「がははは!! そうかそうかぁ!! お前もゴリと同じ天龍寺だったかぁ! 道理で体力が有り余っている訳だなぁ!!」
「ははは! そうっすかねぇ? ところで、俺って今日は挨拶だけだったんじゃぁ?」
「がはははは!! 知らんなぁ!! あ、それはそっちに運んでくれよぉ!!」
「あ、了解っす!! ……あれ?」
ゴリ先輩と一緒にやって来たのは大きな倉庫で。
そこでは様々な重機や強化外装と呼ばれる二足歩行型の人型ロボットが動き回っていた。
中には勿論、つなぎを来たガタイの良い男たちもいて。
奥へと通されれば、大声で叫びながら指示を出す立派な白い髭のおっさんがいた。
例に漏れずムキムキであり、肌は真っ黒なほどに日焼けしていた。
やけに綺麗な青い瞳をしていて、ゴリ先輩が挨拶をすればにこやかな顔でやって来た。
先輩が俺を紹介してくれて、俺もすかさず挨拶をしたのだが。
何故か、すぐに作業服となる緑色のつなぎを渡された。
指で奥の更衣室を示されて、俺は戸惑いながらも駆け足で着替えに行って……現在に至る。
説明も少なく。
一つで25キロはあるセメントの袋をトラックの中へと積んでいく。
何度も何度も通るので、途中で面倒になって三つ袋を担ぐようにしていた。
すると、周りで作業する大人たちは感嘆の息を漏らしていた。
ゴリ先輩は手慣れた様子で、五つの袋を両手で担いで運んでいる。
いや、機械に運せればいいんじゃないかと思ったが。
このセメントは少々特殊なものようで。
少しでも袋から漏らしてしまえば大変な事になってしまうらしい。
以前はパレットなどに載せたり、レールで運んでいた事があったらしいが。
その時に、機材トラブルによってパレットが倒れたりレールが壊れて運んでいる途中でガタついた事があったらしい。
その衝撃によって中の材料が化学反応かなんかで大変な事になり。
倉庫を一時的に閉鎖しなければならなくなたっとか。
相当にやべぇものを扱っているからこそ、会社の方針を変えて。
少し手間であるものの、ロボットや機械ではなく人の手で運ぶようにしたらしい。
結局、ミスはあっても繊細な動きが出来るのは人間だ。
ロボットはプログラムの範疇での行動であり。
少しでも状況が狂えば、動きだっておかしくなっちまう。
高性能のロボを買えば、それで済む話なんだろうが。
そうぽんぽんと何千万もするようなものは買えねぇだろう。
実際、人間がやっていれば大きな事故は少ない見てぇだし……まぁ俺たちは関係なしに一気に運んでいるけどな。
「いやぁ本当に助かるなぁ!! この特殊セメントを含めて、どうしても人の手で運ばないといけないものが多くてなぁ! 重い、危険、やばいの三拍子だ!! 危険手当をどれだけつけても中々人が来なくて困っていたんだぁ!! いやぁゴリは本当に良い社員だなぁ!! 絶対に卒業したらうちに来るんだぞぉ!! お前ならすぐに幹部にしてやるからなぁ!!」
「ははは! 嫌だって言ってるじゃないですかぁ!」
「がはははは!! 照れるなぁ!! 幹部が嫌なら大幹部にしてやろぉぉ!!」
「はははは! 悪の組織ですかぁ! それより給料あげてくださいよぉ!」
「がはははは!! 無理!!」
「「はははははは!!」」
「……やべぇ」
黙々と作業をしながら、狂ったように笑う二人を眺めていた。
社会ってのはこういうのが当たり前なのか。
俺は少しだけ社会を知り、中々に怖い世界なのだと思っていた――
「ほい!! ご苦労さん!! 今日の分だぞ!! 初めてだからか、お前の分は色をつけておいた!! また来てくれ!!」
「ありがとうございます!! また、お願いします!!」
俺は深々と頭を下げる。
すると、社長である岩下さんはにかりと笑って去っていく。
空を見上げれば夜であり、倉庫内に置かれた時計を見れば……九時か。
「……さて、じゃ帰るか。初任給祝いだ。奢ってやる」
「え!? マジっすか! ありがとうございます!」
ゴリ先輩の奢りだ。
申し訳ない気持ちもあったが。
此処は先輩のメンツをつぶさない為にお礼を伝えた。
先輩が先頭を歩き、俺はその後ろをついていく。
倉庫から出て、そのまま道に出る。
歩道を歩きながら、俺は貰った給料袋を見つめる……さて。
ゆっくりと封筒を開ける。
そうして、中に入っている金を出し……え!?
