ゴリ先輩に連れられてやって来た場所。
そこは見かけはゲームセンターのような場所で。
中には様々なレトロゲームの筐体が置かれていた。
俺が目を輝かせながら興奮していれば、先輩はそんな俺を無視して奥へと行く。
俺はそれを不満に思いながらも黙ってついていき――最高の出会いを果たす。
店の奥には円状の光るサークルが五つほどあった。
先輩が顎で乗るように指示して来たので乗った。
すると、先輩が目の前に現れたディスプレイを指で操作をすれば光りだし。
あっという間に別の空間に出ていた。
そこはガレージのようになった場所で、驚く事に無数の――メカが置いてあった。
興奮しながら先輩に聞けば。
此処はメカ・バトのプレイヤーたちに与えられた専用ガレージらしく。
連れてこられたガレージは先輩の専用ガレージだった。
置かれているメカは全て先輩のものであり。
まさか、これらの中から好きなものを一つプレゼントしてくれるんじゃないかと期待した。
俺は目を輝かせながら先輩に視線を向ける。
すると、先輩は小さく笑いながら指を二本立てる。
「良い知らせと悪い知らせがある。どれから聞きたい?」
「……えっと、じゃ、い、良い知らせから!」
絶対にくれるに違いないそう思った。
すると、先輩は静かに頷く。
「良い知らせは……お前にレインを一つ与える」
「お、おぉぉぉ!! やったぁぁ!! こ、この中からだよな!? ど、どれにすっかなぁ!!」
「はは、そう興奮するな。それでは悪い知らせだが――すまん」
「――ぇ?」
先輩が何故か誤った。
瞬間、無数にあったレインたちには一瞬にしてテープのようなものが巻かれて行った。
俺は目を点にしながらその光景を眺めていた。
すると、俺たちが入って来たものとは別のサークルからスーツに七三訳の白い狐のアバターの人が歩いてきた。
「いやぁどうもどうも! 毎度御贔屓に、フォックスサービスのコンダですぅ。ゴリ様とのご契約が満期に達しましたので、レンタルしていました全ての機体と武装は回収させていただきますぅ」
「ははは、話しがあるんですがね? レンタルを延長したいんですが」
「あぁはいはい! それでしたら、レンタルの機体が二十機と武装に加えて燃料費とメンテナンスサービス費に加えて、保険の継続加入と……ざっと計算しまして、一月の延長につき約五十万ほど頂きますがよろしいですかぁ?」
「はははは、よろしくないですねぇ。十万になりませんか? ねぇこの通りですよぉ」
「ははは、無理ですねぇ。私どももビジネスですのでねぇ。まぁお安くしても四十までですかねぇ、はいぃ」
「はははは、じゃ間を取って五万にしましょうかぁ」
「ははははは――ぶち殺すぞクソがぁ!!」
にこやかに会話をしていた筈だった。
が、コンダさんは態度を一変させる。
彼は睨みを利かせながら、先輩に対して罵詈雑言を浴びせていた。
「てめぇ俺たちを舐めてんのかぁ? あぁん!!? 言っておくがな、テメェが支払わなきゃならねぇ金はまだ残ってんだよぉ!! それをテメェが儲けられる話があるからってボスに言ってるから黙ってやってるがなぁ……もしも、俺らを騙そうってんなら……埋めるからな?」
「はははは、それは怖いですねぇ。怖いけどもぉ……なら、一機でいいから譲って下さいよ」
「あぁん!? てめぇ話聞いてなかったのかぁ!? テメェなんぞにくれてやる機体なんざ何も」
「――お金、欲しくないですか?」
「…………あぁ?」
俺は黙って二人を見ていた。
が、先輩がチラリと俺を見て来た。
そうして、コンダさんと肩を組んで離れていく。
俺は首を傾げながら離れたところで話をする二人を見ていた。
「……本当か……ネームドを……あいつが……か?」
「えぇ……大丈夫……そうすれば……ね?」
「……何話してんだ?」
二人は時折、俺の方を向いて来る。
が、俺には声をかける事もせずに話し込んでいた。
話が終わったかと思えば、コンダさんは指で何かを操作し。
次の瞬間には、ほとんどのレインが消えてなくなり。
ガラガラになったガレージには先ほどまで無かった一体のレインがあった。
全長十五メートルはある二脚型のレインだろうか。
手足はそれなりに太く、胴体部は逆三角形のようで胸は厚みがある。
が、シルエットは太めというよりは引き締まったボディと表現できるだろう。
年季があり、手入れはされているように見えるが。
至るところに傷や塗装のハゲが見えていた。
頭部は人間の耳の部分からからアンテナが伸びて、中心には単眼のセンサーが取り付けられている。
肩にはショルダーアーマーと呼ばれるようなものがあって……うぅ!
