《――クゥ!! 何故だァ!?》
「――!」
敵が空を舞い、ブーストによって軌道を変える。
一瞬にして背後に回った敵。
それに反応するように機体を回転させて――敵のレイピアを手の甲で弾く。
甲高い音が鳴り響き、敵の機体が露になる。
俺はそんな敵のコックピッドを狙い――拳を放つ。
《――ッ!》
敵がサブスラスターを噴かせた。
機体は横へと飛び、その位置をズラそうとした。
が、俺の拳は機体の表面を撫でて行く。
火花を散らせながら、敵の機体が横へと飛んでいった。
敵はそのまま下へと降下し、地面を滑り距離を取る。
俺はスラスターを噴かせた。
同じように下へと降下。
地面を滑るように移動する。
敵を視界に捉えながら機体の手を確認する……浅い。
決定打に欠けている。
いや、もっと速く拳を打ちこむ必要があった。
これではギリギリで回避されてしまう。
「……やってみるか」
俺は拳を握り――ブーストする。
視界が一気に流れて、全身に風を感じる。
前を走る敵を俺は全力った追った。
ブースト――更にブースト。
爆発音が流れて行く。
体に掛る風は重さを持ち俺は歯を食いしばる。
三連続ブーストであり、機体に凄まじい圧が掛かっていた。
一瞬、呼吸が出来なくなったような感覚を覚えるが。
それに耐えて敵の横へと出て――上に飛ぶ。
敵が一瞬にしてレイピアの刺突攻撃を繰り出してきた。
その攻撃を察知して上に飛んだ。
そうして、そのまま敵の頭上を飛び――ブーストする。
《――グゥ!!?》
敵の頭上から一気に降下。
そのまま足で踏みつけるように攻撃する。
甲高い金属音が鳴り、機体の重みと加速が加わった。
敵は一気に地面に沈む。
そうして、起伏のある大地に足を取られてそのまま転がっていった。
俺は上にまた飛び、そのまま上昇し――ブーストする。
足を敵へと向けて、一気に降下していく。
敵は機体を地面に横たわらせていた。
そんな敵の隙に一撃必殺の蹴りを――悪寒が走る。
「――ッ!!」
何かを感じ取った。
だからこそ、敵へと迫る瞬間――横にブーストする。
急な方向転換によって機体が軋む。
歯を食いしばり、何とか横へと飛んで――一直線に何かが飛んでいく。
きらりと光った何か。
避けなければ確実に当たっていたそれは目を凝らしても見る事が出来ない。
一瞬だけ敵のマントが翻り、何かが飛び出したように見えた。
俺はもしかしたらと考えてサーマルを起動する。
すると、空中にて回転する何かの熱源を捉えた……アレは?
距離を取れば、敵はむくりと起き上がる。
そんな敵の周囲を謎の飛行物体は飛び回っていた。
《……初見でこれを避けるとはね……君、想像以上にやるようだね……でも、これを見たのなら――悪いけど、君に勝機は無いよ》
「……どういう意味だよ……!」
走りながら距離を取り、奴を警戒する。
すると、奴がレイピアを空に掲げた。
まるで、指揮者のタクトのようにそれを振るえば。
謎の円盤状の飛行物体が――五つに分裂した。
熱源は捉えられている。
見えているのは幾らでも対処は――不可解な事が起きた。
「……! 敵の姿が」
《さぁショーの始まりだよ》
奴の機体の熱源が完全に消える。
俺は咄嗟にサーマルを切る。
「……空が」
空は陽の光が消えていた。
分厚い雲が掛かり、周りは暗い。
サーマルを切った状態であれば、敵の姿は微かに見えている。
が、サーマルを切った状態では――後方へ飛ぶ。
風切り音が聞こえた。
だからこそ、反射的に後ろに飛んだ。
すると、目の前を見えない何かが通っていった気がした。
……なるほど、こりゃ厄介だな……。
サーマル状態であれば、敵の武装を見つけられる。
が、サーマル状態であれば敵の機体が見えなくなる。
恐らく、敵はあの状態でも移動は出来るだろう。
すぐそこまで接近される事は無いだろうが――悪寒がした。
「……!」
俺は咄嗟に身を屈ませる。
すると、肩部を何かが掠めて言った。
熱い。この感覚は――弾丸か!?