「1、2、3……四万円!? 半日も働いてねぇのに!? うぇぇ!?」
「おぉ一万円も上乗せしてくれたのかぁ。良かったな……まぁ安いがな」
「えぇぇ!? よ、四万ですよ!? 数時間でですよ!? え、え!?」
「落ち着け……ジン、お前は自分がやった仕事について理解していないからそう思うんだろう。いいか?」
ゴリ先輩は説明する。
俺たちが運んでいたものは、二級危険物に該当するもので。
取り扱いを間違えれば、周辺を危険に晒してしまう代物らしい。
そんなものを運でいたのもそうだが、その量だって異常だったようだ。
「たった数時間。しかし、その数時間で普通の人間であれば一日を要する量を俺たちは運んだんだ……分かるか? 危険手当をつけて、一日分の仕事をした。それで、四万と言うのは……多いと思うか?」
「……え、えっと……お、俺、馬鹿だからよく分かんねぇっす。すみません」
「……はぁ、まぁ良い。お前がそれで満足しているならな……まぁあそこは給料はそこそこだが。色々と融通が利く。面倒な事になっても、あそこならケツは拭いてくれるだろう。そういう意味では、あそこは働きやすいぞ」
「へぇぇ……まぁ体を動かせて楽しかったっす! 次も絶対に行きますよ、俺は!!」
俺は親指を立てて笑う。
すると、ゴリ先輩はチラリと俺を見てくすりと笑った。
「……お前は素直なんだな……今日は沢山食え。食って食って――強くなろうな」
「オッス!!」
先輩はニッと笑う。
俺はそんな先輩の期待に応えたいと思った。
◇
授業を終えて、部室に入り――アナザーワールドへと向かった。
部活のメンバー全員で向かった場所。
灰色の空のスチーム・パンクのような世界ではない。
綺麗な青空であり、美しい白亜の街のような景色で。
バスに揺られて俺たちは広々とした大きな公園へとやって来た。
そこは展示場のような場所だ。
木々が生えていて、今はテントやら出店などが多く出店していた。
広い会場には、メインとなる様々なレインやそれに関するパーツを扱う多くの企業のブースがある。
後は武装なんかも展示されていた。
俺と坂崎さんは目をキラキラと輝かせる。
彼女とは少し話をしたが。
彼女はメカ・バトというよりはレインが好きで入部を希望したらしい。
彼女の知識量は凄まじく。
夢はレインの開発者になる事らしい。
「凄い凄い!! あ、見てください!! あれってブルービーズ社のZZシリーズの最新モデルですよ!! あ! あっちにはゴリ先輩が使っているBiOシリーズのカスタムモデルが!! きっとあれは鳥をイメージしてますね!! あぁ!! アレは何でしょうか!!? 見た事の無い形状のスラスター……あ、そうか!! アレはきっとベンチャー企業が製作したオーダーメイド品ですね!? 私ちょっとお話を聞いてきますね!!? ではぁ!!」
「「「……」」」
脱兎の如くであり、普段の大人しい雰囲気から想像できないほどの乱れっぷりだった。
俺たちは互いに視線を向き合う。
「……まぁ今回の目的は、彼女のようにレインについて学ぶ事だ……お前たちはまだ、具体的な自分たちの完成形をイメージできていないだろう?」
「……えっと、その事なんですけど……完成形ってどういう意味っすか? ちょっと良く分からないんですけど」
「じ、実は僕もそれを考えていて……えっと、人生でいう理想の自分ってところですか?」
「あぁ! それなら俺は」
「――言わんでいい。絶対に違うからな?」
「えぇぇ……ちぇ」
ゴリ先輩は首を左右に振る。
そうして、完成形という言葉の意味について教えてくれた。