「うおぉぉぉぉ」
回り込んで背中を確認すれば、スラスターらしきものがある。
背中の装甲が僅かに展開されていて、下方向に二つのノズルが伸びていた。
他にも、脚部の関節部にもサブのスラスターがあり。
腕なども何かが仕込まれているのか、開閉機構がありそうな溝が僅かに見えていた。
ため息がすぐ近くで聞こえて見れば、コンダさんとゴリ先輩が会話を終えて近くに立っていた。
「こいつはAS-3564。オラクルストーン社のアサルトセットシリーズの初期モデルだ……って言っても、初期モデルの状態からそれなりには弄ってある。性能でいえば、まぁ第三世代型くらいはあるだろうよ……こいつをお前らにやるよ」
「え!? い、いいんすか!? 本当に!?」
「……ASシリーズといえば、初期モデルであってもそれなりに人気じゃないのか? まさか、それほど我々に期待を」
「――勘違いすんじゃねぇよ。テメェらには一ミリも期待なんざしてねぇんだよ。ただ」
「「……ただ?」」
俺たちが首を傾げて見れば、コンダさんはにやりと笑う。
「こいつが厄介払いできるのと、これを使って少しでもゲームが盛り上がれば……俺の懐も潤うってもんだろ? なぁ、ゴリよ」
「……まぁそうだな。そういう約束にしておこうか」
「……え? 何の話をしてんだ?」
コンダさんの意味深な発言。
そして、ゴリ先輩は理解して小さくため息を吐いていた。
話が全く理解できない俺だけが目を点にしている。
すると、ゴリ先輩は首を左右に振り俺に笑みを向けた。
「あぁお前は気にしなくていい……さ、用は済んだろう。さっさと帰ってくれ。俺たちはこれから特訓があるんだ」
「へっ、言われなくても帰るさ……あぁ、言っておくがな。それを使ってどうなっても俺は知らねぇからな」
「……厄介払いと言っていたが。いわく付きか?」
「まぁそんなところだ。こいつは今まで何十人ものプレイヤーを――殺してるからな」
コンダさんは真面目な顔でそう言った。
俺はどういう意味なのかと思って、ゴリ先輩が代わりに尋ねてくれた。
「……殺す? ゲームで?」
「はは、ちげぇよ。リアルで、不慮の事故とか病気とか……まぁ偶然だろうが、実際に死人が出ているって事でこいつに乗りたがる人間はもう誰もいねぇんだわ。買い手もいねぇ上に、スクラップにしようにも呪いがどうとか言って誰も解体してくれねぇしよぉ。困っていたんだが……いやぁ良かった良かった。良い乗り手に出会えて、そいつも幸せだろうさぁ。そんじゃまぁ頑張れやぁ」
コンダさんはひらひらと手を振り、サークルの上に立って消えてしまった。
残された俺とゴリ先輩は静かに視線を交わした。
「――さ、乗れ」
「いや、アンタ鬼かよ!? いわくつきって、それも死人って……いや、別にいいけどよ。そんなの信じねぇし」
「お? 意外だな。お前はもっと嫌がるかと思ったが」
「……それ、どういう意味だよ? はぁ、たくよぉ……ま、いいや! こいつは今から俺の相棒だ! 名前をつけてやらねぇとなぁ! うぅ!! 何がいいかなぁー?」
「……ふむ、それならAS-3564の番号からとって、見殺しというのは」
「――却下。不穏過ぎるだろ、それ」
「……うーん。ダメかぁ」
ゴリ先輩は顎に手を添えて頭を捻る。
俺は頭を掻きながら、当てにならないと考えて自分で考えた。
考えて、考えて、考えて……よし!
「なら、お前は今日から――エースだ!」
「……まさか、ASシリーズだからか?」
「……わ、悪いっすか?」
「……ふっ、いや良いな。俺もシンプルな方が好きだ」
ゴリ先輩は親指を立ててにかりと笑う。
俺はホッと胸を撫でおろしてから相棒を見上げた。
今日からこいつが――エースが俺の相棒になる。
最高の出会いではなかったかもしれないが。
それでもこれは運命であり、こいつと一緒に俺は最高のヒーローを目指していく。
物語の始まりであり、最高に燃える展開で――うぅ!!
