前世凡人 今凡神   作:カンピオーネ二次復権派

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東方の軍神検証実験

 護堂の春休みもあと僅か。輝かしい高校生活が幕を開ける前に、僕は護堂を誘って幽世まで来ていた。

 

「ここに来るのも二回目か。相変わらず……来ると体調が悪くなるな」

「ごめんね。検証実験に付き合って貰って」

 

 幽世まで来たのは、護堂が新たに得た権能『東方の軍神・弐式』の検証をするためだ。最初護堂は検証なんているのか? と懐疑的だったが、良く分からない挙動をして僕の権能や兵器群に巻き込まれたら大変だ。

 これが人間の魔術程度なら何の問題もないが、すごく不思議兵器は僕や護堂のような神・神殺しを相手にすることを前提とした代物。

 巻き込まれたら最期、たぶん護堂でも即死する。それに護堂の権能に僕が巻き込まれてもまずいので──

 

「お願い、護堂。僕が怖いから検証させて?」

 

 と頼めば、護堂は仕方ねえなと乗ってくれる。自分の身の安全だけなら渋るかもしれないが、身内の安全がどうこうと言われたら断れないのが護堂だ。

 あと幽世を選んだのは、ここならどれだけ被害が出ても問題ないから。幽世は多重構造の造りになっていて、護堂はマンションと呼び、僕はミルフィーユやバームクーヘンと呼んでいる。つまり薄い層が何層にも重なっていて、それぞれが独立した一つの世界として構築されているのだ。

 

 それぞれの世界には念じれば転移で移動できて、ここに住む住人は個別に独立した階層を保有する。ここは僕が以前住んでいた階層で、ウルヴルに襲撃された場所でもある。

 ……相変わらず酷い有様だ。ウルヴルの襲撃を凌ぐ為に当初はここで戦ったので、森や僕が建てた建築物などは全て壊れている。木々は燃え尽き、地面は大量の穴ぼこだらけ。当時は戦術の戦も覚えていなかったので、トラップなども敷いていなかったから苦労したものだ。

 

 さて……幽世に来たのは良いのだが、護堂の体調が芳しくない。蹲って吐き気を堪える護堂の背を擦る。幽世は不死の領域と地上の間にある世界で、生身の生物が来ることは想定されていないせいだ。

 仮に生身でここに踏み込むのであれば相応の霊薬を服用し、術で体を保護して幽世に適応できるようにしないといけない。

 

 神々であれば何の支障もないのだが、護堂の肉体は違う。神殺しの肉体は神に近いとは言え、まだ人間っぽさは残っている。そのせいで幽世に来ると、酷い船酔いみたいになってしまうのだ。

 

「……前よりは大丈夫だな。美殊の霊薬のおかげか?」

「だといいんだけど……頭痛や吐き気はもう平気?」

「ん……殆ど無くなったな。やっぱり霊薬が効いてるみたいだ。前の時は、三分は酷い吐き気と頭痛が止まらなかったからな」

 

 蹲っていた護堂はすくっと立ち上がり、コキコキと首を鳴らしている。見たところ顔色なども良さそうなので、言葉通り体調は元に戻ったようだ。

 

「早速始めるか。まずはどれから試そうか?」

「どれなら使えそう?」

「いけそうなのは……白馬と駱駝と強風と猪に……黄金の剣だから戦士だな。この五つはすぐにでも使えそうだ」

「五つ? 僕に使った雄牛と鳳は駄目そう?」

「たぶん駄目だな。使える気が全くしない」

「雄牛は渇望すれば使えるのかな?」

「どうだろうな、それだけじゃない気もする。他にも使えるようになる条件がありそうなんだよな……」

「ちょっと待ってね。霊視の応用で条件を探って……ん~……あ、やっぱりそうか。軍神・弐式は状況と相手に合わせて使える、カウンター型に近い権能。ちょっとごめんね、護堂。もう少し詳しく視たいから、唇借りるね」

「え? うわぁ……!」

 

 護堂を押し倒して、粘膜経由で護堂の内に眠る神力にアクセスしてみる。こら、舌を逃がそうとするな。歯を閉じるな、調べにくいでしょうが。ちゅっちゅっしていれば、ウルスラグナさんの神力の概要も見えてくる。

 護堂の内側にある六つの神力、その中でも軍神の力は明らかに大きい。倍……どころじゃないな。メルカルトさんの神力と相当相性が良かったのか、相互補完されて巨大になっている。他の権能の3倍は巨大だ。これ二柱の権能どころか、三柱から簒奪した並になってない?

