前世凡人 今凡神   作:カンピオーネ二次復権派

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草薙VS軍神 ~ゴッデスを添えて~

 護堂は森を疾走する。目指すのは、美殊が投げ飛ばしたウルスラグナのいる場所だ。美殊が使用した剛力の権能三重使用。その膂力は神々の基準から見ても上位に来るもので、美殊は数キロ先に着弾するだろうと予想していたが、実際には十数キロ先のサロダマナの森まで飛ばしてしまった。

 

 通常では追いつけない距離だが──

 

「全ての障害を取り除く偉大なる輝きの主のために、神弓の導きを授けん!」

 

 呪力を回して聖句を燃料とし、護堂の体を包む陽光が輝きを増す。輝きは力となり、護堂の体を前に飛ばす。

 聖句とは神々が使う呪文。神々だけに許される筈の、特別な祈りの言葉。されどそれは神だけのものに非ず。人類の歴史と共に紡がれてきた神話の主達から、その神力を強奪した獣が人の中から時折姿を現す。

 

 護堂が使うのは弓の言霊。乙女を守るのであれば、これでも使えと託された神弓そのもの。護堂の体と一体化した神代の武器は、護堂の肉体そのものを弓に変える。

 

 神殺しの頑丈な肉体はより頑強に。頑強さに見合うだけの膂力に。太陽の弓は護堂に陽光の力を与える。体は軽くなり、音を置き去りにして護堂の体は前へ、前へ。十秒でウルスラグナへと追いついた。

 

「お主が来るか、草薙護堂。あの女神ではなく」

「少し我儘を言ってな。悪いが、お前の相手をするのは俺だよ」

「そうか。平和主義とやらは撤回し、羅刹の王としてようやく我と死合ってくれるか!」

「それも悪いが違う。俺はお前と殺し合いをするんじゃない。友達が馬鹿をする前に、殴ってでも正気に戻してやるために戦うんだ」

「……友か。我とお主は、たった一日だけ轡を並べたのみ。それを友と呼ぶか?」

「当たり前だろ。一緒に遊んで、一緒に食事をした。そういうのを、現代では友達って言うんだよ」

「我の知る友とは随分と違うが……良かろう。お主がそう言うのであれば、それで良いのだろうよ。死力を尽くす闘いに、肩書きなど不要であるからな!」

 

 ウルスラグナの肉体から力が漲り、一気に膨れ上がる。その行動に護堂も同じく呪力を回して、迎撃の準備を済ませた。

 

「さあ! 神と神殺しの習わし通り、殺し合いを始めようではないか! 我は障碍を打ち破る者ウルスラグナ!! 最強にして最多の勝利を得し守護神(ヤザタ)なり!!」

 

 可視化して見えるほどの神力──呪力とも呼ばれる権能や魔術を動かす燃料がウルスラグナの体を変化させる。肌黒い15歳程度の少年から、黄金の角を持つ巨大な牡牛へと。前脚を振り上げ、護堂を踏み潰さんと振り下ろした。

 

「生憎だが、それを受けるつもりはない! 矢の如く飛び給え!」

 

 脚に力を籠めて、一気に跳躍。ウルスラグナを飛び越えて、その背後にまで護堂の体が上昇する。誰もいなくなった空間に牡牛の脚が落ち──地面が揺れる。

 現代ではトラクターが農作業を担うようになり牛は重労働から解放されたが、昔は農耕に用いられていた。人間とは全く違う強力な筋力は、それだけ重労働な農耕において重宝されたのだ。

 

 では尋常ならざる、神としての牡牛が持つ力。それはどれほどのものか……護堂は目撃する。

 たったの一打で、地面が陥没した。直径50mほどのクレータが形成される。まともに受ければ、それだけで神殺しの戦車より硬い肉体も、一撃で破壊せしめるだろう強打。護堂はゾッとすると同時に、でも当たらなければどうにかなるよなと冷静に状況を見定めていた。

 

 身軽になった体で宙を蹴り、護堂は反転。牡牛が破壊したことにより地面から離れ、空中に浮いていた重さ数トンはあるだろう岩を掴む。

 空中では足場がない。なので体は踏ん張れない筈だが、まるで宙に地面があるかのように、護堂の体がしっかりと固定される。

 

「我は神弓となりて、主の敵対者を葬らん!!」

 