「燃えて来たぁぁ!! やるぞ!! やってやるぜぇぇ!!」
「はは、その意気だ……よし、では早速それを使ってシミュで戦うか」
「……しみゅ? それは何ですか?」
「あぁ? シミュを知らんのか……シミュレーターの略でシミュ。実際の戦闘を想定しての仮想戦闘を行うものだ……まぁ平たくいえば、残弾や機体の破損を気にする事無く派手に戦える舞台装置といえばいいか」
「……えっと、つまり……実戦と演習……いや、本物とゲーム? いや、これも違うな……うーん、まぁ兎に角、何も考えなくていいって事っすね!」
「――あぁそうだ。派手にミスしろ。
先輩は小さく笑い、指でまたしても何かの操作を始めた。
暫く見つめていれば、先輩は指で弾くような動作をし。
空中に投影されたディスプレイを渡してきた。
それを片手で受け止めてからゆっくりと視線を向けて……ん?
「それは契約書のようなものだ。コンダは説明していなかったが、レインの所有者たちはそういった契約書を持っている。既に、前の所有者は抹消されているから、その欄にお前のプレイヤーネームを書け。そして、指で印を押せばエースは正式にお前の所有物になる。恐らく、レインを所有した時点で専用のガレージも渡されるだろう」
「へぇぇ、なるほど……よし、出来ました!」
「よし。では、それは閉じておけ。そういったものは自動的に保管されるから安心しろ。後はガレージへと機体を運べばいいが……まぁそれは後でもいいだろう。どうする? 先に一戦、やってみるか?」
「――お願いします!!!」
俺は頭を深々と下げてお願いする。
すると、先輩は了承してくれたようで。
俺にパイロットスーツを渡すと言ってくれた。
「え、でも、前回の時は勝手に……」
「あぁ、あれは大凧から仕掛けた戦いという事になっていたからな。メカ・バトのシステム自体も、何も持っていない人間に対しては最低限の装備は与えてくれる。別にあれでいいと言うのなら構わんが……正直、アレはあっても無くても変わらんぞ?」
「そ、そうっすか……えっと、ありがとうございます!!」
「うむ、それを使って大凧に勝ってくれよ。そうしてくれれば我が部も――んん!!」
「……?」
「何でもない。さっさと着替えろ」
「あ、はい?」
俺は先輩の様子を不審に思いながらも、渡されたものを着替える為に指を動かす。
指を動かせばゲームのメニュー画面のようなものが現れて。
分かりやすく、服のアイコンが掛かれたボタンがあった。
それを押せば、俺が現在着用している服が表示されていて。
所有している服の中には、先輩から支給されたメカ・バト用のスーツが入っていた。
「スーツを選択すれば、どんな時に着るかの選択肢が表示されるだろう? メカ・バト用で登録しておけば、一々着替える必要は無いからな」
「あ、了解っす……出来ました!」
「よし、では、今からいう操作をしてくれ。その後は俺がする」
先輩はそう言って俺の隣に立つ。
俺は先輩に言われるがままに操作をしていく。
登録した機体であるエースを選択し。
シミュ用の機体データを抽出し、百パーセントになればそれを保存する。
そうして、次に先輩とのコネクトを繋いでから、お互いにシミュでのバトルが出来るようにする。
そこまでしておけば、先輩はもう大丈夫だと言って今度は自分のディスプレイにて操作を始めた。
「……あぁ、因みにだがな。俺意外と戦いたい場合……まぁ要するに、誰でもいいから戦いたいのなら、シミュを選択した時に表示されるランダム戦を選択すれば、同じ時間に対戦相手を探している人間とマッチするぞ。後は元々設定されているNPCとも戦う事が出来る。興味があるのならやってみるといい」
「了解っす!」
「……まぁ、今のお前にはそれは早いだろうがな?」
「……え? それってどういう」
「――さ、出来たぞ。転送を開始する。今の内に覚悟を決めておけ」
「か、覚悟ってどういう――うぉ!」
先輩がにやりと笑った。
俺は不穏な空気を感じ取って思わず先輩に質問した。
が、それよりも早く、俺の体は光の粒子となっていき――――…………
…………――――目を開ける。
コックピッドの中だ。
だが、前回と違うのは体の感覚だろう。
コックピッドの中に俺がいるのは分かる。
が、実際には外の景色が鮮明に映っていて、手足を動かそうとすれば大きな金属の手が動いていた。
レインの手であり、俺の相棒となったエースの手足だ。
ロボットのマニュピレーターを動かす感覚じゃない。
完全に、自分の手足として動かす感覚だった。
「す、すげぇ。こんなの、何も考えなくていいじゃねぇか……これなら、絶対に」
「――絶対に勝てる。そう思ったな?」
「……! ゴリ先輩!?」
声がしたと思って上を見る。
すると、遥か頭上で両手を組んで浮遊するレインがいた。
二足歩行型であり、装甲の厚みからして重量級だろうか。
両手は丸みを帯びた形状であり足もかなり太めだ。
胸部装甲もかなりのものであり、何処となくゴリラのように見えるのは気のせいか?