 

 しかし条件まで見えにくいな。僕の神力を一時的に混ぜて、無理矢理解析を進めていこう。これで概要や取説ぐらいは……良し。雄牛や、その他も多少は視えたし捉えた。

 

「ぷはぁ……おっけい。雄牛の条件は護堂の渇望だけじゃなくて、相手が並の生物を上回る馬力の持ち主でも使えるみたい……護堂?」

 

 護堂が眉間を押さえて、難しそうな顔をしている。条件が判明したのに、どうしたのだろうか?

 

「……お前というやつは……今更か、これは……しかし馬力か。つまり剛力や怪力の持ち主相手なら、いつでも使えるのか」

「みたいだね。とりあえず僕の腕力を……えい!」

 

 神力を練り上げて、体に流し纏わせて身体能力を底上げする。権能による膂力ほどではないが、これでも馬力換算すれば相当な筈だ。1万馬力──新幹線のモーターぐらいの出力は出ているだろう。

 

「それじゃ今から護堂の手を握ってみるね。それで使えるんじゃないかな」

「少し怖いけどやってみるか。頼む」

「行くよ……むん!」

 

 数百トンの圧力が護堂の手に加えられる。普通ならこれで粉々に砕けるだろうが、神殺しの骨はこの世にあるあらゆる合金より硬い。僕が造った神星鉄(オリハルコン)金剛不壊(アダマンタイト)、日緋色金や青生生魂(アポイタカラ)なら超えられるかもしれないが、チタン合金などよりはよほど頑丈な骨だ。

 それでも手が相当に痛むのか、護堂の顔が苦痛に歪む。その痛みに対抗するために──

 

「我は最強にして、全ての勝利を摑む者なり! 人と悪魔──全ての敵意と悪意を挫く者なり! 故に我は、立ち塞がる全ての邪悪と敵を打ち破らん!!」

 

 聖句と同時に、護堂の四肢に力が漲る。幽世の大地から膨大な『地の精』が集まり、それらが燃料となって僕の人間数万人分ぐらいの腕力に対抗する力となる。

 護堂が握り返してきて、僕の力に対抗……たい……ぐぁああああ!! おててが握りつぶされる!!?

 

「鋼の末裔が請い願う! 僕に空を支え──なんでもいいから剛力でろぉ!」

「なんて適当な聖句なんだ……」

 

 いいんだよ、聖句や呪文なんてなんでも。ようは意味さえ通じたらいいのだ、こんなのは。漫画やゲームみたいに、一定の呪文で無いと駄目な法則はない。使う側が自分が何をしようとしていて、どんなことをするのかを理解しているかが重要なのだ。

 鋼の力を手に宿して、護堂の手を握り返す。使っているのは鋼の怪力だけで、大地由来の剛力や天空由来の破壊者としての膂力は乗せていない。

 

「今本気に近いレベルで握っているけれど、護堂の方はどう?」

「俺も全力に近いな。これがたぶん限界に近い」

「そっか……雄牛は力の化身。ウルスラグナさんやメルカルトさんは、天をアトラスに代わり支えたヘラクレスとも習合しているのと、両柱自体が戦士の神。僕の頭を握りつぶし掛けたように、腕力増強が主な効果みたいだね」

「そうだな……どうもそれだけじゃ無さそうなんだけどな?」

「そうなの?」

「あの時、美殊は体を鋼にしていただろ? 力が強くなったとしても、それで鉄の塊になっている美殊に痛いと思わせるぐらいの腕力を手にかけたら、普通は手が痛くならないか? スチール缶を素手で握りつぶそうとする時みたいに」

「あー、もしかしてウルスラグナさんの、鋼としての鋼体要素も引き継いでいるのかな。ちょっと試してみようか……腕を構えてくれる? ちょっと蹴りを入れてみるから」

「別にいいけれど、へし折らないでくれよ、頼むから」

 

 握手を止めて立ち上がり、護堂には腰を落として腕をクロスして構えて貰う。そこに鋼の剛力+鋼化した足でハイキックを撃ち込む。

 がごぉん! 杭打機を鉄板に叩きつけたような轟音がして、護堂の体が揺れる。普通なら衝撃で吹き飛ぶのだろうが、その衝撃を全て外部と内部で爆散させるような打撃の撃ち込み方をした。

