「青春だぁぁぁ!! ……ありゃ?」
「……は、はは……と、とま、った?」
気合を声に出して走る。
が、何やら周りがアホほど明るかったので立ち止まる。
後ろを見れば、桜間がズタボロの状態で這いつくばっていた。
視線を上に向ければ既に空は暗くなっており。
気が付けば知らない土地にいた。
都市部の方であり、恐らくは駅を五つほど超えて来たのか。
距離にすれば、直線で二十から三十キロほどだが……ジグザグで行ったから多分五十は超えているな!
体も温まってきたが、俺は桜間の体の事も考えて何処かで休む事にした。
靴を脱いで、底を抜けばそれぞれ一万円ずつ入っている。
取り敢えずは、二万円で何か軽食でもと考えて……お?
ふと視線を向けた先に、知り合いらしき人たちがいた。
目を凝らして見れば……ゴリ先輩と服部先輩だ!
何やら、高そうなレストランで食事をしている。
向かいには、知らない女性たちがいた。
先輩たちはスーツを着ていて、髪もワックスをしている……いや、服部先輩は覆面か。
「でも、先輩たちは剛魂で――ッ!! そうか、アレが剛魂なのかッ!?」
「……た、多分、だけどさ、絶対に、勘違い、して――話聞いてよぉぉぉ!!?」
俺は急いで先輩たちの元へと向かう。
これは運命であり、俺も一緒に剛魂に参加したい。
先輩たちが俺たちに秘密にするほどの過酷な特訓なのだ。
ぎこちない笑みは辛さを誤魔化す為で。
服部先輩も体が強張るほどに緊張している。
俺はレストランの窓に張り付いてドンドンと叩く。
すると、女性陣と先輩方が此方に視線を向けて来た。
「「――ッ!?」」
「へんはぁいッ!!! ほれも参加さへてくだはいッ!! 今、ほっちにいきまふッ!!」
俺は窓から離れて、店のドアを開けて中に入る。
すると、ギョッとした店員に止められた。
が、中で人を待たせている事を伝えて先輩たちのテーブルを指させば。
店員さんは戸惑いながらも道を開けてくれた。
先輩たちに手を振りながら近づく。
すると、先輩たちは何故か殺気を放ちながら顔中に血管を浮き出して笑っていた。
恐らく、俺たちを巻き込まない為に殺気を放っているんだろう――水臭いですよ!
「先輩ッ!! 俺たちも――剛魂に参加させてくださいッ!! お願いしますッ!!」
「ちょおま……何を言ってるのかなぁ? 誰かと間違っていますよぉ。ははは、やだなぁ、ねぇ?」
「ははは、誰でしょうか。それが……僕にはさっぱりですねぇ。ささ、こんな得体の知れない狂人は放っておいて会話の続きを」
「えぇ? でもぉ、この子達の方が面白そうじゃなぁい?」
「確かにぃ! 変な格好だけど……盛り上げてくれそうじゃん」
「「「ねぇぇ」」」
「「……」」
身なりの良い大人の女性陣。
俺は深々と頭を下げる。
そうして、近くにあった椅子を取って来てテーブルの前に置く。
一言断りを入れてから席につけば、女性陣が質問してくる。
「ねぇねぇ名前は? 幾つなの? 君たちは何処の所属?」
「俺の名前は五十嵐仁っす!! こっちは桜間雄吾っす!! 十五っす!! 所属は……天龍寺高校メカ・バト部です!!」
「「「……高校生?」」」
女性陣は首を傾げる。
そうして、ゴリ先輩たちを見て――先輩たちが笑い始めた。
「あははは!! そうだそうだぁ!! 五十嵐君と桜間君だったねぇ!! いやぁ懐かしいなぁ!! ご両親は元気かなぁ!!? 大変な手術だったが、二人共、怪我が完治したようで良かったよぉ!!! あははは!!」
「えぇえぇ!! そうですねぇ!! いやぁ僕と剛力さんと二人がかりで何とかなりましたからねぇ!! あの手術は本来であれば世紀に名を遺すほどの」
「――何言ってんすか?」
「「――ッ!!」」
俺は首を傾げる。
が、先輩たちが首をごきりと回し凄まじい殺気を放ちながら睨んできた。
何やら口パクで合わせろと言ってきて……そうか!!