武装らしきものは、見える範囲では背中から僅かに見える砲塔だろう。
足裏と背中からエネルギーを噴き出しており、あの重そうな機体を浮かせられるのなら相当に馬力があるのか。
「こいつはBio-23O3。俺はオーサーと呼んでいる。アニマルアーツ社が開発したバイオシリーズの第三世代型レイン……と言っても分からんだろう」
「ま、まぁ?」
「……まぁいい。戦いの中で――知ってもらおうかッ!」
「――ッ!」
先輩が両腕を此方に向ける。
瞬間、いつの間にか戦闘を開始するゴングが鳴り響いていた。
先輩のオーサーの両腕の装甲が展開されて、中から無数の銃口が出る。
俺は背筋をぞくりとさせえて、咄嗟に横へと飛んだ。
瞬間、バラバラという弾丸が無数に放たれる音が鳴り響く。
「うぉ!?」
俺はその音に驚きながらも、機体を動かして転がる。
そうして、そのまま体勢を戻して荒野を駆けた――すげぇ!
自由に動かせる。
自分の肉体じゃないのに、自分の体みてぇじゃねぇか!
俺は両手を見つめてギュッと握りしめて――背中に強い衝撃を感じた。
「うげぇぇ!!?」
「――敵の前で背中を晒すとは間抜けにもほどがあるぞ?」
先輩の声を聞きながら、俺は派手に大地を転がっていく。
ガンガンと金属を打ち付ける音を響かせながら転がって――大きな岩に当たり止まる。
「い、いでぇぇぇ……え? い、痛い?」
「……ふっ、ようやく理解したか。そう、貴様に埋め込まれたユニットは、あらゆる機体を自分の肉体のように扱える優れもの……だが、それは逆にあらゆる痛みをダイレクトに感じる事を意味する……分かるな?」
先輩はどすりと大地に足をつける。
そうして、両手を俺に向けて来た。
俺は機械の体で汗も掻かないはずなのに、寒気を大いに感じていた。
「つ、つまり、今から先輩の攻撃を、う、受けたら」
「――あぁ、死を体験できるぞ」
「ちょ!!? ま――」
俺は両手を先輩に向ける。
が、先輩は無機質な声で笑いながら――銃弾を放つ。
俺は全身に鉛の弾を受けて。
装甲や中のオイルをぶちまけながら――絶叫した。
痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――――…………
…………――――目を開ける。
「……起きたか」
「……どれくらい、寝てました?」
「……十分ほどだな……どうだ。怖くなったか?」
先輩の手を握ってガレージの床から起き上がる。
そうして、パンパンとスーツの埃を払い――笑った。
「すげぇぇぇぇぇ!!!!」
「……ほぉ」
「リアルだとは思ったけど、痛みまで再現出来ちまうなんて!! すげぇよすげぇよ!! こんなのゲームなんて呼べねぇよ!! くうぅぅぅ!!!」
俺は目をキラキラと輝かせる。
ゲームは大好きだ。
しかし、結局はゲームだからこそ、最高に燃える事は出来なかった。
どんな逆境も、どんなに強い敵でも――結局は俺が戦っていない。
ゲームは面白いし、今でも楽しめる。
が、メカ・バトで俺自身がプレイヤーとなり。
その上、リアルな痛みを受けられる状態になったのだ。
それはつまり、この世界の俺も“本物”であり――あぁ、そうだ!
「なれる!! なれるんだ!! 本物のヒーローに!! この世界でなら!!」
「……何か目的があるんだな。それは良い事だ……さて、喜んでいるところ悪いが……続けるか?」
「――勿論!! お願いします!!」
俺は頭を下げてゴリ先輩に指導を願う。
すると、ゴリ先輩はにかりと笑い指を動かし始めた。
「先ずは戦闘になれろ。それから、お前に適した戦闘スタイルを考える。時間は限られているが……先輩として、部長として。俺はお前を最後まで鍛える。覚悟して、ついて来い」
「――オッスッ!!」
俺は両手を構えて頭を下げる。
すると、俺たちの体は再び光の粒子となっていく。
俺は目をギラギラと燃えさせる。
やってやる。
やってやろうじゃねぇか。
痛みがあってこそだ。
死なんて怖くはない。
恐怖よりも、夢に一歩近づいたことが――堪らなく嬉しいんだ!