 大体今の一撃であれば、東京都庁そのものを砂に変える程度。軍神の一撃がその気になれば、直径20~40キロぐらいのクレータを穿ってしまうことを考えたら軽い戯れ程度の一発だ。

 

 しかし人体に対して撃ち込むような蹴りではないし、護堂の肉体が神殺し特有の耐久性を兼ね備えているとは言え両腕を粉砕骨折させるには余りある。けれども、それを受けても護堂の腕は健在だった。

 

「だいぶ硬くなってるね。御遊びの蹴りとは言っても、護堂の腕に罅を入れるぐらいは出来ると踏んでたのに……」

「おい待て。今のキック、そんな威力だったのか!?」

「大丈夫、安心して! 護堂の耐久性なら、素でも死なない程度の──いたいたいいたいたた……」

 

 親指を立ててサムズアップしたら、護堂に指をへし折られそうになった。雄牛の怪力でそれをされたら千切れちゃう……

 

「良かった、僕の指がもげなくて」

「今度はやる前に、どれぐらいの威力なのかを伝えておこうな!?」

「了解です……次はどれ試そうか?」

「出来そうなのは五つ……強風からやってみるか」

 

 護堂の姿がフッと消える。これは瞬間転移? すぐ後ろに、護堂の気配がした。

 

「これが強風の化身みたいだな。どうも知り合いがいる場所になら、どこにでも移動できるみたいだ」

「便利だね」

「ところがそうでもないぞ。一度使ったら、暫くの間は使えないみたいだ」

「回数制限付きか……でもなんだろう。さっき神力を探った時には、もう少し違うような気がしたんだけど」

 

 僕が知覚した輪郭では、移動するだけの能力ではなかった。もっと違う何か……例えば悲鳴に対して駆けつけるとか、そんなヒーロー性のようなものを感じたのだ。幻視した姿を無理矢理形にするなら、ベストなタイミングで駆け付けるスーパーヒーロー。私が来たとか出来そうなやつ。

 

「使ってみて分かったよ。それはたぶん、この化身が誰かに呼ばれた時にも使えるからだろうな。それと、こういうことも出来る」

 

 護堂が手を翳すと、数百mほど離れたところに竜巻がいきなり出現した。ごうっ! と音を立てて、周囲にある森の残骸などを切り裂いてしまう。

 

「移動直後なら、風を操れるみたいだ」

「直後って言うとどれぐらい?」

「数分だな。それを超えたら、風の魔導力って言うのかな。それが急に消える感じだ」

「纏めると、強風は任意移動で一回、呼ばれたら一回まで瞬間転移して、数分は暴風を操れる。移動と攻撃がセットになった化身だね……ところで強風が足して二回までなら、雄牛も似たようなもの?」

「みたいだ。使ってるとなんて言うのかな、制限時間みたいなものがあって、それが化身になっている最中は減っていくような感覚がするんだ。化身を解いたら時間経過で使用時間は回復していくけれど……たぶん一度使い切ったら、一日は回復しないような気がする」

 

 なるほど。僕が調べたウルスラグナさんの神力の取説とも、ある程度合致する内容だ。

 

「それじゃ次に行ってみようか。次は白馬?」

「そうなるな」

「使用条件と効果は?」

「大罪人相手に対して、太陽の焔を落とすみたいだ」

「馬は太陽と結びつきの強い動物。古今東西には、太陽神を乗せて飛んだり、戦車を引っ張るお馬さんのエピソードが多いからねぇ」

 

 ギリシャのヘリオスとか、北欧のアルスヴィズとアールヴァクとか。古代人はなぜ太陽はあんなに広い空を恐ろしい速度で動くのか。それは馬が運んでいるからと考えたからだ。

 馬と人間の歴史は長い。紀元前6000年頃には家畜化が始まっていたと考えられており、その頃にはまだ食用が主な用途だった。しかし人を乗せても動じない性格と、人間なんて比べ物にならない力。農耕に輸送とその力は非常に役立った。

 なによりも、その足の速さが重宝された。人が乗って走る分には馬が最速の乗り物だ。ゆえに太陽の速さと馬は強く結びつき、太陽の聖獣としての地位が確立された。

 

