪沙なのだが、その手の動きと表情から、どう見ても変態にしか明久には見えなかった。
すると、雪菜が
「先輩……霧から、魔力を感じませんか?」
と小声で言ってきた。
確かに、足下に漂っている霧から、何らかの魔力を薄っすらと感じる。明久が警戒し始めた時
「ひっ!? 今、窓の外を裸の何かが這ってた!?」
と凪沙が驚きの声を上げた。
「窓の外って、ここは二階だよ? 何を言って……」
「!? 悲鳴!?」
凪沙を明久が落ち着かせようとした時、何処からか悲鳴が聞こえた。それは、半開きになったスタッフスペースから聞こえてきている。
雪菜は近くにあったポールを2本掴むと、一本を明久に投げ渡した。受け取った明久は、雪菜と一緒にスタッフスペースに突撃した。
すると、マネキンが女性店員に掴みかかり、押し倒していた。
「せあっ!!」
明久はそのマネキン目掛けて、ステンレス製のポールをフルスイング。マネキンは頭部を破壊され、壁に叩きつけられて、壊れた。
「雪菜ちゃん!」
「……大丈夫です、息はしています。しかし、酷く衰弱しています。恐らく、精気を吸い取られたのかと」
明久の呼び掛けに反応し、雪菜は素早く女性店員を軽く診察。命に別状は無さそうではある。
「精気を? さっきのマネキンに?」
明久は壊れて動かなくなったマネキンを見て、首を傾げた。
「……確か、人形遣いにはそういった能力があるとは聞いた事があります……」
人形遣いというのは、魔術師の大系の一つである。
一人で一体から複数の人形を操り、様々な事を成す魔術師だ。
「けどこれ、店に置いてある普通のマネキンだよ? 人形遣いだったら、専用の筈……」
明久は壊れたマネキンが、中が空洞タイプの展示用マネキンと気づいていた。
人形遣いはやはり拘りからか、自身で製作した人形を使う事が大半だ。
「はい。しかし、それしか考えられません……」
「大変大変! 店全体のマネキンが、人を襲ってるみたい!」
そこに、顔面蒼白の凪沙がスタッフスペースに駆け込んできて、リディアン絃神の案内アプリを見せてきた。
そこには、避難警報と表示されていて、文章でマネキンや様々な人形が人を襲っており、避難してください! と避難経路も表示されていた。
それを聞いた明久と雪菜が凪沙と一緒にスタッフスペースから出ると、そこかしこから悲鳴とスタッフ達が避難誘導している声が聞こえ、更にはマネキンが走ったり、壁や天井を這っているのが見えた。
『緊急事態発生! 緊急事態発生! スタッフはお客様を避難誘導してください! お客様は避難誘導に従い、避難を開始! 防衛スタッフは、人形の無力化を!!』
スピーカーからは、放送スタッフらしい慌てた声が聞こえる。その時、数体のマネキンや人形が明久達の方に向かってきた。
「先輩!」
「ああもう!! 何処のB級ホラー映画だよ!?」
明久はそう言って、間近に迫ったマネキンを叩き壊した。