「いいか? メカ・バトというものは、端的に言えば自らの技量を高める事と同じように――機体を強化する事も重要なんだ」
「……あぁなるほど。そういう意味だったんですね?」
「機体の強化? それってつまり……良いパーツを買えって事っすか?」
「……まぁそういう事でも一応は合っている……が、値段が高いものをつけまくればいいというものでもない。パーツには相性があり、それを扱うパイロットにも適正はある。如何に百人中八十人が強いという武装でも、お前にとってはまるで役に立たないガラクタである場合だってあるんだからな」
「「……あぁぁ」」
俺と桜間は同時に頷く。
先輩は説明を続けた。
「良いか? 完成形というのは、お前たちがレベルを上げていって、最後に辿り着く答えだ。どういう武装か、どういう機体か。そういったものを試行錯誤していって、最終的に至った答えこそが完成形だ……周りの意見ばかり聞くな。自分自身に問うて、己自身の心で最高のレインを創り上げろ……ま、金はいるがな」
「……最高のレイン……でも、僕なんかじゃ……」
桜間は俯き小声で何かを言った。
俺自身も自らの手を見つめて――ギュッと握る。
「……分かりました!! 俺、最高にかっこいいレインを作ります!!」
「……ふっ、それでいい……それでは、最初に決めた通り。今から各自、それぞれ好きなように見て回って来い。集合場所はこの先の時計台下だ。それでは――解散!」
先輩がパンを手を叩けば、ゴリ先輩と服部先輩は一斉に駆けだしていく。
何処に行くのかと見ていれば、何やら一番盛り上がっている場所のようで。
先ほどから歌のようなものが聞こえてきていた。
「……ライブっすかね?」
「うん。何でもアナザーワールド出身のアイドルらしいよ。知らない? “
「……うーん。俺にはさっぱりっすねぇ。さく……と、いけねぇ。サックは知ってるか?」
「え!? い、いやぁ、どどどどそうかなぁ? は、ははは……ぼ、僕もちょっと後学の為に行ってこようかなぁ」
桜間こと、プレイヤーネーム・サックに聞く。
因みに、服部先輩はシノビで坂崎さんはスパナという名前だ。
おにぎり先輩はおにぎりであり……て、まぁそれはいいか。
桜間はちらちらとライブ会場を見ていた。
俺は桜間が行きたそうだったので行って来いと言おうとした。
が、最後まで言葉を言い切る前に桜間は走って行ってしまう……ファン、だったのかなぁ?
「……うし。それじゃ、俺も行くかな。あ、良かったらおにぎり先輩もどうっすか?」
「うーん。行きたいんだけど……ごめんね。ちょっと私用があってね」
「え、そうなんすか? それなら全然いいっすよ! 行ってください!」
「うん、ありがとう……あ、因みになんだけどね。トライデント社のブースもあるらしいんだけど……行かない方が良いよ」
おにぎり先輩は笑みを浮かべながら忠告して来た……トライデント?
「えっと、それってレインを作ってるところっすよね? 何かあるんですか?」
「ううん。何も無いよ。見る価値も無いからね! アレはゴミだからね! ゴミ以下のゲロ畜生が乗る機体だからね!! 素直で良い子のジン君はあんなゴミカスゲロヘボカスの機体なんていうのもおこがましい無価値で意味不明で――」
「わ、分かったっす!! い、行かないっすから! お、落ち着いて!」
「……あ、ごめんね。僕ってアレの事を考えると遂、熱くなる癖があってね……うん、まぁ兎に角、自分だけの素敵な機体を作れるように色々見て行ってね! ゴミのトライデント以外でね!」
「お、おっす」
先輩は笑みを浮かべながら静かに頷き。
そのまま無言で何処かへ向かって歩いて行ってしまった……な、何だったんだ?
