Sun of Mars   作:オタリオン

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002:初めての第二の世界へ

 先輩たちの家への送迎を終えて。

 すぐに家に帰り、自室に入れば。

 制服を脱ぐ事もせずに、そのまま剛力先輩にメッセージを送った。

 すると、返事はすぐに返って来た。

 

《すぐにアナザーワールドに来い》

「……うし」

 

 端的なメッセージであり。

 俺はすぐに向かう事にした。

 あの時の決闘を思い出しながら、指を添えて――

 

「アクセスッ!」

 

 瞬間、俺の体は光の粒子となり――――…………

 

 

 

 …………――――ゆっくりと目を開ける。

 

「……お? 何処だ、此処?」

 

 周囲に目を向ける。

 が、周りには誰もいない。

 それどころが真っ暗で何も見えなかった。

 俺は必死に手を動かしてみる。

 何処かの部屋の中だろうが、やけに広いせいで何も掴めない。

 どうしたものかと思っていれば――目の前に光の玉が現れた。

 

《初めまして! 私はアナザーワールドのナビゲーターを務めています“ピカリ”と申します!》

 

 光の玉がゆらゆらと揺らめき高めの声で自己紹介をした。

 

「うぉ!? ぴ、ピカリ? な、なんだよ急に」

《あぁ驚かせてしまい申し訳ありません! ユーザーデータが初期化されたIECEの使用をシステムが検知したので、私が派遣されたのですが、ユーザー様は新規のユーザー様でお間違いないでしょうか?》

「しょ、初期化? いや、これは先輩から貰って……いや、そもそも連絡先とか登録されてたけど……」

《……ふむ、それは恐らく、ユーザーデータのみを初期化して連絡先の情報などのデータを残していたのでしょうね。学生の方々が部活動などで使う備品として所有しているところではよくある話です! はい! そういう事で、貴方様は新規のユーザー様で間違いないようです! 故に、私は貴方様の必要情報をお聞きする義務があります! お時間よろしいですか!?》

「え、えらいぐいぐい来るな……いや、手短に済むんだったら、まぁ?」

《はい! お時間は取らせません! それでは、先ずはユーザーネームの登録を!》

 

 ピカリが発言すれば、俺の目の間に板のようなものが出た。

 これは所謂、ゲームのプレイヤー名であり本名でなくてもいいのだろう。

 実名は色々と危険だが、変な名前をつける趣味も無い。

 だからこそ、無難にジンとだけ書いておいた。

 

《はい、ジン様ですね! それでは次に、アバターの生成をいたします。カスタマイズと自動生成。後は、ご本人様の姿をトレースする事も出来ますが、どれにしますか?》

「……カスタマイズがいいけど、時間かかるしなぁ……なぁ、こういう時ってさ? アクセサリーみたいなのってもらえたりするのか?」

 

 カスタマイズは好きだ。

 しかし、剛力先輩を待たせているから悠長に作っている暇はない。

 自動生成とやらも、妙なアバターにされたら嫌だし。

 トレースが無難だが、これからメカ・バトの大会などに出るんだったらせめて顔は隠したい。

 仮面のヒーローというのにも憧れがあるからな。

 

 少し期待をして質問すれば、ピカリはあると言った。

 真っ暗だった空間には足元から光が出て。

 ずらりと様々なアクセサリーが並べられていった。

 眼鏡に仮面に、帽子やマスクなど様々だ。

 全てを見ている暇はないと思っていれば、ピカリは探しやすいように検索バーを表示させてくれた。

 

《この中からお選びできますよ! また、服装などに関してもアバターの生成後にカスタマイズできます!》

「おぉ! いいねぇ! じゃ、トレースする方向でいって…………よし、これだ!!」

 

 俺は検索バーで必要な情報を入力する。

 ワードは、シンプル、赤、目を隠せるもの、だ。

 すると、一気に検索が絞られて。

 そこにあった品を指でスワイプしながら流し見て――びびっと来たものがあった。

 

 タップをすれば、目の前にそれが出現し。

 浮遊しているそれを掴んで色々な角度から見る。

 

 赤を基調としたデザインであり、目の周りのフレームは銀製だ。

 レンズの部分は色が付けられており、これで目は隠せるだろう。

 バンドの部分は鎖のようなものだが、ピカリが説明しているのを聞けば着けた時の違和感や痛みは無いらしい。

 見かけはしゃれたゴーグルであるが、俺にとってはヒーローのマスクのように見える。

 幼い頃、近所の兄ちゃんがバイクに乗る時につけていたものに似ている。

 子供である俺はその身に着けていたゴーグルこそがヒーローの証のように思えていた。

 今でもそれは変わっておらず、これをつける事は本気でヒーローになるという覚悟の象徴だ。

 

 俺はギュッと握り、ゆっくりとゴーグルを装着する。

 アバターは既に形成されており、ゴーグルは俺の頭にフィットした。

 ピカリが丁寧に鏡を用意してくれて、そこに映る俺は……いいじゃねぇか。

 

