前世凡人 今凡神   作:カンピオーネ二次復権派

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馬鹿とクソボケ

 神殺し来襲。いや、別に襲い掛かって来てはおらず、どうやら国内に入っただけのようだが、それでも相手は人類最強のカンピオーネ。来訪よりも来襲と表現する方が適切だろう。

 

 欧州におけるカンピオーネの異名を魔王と決定づけさせた最恐最悪の神殺しサーシャ・デヤンスタール・ヴォバン。

 情報が殆ど出回っていないが、それでも非常に厳格な性格で気難しい御仁らしい中華の魔王羅豪教主。

 僕が誕生する切っ掛けになった、この世で一番存在しちゃいけない神殺しことアイーシャ夫人。

 一番接し易いジョン・プルートー・スミスさん。神殺しが全員この人ぐらいまともであれば、僕は確実に誕生していない。護堂以外の神殺しで、唯一積極的に協力したい人だ。

 アレクは……まぁ……アレクだし。とりあえず僕が彼に言える事があるとすれば、そのクソボケをどうにかしてアリスさんに向き合え。ついでに他の子らにも。これ以上クソボケを重ねるようであれば、その罪、僕が一太刀で斬り捨ててやる。

 イタリアのあかん子筆頭のサルバトーレ・ドニ。話によればとにかく無軌道、無計画、その場凌ぎ、無秩序とカンピオーネらしい性格。

 そして似非平和主義者の護堂。

 

 誰が来るにしても全員呪術界の核弾頭だ。物理的にも核弾頭を持ち込むに等しい行為。反応兵器を個人で保有している僕が言えた事じゃないが、全員何かしらの大規模被害を出す手段は持っているおっかない連中なのだから。

 そんな神殺しが来襲すると言うのは、場合によっては国の命運すら左右する。歴史の教科書に載る事は絶対に無いが、いくつかの国が滅亡した理由に神殺しが関わっていることも珍しくはない。

 

 僕と護堂のイタリア行きにしても当初伝えなかったのは、向こうに混乱をもたらすのも悪いし、護堂が恭しくされるのを嫌がったから。それだけ裏の世界に関わるものにとって、神殺しの魔王の名は雷鳴の如く轟いている……我が国の場合、僕や護堂が甘い性格なせいか若干舐められてる? と思う事もあるが。

 だからと言って必要以上に偉ぶりたいわけでもないし、この話は今度また護堂と相談しよう。

 

「……それは確かなのですか、美殊様?」

「確実にいるね。場所は……ここから近い。この辺だよ」

 

 串カツの串を咥えた僕に、祐理が問うてくる。真偽を確かめたい気持ちは良く分かる。神殺しがどうして日本に来るのか? 何が目的なのか? それ次第では媛巫女にしろ、委員会にしろ、するべきことは山ほど出てくるからだ。

 御取り寄せの術でA2サイズの日本地図を呼び出し、僕はそれをテーブルの上に広げてから、そっとパチンコ玉を置く。するとそれは一人でにコロコロと転がり、とある一点で磁石に吸い付くようにピタリと止まった。

 

「大阪と和歌山の間?」

「神殺しと言えども、飛翔術や転移術。それか権能が無ければ、長距離移動するのであれば現代の公共機関に頼るしかない。きっと空路だね。向こうさんが使った移動方法は旅客機だ」

「旅客機だから……関西国際空港?」

「だろうね。呪力を追う限りでは、連絡橋を通って移動してる」

「すごいね、師匠の結界は。そこまで追えるんだ」

「これでも魔女の源流だよ、僕は。これぐらい出来ないのであれば、神を名乗れやしない」

「美殊姉様の結界と言うのは何ですか?」

「師匠はまつろわぬ神が出現した時のために、日本全土を覆うように探知用の結界を張り巡らしてあるんだよ。神様が相手だと、初動の遅れが致命的になるかもしれないでしょ? それようの対策」

「日本全土!? そ、そんな巨大な結界術初めて聞いた……」

「原理そのものは単純な構造だよ。地脈を活用するだけだから、そこそこの術者なら誰でも出来るやつ」

 