 岩が護堂の体を包む陽光と、似たような輝きを帯びる。今の護堂の肉体は弓と同じ。であるならば、当然矢を打ち出すことが可能だ。

 手にある岩が矢となり、護堂の弾となる。

 中学時代、散々キャッチボールで振りかぶったフォーム。しっかりと踏みしめ、一球で盗塁を刺すための送球がウルスラグナに投げつけられる。

 

「ただの岩など……これはまずいのう!?」

 

 岩石が直撃したところで、牡牛となったウルスラグナには通じない。肉体の強度が岩など遥かに上回るからだ。人間に豆腐を投げつけたところで、相当の速度で無ければ小動もしないのと同じ。

 だからウルスラグナがまずいと言う以上、投石は異常な速度と言う事だ。陽光を帯びて強化された岩が、音以上の速度で飛来する。

 

 仮に護堂がこの投石を第二次世界大戦頃の戦艦に行えば、ただの一投で沈めてしまうだろう。それほどの一撃は、流石にウルスラグナも受けるわけにはいかない。

 牡牛から強風へと姿を変えて、物理攻撃を間一髪でいなしてしまう。

 

「くそ……厄介だな、その風の形態。物理無効とか卑怯くさいぞ」

「何を言うか。この程度をどうにか出来ぬのであれば、我の前に立つ資格などないわ」

 

 強風から少年へと戻り、ウルスラグナが護堂の軽口に軽口で返す。それに言ってくれるな……と護堂は不敵に笑った。

 

「それに森をこんなにめちゃくちゃにしやがって。環境破壊問題がどうとか、最近のニュースでは騒がれてるんだぞ」

「お主に言われとうないわ! 先ほど投げた岩が、森の一角を吹き飛ばしたではないか」

「…………」

 

 護堂は自分の投石箇所を努めて見ないようにする。戦艦すら沈められる一投だ。当然のように、木々を吹き飛ばし大地に大穴を空けていた。

 

「あれは……あれは必要経費だ!」

 

 護堂は誤魔化すことにした。周辺被害を出さないように、ウルスラグナとメルカルトの喧嘩を止めようとしたのだから、環境破壊がどうと言われたら少し苦しい。なのでこれは必要、これは必要だからと念仏のように唱えて──

 

「なんじゃ? 空が光って──」

「え?」

 

 ウルスラグナが空を見て眼を細め、護堂も釣られてそちらを見た。確かに軍神が言うように、遥か上空で何かが光っていて……護堂は青褪めた。何が光ったのか、その正体に気付いたせいで。

 

「あのば──」

 

 馬鹿と言い切る前に、それは来た。遠くに見えていたメルカルトの呼んだ雲を貫通し、超高速で大気を貫いた何かが地面に着弾して一瞬光り──大爆発。着弾箇所から十数キロ離れた護堂すら爆風だと感じる風が巻き起こり、きのこ雲がもうもうと立ち上がる。

 何が落ちたのか知らぬ者が見れば、隕石か核弾頭かと思うような至極の大破壊。ウルスラグナはあの女神か? と疑問を抱き、何をしたのか良くご存じな護堂は頭を抱えたくなる。

 あの馬鹿どこだと護堂は探して、天上にいる美殊を見つけた。

 

「このアホー! 糞馬鹿ー!? それ使う気はないとか言ってただろ!!」

「……何やら知らぬが、お主、あの女神に振り回されまくっておらぬか?」

「そうだよ! その通りだよ!! いつも振り回されてるわ!! 色んな意味でな!?」

「……苦労しておるな。それよりも、あの破壊を行ったのがあの女神だとすれば、もしかするとメルカルト王めはすぐにでも討滅されるやもしれん。そうなる前にお主の首を落とし、あの女神の前に持って行ってやろうではないか……主は我に命じられた! 神を討滅せし罪人に裁きを下せと!! 背を砕き、骨、髪、脳髄を抉り出し、血と泥とともに踏み潰せと!! 我は鋭く近寄りがたき者なれば、主の仰せにより汝に破滅を与えよう。猪は汝を粉砕する!猪は汝を蹂躙する!!」

「猪か! ならこっちも、あいつを呼ばせてもらうぞ! 来い、鋭き牙を持つ狩人よ! 愚鈍なる獣の臓腑を抉り、かみ砕け!!」

 

 ウルスラグナが猪に変化し、護堂の影からフェンリルが這い出る。カリアリ港での再現。あの時はフェンリルの圧勝だった。では今はどうか。カリアリでの大きさに比べればウルスラグナの猪は小さく、フェンリルとサイズが変わらないが纏う威容は桁が違う。

 

 オォオオオオオオオオ!!!!