これが剛魂の真の特訓内容だ。
女性陣からの疑惑の視線を受けながらも。
言葉巧みに会話を行い、何とかして場を盛り上げる為の特訓だ。
もしも失敗すれば、天井から矢が飛んできたり何処からともなく銃弾が――あぁ、だからか!!
妙に殺気が強い人間がいると思った。
機会を伺っているようであり。
周囲を頻りに見ている人間たち。
スーツを着てはいるが、鋭い目つきで……理解したぜ。
「そうっすね!! あの時はお世話になりました!!」
「あぁあぁ!! うんうん!! 良いよ良いよ!!」
「いやぁ良かった良かったぁ! さ、挨拶は終わりで君たちはそろそろ」
「――それでは景気づけに、俺から芸を幾つか披露させてもらいますッ!!」
「「……は?」」
俺はタンクトップを脱ぎ、ギプスを露にする。
そうして、近くのテーブルに置いてあった空のワインボトルを数本集めて来る。
俺は先輩方がよく見える位置に立ち、瓶を放り投げてジャグリングを始める。
すると、女性陣は笑みを浮かべて少しだけ楽しげだった。
俺はそのまま近くにあった椅子に――上がる。
「は!! よ!!」
「「「おぉ!!」」」
女性陣だけじゃない。
周りのお客さんたちも手を叩いてくれた。
この調子だと思いながら、俺は今度は椅子の上で逆立ちになる。
靴を脱ぎ捨ててから、一瞬にして両足でジャグリングを始める。
すると、更にレストラン内には拍手が巻き起こっていた。
「「「すごいすごぉい!! きゃははは!!」」」
「「……くっ!!」」
「……な、何やって、るの?」
俺は場を盛り上げる事に成功した。
が、油断は出来ない。
何がアウト判定になるかは定かではないのだ。
先輩方を見れば、顔中に血管を浮き出して俺を睨んでいた……まだ足りないってのか!?
どうする、これ以上何を――その時、レストラン内に誰かが入って来た。
「ん? 今日は随分と賑やかだね……何やらショーをしているようだが」
「あ、い、いえ、そのぉ……は、ははは」
「……? まぁいいか。それで、先方は」
「――やれ」
「……!!」
身なりの良い小太りの男。
それを確認した殺気を放っていた男たちが動き出す。
スーツの内側に手を入れていて――分かったぞッ!!
俺はジャグリングをしていたボトルを――蹴り飛ばす。
瞬間、俺が蹴ったボトルは精確に男たちの体に当たった。
すると、何かを取り出そうとしていた男たちの体がよろめく。
カラカラと何かが落ちて床を転がり――店員が悲鳴を上げた。
「じゅ、銃!!?」
「……クソッ!! 構うなッ!! 殺せッ!!」
男たちがナイフを取り出す。
俺はそのままジャンプをして、腰が抜けた状態の小太りのおっさんの前に立つ。
剛魂の特訓。
これは最終段階であり、精神を酷使しした後に待ち受ける――死闘だッ!!
あの銃もナイフも本物だろう。
命を懸ける事によるマジの修練だ。
先輩方は危険だからこそ、敢えて俺たちを誘わなかった……泣けるぜ!!