 探知・探索用の結界。原理自体は単純なもので、奇門遁甲を用いた占術だ。どの方角に、どんな吉凶が来るのか。どこに何があるのか。それらを探るだけの簡素な術を地脈と連動させて北は北海道、南は九州まで含ませて結界を創り出した。

 本当は自動迎撃機構や強制的に国内から弾き出す排出機能も持たせたかったが、そこまですると地脈が枯れてしまう。なので諦めて探知のみに絞った。

 

「……仕方ない。僕は皆を送った後、この人物に会ってみるよ。目的がなんであれ、探っておきたいから」

「待ってよ師匠! 恵那も行くよ?」

「それは駄目。申し出は嬉しいけれど、相手の出方次第ではどうなるか分からない。僕単独であれば転移ですぐに離脱出来るけれど、恵那さんがいたら少し難しくなるかもしれない」

「え~」

「え~じゃないの。恵那さんは後詰として東京で待機。祐理さんは馨さん達に連絡して、神殺しが来てることを周知しておいて。ひかりさんはお家で待機、いいね?」

「分かりました!」

「護堂さんはどうされますか?」

「僕の方から連絡しておく……すいませーん。お会計お願いします!」

 

 串カツを全員速攻で食べ終えてから、店の外に出る。僕は眼鏡を外して、神としての力を解放。神が望めば只人に認識すらされなくなる。転移術で東京に一度帰り、恵那さんらと別れる。

 僕は携帯を取り出して、護堂に連絡を取る事に。

 

「もしもし」

「どうしたんだ美殊?」

 

 護堂に繋がったので、手短に要件を伝えておく。神殺しが日本に来ていることと、その人物に接触しようと思っている事を。

 

「俺の御同類が……まじか。それ会っても大丈夫なのか?」

「分からない。何をしに来たのかも不明だからね」

「案外、観光旅行とか……て期待するのは、幾らなんでも楽観的か?」

「可能性はあるよ。護堂のイタリア行きにしても、大部分は本来であれば観光とバカンスが主目的だったし」

 

 僕は言葉の中に、でもそうじゃない場合の可能性もあるよ? と言葉を滲ませる。護堂と僕が顔を合わせた事のある神殺しは、スミスさんとアレクだ。しかしスミスさんであれば、アニーさんからこちらに向かったとかそう言った連絡があるだろう。あの魔王様、そう言ったところは律儀だし。

 アレクは……流石にこないと思うし、来るとしたらろくでもない目的があると思う。それこそ京都にある重要文化財を強奪するとか。決して良い事ではないが、神殺しの目的としてはそこまで被害も大きくはない。

 

 スミスさんとアレク、この二人は話が通じる部類だ。スミスさんは言わずもがなで、アレクも理屈さえ通せば人間社会に迎合はしてくれる。

 残りの連中は分からん。教主公爵夫人の三名については良い噂を聞かないし、サルバトーレさんも同様。彼らがただの観光に来るのかと言われたらうーん……だ。

 

「理屈っぽいアレクのやつであれだものな……分かった。それは俺も向かった方がいいか?」

「護堂は東京で待機しておいて。目的が分からない以上、首都を留守にはしたくないから」

「……そうか。でも危ないと思ったら呼べよ? いつでも駆け付けるから。あと喧嘩も極力なしだぞ。美殊の方から仕掛けるとか」

「了解。危なくなったら呼ぶからすぐに強風で来てね。それと喧嘩はしないよ……僕をなんだと思ってるのさ?」

「え? それは……卑怯な破壊神?」

「確かに神格の都合上、間違ってはいないけれど……ま、安心して。向こうが何かしてこない限りは、僕も静観するから」

「本当だろうな? ……危なさそうならすぐ呼べよ? もし美殊が亡くなったりしたら──」

「はは、それはないよ……と言いたいけれど、向こうは神を殺す戦士だからね。でも僕は逃げ足には自信があるんだ。それに凡神ではあるけれど、強さそのものは大したことあるんだよ?」

「……はあ、分かったよ。じゃあ俺はいつでも行けるように、委員会の建物にでも行っとく」

 

 それで通話を切り、僕はもう一度関西に戻る。件の人物は北上しているらしく、ぐんぐんと北に上がっている。どうやら速度からして電車にでも乗っているようだ。位置は堺辺り。このまま向かっても追いつけないので、堺駅から北にある住之江駅までもう一度転移。

