前世凡人 今凡神   作:カンピオーネ二次復権派

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二人は友達 ミックスゴッド

「ちゅ……んん……ぷはぁ……んぁ……どうしたの? 唇を離して?」

「なんでそんな艶めかしい声を出すんだよ……」

「なんか出ちゃうんだよね、これ? まあ、いいじゃん。気にしなさんな、ただの生理現象みたいなもんだから。と言う訳で再開ね」

「気にする──んー!?」

 

 何やら護堂が喚いているが、今後を考えたら必要な行為だから仕方ないね。

 ……なぜ護堂と僕が口づけ、つまりキッスをしているかと言えば、こうしないと護堂との間に精神感応やらの経路(パス)を繋げられないからだ。

 精神感応とは、両者間の精神を繋げてテレパシーで会話したり、霊体や魂に干渉することで様々な不調を相手に引き起こしたり、心を読んだりすることができる魔女の御業。魔女が複数人で儀式魔術を行使するのも、軽い精神感応で意識を共有し、魔導力などを束ねて呪力の制御力を加算させたりしているからだ。

 

 それと同じことを護堂に施している。僕と護堂の精神を同調させて、一時的にこちらの魔導力を引き出せるようにする。こうしないと、護堂が持つ第四の権能『火の言霊』が制御できないから。

 

 神殺しが簒奪する権能は、基本的にランダム。倒した神から神力を強奪し、他者に譲渡する神具『簒奪の円環』の持ち主であるパンドラさんが指定するのであれば狙った権能を奪い取れるが、そこまでのサービスはしないつもりらしい。

 何が出るのか分からないガチャ、しかも得た権能は神殺し当人が扱いやすいように、多少のアレンジが加えられる。その人の気質が反映されるみたい。

 護堂は倒した神から火の力を奪い取った。護堂本人の気質が反映されたせいか、火の神が降臨するのに匹敵するほどの絶大な火力を得る強力な権能だ。

 そして……ここまでは良いのだが、強力過ぎる反面、制御性に大きな課題を抱えることに。まさかの当人の呪力制御能力が低すぎて、周囲一帯を見境なく焼き払う権能になった。常時暴走モードだ。

 それらをどうにかする方法が、僕とパスを繋げて、一時的に魔導力を上昇させるなのだ。

 普通なら手の平を胸に当ててごにょごにょ言霊を口にするだけで繋げられるけれど、神殺しの魔王相手だとそうもいかない。呪力や神力に対する耐性が、強固な壁として立ち塞がるから。

 しかしどんな要塞でも、内部からとなれば話が違う。粘膜接触や経口摂取により、直接体内に言霊を注ぎ込み、内側から穴を開けてしまえば経路は通る。

 

「そもそも……ん……一度開けても、神レベルの魔導力を共有するための……つ、うん……経路となると、一回一回開けなおさないと、治るのが難点なんだよ。パンドラさんは、神殺しの肉体を強固に造り過ぎだ」

「頼むから、唇をつけたまま喋ろうとするのはやめてくれ! こそばゆいんだよ!!!」

「大丈夫、安心して。それ、僕もだから」

「じゃあするなよ!! ……これ、他に方法とかないのか? なんかこう、霊薬みたいなのを調合して、それを飲むとか」

「その場合、材料に僕の体液とか使うけどいい? 血とか、唾液とか……口に出し辛い諸々も混ぜ合わせることになるけど」

「……嫌だ」

「霊薬も嫌、接吻も嫌となると……あるにはあるけど……」

「あるのか! どんな方法なんだ!!」

「吾が身は成り成りて成り合はざる処一処在り。我が身は成り成りて成り余れる処一処在りだよ」

「……それ、美殊が良く使ってる聖句だよな。なぜそれを?」

「これは古事記や日本書記の一場面で、伊弉冉と伊邪那岐が出会った時の一節なんだ。ちなみにどういうシチュエーションかと言えば、私には穴が空いているわ。俺には棒があるな。良し、じゃあそれを穴に入れてみようってシーンでね、これ」

 

 つまりこうだよと、指で輪を作り、片方の手で人差し指を立てる。それを輪に入れては戻してと動作を繰り返して見せたら、意味を察したのか護堂の顔が真っ赤になった。

 

