前世凡人 今凡神   作:カンピオーネ二次復権派

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原作11巻~1巻
神殺報告書と委員会


 季節は三月も終わりに近づき、そろそろ暖かい季節がやってくる時期。僕はPC関連が得意ではない護堂に代わってVista君で報告書をカタカタ叩き、完成したそれを持って正史編纂委員会の東京分室がある赤坂までやって来ていた。

 建物に入ると、僕を見た職員が次々に頭を下げて眼を伏せる。僕は護堂の権能と言う事になっているから、通常の神と比べると表向きには格が低いことになっている。

 が、通常と比べての話。従属神になろうと神は神。一応まつろわぬ時代とパワーなどは全く変わっていないことになっているので、霊格やら存在の格などの低下など全くない。そう認識されている以上、委員会の呪術師にしてみれば僕と言う存在は決して見くびって良い相手ではない。

 

 そこを抜きにしても、歴史上始めてこの国に生まれた神殺し──日本で一番通りが良いのは、羅刹の君──が護堂だ。羅刹の君とは人の身で奇蹟を起こし、只人には成し得ぬ神から権能簒奪を成し得た地上の覇王。ゆえに最大級の畏敬を払うべし。

 そう教えられるのが呪術家系の当然であり、神殺しが簒奪した権能とは神を神足らしめる力そのもの。そこから誕生した事になっている僕とは、すなわち神殺しの力そのものだ。それをただの使い魔や式神と同格に扱うことは、羅刹の君を直接侮辱するに等しい行為となる。

 

 だからこそ委員会所属の呪術師は、誰も彼もが僕に敬意を払う。その背後には羅刹の君の異名があるから……と言う事にはなるのだが、この場合虎の威を借る狐みたいな感じで居心地が悪い。

 かと言って──

 

「やぁ! 実は僕従属神じゃなくて、ただの神様なんだ! あ、神様と言っても、最後の王とか、魔王殺しの討滅神とか呼ばれてるけどね! でも凡神だから心配しないで! それと受け継いでる血の関係上、僕の両親は伊邪那岐と伊弉冉になるんだ。伊邪那岐は伊舎那天経由でシヴァと習合してるから。そうなると僕は、委員会のトップである古老の身内だね。あ、あれ僕のお兄さんなの!」

 

 やべえやつだよ、これ言い出すのは。神様がどうとかではなく、単純に頭がやばい。存在しちゃいけない生物の類だ。

 そしてこれを言い出したら『官』の正史編纂委員会どころか、『民』も大騒ぎだよ。神殺しと神がなんか一緒にいるんだぜ? どう説明したところで、日本呪術界は未曾有の大騒ぎだ。

 ……ちょっと見たいのは内緒だ。あれ? ひょっとして、僕の頭はやばいのか? そんなわけ……護堂にも迷惑がかかるし、この秘密は墓場まで直行だ。

 

 呪術師らに恭敬礼拝をされながら、僕は室長室を目指す。事前に行くねとは伝えているが、コンコンと扉はノックしておく。

 美殊様ですね、どうぞと声が帰って来たので扉を開けて中に入る。

 

「久しぶりですね、沙耶宮馨。息災にしておりましたか?」

「ようこそお越しくださいました。我らが偉大なる主の右腕、熊野美殊様。貴女におかれましてはご健勝にてあられますこと、誠に喜ばしく存じます。 私もおかげさまで健やかに過ごしております」

「それはけっこう。では早速本題に入りましょう。こちらが我が主が、イタリア旅行に赴いて起きたことの報告書です」

 

 僕は三日三晩かけて作成した書類を馨さんに渡す。それを彼女はパラパラと目を通す──沙耶宮馨。男装癖のある女性で、今年で高三に進級した高校生だ。

 高校生が公的機関の室長なんてお偉いさん? と思うかもしれないが、これは彼女の家系が特別だからだ。

 

 日本の呪術界には旧華族や元財閥、現役で良いところと言われるお家が多い。古代世界においては、現代よりも宗教的儀式やシャーマニズムが政治と関わることが非常に多かったからだ。有名どころで言えば、鬼道に習熟していた卑弥呼などが代表になる。