 

 駅の外にある歩道の手摺に座って、神殺しを待ってみる事に。一本の電車が駅に到着し、その車両の中から巨大な気配が降りて来た。どうやら向こうも僕に気付いたようだ。

 暫く待っていたら、僕の張った人払いをすり抜けてひょいひょいとそいつは僕の前に現れた。

 

「僕が来たのに気づいたんだ。中々やるね……君がこの国の同類に仕える、従属神様かな?」

「初対面で不躾なご挨拶だね……あなたがサルバトーレ・ドニさん?」

「おお! 僕の名前を知っているんだ! これは光栄だね、神様に名前を憶えられているなんて。僕なんて、興味もない相手の名前を覚えられないから羨ましいよ」

「地上に君臨する神殺しは全部で七人。その中で金髪のカンピオーネなんて、イタリアの剣王その人だけでしょ」

「そう言われてみたらその通りだね! ところで君の名前はなんて言うのかな? 七人目の名前が草薙護堂なのは知っているんだけれど、その従者である女神様の名は全然誰も知らないのか教えてくれなくてね」

「熊野美殊。それが僕の名前だよ」

「美殊だね。これからもよろしく」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 敵対しているわけではないので、僕は深々と頭を下げておく。そうすると、どうにも目の前にいる金髪青年の視線を首に感じる。まるでチャンスがあれば、いつでも僕の首を斬り飛ばそう。そんな感情を覚える視線だ。

 が、向こうも手を出してはこない。もしもこの神殺しが()()()()()()だった場合に備えて、いつでもカウンターを仕掛けられるように警戒しているからだ。

 

「それで──」

「それで?」

「イタリアの魔王様は、こんな東の島国に何をされに来られたのですか? そんな神具を首からぶら下げて」

 

 僕はサルバトーレさんの首にぶら下がる、黒曜石で出来たゴルゴーンの首が描かれたメダルを指さす。蛇の力を感じる神具で、相当に古い時代の遺物だ。この距離から僕の『眼』で来歴を追えば、おそらく北アフリカ先史時代の神具。

 多くの蛇に纏わる神具で、多数の地母神がその後ろに幻視される。アーシラト、イシス、ネイト、タニト、アテナ……地中海沿岸部で信仰された旧き女神達。先史時代が終わり、青銅器時代が始まってその地位から追いやられた悲しき女たち。

 力を奪われ、地位を失い、鋼の端女や倒されるべき竜蛇に貶められた彼女ら地母神を古の時代に回帰させる神具。それがどうやら、彼の首にある神具のようだ。

 

「ああ、これ? これは気にしないでくれ。これは何とかって海岸で見つかったもので、処分に困るから僕に預けられたメダルなんだ。なんでもゴルゴネイオンとか呼ぶらしくて」

「ゴルゴネイオン……ゴルゴンの魔除け……それ、まつろわぬ神由来の神具だよね? 持ち歩いても大丈夫な物?」

「大丈夫じゃないから僕が預かったんだよ! なんでもこの神具、まつろわぬ女神様が探しているものらしくて。そんな危険物を置いとくわけにもいかないから、神様を倒せる僕にどうぞと献上されたんだよ」

「……は?」

 

 僕はその言葉が気になって、さらに詳しく神具を覗く。すると確かにいる。弱弱しい繋がりだが、この神具がどこかの神様と紐づけられているのだ。

 僕がそれをさらに追えば──

 

(妾を覗きみるのは誰だ? ……妾と同じ蛇? しかし気配の中には、忌々しい竜蛇殺しの刃も感じ取れる。そなたは何者だ?)

(……アルダナーリー。インドの大地で生まれた、鋼と蛇を調和させ、共存させる合一の概念を持つ女神だよ)

(ほう? 破壊神シヴァと山の娘パールヴァティの合一神か。なるほど、それならば大母と鋼が両立しているのにも頷ける)

 

 ふむふむと僕の幻視の中で頷くのは、13歳ぐらいの童女だ。それも非常に綺麗で可愛らしい童女。セミロングの透き通る白銀の髪と、夜闇のような瞳が特徴的。

 見た目だけであればわー可愛らしい! と叫びたいが、内包する力は決して可愛らしくない。だってどう見ても、どこかのまつろわぬ神……アテナかい!