 オォォォオオオオオオン!!!

 

 猪の咆哮と、フェンリルの遠吠えが木霊する。両者は全く同一のタイミングで突撃を仕掛け、森に衝撃波が走り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君は強者か? もしもそう問われたならば、僕は否としか答えられない。僕という神格は、しょせんどこまで行っても、平々凡々な凡神としか言えないからだ。

 僕を見れば、大抵はみな神として扱う。それは神々も同じで、神殺しの魔王だってそうだ。僕のことを鋼と蛇の力を持つ、強い神様として見てくれる。

 

 でもそうじゃない。僕には彼らのような強固な自我も、勝負強さもない。元はただの普通の人間で、それが強い肉体を得ただけ。スペックは優秀でも、使い手がそこまでだと宝の持ち腐れ。

 僕自身の権能に名前を付けるなら『遺伝』。父と母の神力を受け継ぎ、それを十全に活かせるならば、二柱の神が協力して戦うに等しいだけの力を発揮できる。

 

 しかし持ち主が持ち主なせいか、両方とも中途半端にしか扱えきれていない。全能力をフルに使いきった時の点数を200点とするなら、80点ぐらいしか使い切れていない。とてもじゃないが十全とは言い切れないだろう。

 もしも僕を普通の成人男性とするなら、神々とは鍛えたプロの格闘家だ。それか熊や虎などの大型肉食獣。神殺しは大型犬。僕はスペックだけなら優秀なのに、実際にはこれぐらいの差がある。ちなみに人間は、蟻とかミジンコなので除外しておく。

 

 だから僕は神として戦うことは止めた。狼たちにボコボコにされた時点で、そんな思考はどこかに行った。

 強者としての傲慢さも、挑戦者を待ち構える王者の所作も不要。本質は弱者な人として戦いに挑む。自らが弱いことを認め、元人間としての強みを鍛える。

 

 鍛えるべきは神として職能に特化した専門家(スペシャリスト)ではなく、人として多岐に渡る技術と技能を修めた万能家(ゼネラリスト)。どうせ80点しか出せないならば、広範囲になんでも出来る強みを最大に活かせ。

 それでも足りない時のために、陰陽の相克・相生を利用した神力バフ技も開発した。レベルを上げて80点を無理やり100点に変える。応用を利かせるのが苦手ならば、基礎部分を徹底的に強化する。

 僕が主軸として戦うならばこれでも不十分かもしれないが、神殺しの魔王『草薙護堂』の補助をするサポーターとしてならば……人のような凡神としての強みを最大限に活かせるならば、これで良い。だから方向性はこれで良い筈なのだ。

 

 だが護堂が戦えない時だってある。今回のメルカルトさんのように……そういう時のために、僕は自力で戦うための武器を求めた。

 人間が熊に素手で勝てるか? 一発殴られたら死んでしまう。

 大型犬と争えば大怪我をするし、喉に噛みつかれたら死んでしまう。

 人類が霊長類なんて自惚れて、地球でもっとも繁栄した種族になれたのは、卓越した技術と装備あってこそ。ゆえに必要なのは、神々との闘いにすら運用可能な兵器だ。

 

 そんな思いから出来上がったのがこちら、僕専用の神具『獣と弾倉』。これは大地母神の鋼を産み育てる権能を応用して作成した、対神・対魔王用の兵装となる。

 素材にするのは僕の中になる鋼の神力。これを元にして、大地母神の権能により新たな鋼を産み出す。

 

 そもそも鋼とは僕ら神の分類ではあるが、元となった鉄製の武器がわざわざ神話に取り込まれたのはそれだけ画期的だったから。

 印欧祖語民族を始めとした先史時代、古代オリエント世界で主流だったのは青銅だ。銅の融解温度は1085℃だが、250℃もあれば溶けるすずを混ぜることで800℃から900℃程度まで融解温度が下がる。