 天皇だってそうだ。初代天皇である神武天皇は、父方を辿れば天照大神に辿り着き、母方の家系図を遡れば僕の母である伊邪那美が御登場する。そもそもこの国の長が世間一般ではオカルトと称される分野と、非常に強い結びつきをしている。

 

 それに日本には正史編纂委員会の原型となる陰陽寮もあった。陰陽寮は中務省の一つで、占いや天文などの呪いに関する分野を担当していた部署。表向きには呪術なんて存在しないとなっているので、そんな国の公務にするほどか? なんて思う人もいるかもしれないが、ガチの呪術が存在するこの世界では違う。

 当然のように政敵から飛んでくる呪殺に、占いにより未来視で確実な暗殺。ちょっと隙を見せたら神隠し。お偉いさんを殺す手段が物理以外に大量にあるから、陰陽寮は非常に重要な立ち位置だった。要人暗殺が一般に知られている史実以上に、そこらで簡単に起きる世界だ、ここは。

 

 そう言ったこともあり呪術師や魔術師以外には知られていないだけで、各国には対霊的テロに対する諜報組織なども普通に存在する。すごいね、この世界の人類。神や神殺しもいるから、いつ滅んでもおかしくないぐらいだ。  

 それでも滅んでいないのは、なんやかんや運命神がいるからだったりする。あいつらが正しい歴史──人類史を進めようとしているからこそ。個人的には好きじゃないが、やっていることは一応善の部類なのだ、やつらは。だからこそ僕もファッキン! しても、それで滅ぼしに行こうとは考えていない。

 お互いに領分守って、なぁなぁでやろうや……みたいな感情だ。

 

 本題からは外れるが、神武天皇は存在が実在しないと表向きの歴史学界では通説となっている。これは年齢がおかしいことや、そもそも家系図に神が出てくるせい。

 しかしそれは表向きの話で、地上を神が闊歩するこの世界では違う。神武天皇は実在したし、天照大神ではないが神の血を少しは受け継ぐ半神だった。媛巫女にしても大地母神が零落した姿である神祖の直系なので、この世界にはわりと神の血を継ぐ人間が多い。

 

 まあそれはそれとして。

 

 政治や財政に深く関わって来た呪術師達。そんな彼らの中でも、四家と呼ばれる超が付く名家がある。それが馨さんの沙耶宮家、清秋院家、九法塚家、連城家だ。表向きに有名な家系としては陰陽道宗家の賀茂氏、勘解由小路家、安倍氏、土御門家があるが、これらよりもなお格が高いのが四家だ。

 恵那さん家の清秋院であれば清和源氏──清和天皇の血を継いでいる。他の三家にしても、超有名な戦国大名の血が混ざってるとか、公家の娘が家系図にいるとかが普通だ。

 そんなお家の跡取りが馨さんで、能力は非常に優秀。家柄良し、能力良しとなれば、伝統が非常に大切なこの業界において、彼女以上に東京分室の室長を任せられる人物もいない。そもそも正史編纂委員会を立ち上げたのは、馨さんの曽祖父である沙耶宮惟道さんだ。将来的には、馨さんが正史編纂委員会の最高顧問となるだろう。

 

 護堂? あれは顧問と言うには少し違う。委員会のみならず、日ノ本の呪術師が崇めるべき王ではあるが、従来の指揮系統からは外れている。それを言うと僕も同じか。この国で魔術・呪術に関わる者で偉いランキングを創ったら──

 

1位:古老

同率1位:草薙護堂

2位:従属神である僕

3位:四家の当主

同率3位:媛巫女

 

 あとは有象無象だ。けれど、1位と2位は実際の政治からは遠い場所にいる。蔑ろにされてるなどは一切なく、我儘を言えば全部通る。通るが1位の古老については、人間の政治になんて興味もない。蟻んこどもが何かやってんな位の感覚。

