前世凡人 今凡神 作:カンピオーネ二次復権派
神王メルカルト、及び軍神ウルスラグナの同時討伐。これを終えてオリスタナに戻った僕らは、今回のために集まったらしいサルデーニャの魔術結社幹部らに出迎えられた。オリスタナだけでなく、各地から急いで来たらしくけっこういる。
全員護堂と僕を、対神会議室として借りたお金持ちの家で膝をついて待っていた。家を貸してくれたのは地元の有力者さんだ。彼は魔術界隈の恩恵を受けている人物で、魔王カンピオーネが広い場所を求めていると伝えられて 即座に応じてくれたらしい。すごいね、神殺しの威名は。
そんな彼らの先頭にいるのはエリカさんだ。普通はそんな役目を若輩者のエリカさんに任せることはありえないが、今の彼女はカンピオーネ草薙護堂の現地メッセンジャーだ。
神殺しが直接お選びになられた窓口に対して、君のような若者では不足だろう。どれ、私が──なんてことは無かったらしい。
なにせここにいる大半に、恐怖の匂いがする。膝をついているのは尊敬以上に、畏怖の念──畏敬を覚えているからだろう。
そりゃそうか。まだ完全では無かったとはいえ、神は神。どちらかが本気を出せば最後、サルデーニャ島を一日もあれば蹂躙するだろう。メルカルトさんにしろ、ウルスラグナさんにしろ、非常に強大な神だ。メルカルトさんはまんま主神で、もう片方は主神ミスラから派生した軍神。両方とも神話の頂点を担うレベルの大神格だった。
そんな神格を同時に降したのだ。賢人議会が把握している護堂の討伐実績は、全部で5柱。僕、狼、太陽神、火神、鋼の英雄神。これだけでも相当なものだが、今回ので神王と軍神を加えて七柱の神を屠った神殺しとなった。
議会は神殺しについて広く情報を発信しており、サルデーニャの魔術師だってカンピオーネについては調べている。だからこそ、エリカさんはこちらが名を名乗らなくとも知っていたのだから。
そして知るがゆえに、七柱も返り討ちにしたのはベテランの域に足を突っ込み始めていると理解してしまう。目の前の15歳の少年は、羅刹の者だと。間違いなく王の1人であり、ここにいる全員をその気になれば数秒で皆殺しにするのが可能だと。
そしてそれは実行可能かどうかで言えば、普通に出来てしまう。わんわん七頭全員呼べば、それで終わり。だから誰も、エリカさんに何も言わない。それは恐怖の大王の尾を踏むに等しい行為だから。カンピオーネの判断にケチをつけるならば、自らの命を掛けるつもりで挑まないといけない。
でもこれは良くない。凄く良くない。護堂が怯えられたままと言うのは、あまり宜しくない。ならばここは、こうするしかない!
僕はエリカさんに対して目配せする。向こうはコクリと小さな頷きを返す。よし伝わった!
護堂には事前に僕が喋るねと伝えてあるので、エリカさんが意図を汲んでくれるならば何も問題はない。
「お待ちしておりました、草薙陛下。此度の討伐からの帰還、王の凱旋としてお慶び申し上げます」
「草薙王はお疲れだ。代わりに妾が王の言葉を伝える……礼の言葉など良い。私はカンピオーネとして、成すべきことを成したまで。神殺しの責とはたった一つ、地上に降臨せし神々を屠ること……地中海の旧き神王メルカルト。かの王はこの島を海の底にその
おおっー! なんと高潔で素晴らしい言葉だ!
まさかカンピオーネ様が、そのような理念で!
小さな声がそこかしこから漏れてくる。先ほどまで少し蔓延していた、護堂への畏敬が少し薄れる。うむ! 恐怖の象徴っぽい人が、実はヒーローみたいな精神を持つ。これぞギャップ萌えの真髄であり、親近感が湧く魔法なのだ。
代償は隣にいる護堂が、カっと目を見開いて真顔で僕を見ていることぐらいだ。グッバイ、僕の頭蓋骨と脳! あとで護堂にたくさん叩かれようね!
