前世凡人 今凡神   作:カンピオーネ二次復権派

17 / 70
一回限りの裏技簒奪秘儀

 以前『簒奪の円環』に干渉する機会があったので、バックドアを設けてランサムウェアを仕込んでおいた。

 僕が協力する以上、パンドラさんが納得するような戦いにはならないことも多い筈だ。

 

 それを見越した上での準備だったが、さっそく使う機会が来たようだ。とは言っても、そうそう使えるような代物じゃなかった、なにせハッキングしたとて、持ち主はパンドラさんだ。

 十全に扱うには、今回のように譲渡に近い形でないと駄目。ウルスラグナさんがやってもいいよと譲渡の意志を示し、渡される側の護堂から貰っても良いと了承を得た。ここまで全て揃って、初めて運用可能な神具の権限強奪だ。

 

「無駄だよ、パンドラさん。流石に今後は対策されるだろうけれど、ここまで権限を掌握してしまえば対処できない。僕から取り戻すのに、最低でも一週間はかかるよ」

 

 美殊ォ! と声が出てそうなぐらいにパンドラさんの抵抗を感じるが、既に『簒奪の円環』は僕の掌握下だ。早々に奪い返せないように、わざと術式を難解にしてスパゲティプログラムにしてある。

 

「さて、護堂。ウルスラグナさんからの贈り物、どれが欲しい?」

「こや、つ……つく、づく……まじょ、じゃな。あのかみごろ、しのはは、から──神具を、うばい、よる、か」

「俺の友達がえげつないことをしてる……しかし、どれ? まるで選べるかのような物言いだな?」

「そりゃ選べるからね。普段はパンドラさんが不公平にならないようガチャを回してるみたいだけれど、簒奪の円環(これ)、どの権能を奪うのか選べるんだよ?」

「そうなのか! ……別に、これが欲しいとかはないな。何を貰ったところで、俺がすることなんて変わらないし」

「え~。護堂、つい昨日使い勝手が良いのが欲しいって言ってなかった?」

「あれは欲しいとかじゃない! ただ使い勝手が悪いなーて話なだけだ!」

「おぬし、ら……さいごまで、そのような、調子なのじゃな」

 

 ウルスラグナさんはクツクツと力なく笑っている。弱弱しい笑い声だが、その声には僕らと一緒に遊んだ時の善神らしさが戻っていた……ごめんね、ウルスラグナさん。必要と思ったとは言え、そんな姿になるような毒を注入してしまって。

 

「……おぬしが、えらべぬなら……全てもっていけ」

「それって──十の化身全部を?」

「つよき、あいてをくだした褒美は……より、よいものでなければならん。ならば、常勝の、われにかったほうびは、最上級にせねばな」

「お前は……それでいいのかよ」

「かまわん。また相まみえることが、あるなら、我の力をふくめて、こんどこそ……おぬしとのけんかとやらに、かつだけのことよ」

 

 それは軍神ウルスラグナの意地なのだろう。何が欲しいのかと問われて、答えを返せぬほどに権能に執着していないのが護堂だ。新しい武器を手に入れるチャンスですらそれ。そんな戦士としてはどこまでも甘い男に……友に死なぬための力を渡そうとしている。再戦の機会までに、護堂が生き延びられる選択肢を増やすように。

 ……本当に、どこまでも軍神だ。僕のような中途半端とは全く違う。

 

「そうか……それなら、俺はお前の権能、全部貰うぞ……美殊。ウルスラグナの力を俺に全てくれ」

「それをすると、十個の権能を取るのに等しいから、相当大雑把な代物になるよ?」

「構わない。何がどうなったところで、ウルスラグナの力はウルスラグナの力だろ」

 

 ううん、護堂はこう言うけれどどうしたものか。それをすると、たぶん権能の使い勝手は非常に悪くなる。スミスの権能のように、条件や代償やらが必要となる。それも相当重いデメリットなやつが。パンドラさんではなく、僕から渡す以上はもう少し取り回しの良さをどうにかしてあげたい。

 さて、何かいい方法は──あったわ。解決手段として使えそうなアイテム。僕の腰にちょうど良さげなのが。

 

「分かった。それじゃ、簒奪を始めるね……と言いたいんだけれど、その前に僕からも護堂にプレゼントをあげたいんだ」

「え? 何を?」

「これ」

 

 そう言って、メルカルトさんが入った袋を指さす。

 