 霊視したらどこの神様か一発で正体が判明した。同時にそりゃ、ゴルゴネイオンを覗いて見える筈だわと納得する。アテナと言えばギリシャ神話の戦闘神として有名だが、別にギリシャ神話が発祥と言う訳ではない。イタリアで護堂に教えたように、あの神話は各地の信仰や民話が集まって出来たチャンポン神話。どこかから元ネタを輸入しまくって出来ている。

 

 アテナは似たような名前が多数地中海に残っており、これらの地母神と起源を同一とする旧い神格だ。それがギリシャに取り込まれたら、地母神から戦闘神としての側面だけ抽出されオリンポスに配置。蛇の要素はペルセウスにぶっ殺される倒されるべき悪竜として物語が編纂された。

 

 ところでアテナさん。なぜそんな、どこぞの学校制服のような恰好をして猫耳ニット帽を被っているので?

 

(そなたはなぜ妾を覗き見て……まて、そう言う事か。そなたは妾の蛇の近くにいるのだな。それでそなたの蛇と共鳴し、妾と交信したのか)

(蛇……と言うと、まさかゴルゴネイオン?)

(その通りだ。妾は蛇を取り戻さねばならない。そうすることで、忌々しくも剥奪された、最古の女王としての力を取り戻す。アルダナーリー、我が同胞よ。妾に蛇の居場所を伝えてはくれないか)

(……取り戻してどうするの?)

(知れたことを。古き大母が大地に戻るのだぞ? ならばまずはそのことを、愚かな定命の子らに知らしめねばならん。古きアテナが戻ったのだとな。蛇を探して妾は多くの国を旅した……悲しきことに、この時代の定命の子らは堕落しきっている。偽りの光で暗闇を照らし、我ら大母が与える正しき死と闇を払おうとしている。それは人の理と定めを逸脱した行為。まずはそれが愚かであることを思い知らせ、正すことこそ大母の役目よ)

(……それ、現代文明を崩壊させます宣言だよね? なら教えられないよ。僕はけっこう今の時代を気に入っていてね。アテナさんみたいな古い女神様からすれば、この時代は駄目な時代かもしれない……でも、それでもいいところはたくさんあるんだ……だからごめんね)

 

 僕はそこで交信を無理矢理切って、逆探知を防ぐようにする。同時に僕の前に立つ、サルバトーレさんを睨みつける。

 

「サルバトーレさん……その神具はまつろわぬ神が狙っている。それは聞いていたんだよね?」

「聞いたとも! だからこうして、首にぶら下げて持ち歩いているんだから」

「……それが分かっていて、こんな都心部に来たの? そもそもどうして日本に?」

「うーん、どう言えばいいのかな。これを持っていたら神様と戦えるかもしれない! と聞いて最初は喜んだんだけれど、いつまで経っても神様は出てこないんだ。僕としては神様と戦えたら嬉しいのに、肝心の相手が来ないんじゃ暇で仕方ない」

「……別にバトルジャンキーの思考は否定しないけれど……それで?」

「だから僕は、親友のアンドレアにこう言ったんだ。向こうから来てくれないのであれば、僕の方から探しに行けばいいじゃないか! こう言ったら最初はアンドレアにこの馬鹿がどうのと言われたけれど、僕はこう反論したんだよ。僕と神様が戦ったら被害が出るから、こっちから出向いて安全に戦う方が良いじゃないかって」

「それは良い事だね。山奥とかで戦えば、多少破壊してもそこまで問題はないだろうし……でもさ。ここは山奥じゃなくて、日本の都心部だよね?」

「それは仕方がないんだ。アンドレアには、まぁ……それなら……と見送って貰って、当初はロシアの森とかに行ってみたんだけどね。どうも女神様はそれでも見つけてくれなくて。そうなると森の中って暇じゃないか? ある程度なら耐えられるんだけど、流石に一ヶ月近くも山や森で暮らすのは寂しくてさ。それで暇を紛らわせるために、別の国に行こうと思ったんだ!」