 同率1位の護堂は、別に偉い立場になりたいわけじゃないのと、そう言ったパワーバランスとか政治的な事に不慣れ。2位である僕も、政治に慣れっこですか? と言われたら全然違う。そう言うのは、全部馨さんや清秋院のお家にぶん投げてる。なので委員会内部の将来的に一番お偉いさんは誰になると言われたら、それは僕や護堂が細々とした雑事を押し付けていて、なおかつ血筋や能力のある馨さんになると言う話だ。

 

 馨さんが読み終えたところで、僕は口頭で細かい部分を補填する。

 

「──以上が我が主草薙護堂と、地中海の王メルカルト、及びペルシャの軍神ウルスラグナとの間にあった闘争、その顛末です」

「御身より賜りし天啓、謹んで拝受いたします。我らが仰ぎ奉る王は、まこと新たなる御力を得られたご様子。この上なく尊く、喜ばしき御業にございます」

「その言葉、我が主に言伝しておきましょう……何か聞きたい事はありますか?」

「これ以上、貴殿の尊き御手をお煩わせ申し上げることは、恐れ多く存じます」

「そうですか。では報告についてはこれで終いと致しましょう……この部屋、監視などは御座いませんね」

「御座いません」

「では……イタリア旅行は中々楽しかったよ馨さん。これお土産ね」

「ありがとうございます、美殊さん。これは?」

「バーチチョコだよ。丸っこいチョコレートの中に、マカダミアナッツが入ってるやつ。向こうの有名メーカー製だよ~」

 

 報告中は神と人間として接するが、それが終われば知人で友人だ。必要以上に御神託のようなことをするのもしんどいので、速攻で僕は言葉を崩す。やろうと思えば常時神様モードでお喋り出来るが、それははっきり言ってやりたくない。僕が疲れる。

 

「あとこれが甘粕さん向けでリモンチェッロ。レモンの皮を使った伝統的なお酒なんだって。他にも──」

 

 パチンと指を鳴らせば、僕の自宅から大量のお土産が室長室に転送されてくる。召喚の魔術は初歩の初歩。これぐらいは僕じゃなくても出来る手慰み程度の術なので、特に馨さんも驚きはしない。

 

「他の皆さんにも配れるぐらいに、大量に買って来てあります。皆さんでお召し上がりくださいな」

「イタリアのお土産だから、ウン・ドノ・ディ・ディオですね。僕の方から、草薙さんの従属神から啓示があったとでも言って渡しておきます」

「ただのお土産に啓示は大袈裟じゃない? それに言葉じゃなくて物だよ、これ」

「形式は大切ですから、さっきのぼくと美殊さんのようにね。それと、毎度のことですが、こちらの資料ありがとうございます。本当は甘粕さんや、他のエージェントに作成させないといけないものなのに……」

「それは別にいいよ、ノープロブレムってやつ。他人に書かせたら意味が変に変わっちゃうかもしれないし、文書を作るのは嫌いじゃないから」

 

 嫌いじゃないどころか、むしろ好きなぐらいだ。書物は過去と現在を、未来に残す作業。残すと言うのがいい。これ以上ないぐらいにクリエイティブで、脳を活性化させてくれる。

 それに幽世にいたころと違って、今はワープロソフトを使えるので楽なものだ。僕の自作魔導書も、地上に来てからはワードやパワポで作成している。

 そう言った便利なツールがあるので、たいした手間でもないのだ。

 

「草薙さんはどうされていますか?」

「イタリアから帰って数日はゆっくりしてたみたい。でも家で籠もるのも性に合わないらしく、今日は中学校の友達と遊びに行ってるよ」

「神と戦ってからそれほど経っていないのに、もう遊べるほどに元気ですか。流石は羅刹の君、随分と元気な事ですね」

「それぐらいでへこたれていたら、僕らに勝つなんて出来ないからね」

「確かに。美殊さんの言うとおりでしたね……それにしても二柱を同時討伐とは、また恐ろしいことを。これで草薙さんの御名はさらに轟くことになる。倒した神の数だけで言えば、ベテランの領域だ」

「これでますます、馨さんの地位は安泰?」

「そうなりますね。うるさい御老人方も、口を出し辛くなりますよ」

 