俺は静かに息を吐く。
どっと疲れたような感じだが……行こうか。
俺は気を取り直して展示会場での見学を始めた。
理想とする機体。
そのイメージを頭の中で考える。
これがただのゲームであれば。
強い武器やらロマンあふれる機体やらで固めるところだが。
これはただのゲームではない。
「……現状では、俺は碌な武器は使えねぇからなぁ……やっぱり、ステゴロ。格闘戦用ってとこかぁ?」
顎に指を添えながら考える。
格闘戦であれば、例え最後まで武器の扱いが上達しなかったとしても……いやぁでもなぁ。
「……いろんな武器は使ってみてぇなぁ。どうせなら、バカでかい銃とか。飛ぶ斬撃とか……あ、そういえば」
俺は背中に背負ったリュックの横ポケットからあるものを取り出す。
それは展示会場のゲート前でお姉さんから貰ったパンフレットだった。
開いてみれば、この会場で出展されている主なレインであったり。
参加している企業のプロフィールなどが簡単に書かれていた。
「多脚型にタンク型。高機動モデルにオーダーメイド品……うへぇ、すげぇなぁ」
会場自体が広いと思っていたが。
参加している企業も百に近いようで。
規模は分からないものの、出されているものはどれも性能が高そうだった。
俺は悩む。
何処から見るべきか。
いや、そもそも何を目的として探すべきなのかを。
悩んで、悩んで、悩んで悩んで……うーん。
「迷うなぁ。どれも素敵なんだよなぁ――うぉ!?」
パンフレットを広げながら歩いていたのがいけなかった。
前方不注意であり、何かにぶつかってしまう。
俺は倒れなかったが、相手は小さく悲鳴を上げて倒れてしまったようだった。
慌ててパンフレットを仕舞って大丈夫かと声を書ける。
すると、そこにはパッと見では小学生ほどの小柄な女の子が俺の事を睨んでいた。
着ている服装は白いフリフリのドレスであり、髪は金髪のツインテールだ。
顔には舞踏会などでつけるような派手な紫色の仮面をつけている。
が、確実に敵意むき出しで俺を睨んでいる事は分かった。
「立てるか――いで!」
「触らないで!! この私が誰だか知らないの!?」
少女は俺の手をパンと叩く。
何故かは分からないが怒っている様子で、甲高い声できゃんきゃんと喚いていた。
俺はそんな少女をジッと見つめる。
「……うん、知らねぇな!! わりぃ!」
「し、知らないですって……ふん、つまり、アンタはアナザーワールドに来たばかりの初心者って訳ね!」
「あぁ、そうだ! 最近、メカ・バトも始めたんだぜ! あ、もしかしてお前もか!? いや、奇遇だなぁ!」
「――勘違いしないでくれる? 私は初心者じゃないわ。私はアンタにとって雲の上の存在――銀翼なのよ!」
「ぎ、銀翼だって!? へぇぇぇ…………銀翼って何だ?」
「――――!!」
俺は銀翼という言葉に驚く。
そして、すぐにその意味が理解できなかったので質問した。
すると、目の前の少女は何故か怒り始めた。
「せ、世間知らずにもほどがあるでしょ!? アンタ、テレビとか配信サイトとか見ないの!? 銀翼よ!? 銀翼!! メカ・バトで優秀な成績を収めたプレイヤーの中でも、なる事が難しい三属帯、その中でも二番目の銀翼なのよ!!?」
「お、おおぉぉぉ!! それはすげぇな!! お前、すげぇ頑張ったんだな!!」