「それともう一つ、太陽が出てる日中ならいつでも使えるみたいだ」

「へぇ、それも便利だね……ん? でもおかしくない? この幽世には太陽なんてないよ?」

 

 僕は空を見上げるが、光る空があるだけで太陽はそこにない。この領域の太陽は、狼たちに食べられたからだ。

 

「そうだな。だから大罪人の方が適用されてるんだよ……対象は美殊で……」

「え? ……え!? 僕、権能に大罪人だと思われてるの!?」

「そりゃあ、なぁ……遺跡を吹き飛ばしたり、海の森公園や羽田空港を破壊したのはテロリストになるから、正義の権能からすれば悪人なんじゃないのか?」

「なっとく……納得がいかない……」

 

 確かに建築物破壊は多いけれど、あれは大体不可抗力だ……なんて説明したところで、法と契約の神から派生したウルスラグナさんの権能は、情状酌量をくれないらしい。無念だ……

 

「これは使えないな。美殊が危ないから」

「だね。次々行ってみよう。お次は駱駝! ちなみにさっき調べた時に判明してるけど、条件は護堂が重症を負うか、武芸の達人が近くにいる時に使用可能になるよ」

「今は怪我なんかしていないから、達人……美殊で条件を満たしたみたいだな……雄強なる我が掲げしは、猛る駱駝の印なり!」

 

 護堂の雰囲気が変わる。見た目は変化していないが、明らかに武の達人みたいな空気を纏っているのだ。

 

「武芸の達人に対するカウンター化身だから、効果は武術全般の能力が上昇かな……今から護堂にさっきより速いハイキックを打つね。視えたなら避けるか、迎撃してみて」

「分かった。やってくれ」

「それじゃ……せいや!」

 

 さきのハイキックが友達同士でやるバリアー! バリア貫通! みたいな遊びであれば、これは軍神にも通用する類のそれ。最少最短、最速で叩き込み、敵対者を砕くための鋼の鉄槌だ。

 それを護堂は首を振って躱す。お、明らかに普段とは動きが違う。なら追撃だ。キックの途中で軌道を変え、踵で腰骨をへし折りに行く。それを護堂は脚を上げて防ぐ。

 僕は防がれた瞬間に、軸足を回して衝撃を発露させる。鎧どおしの一撃だ。このまま受け続けたままでは、護堂の内臓は破裂して死亡するだろう。

 

 そうなる前に護堂が地面を転がり、僕から離れていこうとする。それを僕は追いかけて、護堂と同じようにゴロゴロ転がりながら地躺拳で追撃する。手は大地を叩く槌であり、蹴りは石を砕き木を穿つ槍と化す。

 厚さ1000㎜以上の複合装甲ですら紙細工のように貫通する攻撃だが、護堂は転がりながらも蹴りで迎撃し、打ち払い、直撃を避けていく。しかしそれでもダメージは蓄積されるのか、護堂のズボンからチラリと見える脚は痣だらけで──

 

「あれ? 護堂の蹴り、威力が強くなってる?」

「みたいだな!」

 

 明らかに威力が増している。鋼化させている僕の手足に響くほどの打撃力だ。それに蹴った時の返りの感触が強くなっている。なーるほど、ダメージを負えば負うほど、攻撃力と防御力を上昇させる背水効果も付いてるのか。

 15分ほど護堂と土塗れになりながら遊んでいたら、駱駝の化身が切れた。どうやら効果時間は10分から15分ぐらいのようだ。

 

「いてて……駱駝が切れたら痛くなってきた」

「二人とも土や砂だらけだね……護堂の怪我を治すね」

「治すってつまり……むぐぅ!!」

 

 護堂を押し倒して、本日二回目の口づけだ。護堂が雄牛で抵抗できないように、怪力の権能や神力強化は切ってある。ごめんね、護堂。痛くしちゃって。ちゃんと僕が治すから、安心して。

 大地母神とは生命を癒し、育み、抱擁して包み込む存在。護堂の中に僕の神力を注ぎ込み、損傷個所を修復していく。怪我はものの数秒で護堂の体から消え失せ──

 

「はぁ……へへ……んぅ……」

 