「草薙陛下におかれましては、御采配ならびに尊き御命を何よりも重んじられる御姿勢、誠に畏れ入り奉ります。サルデーニャの魔術師を代表いたしまして、謹んで御礼申し上げ奉ります。つきましては、ウルスラグナ様におかれましても、同様に御討伐あそばされましたのでございましょうか?」
「もちろんです。軍神ウルスラグナ……我が王と一時友誼を結ばれましたが、最後には神と神殺しの習わしにより袂を分かつことになりました。しかしかの軍神との間に、いまだ友誼はある……汝ら、心して聞け。かの軍神を辱めること、断じて許されざるなり。たとえ進むべき道が分かたれようとも、我が王がウルスラグナに友情を抱き給うたは、まことの事実。我が王は、人情と仁義を尊び、王道を歩まれる戦士なり。汝ら、そのこと
「畏れ多くも、陛下の御勅命、謹んで拝受仕りました。我ら一同、偉大なるカンピオーネの御勅命を賜りしこと、身に余る光栄に存じ奉ります。心魂を尽くし奉る所存にございます」
「宜しい。これをもって、此度の騒乱を終息と致す……と告げたいところではありますが、エリカ・ブランデッリ。そなたは我が王の伝令として、まことに見事なる働きを成しました。その才覚、我が王の御心に適うもの。ゆえにその功に報いるべく、相応の褒賞を与えねばなりません。我が王は、そなたを今後『紅き悪魔』と称する。それこそが、そなたへの報いである。異存は許しません。よいですね?」
「畏れ多くも、陛下の御言葉謹んで拝受仕ります。我が身に余る誉れ、まことに光栄の至りにございます。『紅き悪魔』の御名、王の御心により賜りしこと、深く胸に刻ませて頂きます」
「では……参りましょうか、我が尊き偉大なる主よ」
「…………………………ああ」
ひゅー! 護堂の口に牙が見えるぜ! おててを繋いで退陣だ……ちょい護堂? いたいよ? ちょっと力が……力──すごい力だ!! 僕の指が折れる!!? がぁああ!! 王の力ぁ、じゃなくて神の力がぁ!!
「なんだあれは!?」
「神託を下す神様っぽいやつをやってみた!」
「やってみたか、そうか……我は最強にして、最多の勝利を掴む者」
「さっそくウルスラグナさんの権能を──ぎゃああ!! 頭が割れるように痛い!」
護堂と僕はここで過ごしていいよと借りた部屋に戻る。途端におこな護堂から、アイアンクローを僕は喰らった。身長差のせいで、地面から足が離れる。これは牡牛の化身かぁ!
かしこみかしこみー! 頭蓋骨を鋼にして、護堂の超怪力に対抗する。
「つ、使いやすいでしょ? 本当ならとんでもない条件とか、回数制限がついたであろう十の化身。それがメルカルトさんを混ぜたおかげで大幅に緩和されてる筈だよ……そもそも条件とかあった?」
「心の底から、美殊にお仕置きできるぐらいの腕力が欲しいと思ったら出たなあ!?」
「渇望が条件なら、状況に対応して使用可能な権能……思ったより使いやすそうだね!」
「……鋼になってるよな、今は」
「え? うん」
「なら思いっきり力を入れても大丈夫そうだな」
「ぐぇ~!」
鋼になっているのに、圧力を感じるほどの怪力。よくよく力を感知してみれば、護堂の足元から大地の力が流れ込んでいる。な、なるほど。自前の呪力を燃料にするだけでなく、大地の霊力も借りて剛力を底上げしているのか。握力数百トンどころか数千トン、数万トンはありそうだ。
合理的なけし──いたたたたた!!