 まだ炉と酸素を送り込むふいごなどの温度を上げる手段の乏しかった古代では、熾した火の温度をそのまま使用するしかない。となれば、使える温度は800℃からギリギリ1000℃程度。青銅が加工の観点からしても容易に扱える金属だった。

 

 それらを超えるべくユーラシア大陸各地で技術発展が繰り返されて、真っ先に製鉄を実用化までこぎ着けたのがヒッタイトだ。

 それらは青銅よりも強固な鉄で製作した武器や鎧。それらはきっと鮮明だったのだろう。思わず神話や信仰に取り入れたくなるほどに、最新鋭の最強兵器だった。

 つまり鋼とは、それそのものが最先端を行く、人間が造り出す武器や兵器のことなのだ。

 

 僕が再現したのはそれの発展であり、延長線上にあるもの。神や魔王にすら通じるほどの最新兵器の開発。目指した理想は、最強の鋼と呼ばれる魔王殺しの神が使う神具『弓と矢筒』だ。

 その鋼が弓を握り矢を番えれば、百の山、千の川が干上がるほどの絶対なる破壊能力。太古の超兵器を、最新の超兵器で実現し、あわよくば超えてみせる。それが僕の求めた強さ──人間の強さの象徴。

 

 ただ兵器を作成するとなると、僕にその手の知識がない。理論と設計図さえあれば、権能で手順をすっ飛ばして製作出来るが、そもそもの基礎と土台がない。さてどうしたものかと悩んだが、これはとある方法で無理矢理解決した。それがこれ──

 

 どこでも霊視~

 

 霊視とはそもそも、幽世にある宇宙開闢から未来にいたるあらゆる時代の記憶を閲覧する能力だ。つまりアカシャの記憶、あるいはアカシックレコードと呼ばれる記録そのものを読み込む力。

 幽世には、人間がこれまで貯め込んできた兵器の知識や技術、これから辿り人が到達するであろう、遥かなる未来の軍事技術に至るまでのすべてがある。神々は人間の技術と軽視して見向きもしない、打ち捨てられた悲しき計算式たち。

 

 僕はこれをカンニングした。数千年、数万年先のあれこれ。遥か先にある人類が到達しえる極致を、神の特権で閲覧した。それらの理論──現代にはまだ存在しない黒科學(ブラックテクノロジー)が『獣と弾倉』には取り込んである。

 

 プラズマ砲、重力制御技術を組み込んだ小型核融合炉、レーザーガン、コイルガン、レールガン、電磁バリア、重力核崩壊による擬似ブラックホール弾頭、錬金術による反物質反応兵器etc……

 

 星間戦争で使われるようなブラックテクノロジーまで組み込んだおかげで、破壊力に限定すれば僕は地球上でトップを名乗ってもいい……たぶん。

 先ほど撃ち込んだ『神の杖』──ロッズ・フロム・ゴッドにしても、対象のみを破壊するように計算せず撃ち込んでいたら、直径50キロ、深さ5キロほどのクレーターが完成する。

 

 それにしたって、神工衛星に今回搭載しておいた『神の杖』用の弾頭6発の中では、一番小さなものを使った。撃ち込むにしても加速距離を最短にして、威力を最低限に落としてある。

 もっとも威力を出す使い方──1番重い弾頭を使い、点火式加速ブースターと加速術式を使って、衛星軌道上で亜光速まで上げてから叩き込むまではやっていない。

 これをした時の威力は、TNT換算で10ギガトン級。人類が使った中では最強の核弾頭、ツァーリ・ボンバの200倍以上……広島型原爆の百万倍のエネルギー量が発生する。サルデーニャどころか、地中海そのものを地図から消さないといけないことになる。

 

 ……神やカンピオーネを相手に、苦手な駆け引きを無視して、ただ一撃で雌雄を決することを前提としたSF(すごく不思議)兵器『獣と弾倉』。実戦運用はこれで四回目だが、まずまずの結果だった。

 

「ロッズ・フロム・ゴッドによる一撃。メルカルトさんはまだ生きてるかな?」

 