「おま、おまえ、おまえそれは……!!」

「姦淫だよ~。いわゆる性行為だね。性行為は聖行為。古来より、これらは宗教的にも重い意味を伴っていたんだ。キリスト教では、婚姻前交渉は御法度になるぐらいの罪。たくさんの神話でも、男性神と女性神が結ばれて神々が誕生する。大地から取れた石を、男性が槌でガンガン叩いて突いて、色んな鋼に形成する。これもまた性行為と見えなくもない。女性と男性が深い部分で繋がるから、精神感応で共有する上では、これ以上なく手っ取り早い方法ではあるんだよ」

「できるわけないだろ! とも、友達とそんなことを!! キスですら、こっちはいっぱいいっぱいなのに!!!」

「ま、そう言うと思ったよ。それじゃ、口づけの方を再開だね……ああ、それと一つ。護堂はキスですら、なんて言うけどね。一般的には、性行為よりもキスの方を重視する女性の方が多いんだよ。エッチは良いけれど、キスは駄目なんだ。男の子だと、その辺の感覚が分かりにくいかもだけれど」

「それは……それはどうしてなんだ?」

「ファーストキスを大事にするのと同じ。心を繋げても、良いと思う相手にしかしたくないから」

「……え!? それってつま──むぐっ!」

 

 なんか喋ろうとしていたようだが、その前に僕の唇で護堂の口を塞ぐ。

 ……ま、僕の言葉はしょせん一般論だ。僕がそうですかと言われたら、全然違う。前世の男性価値観があるから、そこまでキスを重視していないだけだ。だから抵抗なく、護堂相手に出来ているだけ。

 男性観を持ったまま、護堂とキスをしているのは問題な気もするが……そこは護堂に我慢して貰おう。ファーストキスの相手が、前世男ですまんなと謝っておく。こちらも前世の価値観のままだと、男同士でキスしているようなものなのでお相子ってことで。

 なに、だとしてもそこまで気にすることでもない。ウェーイ系が、男同士でしてキャハハハ騒いだ後に、ビール流し込む動画とか見たことあるし。あれと同じで、男同士でもフツーフツー。むしろ陽キャならこれぐらい出来て当たり前だろう。つまり僕は陽の者だった。そう考えるならば、むしろこれは日常みたいなものという事だ。

 

「んー、塩味かと思ったけれど、お酒の味がするね」

「実況するなよ、俺の口内の味を……前はそんなことしてなかっただろ」

「前の時は大急ぎだったから、こんな風に実況できるぐらいの余裕が無かったからね……あ、気にしないで。口内が匂うとかは無いから」

「誰もそんなことを気にしてない!!」

「そうかな? いつだってエチケットは大事だよ? 僕だって、自分が匂わないかな~とか気になるし」

「そんなの気にしてたのか? 別に臭いとかは無いし、むしろ良い香りだと思うぞ」

「そうなの? どんな匂い?」

「どんなって……そうだな──」

 

 はてさて、どのような答えが返ってくるかな。良い香りだから、桃の匂いと言われているラクトンの香り辺りだろうか?

 

「森?」

「……腐葉土?」

「違う! 無臭に近いけれど、無理やり表現したら森とか山だと思ったんだ!! ヒノキとか、そう言った落ち着くような香り!!」

「……大地母神の資質のせいかな」

 

 自分の髪を嗅いだりしてみるが、シャンプーやコンディショナの匂い以外分からん。神殺しは特性上獣に近いから、神としての在り方を嗅ぎ分けたのかもしれない。

 

 そんなこんなで再び口づけをして、護堂の中に僕とのラインを通す作業に戻る。神の強大な魔導力を渡せるだけの穴を開け、けれどそれで護堂の呪力耐性が落ちないように最新の注意を払う。無理やり開けたりしたら、あとあと大変なことになってしまうから。

 舌を絡めあう。これも儀式の行為としては大事なことで、向こうからも招き寄せて貰わないといけない。悪霊が家主の許可が無いと霊的に守られた家に入れないように、招かれると言うのは手順を踏む上で大事な行為なのだ。