「失礼しま──何をしているのかしら、この人たちは」
「あ、エリカさん。さっきはありがとうね」
「頭を掴まれたまま喋っているわ……」
首から下がプランプランしてる僕を見て、エリカさんがちょっと引いていた。ただすぐに気を取り直したのか、こほんと一回咳払いをしていた。
「どうしたんだエリカ? まだ何かしなきゃいけないことでもあるのか?」
「直接お礼を言おうと思ったのだけれども、そんな空気じゃ無さそうね……特に護堂がやらないといけないことはないわ。オリスタノの魔術師達は、これから護堂達が戦った遺跡だったところや、植生が大変なことになった森を封鎖するので忙しいけれど」
「すまん……あ、そうだ! さっきの美殊とのやり取りはなんなんだ! 今みたいに喋ればいいじゃないか!!」
「無理に決まっているでしょ。あんな空から隕石か何かを降らすような怖い魔王様に、こんな口調で喋っているのがバレたら大変よ。ブランデッリの家名に傷がつくわ」
「そ、そうか……待てよ! あの隕石は俺じゃないぞ! やったのは美殊だ! 俺はあんな馬鹿みたいな宇宙兵器を持ってない!」
「でも美殊様は、護堂の権能でしょ? なら、あなたがやったのと同じになるんじゃない?」
「ぐぅ」
「この討論、勝者エリカ・ブランデぎゃああああ!! 力が強くなった!?」
「……くす。愉快なカンピオーネと神様ね、全く……それと、称号の件はありがとう。あなた達からお墨付きが出たなら、ほぼ確実だと思うわ」
「エリカさん頑張ったからねぇ。これぐらいは無きゃ駄目だよ」
僕たちが神と神殺し一行だとサルデーニャに御触れを出した後、細々とした折衝や調整をしてくれたのはエリカさんだ。その辺は僕と護堂の苦手な範囲なので、盛大に甘えることにした。
「ちなみにその件で、誰かから何か言われたりしないのか? 神殺しの依怙贔屓だみたいな」
「それは無いわ。むしろ、軍神と神殺しが搭乗する車に一緒に乗った勇者みたいな扱いよ、私は」
「欧州の基準で考えたら、友誼だなんだと言ったところで、火薬とガソリンが満載の車に乗ったようなもんだからね。少しでも火花が散ったら……ドカン。それは勇者だね」
それからどんな戦いをしたのかなどをエリカさんと話した。流石に細かい内容は伏せたが、タロス遺跡をどうやって地上から消滅させたかについてはまぁっ! と反応された。
「ふぁ……ああ~……喧嘩も終わったせいか眠くなってきたな」
「じゃあ寝ようか」
「二人ともお疲れだったようね。これ以上は、私は不要そうだもの。それじゃ、御休みなさい」
パタンと扉が閉じて、エリカさんが出ていく。それを見送ってから、僕はベッドの上に寝転がって──
「少し待て。なぜ普通に、俺の部屋で寝ようとしてる?」
「え? そりゃあ、寝るついでに護堂の治療と呪力の補給をするからだよ」
「……治療は大丈夫だからな? ウルスラグナから貰った雄羊があるから」
「呪力はだいぶ使ったでしょ? ウルヴルを全部召喚して、弓を使いまくったから。黄金の剣で削られたのもあるから、普段よりも消耗してる」
どうやら魔導力は使わなかったみたいだけど、精神感応の糸はまだ繋がっている。それで探りをいれてみれば、護堂の呪力量はマックスの2割ぐらいしか残っていない。
魔狼の権能は非常に強力だ。一体でも神を相手に出来るほどの神獣を、最大で七体まで呼び出す。その分尋常ではなく燃費が悪い。一体だけならまだましだが、呼び出せば呼び出すほど指数関数的に消費量が増大する。
最大の七体召喚ともなれば、カンピオーネの膨大な呪力量でも維持できる時間は10~15分ほどが限界。
またすぐに戦闘があるわけではないだろうが、こうまで減っていると気になる。呪力は回復させてあげたかった。
「別に大丈夫だって。もう喧嘩はないだろ」
「甘いよ~護堂が凄く甘いよ~。またドカーンしてくる可能性もあるんだから、大人しく補給を受けておこうね」
僕がベッドをポンポン叩くと、かなり渋った後護堂が横に来た。その体にひしっとしがみ付き、精神感応の糸を強く意識する。それをすると同時に──
「万物万象は相克し、されど相生して調和し循環する。メビウスとクラインよ、陰陽となりて太極を成せ」
バフ技で神力──人間風に言えば呪力を増加させる。それを丹田で練り込み、護堂に精神感応を通して渡していく。
しかし所詮は数百人分。神の総量からすれば普通に下だ。それに僕は『陰陽相済』で無限循環させてエネルギーを造り出している。やり過ぎると鋼と蛇の力が疲弊するから本当の意味で無限は無理だが、それでも半永久動力に近い。
だからこうやって護堂を満たすぐらい渡したところで、僕にとっては大した労力ではない。外付け電池も出来る、一魔王に一台あれば便利なのが僕だぜ!