 ついでにもう一回、ウルスラグナの神力を探っておく。あと判明していないのは、少年・猪・山羊・戦士だ。雄羊と鳳は前に一回見ているから、視えやすい。

 雄羊は……単純に怪我を負ったら使えるのか。それに死亡すると自動発動して、護堂を蘇生させてくれる。鳳は……なるほど。一定以上の速度で攻撃されるか、敵が背を向けて逃走し始めると追撃のために神速が使えるようになる。

 それにどうやら、それだけじゃないみたいだ。ふぅん、これは面白い。神速だけじゃなくて、こんな効果まで。

 あとの四つも探っておこう。戦士は大方予想していたけれど、知識を黄金の剣とする化身。少年は……駄目だ、全く視えない。

 

 護堂の中から神力を引き出し解析しようと強く吸うと、護堂が僕をギュッとハグしてきた。そのまま髪を撫でたり、無意識なのか尻を揉んだりしている。どうせ解析中はこのままになるので、そのまま好きにさせてあげる。手持ち無沙汰で暇だろうし。

 

 猪も分かり難いな。メルカルトさんの神力が一番混ざってるのが猪だから、そのせいかもしれない。あとは山羊……はなるほど。おっけい、これで十の化身については大体分かった。あとは実践して、どの程度のものなのかを観ておきたい。

 今見た知識を、教授の術で護堂に注ぎ込んでおく。この術は一日~数日しか持たないが、渡す知識量が少ないので自然と脳にも定着するだろう。

 

「……これが護堂が簒奪した、ウルスラグナさんとメルカルトさんの権能の、判明した一部だよ」

「……………………」

 

 大変だ。護堂の揉み揉みが終わらない。このままだと東方の軍神・弐式の検証ではなく、果たして僕の御尻は揉み心地が良いのかの検証になってしまう。

 僕は別にそれでも構わないのだが、護堂の方が心底後悔してしまうのではないだろうか。というか、このまま放置していたらどこまで行くのだろうか。まだ下着に手を入れたりはしていないが、このままだと最後まで行くのではないか?

 その時には検証ではなく、二人で命を創造する神事に取り組むことになる。

 それもまた一興と笑ってあげたいが、護堂の尊厳もあるしそろそろ止めるか。

 

「……護堂? 前にも言ったけれど……最後まで行ったら、僕孕んじゃうよ? その時には、護堂はどうするの?」

「………………」

 

 駄目だ、これでも目が覚めない。ならば致し方なし、最終手段に移ろうではないか。

 

「か~ごめ、かごめ。か~ごのな~かのとーりーは……いつ、いつ、で~やぁる──」

「ぐああああ! 耳が!!!」

 

 多方面から呪歌と称される僕の童謡。動揺を誘う歌は護堂の脳に直接届き、神経を掻き削り、脳髄を侵す。護堂の手が僕の御尻から離れて、耳を塞いでいた。これだけ近くで謡われたら、さぞかし耳のダメージは大きいのだろう。

 

「俺は……一体なにを……」

 

 どうやら本当に無意識だったのか、覚えていないようだ。ならば指摘するのは止めてあげよう。その手に残る感触だけが、あの時の思い出なんだよと書けば記憶喪失になった少年の淡い思い出になるが、実際には見た目同年代か少し上、実年齢アラフィフのケツの触り心地が残るだけだ。

 ジュブナイル小説でもこの手の酷いやつは……ライトノベルに探せばありそうだな。

 

 護堂の上から立ち上がり、パンパンと土埃を落とす。すっかり汚れちゃったね、僕たちは。

 

「とりあえずは、これで分かる範囲でのウルスラグナさんの権能は把握できたね」

「あ、ああ……猪と少年だけが良く分からないか」

「あ、でも猪は最初使えそうって言ってたね。あれは何が条件?」

「向こうに落ちてる巨大な岩があるだろ? あれを目標にするか、美殊を対象にしたら発動できそうに思えたんだ」

「僕が対象になる化身が多いね……今までの例で行くと、カウンター系が軍神・弐式の真骨頂。猪はウルスラグナさんの、鋼としての破壊力が形になった姿だから……たぶん竜蛇だね。鋼は蛇を倒す存在だから、猪の攻撃対象は僕の中にある大地母神だ」