俺は鼻を啜ってからにかりと笑う。
先輩たちは目を点にして立ち尽くしていた。
「死ねッ!!!」
「おっと!?」
感動していれば、敵がナイフを刺し込んできた。
俺は半身をずらして躱し。
ナイフを持った敵の腕を掴む。
そうして、軽く力を込めれば男は悲鳴を上げてナイフを落とす。
暴力は嫌いだが、修行なら仕方ない。
俺は男の鳩尾に拳を打ちこんだ。
すると、男はごほりと息を吐き出してぐったりとした。
敵役の男たちが周りを取り囲む。
人数は残り二人であり――動き出す。
「シィ!!」
「……!!」
最小限の動きでの連続での刺突攻撃。
それを躱していれば、別の男がおっさんの方へと向かう。
俺は片手で目の前の敵の肩を突き吹き飛ばす。
そうして、そのままを足で地面を蹴りつけて滑るように移動する。
一瞬にして、敵の横へと迫り、片足を勢いよく上へと動かして倒れるおっさんを刺そうとした男の顎を蹴りを入れた。
男は縦に回転しながら、テーブルを破壊してぴくぴくと痙攣していた。
「このォ!!!」
「――ッ!!」
吹き飛ばした男、その手には――拳銃がある。
間合いを詰めても間に合わない。
避けられるがおっさんは死ぬ。
おっさんを守れなければ修行は失敗だ。
俺は一瞬の間に思考し――口を膨らませる。
「プッ――!!!」
「うぁ!!?」
俺は口から唾を吐き出す。
それは男の目に命中し。
男が放った銃弾は――俺の脇腹を掠めて行った。
俺は飛び上がる。
そうして、空中で一回転し――蹴りを男の首に放つ。
「ホォォアッ!!!」
「うげぇ!!?」
男はそのまま横に転がり、窓を突き破って道端でばたりと倒れた。
俺は静かに着地してから、鼻を指で軽く擦る……どうだ!?
先輩たちを見る。
すると、やはり目を点にしていた……だ、ダメ、だったのか?
「「「お、おぉ」」」
「……お?」
「「「おぉぉぉぉ!!!」」」
レストラン内でまたしても拍手が巻き起こる。
見れば、小太りのおっさんが涙を流しながら駆け寄って来た。
「ありがとう!! 本当にありがとう!! 君は命の恩人だ!! 是非、御礼をさせてほしい!! 名は、名はなんというんだね!?」
「え、い、いや……名乗るほどのものでうぎゃああ!!?」
「――我々は天龍寺高校メカ・バト部です。お礼についての話であれば、部長であるこの私にお願いします」
「お、おぉ、そうか! ならば――」
ゴリ先輩はニコニコと笑いながら、おっさんと共に奥の方に行く。
俺は先輩にどつかれて痛みを発する腰を摩りながら何だったのかと考えて――女性陣が近寄って来た。
「凄い!! 格闘技習ってたの!? マジでかっこよかったよ!」
「ねぇねぇ! この後、私たちと一緒にもっと静かな場所に行かない?」
「連絡先交換しよ!! これ、私のIECEの」
「――んん!! すみませんねぇ!! こいつは忙しい身なので!! あ、代わりに僕がお話を聞きますので、彼方に!!」
「うぎゃ!!?」
今度は服部先輩にどつかれた。
先輩はそのまま女性陣を誘導して去っていく。
俺はボロボロだった。
視線を上にあげれば、同じようにボロボロの桜間が立っている。
奴は小さくため息を零してから、俺に対して手を差し伸べてくれた。
俺は桜間に礼を伝えて手を握り、よろよろと立ち上がる。
「……ジン君、君ってなんだか……凄い人なんじゃないかと思えて来たよ」
「え? それって……ほ、褒めてるのかぁ? 照れるなぁ、おい!」
「……うん、まぁ、褒めてるのかな……はぁ」
桜間はまたしてもため息を零す。
そうして、此処にいたら面倒だからとさっさと帰ろうと提案して来た。
先輩たちを見れば、俺たちの事は忘れて会話に盛り上がっていた。
……剛魂……何だかよく分からなかったが……まぁいっか!!
「……腹減ったな……ラーメン、食いに行こうぜ!」
「……良いけど……ここら辺に詳しいの?」
「あぁ、まぁ……探せばあるだろうよ! はは!」
「……はぁ、全く……今度は! ゆっくりでお願いね?」
「おぅ!」
俺は落ちていたタンクトップを拾って着る。
そうして、店の外に出れば遠くからパトカーのサイレンが聞こえた。
俺たちは腹の虫を鳴らしながら、店を探して夜の都市を歩いて行った――