「……近くないか?」
「近い方が充電が早いんだよ。本当は口づけするのが一番早いんだけどね」
「……ならいい」
そうやっていたら、いつの間にか護堂は寝入っていた。ウルスラグナさんとの闘い、相当疲れてしまったようだ。
僕も寝ようっと。自動充電にして──ゆっくりと目を閉じた。
次の日。僕と護堂はこの旅の本来の目的地、ルクレチア・ゾラさんに会いに来ていた。
「ここがルクレチアさんのお家だね……ポツンと一軒家みたいだ」
「とんでもないボロ屋だな、ここ」
そもそもこの旅に出た理由は、草薙一郎の手に渡った神具をルクレチア・ゾラに還すためだ。それが遠回りとなったのは、ウルスラグナさんと出会ったり遊んだり喧嘩したり、メルカルトさんと血で血を争うような未来を賭けた死闘をしていたからだ。
エリカさんとも別れた後、オリスタノからオリエーナに。車で数時間ほど走れば、ヌオロ州のこの都市に辿り着く。
そこから更に20分ほど森へ散策に出かければ、ルクレチアさんの住居へとたどり着く。森の中に一軒だけ石造りの家があり、まるで絵本に出てくる魔女の家だ。ルクレチアさんは魔女だから、魔女の家そのものではあるのだが。
一応インターホンが門扉に取り付けられていたのでポンと押してみるが、特に反応がない。そもそもこの家、電気とか流れているのか? 家の中に気配はあるが──
そんな風に考えていたら、一人でにドアがぎぃ……と音を立てて開いた。おー、自動ドアだ。
「これ入れってことか。入ったら急に扉が閉まって、化物とかに襲われそうなシチュエーションだな」
「神殺しと神を襲う化物なんて、テュポーンとか各神話に名高い主神級が相手をしないとまずい、最強格の化物ぐらいだよ。そもそも僕らが地上では化物側だよ?」
「それを言われると……辛いな」
まぁこんなところでやり取りしていても仕方ないので、二人でノコノコ家に入る。すると──
「にゅあおおおん」
「わーあんまり可愛くない猫だ! かわいー」
「それどっちなんだ?」
「どっちもだよ。可愛くないのが可愛いの」
分からん感覚だ、女の子特有の感覚なのか? と首を護堂には傾げられるが、これは男女に感性の違いなんてない。普通なら可愛い動物が、可愛くない態度をとるのが可愛いのだ。これもギャップだよと教えたが、分からんと返された。
むぅ……やはりこの分野を話せる相手となると、甘粕さんぐらいしかいないのか。
そんな可愛くない猫を捕まえて廊下を歩き扉を潜り抜けたら、薬草の匂いがただよう寝室らしき場所にたどり着いた。この匂いは……ベラドンナかな? 魔女の薬草素材としては非常にポピュラーな種類だ。
その部屋にはベッドがあり、一人の女性が横になっていた。
見た目は二十代前半の女性で、亜麻色の長い髪の毛をしている。顔はかなりの美貌な事から、魔女の相が強いことが窺える。魔女は大地母神の末裔であり、女神の可愛らしさや美しさを受け継ぎやすい。とりあえず魔女の才能があり、なおかつ綺麗なら魔女として優秀だと思えばいい。
あと薄いネグリジェを着ている。どこのデザインだろ? イタリアのやつかな? 僕も護堂用に一枚ぐらいネグリジェを買っておいた方がいいかな? それかベビードールか……よし。この旅行中に買って帰ろう。
「お初にお目にかかります、草薙陛下。ルクレチア・ゾラと申します。御身の前でこのような醜態を晒してしまい申し訳ありません。何分、今は体調が優れませんので、このままお話させて頂いても宜しいでしょうか?」
「大丈夫です。事前に話には聞いていましたから」
なんでもルクレチアさんは、ウルスラグナとメルカルトの戦闘を間近で見てしまったらしい。その時に余波に呑まれないよう防御魔術を使いまくった。文字通り限界を超えて呪力を絞りつくしてしまったらしく、そのせいで歩くだけの力まで失ってしまったらしい。
呪力の枯渇どころの話ではなく、こんな力の使い方をすると丹田や呪力に関わる器官まで損傷する。一ヶ月から三ヶ月はまともな生活は出来ない筈だ。
僕はルクレチアさんの傍に行って、彼女の丹田を視る。あちゃぁ……酷い傷つき方。これじゃ治る物も治らないや。
「ルクレチアさん。少しだけお腹に触れて良いですか?」
「御身は確か、草薙護堂の……そうですか。御身があの……」
「ん?」
「触れると言う事は、御身の治癒の加護が賜われる。そう考えても宜しいですか」
「あ、はい!」