 

 護堂の手が僕の腰と背に廻されて、力強く抱きしめてくる。これも先ほどと同じく、招かれると同じ行為。護堂の方から僕を受け入れて、経路をより簡単に構築させられるようになる。

 なので、今度は僕からもそれに対する返答を一つ。護堂の首に手を回し、より強く密着させる。

 そのまま離れることなく、舌を絡ませ、口内を舐り回し、粘膜と粘膜が触れあった箇所が熱くなり、深い部分で溶け合わさせる。

 

 最初は細かった糸が、一本一本とより合わさり太く巨大になる。

 気がついたら、護堂と僕は草の上に寝転がっていた。風が通り過ぎる音と、星明りだけが存在する世界。お月様だけが僕らを見ていると表現したら、とても詩的な気分になりそうだ。

 

 護堂の背中に足を回す。これぐらい密着すれば、より早く経路が形成される。口から涎などが垂れてしまっているが気にしない。

 

 そうして数分経つ頃に、護堂と僕の間に目には見えない強固な繋がりが構築された。うーん、我ながら立派な経路(パス)だ。

 

「どう?」

「……これなら大丈夫そうだな」

「それならよかったよ……じゃ、次は教授の術だね!」

「ああ……え? なんだそれ?」

「教授の術は数日間しか持たない代わりに、普通なら一年ぐらいかけて学ぶような知識を、脳みそに一時的に詰め込める魔術だよ。青い狸が持つ暗記パンみたいなやつ」

「あー、ドラえもんの……なんでまた、そんなのを?」

「ウルスラグナさんの持つ、黄金の剣。あれの正体を考えたら、護堂にはウルスラグナさんを構成してきた歴史。当時のペルシャの成り立ちや、ゾロアスターを国教としたササン朝について。アレクサンドロス大王の東方遠征と、そこから派生したオリエント文化とギリシャ文化が混ざり合ったヘレニズム文化の成立。それにウルスラグナさんとインドラ神、ヘラクレスにバアル。多方面からの知識を教えておきたいから」

 

 ウルスラグナは神を抹殺する神殺しの神。であるならば、黄金の剣は対神兵装の筈だ。僕が使う神殺しの焔などと同一の、神を滅ぼすための武器。

 それを振るうのが少年だとするならば、剣の材料は言霊になる。予想が正しければ、護堂にはウルスラグナ関連の知識は全部放り込んでおきたかった。

 

「その知識が何かしらの役に立つのか……でも術でどうこうするなら、またキスを?」

「そりゃそうだよ。普通に学んで覚えようとしたら、余裕で千時間ぐらいは学習時間がいるもの。なら、魔術で10分ぐらいまで短縮するほかないし」

「……分かった。それがあいつに向き合うのに必要になるんなら、受け入れるよ」

「良い返事だ。ならそれと、これも渡しておくよ」

 

 ポケットからとある物品を取り出し、護堂の手に握らせる。

 

「これは? お守り?」

「さっき、ちょちょいと作成した魔術具だよ。それにはね──」

 

 どう使うのかを説明しておく。僕の説明を聞いた護堂は少し呆れた後、有効活用させて貰うさとズボンの尻ポケットに入れていた。

 

「あとはプロメテウスの魔導書についてもレクチャーしておかないと」

「次から次へと準備するんだな……そうなると、まさかあれも、もうこっちに?」

「もちろん。もう呼んでおいたよ」

 

 僕が天空を指出す。遥か上空を見て、護堂は少しうへぇと声を漏らした。

 

「サルデーニャの地形を変えるつもりじゃないだろうな?」

「できる限りは使うつもりはないけれど、相手は古代カナンの神王と、主神から分離した戦闘神だ。必要になれば解禁するつもりだよ」

「……はぁ。本当は、争いなんかせずに済んだら一番いいんだけどな」

「僕もそれには同意するよ。戦いなんて、金と時間と資源の無駄遣いだ」

 

 二人して、お互いにはぁと深いため息を吐く。やんなるね、ほんとうに。

 

「……じゃ、もう一度しよっか」

「よろしく……頼む?」

「なんで疑問形なんだよ……ほら行くぜ~……ちゅむ、ん、ふむぅ……」

 

