ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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怒りの拳

「あ……さ、ぎ……?」

 

アデラード修道院跡地に着いた明久が見つけたのは、血溜まりの中倒れている浅葱だった

その出血量は、明らかに人間の致死量を越えている

吸血鬼ならば、まだ治る可能性はある

しかし、人間たる浅葱は……絶望的だった

倒れている浅葱の近くで膝を突き、明久は

 

「……嘘でしょ……こんなところで、死ぬようなキャラじゃないでしょ!?」

 

と思わず叫んだ

そんな明久に、雪菜も思わず俯いていた

雪菜も、浅葱の人柄には好意を覚えていた

その浅葱の無惨な有り様に、拳を握りしめていた

 

「僕が……ここに連れてきたから……僕が……つあぁぁぁぁぁぁ!」

 

浅葱を死なせてしまったという絶望と、浅葱を死なせる原因を作ったという怒りから、明久は叫び始めた

その直後、明久の全身から魔力が溢れ始めた

すぐにそれは、周囲に波動として衝撃を走らせた

それは勿論、近くに居た雪菜にも襲いかかった

 

「先輩!?」

 

その一撃は、雪菜と共に来ていた沙矢華式神によって防がれた

しかし雪菜は、放置する訳にはいかないと判断

自身に防御の術式を掛けると、ゆっくりと近づき始め

 

「先輩! 落ち着いてください! 先輩!!」

 

と明久に声を掛けた

しかし、明久は叫び続けている

だから、意を決して雪菜は

 

「先輩!!」

 

と明久の首筋に抱きついた

 

「つっ!?」

 

「落ち着いてください、先輩!! これで、先輩の正体が露見して、先輩が討伐されるような事態になれば、浅葱先輩がもっと可哀想です!!」

 

明久の意識が向いた直後、雪菜はそう言った

すると、徐々に明久から溢れていた魔力の奔流が収まり始めた

そして、収まると

 

「ゆ……き、な……ちゃん……」

 

明久はようやく、雪菜を認識した

 

「はい……」

 

明久が辿々しく呼ぶと、雪菜は頷いた

そして、ようやく落ち着いた明久は、雪菜が血を流してることに気付いて

 

「雪菜ちゃん……怪我……」

 

と雪菜の頬に、ゆっくりと手を当てた

すると雪菜は、手を頭に持っていき

 

「この位ならば、大したことありません」

 

と言って、小声で呪文を唱えて止血

そこで二人は、沙矢華式神の方に視線を向けた

すると沙矢華式神は、一礼して札へと戻った

 

「どうやら、呪力を使い果たしたようです」

 

と雪菜が言った

その直後

 

「やれやれ……逃げられちゃったよ……上手く行かないものだな……」

 

と軽薄な声が聞こえた

その声を聞いて、雪菜が視線を上げるとチェック柄のスーツを着た男

天塚が居た

明久は、視線を向けずに

 

「一つ聞くよ……天塚汞……」

 

と努めて冷静に、呼び掛けた

 

「なんだい、第四真祖?」

 

呼び掛けられて気づいたと言わんばかりに、天塚は明久に視線を向けた

すると明久は、ゆっくりと立ち上がり

 

「浅葱を、こんな風に殺したのは……お前か?」

 

と問い掛けた

すると、天塚は

 

「浅葱って、誰だい? その辺に転がってる、死体のどれかかな?」

 

と笑いながら言った

それを聞いた雪菜が、怒りから睨みつけていると

 

「もういい、分かった……それ以上喋るな、錬金術師風情が……」

 

地を這うような声で、明久は言った

初めて聞いた声音と言葉遣いに、雪菜は驚いた表情を浮かべ、天塚はムッとした表情で何かを言おうとした

だがその瞬間、天塚は驚愕した

何故ならば明久が既に肉薄し、左拳を握りしめていたからだ

そして明久は、冷酷な光を宿した目で天塚を見ながら

 

「あの世で、貴様が殺した人達に土下座してこい」

 

と言った

その直後、まるで大砲のような轟音と共に、左拳を天塚の胸部に叩き込んだ

その一撃により、天塚は数m吹き飛び、壁に激突

その壁を突き抜けて、瓦礫に埋まった

 

「先輩……」

 

「……こいつだけは、生かしておけない……」

 

生まれて初めて、明久は殺意と共に攻撃を繰り出した

それ自体に、後悔は無かった

言った言葉に、否やも無かったからだ

先程の一撃の威力は、吸血鬼としての身体能力と呪力による身体強化が重ねてあった

その威力は、推して知るべし

生身の人間ならば、一撃で即死である

その時だった

 

「酷いなぁ……」

 

と声が聞こえた

二人が見てみれば、衣服はボロボロだが天塚が立っていた

よく見れば、天塚の胸部に黒いピンポン球サイズの球が埋まっている

 

「人間の姿を、保てないじゃないか……」

 

そう言った直後、球に大きなヒビが入り、まるで金属で出来たスライムのようになった

それを見た明久は、目を見開き

 

「人間じゃない!?」

 

と驚いた

すると雪菜は

 

「まさか……賢者の血液(ワイズマンズ・ブラッド)!?」

 

と言った

その瞬間、二人目掛けて触手が伸びた

だが二人は、跳躍して回避

そして明久は

 

「人間じゃないなら……容赦しない……疾く在れ(こい)! 龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)!!」

 

と双頭の龍蛇を喚んだ

そして、最早人の姿じゃなくなった天塚を指差し

 

「全て食い尽くせ」

 

と冷酷に命じた

その命令を受けて、龍蛇の水銀はその双頭の顎門であっという間に全て食い尽くした

そして明久は、欠片が残ってないか確認すると

 

「戻れ……」

 

と龍蛇の水銀を消した

そこに、雪菜が歩み寄り

 

「先輩……」

 

と辛そうな表情を浮かべた

すると、明久は

 

「あいつを殺しても……浅葱は……」

 

と言いながら、拳を握りしめた

その直後

 

「うわっ!? なんじゃこりゃ!?」

 

と声が聞こえた

二人が振り向いた先では、浅葱が起き上がっていた

起き上がった浅葱は、全身を見ると

 

「な、何が起きたの?」

 

と困惑した

なお困惑していたのは、二人もだった

浅葱の出血量は、間違いなく致死量を越えていた

だが、見える限り怪我は塞がっている

何があったのかは、分からない

だが明久は、額に手を当てて

 

「はは……良かった……本当に、良かった……」

 

と言葉を漏らした

この時、明久と雪菜の二人は、解決したと思った

だが、これはまだ序章に過ぎなかったのだ

賢者の血液を巡る戦いは、始まったばかりなのだから


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