「メルカルトをプレゼント?」

「な、に? まさか魔女、しんおうをとらえて?」

「うん。でも捕まえたは良いけれど、どうしたものか迷ってた。このまま時間が経てば、メルカルトさんは力を取り戻してしまう。使い魔として使役するにも、まつろわぬ神はちょっと強すぎるんだ」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、今は諸事情からそれは出来ない。本当はどこかの『卒業生』みたいな用途も考えていたけれど、それをすると反逆されそうなので危ない。なので何に使うか決めかねていたが、ちょうど良い使い道が出来た。

 

「今回の簒奪に、メルカルトさんも使う」

「なん、じゃと?」

「そんなことが出来るのか!?」

「出来る。メルカルトさんとウルスラグナさん。両者はヘラクレスで無理やり結び付けられるし、バアルの原型であるセム語系の天空神と、ウルスラグナさんの原型になるミスラや、同一視されるインドラの原型にあたる印欧祖語民族の天空神は、セム語系と印欧祖語以前のアフリカ時代にまで遡れば同一起源になり得る。つまりメルカルトさんとウルスラグナさんは同一神である……そう神具を誤魔化せるんだ」

「そ、そうなのか……それをするとどうなるんだ?」

「ウルスラグナさんをベースにして、メルカルトさんの神力を混ぜ合わせることで、簒奪に使う神力を増大させるんだ。こうすれば、十の化身全てを簒奪したとしても、本来なら相当厳しい事になる条件や代償が緩和される。なにせ奪う神力自体が、元から相当強力になるからね。ウルスラグナさんの劣化コピーではなく、ウルスラグナさん当人が使う本家に近い権能になるよ、この方法なら」

「それは……どうなんだ? やっていいものなのか?」

「分からない。今までたくさんの神殺しが産まれただろうけども、二柱を一柱に纏めて簒奪なんて初事例だろうし……ごめんね、メルカルトさんの処分方法が分からなくて、こんなのしか思いつかないから……」

「処分!? 処分ていいやがったか、今! 俺はゴミ箱か何かか!?」

「僕からの好意はたっぷり詰まってるから、安心してね?」

「疑問形なのが怖いんだよ!」

「え~……じゃあ今度、護堂が見たがってたスク水も着てあげるよ。それで手打ちにしてね?」

「いつ俺がスク水を観たいなんて言った!?」

「ええとね、ほら、美殊が着たらどうなるんだろうな? て話をしたことがあるでしょ? あれって要するに、直接言うのは恥ずかしいから、遠まわしにお願いしたんだよね? 大丈夫! 僕、神龍(シェンロン)ぐらい気が利く神様だから、ちゃんとサービス精神旺盛だよ!!」

「あれはお前から話題を出したから、乗っかっただけの話だろうがぁ!」

「ふ、はは……よいではないか。もらっておけ、くさなぎ、ごどう。まじょからの、ささげもの。それをうけ、いれるのも、おうの度量じゃ」

「度量って……ああ、もう! 来るなら来い! 全部呑みこんでやるよ、こんちくしょー!」

「はは……くろうしておけ。くろうを」

「それじゃ了承も得たし、行くよ! 回れ簒奪! 流し込め!!」

 

 ウルスラグナさんの神力を、護堂の中に流し込む。そこにメルカルトさんの力も載せる。腰にぶら下げた袋がガタガタと震えているような気がする。どうやらすごく抗議しているようだ。神殺しの一部となることは、偉大なる神王としては相当不服らしい。

 

?????「己魔女がぁ! わしをこのような道具のように! 絶対に──」

めるめる「パンチとキックっ!」

 

 腰の人形から何やら毒電波が発されたが、心のメルカルトさんが電波の発信源を倒してくれる。ありがとうめるめる、悪の心を払ってくれて。

 

「……くさなぎごどう」

「なんだ?」

「負けるな。おぬしをたおすのは、われのやくめ……それと、つぎはそこの魔女は無しじゃ」

「それは勘弁してほしいな。体調万全な本気のお前と戦ったら、俺一人じゃ勝てないかもしれない」

「なさけ、ないことを……では、つぎは……きさ、まの、いちばん、とくい──で──あそ────」

 

 びゅうと風が吹き、それに運ばれるようにウルスラグナさんの体が消えていく。風はなお吹き荒れ、戦いの音も名残も全てを持っていく。

 風が止んだ時……まつろわぬ軍神はいなくなっていた。護堂と一緒に、風が流れた方に視線をやる。

 

「行っちゃったね」

「行ったな。ウルスラグナは強風になって顕れる。なら帰る時も、強風になって消えていく、か」

「寂しい?」

「いいや。どうせまたどこかで、ひょっこり会うような気がする。神と神殺しは、そういうもん……だろ?」

「うん」

 