「つまり?」

「今ここで呼ばれたら、僕がいの一番にぶちのめされちゃう」

「なら呼ぶのは止めておいた方がいいな。山羊についても、別にいらないか?」

「うん。そっちはよく視えたからね……よし、方向性は大体決まったよ。化身の中で一番使いにくいのは山羊になるだろうから、それように何か開発しておくね」

「助かる……て言えたらいいんだが、いつも言ってるけど俺は喧嘩に対しては反対主義だからな。別に山羊が無くても──」

「そっか……じゃあ仕方ない。いつも通り、僕が魔導力をたくさん授けられるように、口づけして──」

「うん。なんだか急に、美殊に山羊用の手札を準備して欲しくなったな!」

「そう言うと思ったよ。要望通り、たくさん用意しておくね」

 

 僕が笑顔でそう言うと、護堂は僕の顔を見ながら詐欺師はこういうのを言うのだろうか? とブツブツ言ってた。詐欺師じゃないよ、適切なタイミングで適切な言葉を吐き、適切に相手を誘導してるだけだよ。

 

「ま、これで知りたい事も分かったから、地上に帰るか」

「そうだね。それじゃあ、その前に体の汚れとか落そうか」

「このまま帰ったら、また静花にどやされるかもしれないか。それじゃ頼んでもいいか?」

「任せて。すぐに温泉を創るから」

「ああたの……温泉? なんで?」

「なんでって……体の汚れを落とすんでしょ?」

「それはそうだけど、なんかこう、清浄とか、清めみたいな術があるんじゃないのか?」

「……それ前に試そうとして、駄目だったよね? 神殺しの抵抗力だと弾いちゃうから」

「……なんかこう、それに対する対抗策とか……作ってないのか?」

「作ってないよ。必要があるかと言われたら、あんまりないから」

「そうか……そうか……」

 

 何やら護堂が絶望している。なんだろう、そこまで気を落とす事があったのだろうか? まぁいいや、土をくり抜いて、暖かいお湯で満たして、ちょちょいと弄ってはい完成。

 

「汚れた服は洗うから脱いでおいてね。護堂が着たままだと、僕の術が弾かれちゃうから」

「……はい……美殊さん……」

「なんでさん付け……なに?」

「……温泉が一つしかないのは、なぜですか……」

「そりゃ、一緒に入るからね。僕の検証に付き合って汚れちゃったんだから、僕が背中を流したりするのは道理だよ」

「……拒否権は……ありますか……」

「汚れを落とすまでは帰れないよ? 幽世と地上を繋ぐ術、護堂には使えないでしょ?」

「…………はい」

 

 護堂の絶望が一気に深くなった。いそいそと上着を脱ぎ、中のシャツを脱いでいる。おー、良い筋肉。神殺しの体になってからも護堂は鍛えているせいか、同年代に比べたらたぶんかなり筋肉が多い方だ。これは隅々まで洗って、どれぐらいの筋量が付いたのか検証しなくては。

 

 その後。

 

 僕が背中を流したりしている間、護堂は初めてブラシで洗われるマーモットみたいに無表情かつ、身じろぎすらもしなかった。人間って、ここまで『無』を極めた表情に成れるんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イタリアの某所。そこでは一人の青年が、ふんふんと頷きながらその報告に耳を傾けていた。

 

「へェ、すごいねその七人目は。僕がそうなった時よりも遥かに若いのに、もうそれだけの神様を倒してるんだ。それにメルカルトとウルスラグナの同時討伐だなんて、やるねェ……」

 

 ズズズと片手に持ったドリンクをストローで啜りながら、非常に呑気なコメントであった。曲がりなりにも神殺しと神の件だと言うのに、日常会話かのような気楽さだ。

 気楽だと言うのであれば、青年の恰好も気楽そのもの。ラフな赤いポロシャツに、白いコットンパンツ。今からゴルフにでも行くのか? それとも帰りかと思うようなスタイルだ。

 

 すらりと脚は伸びており、身長は護堂とそこまで変わらないだろう。顔つきは美男子と呼ぶに相応しい表情で、自然な金髪と相まってどこかの王子様のようだった。

 

 ……事実彼は王だ。護堂と同じく、神を弑してその権能()を奪い取った神々にとっての大罪人。美殊が本来であればこの世から抹殺しなければならない、地上の覇者。

 サルバトーレ・ドニ。イタリアの魔王にして、今代で六人目に当たるカンピオーネだ。彼は数日前まで南米・アルゼンチンまで遠征していた。そこから帰ってきたら、イタリアでまつろわぬ神が二柱も出現していたと言う報告を受けて喜び……七人目の魔王の手で討伐されたと聞いて心底悔しがった。