「ふ、ふん! そうよ! 頑張った……ち、違うわよ!? これは努力ではなく才能なの! 良い? 私は、メカ・バトの名門スクール・アケビの出身なの! 倍率500倍という狭き門をくぐったエリートであり! メカ・バトの未来をしょって立つ」
「――わりぃ! 俺今日は仲間と来てるんだ! 遅くなっちまったら迷惑掛るから、行くわ! 今度また話聞かせてくれよ! じゃあな!」
「ちょ!? こ、この私が! 銀翼のスカーレットが話してやったのに、無視するなんて――待てごらぁぁぁ!!!」
「え、なん――うごげぇぇぇぇ!!?」
俺はそのまま会場の見学に戻ろうとした。
が、後ろから少女の声が聞こえたので振り返る。
瞬間、顔に勢いよく靴がめり込む感触がした。
メキメキと音を立てながら靴がめり込み。
俺はそのまま鼻血を出しながら、派手に回転して近くにあったゴミ箱に突っ込んだ。
「い、いでぇぇ、な、何するんだよぉ?」
「ふん! この私を無視するのがいけないのよ! そうね……良いわ! 特別に!! この私が貴方に――レクチャーしてあげる!!」
「れ、れくちゃーって何だよ?」
「当然――メカ・バトよ!!」
少女が指を突き付けて来た。
瞬間、俺の前にディスプレイが現れる……決闘?
メカ・バトの決闘だ。
こんなのがあるなんて知らなかった。
アナザーワールドで勝負を挑まれたらこうなるのか。
俺は新しい機能を理解しつつ、ゴミ箱を戻して立ち上がる。
「……いいぜ。受けて立ってやる!! 強い奴との勝負なら大歓迎だ!!」
「ふん、何時までそんな余裕でいられるかしらね」
俺は決闘を承諾する。
瞬間、俺と少女の体は光の粒子となっていく――
目を開ければ、新しいステージが目の前に広がっていた。
ファンタジーの神殿のようであり。
白い巨大な支柱が何本も立っている。
光源となる不思議な青い光を放つ石が埋め込まれていて……音が聞こえる。
《……はぁやっぱり初心者ね。ありふれた機体に、安い武装。初期装備ってところかしら》
「……何だぁ、あの機体は?」
ゆっくりと歩いてきた機体。
深紅の機体であり、その姿は騎士のように見えた。
マントは無いが、背中からは二対の透明な羽が生えている。
良く目を凝らせば、透明な羽には無数の線が走っていた。
恐らくは、コードのようなものだろう。
深紅の兜の下から、グリーンの双眼センサーが光っていた。
白い巨大な槍を片手に持ち、もう片方には円状のシールドを持っていた。
他に武装らしきものはなく――相手の武装が消えた。
「え、消えた?」
《消えたんじゃないわ。消したのよ……ふふ、初心者相手に全力を出すほど私は愚かではないからね。アンタ相手なら……そうね、これで十分かしら?》
「――ッ!!」
少女はくすりと笑って武装を変える。
光と共に現れたのは――レイン用の小さなダガーが一本だけだった。
「……おい、舐めてるのか?」
《舐めてる? 違うわ――合理的思考、それだけよ》
少女はそう言ってダガーをだらりと下げる。
カウントダウンが始まった中で、少女は何も持っていない手を上げて指をくいっと動かす。
《さぁ来なさい――踊ってあげるわ》
「――上等だッ!!」
カウントダウンがゼロになり――俺は床を蹴る。
そのままライフルで少女に狙いをつける。
が、少女の機体は動かない。
俺は攻撃してこないとタカを括って狙いをつけて――弾丸を放つ。
ガラガラと弾丸が深紅の機体に殺到する。
俺はそのまま蹴りのモーションに入り――はぁ!?