 なにせ生きようと思えば千年は生きるのが神殺しだ。それだけの時間があれば、新たに顕現した軍神と再会するかもしれない。そんなもんなのだ、世の中とは。

 

「我は最強にして、最多の勝利を掴む者。ああ、勝ってやるさ。勝って、また出会った時も勝ってやる。それまではそっちで待ってろよ、ウルスラグナ」

 

 聖句を唱え、勝利を謳う。なんとも魔王カンピオーネらしい発言に、僕は護堂もすっかり染まってしまったねと心の中で笑う。言うと、また俺は平和主義者だからと否定すると思うので、それは黙っておくが。

 その言葉の代わりに、別の発言をしておくことに。

 

「よし、それじゃ、帰るまでが遠足のように、修復するまでが戦闘だ。護堂とウルスラグナさんが粉砕した森、僕が治しておくね。いやぁ、ものの見事に森がボロボロ」

 

 見渡す限り、ここ地平線? と思うぐらい森が剥げてしまっている。強風が吹き荒れ、護堂が投擲しまくり、牡牛や駱駝が暴れて、山羊が雷を撃ちまくり、フェンが疾走しまくったんだろうな、これ。

 最低でも範囲3キロぐらいは木々が全て打ち倒されている。近くの木を見てみれば、根っこから焦げていた。山羊の雷撃かな? 空から撃ち込まれた結果、地面を伝わって周囲の木が全て炭化していた。

 

 僕がこう発言したら、責められていると勘違いしたのか護堂が慌て始めた。別に責めていないんだから、そんな反応をしなくともいいじゃないか。

 

「これは違うんだ! いや、確かに俺が壊したのは事実かもしれないが、必要経費てやつでな……そもそも、美殊の方はどうなんだよ! あれは極力使わないて言ってたじゃないか!? どう考えても、あれの方が環境にたいして悪いだろ!?」

「ぶっぶ~。あれはきっちり計算して使用したから、遺跡以外は何も壊れてありませ~ん。今回こっちで犠牲になったのは、フェニキア人が造ったタロスの遺跡だけだよ!」

「結局壊してるんじゃないか! 遺跡だぞ、遺跡! タロスの遺跡がどれぐらい重要なあれなのか知らないが、普通に重要物破壊じゃないのかそれは!?」

「確かに、なんやかんや重要と言えば重要だね。ヌラーゲ文明、先史時代の重要文化財だから。スー・ヌラージ・ディ・バルーミニなんて、世界遺産にも登録されているよ!」

「なんで嬉しそうなんだよ! え、まさかその世界遺産が、あの遺跡じゃないだろうな……」

「スー・ヌラージ・ディ・バルーミニは、文字通りバルーミニにあるヌラーゲだから全然違うよ。オリスタノから南東に40キロほど移動したところだから、今回僕が消し飛ばした遺跡や、護堂がボロボロにしたこの辺とは無関係だよ」

「ああ、それなら……結局、それって破壊したところが、重要なことには変わらないんだよな?」

「……いえーい」

「誤魔化し方が雑!」

 

 ぴゅゆぅ! と口笛を鳴らしたら、護堂に頭をポコポコされた。そんなに痛くないけど痛い! しょうがないので、手を捕まえてセルフで撫でさせておく。これで痛いのも飛んでいくぜ~

 

「お前ってやつは……はぁ。でも修復するなら、美殊にお願いするしかないもんな。頼めるか?」

「よしきた! ……大地の末裔、山の娘の血を継ぐ地母の巫女が土地の精に請い願う。我が力を使い、御身らは元の姿に戻られよ! 長きに蓄積された、地質の記録! 其の姿を思い起せ!!」

 

 神力を解放して大地に僕の力を浸食させる。すると一気に辺り一帯の土が光り出し、炭化して木材になった木や砕けた土から光子が宙に放出され始めた。半径数キロを舞い上がる、蛍の群れのような光景。

 それらは一旦空に空に舞い上がり、くるくると旋回し始める。

 

「綺麗だな」

「でしょ? この粒一つ一つが、土地が持つ記憶なんだ。これにね──」

 

 僕は上手く飛べなかったのか、低空をクルクル飛んでいた光の粒を一つ捕まえた。

 

「数千、数万、数億年の重みが詰まっている。人が生まれるよりずうっと前。神様すらも生まれていない、地球がドロドロのマグマに覆われていた時代から、この子達は記録し続けて来た。想像もつかないほどの大昔、数十億年前の光景だ」

 

 それに思いを馳せながら、僕は手の光を眺める。ほのかに暖かいのに、でも少し冷たくも感じる光。それに懐かしさを覚えるのは、僕にも大地母の血が流れているからだろうか。

 ほぅ……と息を吐きながら線香花火を見つめるようにぼぅと見ていたら、護堂がこちらを見つめていた。なにごと?