 御老人とは正史編纂委員会のお偉いさんや、委員会のメンバーではないが相応の家格を持つ家の老人たちだ。彼らは自らの家や血に誇りを持ち、中には家格の低い者を露骨に見下すかませ貴族のような人もいる。

 彼らは直接護堂や僕を罵倒したりはせず、羅刹の君や神には敬意を払えと教えられて育った人達なので態度には出したりしない。しかし明確な不満は持っている。

 

 なにせこの国の呪術界を支えてきたのは、自分達だと誇りを持っているから。そこに神を殺したとは言え成人もしていない子供と、見た目がギリ成人女性と言えなくもない女人の僕が乗り込んできて、立場上は偉いですなんて顔をされたら嫌な気持ちになるだろう。

 年よりどうしの会合では、あんな若造と女に頭を下げるなど……と愚痴りあったりもしているのを僕は知っている。こっそり盗聴したこともあるので。

 

 そんな彼らは、馨さんが沙耶宮とは言えでかい顔をするのも気に入らない。旧態依然の在り方──伝統こそが力なのだと考える老人たちは、子供で女性の馨さんの事が嫌いだ。女子供がでしゃばるなと言う奴らしい。

 しかし馨さんはそんなの知ったこっちゃねえと言わんばかりに、改革やらを推し進めている。それを僕も後押ししようと、馨さんには僕お手製の呪具や武器を売ったりしていた。

 

「これで草薙さんの権能は、御身を合わせて八つですか。権能の数だけで言えば、新世代と呼ばれる神殺しの中でもトップですね……ウルスラグナやメルカルトとの闘いで、去年弑し奉られた英雄神の権能について、何か判明しましたか?」

「それは秘密。護堂の戦闘力については、彼の従属神としてはあんまり吹聴したくないから」

「それは残念です。いつか直接お目にかかれることを期待していますよ」

 

 護堂の権能については、僕の口から話すつもりはない。ウルスラグナの戦士みたいに、知恵を以て下す権能を使う神は意外と多いからだ。どこから情報が洩れるのか分からない以上、全ては秘密にするべきだった。

 

 しかし馨さんも、護堂が持つ第五の権能については気になるか。去年あんなことがあったんだから……でも残念。あれは簒奪方法が特殊過ぎたせいで、権能としては中途半端な状態だ。現状では何の使い道もない、ただの石ころ。鉄鉱石の状態だ。

 どんな形に加工されるのかは分からないが、覚醒すれば護堂が望むような権能に姿を変える可能性が高い。それとも鋼であることを利用して、僕が言霊で形を整えてあげるか? 何にしろ、今後どんな権能になるのかは未だ不明。その時が楽しみだ。

 

 それと馨さん? 護堂の権能は八つじゃなくて六つなんだ。なにせ僕が実は権能じゃないし、メルカルトさんとウルスラグナさんを合体させて一個の権能にしちゃったから。

 

 しかしウルスラグナさんの権能か……一度検証しておきたいな。十の化身全部を簒奪したけれど、そこからどんな形にアレンジされるかは護堂次第。今のところ判明しているのは、僕の頭をアイアンクローした牡牛と僕を追いかけるのに使った鳳と、鳳の反動を癒した雄羊だ。残り七つの化身がどうなったのかは、未だ不明。

 それに判明している三つにしても、何が出来て何が出来ないのか調べておきたい。それ次第で僕のSF兵器の使い方も変わるし、ウルスラグナさんの権能──賢人議会で発表された権能名は『東方の軍神』との連携も変わる。

 この権能はメルカルトさんも混ざってるから、僕ならば東方の軍神・弐式と名付ける。

 事前準備こそが僕の真骨頂である以上、東方の軍神・弐式用に調整した兵器も開発しておきたい……よし。まだ春休みはあるから、護堂を誘って一緒に検証実験をしよう。

 

「それじゃあ、裕理さんや恵那さん達媛巫女のみんなにもお土産を配りに行きたいから、そろそろお暇するね」

「分かりました。それでは草薙さんに、よろしく言っておいてください」

「了解。ばいばい」

 

 僕は来た時とは違い、転移を発動して室長室を後にする。目指すは奥多摩の山奥だ。

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