「おいおいおい……レイピアだけじゃねぇのかよ!?」
《ふふふ、これも避けるとは……本当に面白い少年だね。君は》
サーマルを切る。
そうして、弾丸が発射された方向を見る……いない。
狙撃銃だろう。
そんなものを持っていた形跡が無かったから。
恐らくは、レイピアに仕込ませていたのか。
それとも、機体の内部にあるものか……何方にせよ、厄介過ぎるだろ。
そんな事を考えている間にも。
周りから風切り音が響き渡る。
俺はサーマルに戻し、迫りくる謎の武装を回避していく。
後ろに飛び、横に転がって。
拳を構えて、敵の武装を破壊しようとして――避けられる。
いや、違う。
避けたというよりは“ズレた”と言った方が近い。
まるで、葉っぱを掴もうとしてひらりと躱されたような――横に飛ぶ。
銃声も無く。
弾丸が飛び、機体の足を掠めて行く。
熱が走り、俺は表情を歪めた。
が、ダメージは軽傷でありそのまま走っていく。
向かう場所は敵が狙撃したポイントで。
すぐにサーマルを切る。
が、やはり敵の姿はない。
狙撃した直後に逃げたのか。
いや、それならスラスターの熱などを感知出来ている筈だ。
それすらも無く、一瞬に視界から消えるほど遠くへと飛ぶ……可能なのか?
俺は考える。
が、すぐに考えるのを止めて――上に飛ぶ。
スラスターを噴かせながら上昇する。
すると、俺を追い掛けるように謎の飛翔物が周りを取り囲むのが分かった。
――来るッ!!
敵の攻撃を察知。
俺はサーマルに切り替えて、敵の攻撃を避けて行く。
機体を回転させて回避し。
上昇を止めて、後方へとバックし――地面に振り返る。
サーマルを切る。
そうして、その状態で制止し――機体を僅かに動かした。
サブスラスターを噴かせて。
その場で回るように動く。
瞬間、同時に迫って来た飛翔物が――手足の装甲を切り刻んでいった。
「――うぐ!?」
痛い。凄まじく痛い。
紙で指を切った痛みの数倍であり。
俺はそれに耐えて――見えた!!
一瞬、地上で光が見えた。
それを視認した瞬間に、弾丸が飛んでくる。
弾丸は俺の胸部を掠めていき。
俺はそのまま機体を降下させて敵の場所へと向かう。
敵を見れば、一瞬にして地面に伏せていた。
マントの色が変化していて、周りの大地と同化している――なるほどな!
奴は移動していない。
その場で伏せていただけだった。
単純な仕掛けだが、それを実行するにはかなりの度胸がいる。
俺は笑みを浮かべて――叫んだ。
「はは!! カメレオンかよ!!」
《……!!》
「あ、やべ!!」
オープン回線である事を忘れていた。
敵はすぐに起き上がる。
スラスターを点火して空を飛び――逃がさねぇッ!!!
「気合いだ――連続ブーストォォォ!!!!」
俺は声高らかに宣言する。
瞬間、背中で爆発音のようなものが連続して響いた。
一、二、三、四――まだまだァ!!!
更にブースト。
機体がミシミシと音を立てて、俺自身の体も悲鳴を上げる。
が、俺は目を見開き耐えた。
一瞬にして、遠くにいた敵に追いつく。
が、敵もブーストによって距離を取る。
背後から飛翔物が迫っているのを感じて――更にブーストする。
「――――ッ!!!!」
歯が砕けそうなほどに噛み締める。
機体が更に嫌な音を立てて、今まで感じた事の無い圧を感じる。
今にも骨が折れそうであり、胃の中のものをぶちまけそうだ。
意識を失いそうなほどのGで――問題ない!!