僕を見て、ルクレチアさんは何やら得心が云ったような顔をしている。何事だろうか。少し気になったが、治療の方に専念する。とても傷ついてはいるが、大地母神は魔女の庇護者だ。この程度であれば、与えるものとして地母の神力を爪の欠片程度渡してあげれば──
「……少し楽になりました。ありがとうございます」
「いえいえ」
身も知らぬ人ならいざ知らず、これから話そうとしてる人が負傷しているなら治したくもなる。丹田自体は治したので、一週間もあれば自然に治る筈だ。
それじゃあとは任せたと護堂に託すことに。
「御身の従者の加護。有難く頂戴いたします」
「美殊がしたことなので、俺へのお礼なんて結構ですよ。それよりも、敬語じゃなくて構いませんよ。俺は今日、神殺しのカンピオーネじゃなくて、草薙一郎の孫として来ていますから」
「……そうか。ではこちらで話しをさせて貰おうか。私への一郎からの贈り物。それを持って来てくれたのだろう……なにやら、その前に早速カンピオーネらしく大事にしたようだが」
「う……それは……」
「なに、責めているわけではない。はは、実にカンピオーネだと思ったよ。しかし世の中分からんものだな。あの一郎の孫が、まさかカンピオーネとなり、それもあの『最強の鋼』を従属神にしているとはな」
はははと力無く笑うルクレチアさんに、僕は真顔となり、護堂も険しい顔つきになった。思わず僕は虚空に手をやる。
僕の剣呑な空気を感じ取ったのか、ルクレチアさんから力の無い笑顔が消えて慌てだした。
「待て。違う。私は御身を挑発したくて言ったのではなく──」
「ルクレチアさんは僕のことを、どこで?」
「グィネヴィアからだ。私はかつてグィネヴィアと共に、アーサー王探索をしていたことがある。だがあの神祖とは目的があまりにも違い、協力することは不利益にしかならないと悟ったんだ。それで別れて長い時間が経ったのだが、今になってそのことで少し前、私の前に現れて愚痴を投げつけていったよ。こんな筈じゃなかったのにと恨みつらみを」
「ああ……そういう……」
どうしてそれを──僕の最大の秘密を知ったのかは分かった。同時に、あの神祖めと何処かにいるであろう魔女に呪いの念を送る。髪の毛の一本か二本あれば、遠隔で一生下痢が止まらない呪いぐらいは送り付けられるのに。
「去年に日本で起きた、まつろわぬ英雄神の件は私も聞き及んでいた。そこにイギリスのあの貴公子と、草薙護堂が関わっていた事も。そして神祖も」
「その件と一緒に、グィネヴィアがルクレチアさんに愚痴ったことで、真相を全て知ったのか。それってまずくないか? つまり美殊のことを、言いふらしまくってるんだよな?」
「それはないな。あくまでも私のところに来たのも、旧縁あってこそだ。流石にところかまわずぶちまければ、神祖と言えども命はないだろう。その事ぐらいは分かっているからこそ、私ぐらいしか愚痴を話す相手がいなかったんだ。しょせん私はどうでもいい、神々からすれば木っ端の三流魔女。それを知ったところで、大勢に影響がないと踏んでな」
それは確かにありそうだ。僕の真相を僕が話すならまだしも、誰かれ構わず口にしたら神祖とて死ぬ。それこそまつろわぬ神か何かを送り込まれて。
「もう……驚かせないでくださいルクレチアさん。僕思わず、いきなり初対面の人を斬らないといけないのかと戦々恐々としたんですよ」
「それはすまない、シニョリーナ。私もこれについては長い間追っていた研究テーマだからな。直接それと話せる機会があったせいで、思わず興奮してしまったんだ」
「……それは違いますよ。ルクレチアさんが追っていたのは、別の神様です。『最強の鋼』は彼の称号です。僕のような凡神が背負っていいものじゃない」
「ぼんじん?」
「平凡な神様。僕は何者でもない、ただの臆病な神様ですよ」
「……それはグィネヴィアも愚痴の中で言っていたな。あんなのが、あんな平凡すら超えた阿呆が次代だなんてありえないと」
なんて言い草をするんだ、あの神祖め! 阿呆だと! 次あったら絶対許さん! 刀の錆にしてくれる!!
「他にはなんて言ってましたか、あの野郎?」
「美殊が直接女の子を、野郎呼びするの初めて見たな」
「あとはそうだな……絶対に認めない……二代目
「……ルクレチアさん。僕、その名前あんまり好きじゃないんだ。最後の王は、もっと相応しい神様が持つべき尊称そのものだよ」
その御名は僕には重すぎる。武御雷とかミスラとかヘラクレスとか、もっと相応しい神が持つべきだ。もっともその称号も本当の本名──