深紅の機体が動いた。
まるで、残像が出ているかのようにゆらりと動いた。
すると、弾丸がまるで機体をすり抜けるように通り過ぎて行った。
何が起きたのかと戸惑いながら、俺はそのまま蹴りを放とうとし――ナイフで受け止められた。
「――折って――うわぁ!?」
《単純ね》
ダガーが動いた。
蹴りで折ろうとしたが、衝撃を逃がすように動かしていた。
俺はそのまま妙な体勢になってしまう。
まずい、やられる――が、何もされない。
「……!」
俺はそのまま深紅の機体を通り過ぎる。
肩部のミニガンがオートで攻撃をしていたが。
少女はその場から動かずに、ダガーを僅かに動かして弾丸を弾いていた。
「……は、はは……嘘だろ……こんなに、遠いのかよ?」
《――あら? ようやく理解できたのね。それは良かったわ》
深紅の機体が動く。
ダガーをくるくると回し。
彼女は優雅に一礼した。
《銀翼が一人――“赤薔薇のスカーレット”。名誉ある敗北を貴方に与えましょう》
「……ふっ!! まだまだぁ!!!」
俺は床を蹴る。
そうして、相手の周りを飛んだ。
ライフルで狙いを定めながら攻撃を仕掛ける。
バラバラと弾丸が舞い。
深紅の機体は最小限の動きで避ける。
弾丸は床を抉り、残骸が煙となって舞っていった。
俺はたらりと汗を流しながら攻撃を続けて――眼前に、青い光が迫る。
「――ッ!!!」
《単純、そう言ったのよ?》
スカーレットが笑った気がした。
瞬間、奴はダガーをライフルのトリガーに刺す。
銃弾を発射できず、俺は一瞬だけ硬直した。
すると、スカーレットの機体がくるりと周り――視界が回る。
「うあぁ!!?」
スカーレットの機体による攻撃――否、違う。
脚部を絡めて、スラスターを強く噴かせた。
その結果、姿勢制御が出来ずに天地が逆になった。
理解した瞬間に、俺はライフルから手を離し――背後から強い衝撃が加えられた。
「うがぁ!!? 前じゃ!!?」
《ちゃんと見なさい。何秒前の光景?》
一瞬にして背後を取られた。
俺はそのまま床を転がっていく。
何とか手をついて停止する。
顔を上げようとして――踏みつけられた。
「ぐあぁ!!?」
《……貴方、妙ね……痛みを感じている。いえ、動きも人間みたい……面白いわね》
少女が笑う。
そうして、俺の頭部への踏みつけを強めて来た。
ギチギチと音が鳴り、頭が床のタイルを破壊して埋まっていく。
痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――まだだァ!!
「ぐがああぁぁぁぁ!!!」
《……! へぇ、まだ闘志が……でも、もう十分よ。もう――飽きたわ》
「うがぁ!!?」
スカーレットは更に力を込めた。
瞬間、頭が割れるような痛みが走り――――…………
「…………うがぁ!?」
俺はガバリと起き上がる。
すると、そこは展示会場のベンチの上で……負けた、のか?
俺の声で周りを歩いていた人間が驚いていた。
が、その中にはスカーレットの姿はない。
どれくらい眠っていたのか……ん?
「何だ、これ……!」
ズボンの上から何かが落ちた。
それを拾い上げて、俺は驚いた。
《五千人目の敗北者へ、赤薔薇のスカーレットより》
スカーレットのサインが書かれた小さな色紙とおにぎり先輩に教えてもらった機体をただで直すためのチケットが一枚。
それも先輩に貰ったものよりも高級そうな銀のチケットだった。
俺はその二つを手に持ちながら――笑う。
「赤薔薇のスカーレットか……決めたぜ!! この借りは必ず返す!! リベンジだ!!」
俺は拳を突き上げて叫ぶ。
周りの人間が驚いているのも気にせず。
傍に置いてあったリュックに二つをねじ込んでから背中に背負って走る。
今はまだ勝てなくても――何時か、俺はアイツに勝つ!!