ブーストし空を駆け抜け――刃が迫る。
「――ッ!!」
間一髪でのけ反るように回避。
そのままスラスターを噴かせて上に飛ぶ。
敵はそんな俺を追い掛けるようにブースト。
ワイヤーが射出される音が聞こえたかと思えば消えて――横に拳を振る。
敵の刃から激しい火花が散る。
ギャリギャリと表面を撫でて。
そのまま奴が刃を振るってきた。
「ぐぅ!?」
胸部装甲が斬られた。
傷は浅いが、確かなダメージだ。
熱を感じながら、俺は奴の機体の肩を掴む。
そうして、そのままもう片方の手で奴を殴りつけようと――奴の機体が回転した。
自らの機体の足で俺の機体の腰部を蹴り。
大きく足を広げながら舞う様に機体を浮かせた。
その結果、俺の攻撃は空を切る。
そうして、奴が機体の脚部を俺の攻撃した頭部に搦めて――爆発音が響く。
「うあぁ!?」
奴がブーストした。
それも今までにない出力でだ。
その衝撃により俺の機体は体勢を崩す――同じだ。
スカーレットの攻撃と同じ。
だからこそ、機体が、体が――勝手に動く。
《――!》
相手のブーストに合わせるように――ブースト。
機体の体勢が乱れて――否、崩壊する。
滅茶苦茶だ。
何も見えない。
ぐらぐらと脳が揺れていた――が、それでいい。
奴の機体が思わぬ動きで浮く。
その結果、奴の拘束が解かれて――俺は奴の機体の脚部を掴む。
「喰らえェェェ!!!」
《……!》
奴の機体を振りかぶり、眼前に迫った大木に――叩きつける。
奴の機体から破壊音が響き。
装甲の残骸が周囲に飛び散る。
センサーが点滅していて、俺はそのまま奴の機体を下へと投げ飛ばした。
真っすぐに下へと落ちて行く敵。
そんな奴に対してブーストにより接近し――蹴りを放つ。
真っすぐに足を突き出し。
そのまま奴の胴体部に命中する。
更にブーストで加速をつけてそのまま地面に衝突させようとし――怖気が走った。
「――!!」
考えるよりも先に奴から距離を取る。
が、一瞬の判断の迷い――それが命取りだった。
奴の機体の像が二重に見えた。
次の瞬間には甲高い金属音が響き――周りのものが切断される。
「――うぐぁ!!?」
周りのもの以外に――俺の機体の左足が半ばから斜めに切断された。
警告音が頭の中で響き。
システムが深刻なダメージを受けたと報告。
中のオイルが漏れ出たが、システムが自動で流出を止めた。
一瞬走った激痛。が、それも沈静化される。
「はぁはぁはぁはぁはぁ……ぐぅ、ああぁ!」
俺は距離を離しながら、何とか地面に降りる。
着地しようとしたが、片足が無くなった事でバランスを崩す。
よろめきながら、半ばから切断された足で地面を抉っていき……止まる。
切断面を下につけながら、俺は拳を構えてゆっくりと降りる敵を見据える。
体から再び煙を発しているが。
今までとは違い……余裕を感じる。
慣れたとでもいうのか……分からねぇが、危険だ。
「……ありゃ、一体……いや、待てよ」
奴の不可思議な攻撃。
周囲を見れば大木が落ちてきていた。
切断面は奇妙な事に斜めだ。
見えていないと思っていたが……二度目にして僅かに見えた。
不可視の攻撃。
が、実際はそうじゃない。
不可視に近いが、実際は――“光っていた”。
今までの攻撃の中で、似た攻撃があった。
それは風の刃であり、その中には金属の粒子があった。
その時は、装甲を薄く斬りつける程度だったが。
先ほどの攻撃は、俺の硬い胸部装甲を糸も容易く切断してみせた。
つまり、だ。どういう事かといえば……はは、そうか。
「風の刃。違いは出力。薄い半月状じゃなく、まるで銃弾を放つみてぇに口径を狭めて……だから、周囲の限られた範囲で、同じ線上の切断面になっていた。拡散する事を考えれば、その範囲が狭いのも分かる、ってか?」
《……》