「……裸ってのはちょっと変態っぽいけどな」

《ふふ、よくお似合いですよ……あ! 変態という意味では無いですからね!? 本当ですよ!? カスタマーへの報告だけはお許しを!!》

「……いや、別にクレームなんかは……て、そんな場合じゃねぇ!! さっさと服を選ばねぇと!?」

《あ、あぁ、そうですね!! では、此方から――て、はや!?》

「服なんかは後で選ぶからどうでもいいんだよ!! で、まだやるのか!?」

《え、い、いえ、これで重要な事は終わりですね。後は此方で勝手に……い、いえ、何でもないです! そ、それでは良きライフを! いってらっしゃいませ!》

 

 出て来た服を適当に掴む。

 手に掴めば勝手に服は身につけられた。

 ピカリが何かを呟いていたが俺は無視した。

 そうして、ピカリの声を聴きながら、徐々に周りが明るくなっていくのを感じて――周囲の状況が一変した。

 

「――おぉ」

「「……?」」

 

 俺はアナザーワールドのステージに立ったようだった。

 暗闇の中ではない。

 周りには多種多様な二足歩行の生物たちが跋扈している。

 エイリアンであったり、動物であったり。

 中には小人や三メートルを超えるような巨体だっていた。

 カスタマイズをすれば、人間以外の見た目にも出来たのだろう。

 が、人よりも驚いたのは周りの景色だった。

 

 空は分厚い雲に覆われて。

 あらゆる施設が金属で出来ており、配管からはスチームが噴き出していた。

 古典的な見た目のロボットが徘徊しており。

 酒場らしきところでは、ガラの悪そうなアバターたちがもうすでに酒を飲んで出来上がっていた。

 ネオンの光で都市がぎらついている。

 妖艶な美女が道を歩く男たちを魅了し。

 職人のような恰好をした爺さんが、露店商と話してパーツの値段交渉をしていた。

 

 汚いと思う奴らもいるだろう。

 地面は黒い油で湿っており、鼻を鳴らせば金属とオイルが混じった臭いが漂っている。

 お世辞にも美しい場所ではないが――俺にとってはとても良い。

 

 正に、空想の世界だ。

 アニメや漫画でこういったスチームパンクの世界は嫌というほど見て来た。

 逆にこの汚さやアバターのガラの悪さも周囲とあっていて芸術的とすら思える。

 ブーツで地面を踏めば、しっかり硬い地面の感触がする。

 オイルの臭いに混じって漂う飯の匂いに反応して、腹も空腹を訴えかけていた。

 

 

 全てがリアルであり、此処は確かに――“第二の世界(アナザーワールド)”だ。

 

 

「……くぅ!! 良い!! 良いじゃねぇか!! ……と、いけねぇ! 早く待ち合わせの場所に」

「その必要は無いぞ。いが……いや、ジンか」

「え、その声は……うぉ!?」

 

 俺は聞き覚えのある声に思わず振り返る。

 すると、そこには真っ黒な毛で覆われた――ゴリラがいた。

 

 筋骨隆々であり、顔はやけにイケメンだ。

 二足歩行のゴリラが胸元をはだけさせた黒い学ランを着ている。

 俺は驚きながらもマジマジトそいつを見る。

 すると、そいつはにやりと笑い手を差し出して来る。

 

「此処では、俺の事は部長か。プレイヤーネームであるゴリで呼べ。勿論、先輩をつけろよ?」

「……え、もしかして……ぶ、部長ですか?」

「ふっ、そうに決まっているだろう……あぁこの姿では分からないか? ふふ、すまんな。俺の趣味だ」

「い、いや、すげぇ似ているっスよ!」

「――どういう意味だ?」

「え、あ! い、いやぁ……そ、それよりも! これから何をするんですか? もしかして、早速メカ・バトの特訓ですか!?」

「……まぁいい……そうだな。それもいいが……生憎とお前に長々と鍛錬を積ませる時間はない。そもそも、お前は理論などを話してもすぐには理解できんだろう?」

 

 先輩は顎を撫でながら目を細める。

 俺は図星をつかれてしまい後ずさる。

 すると、先輩はにやりと笑い「ほらな?」と言う……ぐぅ!

 

「……別にそれを笑う事はせん。実際にお前のように頭ではなく、行動で理解する者も多いからな……だからこそ、そんな奴にぴったりのものがある。ものに出来れば、一週間……いや、数日でお前をあの大凧に勝てるレベルにあげる事が出来るかもしれん」

「……! ほ、本当ですか!? す、すげぇ!! それは一体――え?」

 

 先輩はくるりと回る。

 そうして、俺に何も言わずに歩き出した。

 俺はハッとして慌てて先輩の後についていく。

 この先に、一体何があるのか。

 俺は不安とそれ以上の期待に――目を輝かせていた。

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