プロローグ
そこの場所は、表向きには公表されておらず、国の誰が代表なのかも分からない。
一部の代表は敢えて公表する事で、標的を絞らせて他の代表を隠す役割を担っている。
その公表している人物の内の一人。戦王領域代表の一人。
戦王領域帝国最高評議会議長にして、聖域条約機構の構成員。ヴェレシュ・アラダールは
「……賛成多数により、絃神島の魔族特区認証の剥奪。並び、危険な聖殲の遺産として、絃神島の破壊は可決となりました……国連に多国籍艦隊の編成を要請します」
と非情な内容を告げた。
その決定を、滅びの瞳側の代表の一人として会議に参加していたイブリスベールはため息混じりに見ていた。
因みにイブリスベールは、反対に投票していた。
「……今の第四真祖を知らんのに、よくもまあ……」
イブリスベールが反対に投票した第一の理由は、明久の事をそれなりに知っているからだ。
「あやつはバカだが、善きバカよ……自身の日常を守るためなら、躊躇わずに刀を抜く……」
最近は絃神島に滞在していた為に、明久が事件を解決する為に奔走していたのは知っている。
そこから、明久の人となりは知っているつもりだ。
そして第二に
「まだ食べていない美味(ラーメン)が食べられなくなるのは困る」
そっちの方が主に聞こえるのは、気の所為だろうか。
さて、どうするか、とイブリスベールは考え始めていたが、その隣に純白のスリーピースを着た人物が現れて、イブリスは睨みつけた。
「なんの用件だ、蛇遣い」
「いえいえ。王子殿下を見つけたので、ご挨拶に伺ったまでですヨ」
ディミトリエ・ヴァトラーは、飄々としながら答えた。
「貴様、先の投票。どういうつもりだ?」
「どういうつもりとは?」
「決まってる。なぜ、賛成に挙手した? 貴様も第四真祖の事は知っているだろうに」
絃神島の魔族特区認証の剥奪と破壊に、ヴァトラーは賛成していたのだ。
するとヴァトラーは、クックックと笑いながら
「そうすれば、全力の明久と戦えるじゃないですか……! 血湧き肉躍る戦いが、楽しめるじゃないですか……!!」
「この戦闘狂め……」
度し難いとイブリスベールは一人呟いた。
次々と出ていく聖域条約機構の構成員達を尻目に、イブリスベールは空中を見上げた。
「……何とか切り抜けよ、第四真祖よ……」
場所は変わり、絃神島。
世間は2月に入り、一部男子は何かを気にし始めていた。
それは、バレンタインである。
元々はある製菓企業が過去の聖人にかこつけて始めたイベントだったが、定着し今に至る。
そして気にし始めるのは、何も男子達だけではない。
女子も色々と気にし始めるのだ。
誰にあげるか、何をあげるのか。
実はバレンタインにてあげる物によって、色々と意味があるのだ。
それによっては、今後が大きく変わると言っても過言ではないのだ。
この日、明久を荷物持ちにして凪沙、雪菜、夏音と言った女子達はバレンタインの買い物に来ていた。
「お、重い……手が痛い……!」
「あともう少しだから、頑張って明久くん!」
「すいません、先輩……!」
両手に膨大な量の買った物が入った買い物袋を持った明久は、顔を真っ赤にしながら歩き、そんな明久を凪沙達は労っていた。
ふとその時、凪沙が
「あれ、浅葱ちゃん?」
と浅葱を見つけた。
「え、藍羽先輩?」
「うん……あれ、誰か居る……」
凪沙は浅葱が誰かと一緒に居る事に気付き、足を止めた。
基樹じゃないのは、体格と髪色から直ぐに分かった。
誰だ、と凪沙達は考えているが、雪菜には直ぐに分かった。
「あれは……ディミトリエ公の……!」
浅葱と一緒に居たのは、ヴァトラーの部下の一人。トビアス・ジャガンだった。
「ちょっと!? 次は何処行くの!? 僕にはサッパリなんだから、早く来て!!」
そんな明久の声が聞こえて返事をして、再び浅葱の居た場所を見たら、既に浅葱とトビアスの姿は無かった。
だが雪菜は、嫌な予感を覚えていた。