 先ほどまでのが精神感応用の経路作成で、次が知識を流し込むための作業だ。これは明日には必要になるかもしれない武器なので、仕方ないを越えた仕方ない。

 

 啄むようなキスなのは、与える知識を流し込む速度を変更するため。その気になれば僕の腕前なら一瞬で脳にインストールさせられるけれど、そんなことをすれば脳みその神経が焼け付いてしまう。

 カンピオーネの耐久性を考えたら大丈夫な気もするが、戦いの前にあまり負担をかけさせたくない。

 だからじっくりと時間をかけて、ねっとりと絡みつき合わせながら知識の言霊を注ぎ込む。

 

「古代世界、軍神ウルスラグナが誕生したのは、ミスラから戦闘神としてのあり様が分割されたからだ。ウルスラグナと呼ばれる以前の、名も無き軍神はいた。けれど重要なのは、僕らが知るウルスラグナさんについてだけだ」

 

 護堂の息が若干荒いような気もするが無視。

 

「ゾロアスター教の聖典『アヴェスター』で触れられる軍神は、大部分が猪の姿をしている。十の化身について詳細な記載はあるものの、ミスラを導く存在としての猪が一番多い。この辺は猪が突進するもの、イコールで道を切り開くイメージが強かったからだね」

 

 ピチャ。水の滴る音がする。僕と護堂の間で唾が糸を引く。それごと押し込むように、さらに言霊と術を練り上げる。

 

「ではどうして、ミスラからウルスラグナさんは分離したんだろうね? ……これはゾロアスター教を成立させるための手段の一つ。ゾロアスターは善悪の二元論を前提とする宗教。善とは善き行い。悪とは悪しき行い。それを証明するのが、善神アフラ・マズダと悪神アンリ=マユの戦いになる」

 

 護堂の体がめっちゃ熱くなっているのを、密着した肌から感じ取れる。おいおい、なんだい、この熱量は。僕らは明日の準備としてキスをしているだけだぞ。

 

「護堂……ぃ……この戦いを通じてゾロアスターが説きたかったのは、道徳的選択を重んじること。責任と道徳をもっとも重視し、人に対して物惜しみをせずに愛情を抱くこと、節度のある食事をして心身の健康を保つこと、約束を守ること……今の現代社会でも当たり前に説かれて欲しい、隣人愛や選択の重要性だ」

 

 おっかしいなぁ、僕の体もかなり熱い。心臓が早鐘を打ち、体温が上昇しているような気がする。護堂の体が熱いのか、僕の方が熱いのか判断に苦しむ。

 

「それら道義を説く上で、ただ強いだけ……これは不都合だった。前に言ったように、アフラ=マズダはミスラからの派生だ。正しき光明の神。道理を説く善神。正しき神の中に、暴力……悪に繋がる要素は残したくない。だから分離させたんだ」

 

 体の中心がずしりとした重みを持つ。このまま言霊なんて忘れて、友達との遊びに興じたい気持ちが湧き出てくる。

 それらは無視する。そこを越えたらウェーイな友達の領分すら飛び越えてしまう。

 

「でもね──それでも、ウルスラグナの中には、確かな善の要素が残った。それは──」

 

 護堂の上に僕が乗り、お互いの体に廻した手に力が籠められる。ドロドロに溶けた鉄が混ざり合うように、僕らの熱はどっちがどっちのものなのか分からなくなる。

 

 護堂の息は非常に荒く、僕は自分の目が潤んでるような気もする。お互いに定めたラインぎりぎりまで足を乗せているような気さえするが、これを超えるにはまだ早い。

 

 なに、護堂は神殺しで寿命千年以上。僕は神で、同じく寿命千年以上。戦場で死なない限りは、まだまだ時間があるのだ。

 あくまでもこれは、ウルスラグナやバアルと争った時のための備えに過ぎない。お互い寿命死を迎えるためのモラトリアム。友達同士の、ちょっとした戯れだ。

 

 ……ただ、ただ。今は熱した鉄を冷ますような、ひやりとした風が心地よかった。




裕理「とも……だち?」
恵那「恵那も混ぜてよ!」
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