 

「もっと早く帰って来ていたら、僕がその神様達と死闘したのに、残念で仕方ないよ……それに、その七人目ともやりあえたかも?」

「あまりそういうことを言うなよ。七人目のカンピオーネは、サルデーニャの魔術師に相当気に入られたようだからな」

 

 ドニに対してそう忠言するのは、『王の執事』ことアンドレア・リベラだ。ドニの正面に座りながら、エスプレッソに手を伸ばす。

 リベラはドニが神殺しになる以前からの友人であり、あまり周囲に頓着しない・政治になど興味がない『剣の王』のために日々奮闘している。

 

「そう? でもアンドレアも気にならない? 僕とその七人目、どっちの方が強いのか」

「興味もない。俺が気にするべきは、お前がいきなり日本に行って、その七人目に喧嘩を売らないかどうかだ」

「僕がそんなことをすると思ってるのかい? いやだなぁ、アンドレアは。話によれば、その七人目の一個目の権能、まつろわぬ神様を直接使役するんだろ? 神様とタッグを組んだ同類を相手にして、勝てるとは思っちゃいないよ」

「どうだかな。お前は阿呆で馬鹿だ。口ではそう言いながらも、いざやりたいと思えば実行に移そうとするだろ……俺がそのせいで、どれだけ多方面に頭を下げていると……」

「大変だねぇ、アンドレアも。バカンスにでも行って、気を持ち直したらどう?」

「誰のせいで苦労していると! ──」

「お客様。他のお客様にご迷惑ですので、声はもう少しお控えください」

「む、ああ、これはすまない……」

「怒られちゃったね」

「この……ふぅ……ともかく、七人目は軍神と神王を討った。これが全てだ」

 

 話を聞き終えたドニは、僕も戦いたかったなと同じ言葉を口にする。このまま放置していると、この馬鹿はすぐに何処かに行こうとすると良くご存じなリベラは一つの情報を開示する。

 

「……暇なお前に朗報だ」

「お、何かな?」

「今から数日前に、カラブリア州の海岸に一つの遺物が打ち上げられた。どうもその遺物は神具で、複数の結社に所属する魔女がまつろわぬ女神の到来を予期した」

「……その話詳しく聞かせてよ」

 

 先ほどまでの陽気さはそのままに。ドニの眼には一瞬だけ剣気と呼べる何かが宿る。それを見て、リベラはこの戦闘狂は乗るだろうなと更に言葉を続ける。

 

 それらを聞いてドニは、()()()()()()()がその神具を狙い追うかもしれないと聞いて……少しだけ悪戯少年のようにニヤリと笑った。




東方の軍神・弐式

全化身共通
通常:一度使うと24時間のCT。一度切り替えるとCTがチャージされるまで再使用不可
弐式:雄牛や駱駝などはゲージ式。使い切ってからゲージがMAXになるまでの時間は24H。ゲージがあればいつでも再発動可能。白馬や強風などは回数式CT(使用回数は化身毎に違う)

強風
条件:呼び出す側が危機的状況に陥っていて護堂の名を呼ぶ(通常)+知人がいる場所 
   (弐式)
効果:距離に関係なく瞬間移動(通常)+移動直後の数分間の間強風を操る霊力を得る
   (弐式)

雄牛
条件:相手が人間や並の生物を上回る馬力を持つ(通常)+護堂が怪力を必要だと渇望す
る(弐式)
効果:怪力を得る。相手の重さが重ければ重い程、出力が上がる(通常)
   常時上記の最大出力+鋼に匹敵する硬度(弐式)

白馬
条件:対象が大罪人(通常)+空に太陽が出ている(弐式)
効果:太陽の欠片やフレアを放ち超高熱で焼き尽くす(通常)+????(弐式)

駱駝
条件:自分が重症を負った時(通常)+一定以上の武の達人が近くにいる(弐式)
効果:駱駝の耐久力+脚力を得て格闘センスが人類最高峰近くまで上昇(通常)
   +怪我を追えば追うほど背水効果で攻撃・防御が上昇(弐式)


条件:巨大な物体を生贄に捧げる(通常)+竜蛇を対象にする(弐式)
効果:巨大な猪の神獣を召喚する(通常)+????(弐式)
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