奴は無言だった。
が、その体から出す蒸気……いや、煙は放熱している証だ。
拡散する空気を高密度で圧縮し。
それを光線のように放つんだ。
中には金属粒子をふんだんに混ぜて切断力を極限まで高めて。
だからこそ、一発放つだけでも相当なエネルギーを使用する事になる。
一撃必殺。
どんなものでも切断する空気の刃。
多量の金属粒子を混ぜる事によって鋼であろうとも切断する切れ味。
弱点は連発出来るものではなく――恐らくは、もう使えない。
余裕の表れは、恐らくはブラフだ。
何の根拠も無いが。
そうする事によって、自らの切り札の喪失を悟らせない為だろう。
そう考えていれば――奴が得物を地面に落とす。
何をするのかと見ていれば――腕部の装甲が展開されて黒く鈍い光を放つ刃が出て来た。
「……へっ、隠し武器ってか……なら、決まりじゃねぇか――切り札は使えねぇんだろう!!」
《……》
俺は近くに朽ちた転がるレインの腕を――引き千切る。
それを切断された脚部へ――ぶち込んだ。
「あああぁぁ!! いでぇぇぇ!!!」
《――!?》
奴が初めて驚くような息遣いを見せた。
俺は脂汗を掻きながら激痛に耐える。
そうして、歯を見せながら笑いゆっくりと立ち上がる。
不格好、不細工、出鱈目だ……が、十分だ。
適度に錆びていた事で関節が曲がらないようになっていた。
だからこそ、足としては十分だった。
俺は何とか立ち。
拳を構える。
そうして、笑みを浮かべながら奴に声を掛けた。
「待たせたな……さぁ、ラスト――殺り合おうぜ」
《――》
気のせいか――奴が笑ったような気がした。
俺も笑みを浮かべて――奴が飛ぶ。
一直線に飛んでくる。
俺は拳を固める。
が、その場から動かない。
奴はそのまま手の得物を構えて――消えた。
目の前から奴が消える。
残像であり――横から気配を感じた。
が、俺は動かない。
すると、風だけが突き抜けて行く。
周りではスラスターの音だけが響き。
風によって木々が揺らめいていた。
木の葉の擦れる音に、葉っぱがひらひらと舞う音。
獣たちの声や、木が割れるような音。
色々な音が響き……俺は目を閉じた。
邪魔な音は……シャットアウトしろ。
必要な音だけを聞け。
スラスターの音、木が割れるような音。
微かに聞こえるワイヤーの射出音。
暗闇の中で音を聞き――背後に気配を感じる。
俺は目を閉じたまま、斬られた足を起点としその場で回転する。
そうして、拳を――放たない。
俺は更に回転し。
再び正面を向き――カッと目を見開く。
「そこだァァ!!!」
《――!》
正面に向けて拳を放つ。
瞬間、舞う木の葉に隠れていた――奴が露になる。
奴はブレードをクロスさせる。
咄嗟の防御であり、俺はそんな奴の刃を――削り取っていく。
高速で回転するドリル。
それにより激しい火花が散り。
奴の硬いブレードが一気に削られて――貫通した。
「いけぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
《――!》
高速で回転する拳。
それは奴のコックピッドを精確に射貫き――“消えた”。
「――――は?」
手応えがあった。
確かに、ブレードを砕いた。
残骸が地面に転がっていた。
コックピッドを精確に射貫いた筈だった。
が、霧のように消えていて――心臓が凍り着く。
背後に――――“いる”。
得物は潰した――――“ある”。
振り返り攻撃――――“出来ない”。
どうする、どうする、どうする、どうするどうするどうするどうするどうするどうどうどうどう――――
ファンファーレが――――“鳴り響いた”。
「……………………は、ぇ?」
思考が停止した。
が、音は確かに聞こえていた。
空中にはWINNERと書かれて…………“俺の、名前”?