俺はそのまま限界を超えて加速する。
そうして、敵の機体がふらりと揺れてブーストを止めたのを察知。
俺はその隙に更にブーストをした。
《警告。エネルギー残量――残り十パーセント》
「関係ねぇッ!!!」
システムが警告を発する。
が、俺はそれを無視してブーストし――敵の背後を取る。
加速を終えて、機体の手足を広げる。
鼻からたらりと血が垂れるのを感じながら、俺は機体の拳を作る。
これで決める、これで終わらせる。
そう決意し、そのまま一気に――迫る事無く、横へと飛ぶ。
瞬間、敵が背後を向き弾丸を放った。
が、そこには俺はいない。
俺はそのまま敵の死角から迫り――機体を回転させる。
敵はレイピアをくるり回し、逆手に持って此方に放つ。
そうして、弾丸をその切っ先から発射し――驚く声が聞こえた。
《――なッ!!?》
「ぐぅぅぅ!!!!」
連続してのブースト。
それに加えて、急激な方向転換。
その圧は凄まじく。
体の骨が折れるような音が聞こえていた。
コックピッドの中の俺は吐血しているだろう。
そう感じながらも――俺は笑う。
拳は固めた。
機体の指から締め付けるような音が響く。
熱を持つほどに硬く握る。
弓のように腕を引き絞れば、ギチギチと機体の腕から音が鳴っていた。
限界であり、爆発寸前だ。
敵は動けない。
連続して読みが外れた。
自らが放った武器の風切り音で俺の位置を誤認し。
動揺してその場にいて――横腹が丸見えだった。
俺は血を垂らしながら笑い――叫んだ。
「チェストォォォォ――――ッ!!!!!」
《アアアァァ!!?》
最後のブースト。
それにより距離はゼロとなり。
引き絞った拳は――敵へと放たれた。
回転しながら拳が飛び。
そのまま敵の脇腹へと命中し。
ミシミシと音を立てながら敵の装甲を抉っていく。
それでも拳の加速は止まらず。
コックピッドまで侵入し――風穴があいた。
俺は拳を引き抜く。
手にはべったりと敵の機体のオイルが掛かっていた。
敵はそのままセンサーから光を失い落下していき――爆発した。
青いエネルギーの爆発であり。
俺はそれを見て――ファンファーレが鳴る。
頭上を見れば、俺のプレイヤーネームと“WINNER”の文字が……はは。
勝利の余韻。
それに浸っている暇もなく。
次の瞬間には――商店街のステージの上に戻っていた。
「「「おぉぉぉぉ!!!」」」
「……!」
俺はびくりとした。
見れば、爺さん婆さんが手を叩いて笑っていた。
皆が皆、俺を祝福していて……ヴェルサイユが横に立つ。
「……素晴らしかった。君と戦えた事……誇りに思うよ」
「……! お、俺も……俺もっす!! また、戦ってください!!」
「はは、なら次はもっと腕を磨いておかないとね……必ず優勝してくれよ」
「はい!!」
俺たちは堅い握手を結ぶ。
すると、更に歓声は大きくなった。
これがメカ・バト。
これが勝者の……すげぇや。
気持ちいい。
そして、何よりも――興奮、しちまうな。
戦いが終わったって言うのに。
俺はまた誰かと戦いたいと思っている。
勝ちたいからだけじゃない。
戦うこと自体に魅了されちまっていた。
ヴェルサイユが背中を押す。
俺はそのままステージの上で――拳を掲げた。
「次も頑張れよ!!」
「ヴェルサイユ様に勝ったんだから、絶対に優勝しなさいよ!!」
「応援してるわよー!!」
「……はは!」
俺は笑う。
正真正銘、これが俺の初勝利で――最高に気持ちが良かった。