 これで亡くなってくれていたら良かったのだが、探してみたら穴の縁でバチバチと紫電が放出されている。どうやらまだ生きているようだ、流石は神格、中々にしぶとい。

 しかし今の一撃で相当に弱ったのか、神の権能と呼ぶには弱い放電だ。周囲一帯を焼き払うだけの神威もない。

 まぁ、そりゃそうか。本来であれば周囲50キロを壊滅させるだけの破壊力を、直径500mまで凝縮させたのだ。鋼化した僕でも、これを受けたら酷いことになる。下手したら一発でお陀仏だ。むしろまだ生きているだけ、メルカルトさんは凄い。神王のところに転移魔術で移動することに。

 放電の中心には、焦げて燃え尽きた髭を持つ身長2mほどの巨漢がいた。立派な体格をしていて……今にも死にそうなほどに憔悴したメルカルトさんが。

 

「貴様……わしの城塞を……いまのは破壊の権能か。噂に聞く、シヴァ第三の目か……」

「そうだよ」

 

 違うけど肯定しておく。本当は何を使ったのかを、教えるだけの義理もないし。

 ざっと全身を観察してみれば、メルカルトさんはボロボロだった。昔の王族が着ていそうな白いトーガはぼろ雑巾のようになっていて、左腕など千切れたのか無い。

 胸にはウルスラグナさんのものなのか、柄のない黄金の剣が突き刺さっている。

 目は片方が潰れていて、もう片方は白く濁っている。あれは殆ど見えていない筈だ。

 

 元々ウルスラグナさんから受けた傷が治っていなかったところに、極大の一撃を受けたのだ。二本足で無理やり立っているだけ、奇跡的な状態。神王として、膝をつくわけにはいかない矜持なのだろう。

 遺った片方の腕に棍棒を握り──バアルが使う棍棒と言えばヤグルシとアイムール。そのどっちかか。

 

「魔法の棍棒、一本だけでいいの?」

「……アイムールは貴様からの破壊を防ぐために砕けよったわ」

「そっか……じゃあ、本気で行くね」

 

 言葉が嘘か真実なのか分からないので、不意打ち対策に体を鋼にしておく。魔法の棍棒だ、いきなり背後から飛んできてもおかしくはない。

 それとこちらも武器を用意する。近接戦は挑むつもりはない。遠距離から削る。

 

「南無八幡大菩薩。願わくばこの矢、外させ給うな!!」

 

 呪文を唱え、僕は大量の弾薬を召喚する。見た目は.45ACP弾だが、これは全て鋼の神力を帯びた鉄の眷属。それらが全てメルカルト相手に牙をむく。

 

「我が眷属よ! こやつに天罰を与えよ!!」

 

 メルカルトもイナゴを呼出、こちらに向かわせて来る。空中で弾とイナゴがぶつかり合い、謎の汁やら羽やら脚が飛び散る。

 眷属同士のぶつかり合いに勝ったのは……僕の眷属だった。弱った神の眷属と、一切怪我らしい怪我もない神の眷属。どちらの方が上かなど、そんなの決まり切っている。

 

「グ……ヌォオオオオ!!」

 

 メルカルトの足に、手に、肩に、腹に穴が開く。棍棒を振り払い、吹き荒れる風にやって大量に落としてくるが、数万、数十万の弾には対処しきれない。

 

「かくなる上は!」

 

 向こうは何やら覚悟を決めたのか、もはや防御を捨てて突撃する。こちらの動きをけん制するように雷を飛ばしたりしてくるが、その威力は弱弱しい。

 まともに受けたところでダメージもないだろうが、僕は警戒して雷避けの呪文を唱えておく。

 

「くわばらくわばら」

 

 窮鼠猫を噛むという言葉もあるように、油断してはならない。僕のような弱い神にとって、慢心は大敵だ。最期の瞬間まで気を抜いてはいけない。

 有名な魔王だってこう言っている。奇跡は起こる何度でも……ひっくり返される手段は極限まで削らないといけない。

 それともう一つ。メルカルトは特攻してくる。普通の神様や神殺しであれば、良いだろう受けてやる! そんな思考をするのかもしれない。

 

 けれど僕に、そんな度胸は一切ない。ひたすら塩試合をするだけだ。

 

「神速」

 

 こちらに到達するまでに、近づかれないよう加速して距離を取る。相手のイチかバチかになんか乗って上げない。メルカルトさんが動く力が無くなるまで、どこまでも消耗戦に徹する。

 

「貴様は! 神として受けて立つ矜持もないのか!!?」

「……多少はあるよ。ここで使う気はないだけで」

「この腑抜けがぁああああ!!!」

 

 とても怒られるが、これが僕の戦い方だ。本質は人間として、どこまでも臆病に。矜持も誇りも一切ない、持てる技術と技能を全て駆使して安全に、確実に勝つ。

 怪我をしても治るとか、鋼の体だから大丈夫とか、そう言った不死性に頼った思考も捨てる。安全圏を確保しつつ、こちらの手札を一方的に押し付ける。

 これこそが僕だ。神としての能力を持ちながらも、事前準備をして物量をこれでもかと用意して圧殺する人間の戦い方。それが僕のアイデンティティ──!!