ゆっくりと振り返った。
すると、胸部装甲を中心に罅が走る敵の機体が立っていた。
ブレードは無い。が、煙を発していた……まさか。
視線を虚空へ向ければ……斬れている。
俺の頭上数十メートルより上。
一直線であり、大木の表面に縦に筋が走っていた。
「何で、どうして……何とか言えよ!!!」
《……ごめん……行かなきゃ》
「……え? お前……“女”?」
微かに声が聞こえた。
謝る声は女のような声で…………俺はステージに戻っていた。
「「「――――!!!」」」
「……っ! アイツは!?」
歓声が響き、ハッとしてアイツがいた方を見る。
すると、司会者の静止も無視して奴は走り去っていく。
俺はそんな奴の背中を見つめて……奴が止まる。
「――」
「……あ?」
奴が振り返り小さく手を振る。
すると、何処からともなく黒服の男たちが現れて奴を連れて行ってしまう。
俺は手を伸ばしたが、どうする事も出来ずにゆっくりと下ろす。
司会者の男が勝った感想を聞いて来るが……違う。
勝っていない。
俺は確実に――“負けていた”。
ブラフじゃなかった。
完全なる策であり、俺は見事に引っかかった。
その結果、最後に勝負を決めようとして…………完敗だ。
俺は無言でステージを後にする。
そうして、そのまま控室へと戻っていく。
柵を開いて貰えば、坂崎さんが立っていた。
「じ、ジン君……あ、あの」
「……わりぃ。今は何も言えねぇや……ごめん」
「あ、うん。分かった……か、かっこよかったよ!」
「……ありがとな」
俺は小さく笑う。
そうして、そのまま控室へと帰っていった。
少し歩けばIECEが鳴る。
見ればメッセージが入っていて……シュウか。
《機体はすぐに直すからよ……ま、及第点だな。さっさと優勝して肉でも奢れや!》
「……けっ、言ってくれるぜ……まぁ、そうだな」
後味の良い勝利ではなかった。
勝ちを譲ってもらったようなものだ……が、勝ちは勝ちだ。
くよくよしても仕方ねぇ。
ぶつくさ行っても負け惜しみだ。
だったら、忘れて――次に進むっきゃねぇよなぁ!
俺は頬を全力で叩く。
すると、周りにいた人たちが驚いていた。
俺は頬をじんじんとさせながも笑う……よし!!
「――次だ次!! ラストは圧倒的な勝利でしめだ!!」
俺はやる気を漲らせる。
そうして、歩いていき――声が聞こえた。
くつくつと笑う声が聞こえて来た……あぁ?
見れば、ネカフェの壁に背を預けて笑う男がいた。
その装いは奇妙で、藁で編んだ笠に首にはデカい数珠をぶら下げていた。
黒い着流しに上にはボロボロの茶色のトレンチコートで……変質者か?
「くくく、圧倒的な勝利、か……舐められたものだな」
「……アンタ誰だよ」
「くくく、アンタ誰とは……舐められたものだな」
「いや、だから誰だよ!?」
「くくく、だから誰だよとは「おい!!!」……次の対戦者といえば分かるか? 開会式にもいたんだが」
男は目に涙を浮かべながら言ってくる……あぁ!
「いた……かな? いや、いた……あれ? いたっけ……いた! と……えぇっと」
「くくく……くっ……まぁいいさ。何時もの事だ……だが、侮るでない。この俺を侮れば――貴様は死ぬ」
「……!!」
奴は底冷えするような声で忠告して来た。
笠の中から微かに見える眼光は鋭く。
確かにただものではないような雰囲気を感じる。
俺はたらりと汗を流しながらも、笑みを浮かべた。
「上等! なら、全力で俺は――勝ちに行くぜ!!」
「くくく、若さというものか……ならば、俺も全力だ。次の試合、俺は剣で戦うと予告しよう!! 物理特化の装備であり、エネルギー兵装に端しては貧弱な装備だッ!!! もう一度言うッ!!!! 俺はエネルギー兵装に滅法弱い装備で行くッ!!!! 更に言えば、俺は正々堂々と正面から迎え撃つので音がする方向に行けば必ず俺が」
「お、おぅ!! そうか!! 分かった!! 頑張ろうな!!」
「あぁ!! メモしなくていいか!? 何なら俺がメッセージにして送っておくが!?」
「い、いや良いから!! 良いからさ!! じゃ、じゃあな!!」
「あぁ!! 今の言葉に嘘は無いからな!! 絶対だからな!! わさびを一気飲みしても――」
俺はネカフェの扉を閉める。
外では次の対戦相手がまだ何かを叫んでいた……な、何なんだ?
「律儀な奴なのか……うーん。まぁいいか!」
どうせ、色々聞いても武装は変えないし。
そもそも、事前に聞いた情報で戦おうにも俺は馬鹿だから器用な真似は出来ねぇ。
その場での判断が頼りであり、それが俺の戦い方だ。
……まぁ大凧先輩の時みてぇに練習していれば可能だけど……どうでもいっか!
もう既に先ほどの会話も忘れた。
俺はそのまま控室へと戻っていく。
次で優勝、次でラストで――気を引き締めるぞぉぉ!!