 

「どうしたの?」

「……なんでもない」

「……あ、もしかして護堂もこれを持ってみたい?」

「別にそれは……あー、そうだな。ちょっとだけ近くで眺めてみるか」

「ほらほら、こっちに来なよ」

 

 護堂が近くに来たので、光を持ちやすいように掌に直接手渡す。しかしそのままだと、地母神ではない護堂では光を維持は出来ない。だから護堂の手を包むように、僕の手を外側から添えておく。

 

「うわ……きゅ、急になにするんだよ……」

「ごめんね。これ、地母神の力で維持してるやつだから、僕がこうしてないと微妙にまずいんだ。空に浮かび上がった子達は問題ないんだけれど、上手く飛べない子はどうしてもね……」

「そうか……あまりびっくりさせないでくれよ」

「だからごめんよぅ……本当は完全に僕の手で包み込むのがいいんだけれど、護堂の手の方が僕より大きいからね。完全には包めないのが悔しいや」

「そうなのか。だったら、こうしたらいいんじゃないか?」

「え……あ、たしかにこれなら」

 

 護堂が僕の手に光を戻し、逆に僕の手を包んでくる。向こうの手の方が大きいのだから、ずっと理には適っている行為だ。

 

「……綺麗だな」

「でしょ……」

 

 先ほどと同じやり取り。でもずっと近くでする行為。まるで特別な関係でやるかのようだが、僕と護堂は友達──それも親友だから、特別ではあるのだろう。うむ!

 

「あ、ほら。もっと綺麗なやつが来たよ」

「どれ……おーこれは中々……」

 

 空を舞っていた光たちは再び大地に戻り、砕けた木や丘や地面を元に戻していく。その様が非常に綺麗で、僕と護堂は手を握り合いながら光の粒が舞うのを眺め続ける。

 眺め続けて──つづけ──やっべ!

 

「……なぁ」

「……はい!」

「さっきの術は、どんな術なんだ?」

「ええと、そのぅ……土地の記録を元に、壊れたあれこれを治す術です」

「そうなんだ……その治すってのは、どれぐらいの範囲まで含むんだ?」

「それはねぇ……先も言ったけれど、数億年前まで余裕で含むんだ!」

「そうか……そうか。だから、この辺が急に恐竜映画に出てくる鬱蒼とした森になったんだな!?」

「ぎゃああああ!! こめかみが砕けるぅ!!!?」

 

 森は元に戻った……ジュラ紀ぐらいまで回帰して。護堂にこめかみをグリグリされて、にぎゃあああと僕は悲鳴をあげる。

 

「本当の意味で元に戻せ! すぐに!?」

「それはちょーと難しい……かなぁ……ここから元に戻したら、更に前まで遡るから。下手をしたら、森じゃなくてマグマと酸性雨が降りそそぐ環境だよ!」

「……じゃあ、いいよ。これで……森には違いないし」

「まぁ、その、安心して? ジュラ紀や白亜紀の植生なんて現代の気候とは噛み合わないだろうし、その内枯れて普通の森に戻っていくから」

「本当かよ? なんか怪しいんだよな、美殊のは」

「これは本当だよ? 僕は大地の神様だから、植物には詳しいんだ」

「………………………………」

 

 めっちゃ護堂が怪しい目で見てくる。僕はこれでもかと目を逸らす。だって気まずいし……

 

「と、とにかく帰ろうか! エリカさんや、他の魔術師も心配してるかもしれないから!」

「どちらかと言えば俺たちの生命へのじゃなく、空から降って来た宇宙兵器とかの心配じゃないのか、それ?」

「それを……言われると辛いね」

「だろうなぁ!」

 

 ……護堂と僕の関係は、どこまで行ってもこんな感じだ。うんうん、仲がいい親友の距離だ。美しき友情かな。他の関係に見えても、それは全く違うったら違う。僕は嘘つきだから自分に嘘をついているかもしれないけれど、でもこう思ってる事も嘘かもしれない。

 だから全く違うのだ──

 

「それじゃ、ほら、手。短い距離だから、転移で移動するよ」

「ほらよ」

 

 ──繋いだ護堂の手が妙に暖かく感じるのは、本当か嘘なのか……今はどちらでも良いじゃないかと思うんだ。




東方の軍神(原作版)+メルカルトの神力=東方の軍神(強化版)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。