 

「ヤグルシよ! 狩人の牙よ! かの蛇めを打ち倒し、わしに勝利の栄光を届けよ!!」

 

 メルカルトがいちかばちかと言わんばかりに、ヤグルシを投擲してきた。神速にすら追いつく、雷光の速度を持つ棍棒。それが僕の顔を打ち据えようとする。

 喰らったところで鋼化しているのでたぶん大丈夫。だけど受けたくないので──

 

「っッチ!」

 

 舌を鳴らして縮地法を使う。いわゆる転移魔術の一種で、空間を飛び越えることでヤグルシを完全回避。そんな僕の転移先はと言えば……ここしかない。武器を投げて無防備になったメルカルトさんの背後だ。

 

「一刀を以て、汝を堕とし奉る。草薙の名を持ちし劔よ!! 旧き嵐を懲罰せよ!!」

「転移の──!!? がヵァ!!」

 

 背後を取った僕は、自分の中に眠るそれを──草薙劔を引き抜いて、筋骨隆々な背を真っ二つにする。

 それでもメルカルトさんはまだ倒れない。振り返り、僕を横薙ぎに殴りぬけようとして──

 

 神速!

 

 移動速度を制御可能な速度まで早めて、腹を切り裂く光速の剣技。刃渡り100㎝、大振りの太刀が内臓を通り抜ける感触が手に伝わる。

 こちらに戻ってこようとしていたヤグルシが、遠目に消滅する。

 

 ドッ……

 

 ついにメルカルトさんが膝をついた。完全に決着の空気……神王の口が開き──

 

「みご──」

「爾ち千引石を其の黄泉比良坂に引き塞ひて! 是冥府閉ざす事戸なり!!」

 

 見事と言おうとしたように聞こえたが、攻撃の言霊と言う可能性もある。桃の汁で字を書いたお札を張り付けて、封印術を行使。

 メルカルトがこちらを信じられぬ目で見ているが、勝負とは最後まで分からないもの。言霊が力を持つのが神である以上、喋らせることは危険なのだ。

 

「ぬあああああああああ!!!?」

 

 メルカルト……バアルとも呼ばれる偉大なる地中海の王は、お札の中に封印されていく。こんな馬鹿な! そんな声が聞こえてきそうだが、ごめんねと心の中で謝っておく。

 

 めるめる「いいよ」

 

 僕の心に即興で造ったメルカルトさんが許してくれた。ならばこれで良しとしておこう。

 

「あとはこのお札をテディベアに詰めて、ビニール袋に入れて、塩で満たして、僕の髪で結った注連縄で口を閉じて、『鋼』の鎖でぐるぐる巻きにしたら……完成!」

 

 神王バアル、ゲットだぜ……さて、これ捕まえたけれど、どうしようか?

 

「『獣と弾倉』の素材にでもする? それか他にもまつろわぬ神様を捕まえて、そいつらであの漫画みたいに蟲毒でもさせるか?」

 

 悪霊蟲毒(ダークギャザリング)ならぬ神霊蟲毒(ゴッドギャザリング)

 ……これは止めておこう。制御不可能な化け物が誕生するかもしれない。

 

 とりあえず使い道も思いつかないので、腰にぶら下げておく。さてと……護堂の方はどうなってるかな?




クソボケの強み

まつろわぬ神1.5柱分以上の呪力(バフ時)
教主と同等以上の武芸
教主以上の術師
ドニと同等の硬さ
ヴォバン以上の殲滅力
アレク以上の神速の腕
アテナ相当の再生力
神二柱分の膨大な権能数
姫巫女や魔女が持つ特異能力全部搭載

上記を人の臆病さと慎重さでぶん回し油断も慢心もせず軍拡する性格がクソボケTS女神を支える
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