「……それが日本なの?」

「その通りだよ! 護堂が神殺しになる半年ぐらい前かな。僕は日本でちょっとバカンスを楽しんでいてね。それでいろんな場所を巡って楽しんだけれど、それで全部遊べたわけじゃない。どうせ神様が来ないのであれば、それまで全力で楽しむのが人生のコツだろ?」

「……まつろわぬ神様がもし日本に来たら? タイミング悪く、都心部で戦うことになったら?」

「それはその時次第じゃないかな? アンドレアにはああ言ったけれど、最終的には戦う場所がどこであれ……僕らカンピオーネと神様の戦いには違いないんだから!!」

 

 あっけからんと宣うサルバトーレに、僕は頭が痛くなる。こいつの言葉をそのまま受け取れば、別に都心部でも戦いは成立するんだから問題ない。そう言ってるのと同義なのだ。

 先ほどアテナさんを幻視出来た以上、実のところそこまで遠くにはいない筈だ。遠くてもインドネシアや台湾辺りにいる可能性が高い。

 つまりこれ以上ゴルゴネイオンとやらを放置していると、まつろわぬ神がこの国に来る。それは放置できないので、早々に御帰り頂かなくては。

 

「悪いけれどサルバトーレさん。僕としてはその神具を持って、すぐにこの国から出ていって欲しいんだけれど」

「えー、そんなことを言わないでくれよ。僕はしがない観光客だよ?」

「しがない観光客は、まつろわぬ神が狙う神具なんて持ち歩きません。ほら、早く空港に行って、この国から──」

 

 僕は手摺から立ち上がり、サルバトーレさんを短距離転移で空港まで飛ばそうとして──

 

「それじゃ仕方ない。僕は観光客じゃないのであれば、神様を倒すカンピオーネとしての仕事とやらをしようかな」

 

 その前に。彼は担いでいた円筒型ケースから、何かを取り出した。それは刀だ。得物としての気配を探ってみたところ、本物の刀ではない。ただの模造刀で、京都でお土産に売っているような安っぽそうな鞘に収まったそれ。

 だが僕はそれを見た瞬間に、跳躍して刃が届く範囲から離脱した。

 

「良い反応をしてるなぁ……アンドレアから聞いたけれど、七人目の女神様は武神や軍神としての力も持ってるらしいね。そんな相手とやりあえるんだから、楽しみだ」

「……やりあう? どうしてそんな結論になったのかな?」

「それは勿論、僕が日本に来たのは観光目的だけじゃないからさ。僕は神様と戦いたくてこの一ヶ月ワクワクしていたのに、それが果たされないとフラストレーションが溜まるだろ? だからそれを解消しようと思い、あわよくば七人目と、その従者である君に会えないかなと思って」

「それはどうして?」

「決闘を申し込むためさ!」

「はい? ……なんでまたそんなことを? 決闘がしたいのであれば、欧州で付き合ってくれる人なんてたくさんいるでしょ」

「それがいないんだよ。剣技だけなら僕より上な人がいるけれど、その人達相手に本気を出したら全く楽しめないんだ。そうなるともう、同族や神様ぐらいしかまともな相手がいなくて……君みたいな神様とか」

 

 僕はそれにふぅんと返す。バトルジャンキーではあるけれど、どんな相手でも良い訳じゃない。あくまでも対等以上な相手で無ければ、興奮しないタイプの戦狂いか、こいつは。

 

「その決闘を僕が受けなければいけない道理なんてないよね?」

「そうだね。うん、その通りだ。僕が相手の同意もないのに斬りかかったなんて言い出したら、またアンドレアにどやされるだろうねぇ」

「なら僕はその決闘とやら、受けな──」

「でも一つだけ。僕が君を斬れる理由が出来たんだ。君、七人目の権能なんかじゃなくて、普通にただの神様だろ?」

「……へぇ」

 

 僕はその発言を聞いて、虚空に手をやる。そうか、そうか。こいつ、それを理由に持ち出すのか。

 

「どうしてそんな風に思ったの?」

「さっきから僕の四肢や肉体に、最高潮の力が漲っているんだ。まるで神様に、それも絶対に倒すべき宿敵に出会ったかのような力が。それでピンと来たよ。君は従属神なんかじゃない。まつろわぬ神様が、倒されることもなく護堂に付き従っているんだって」

 

 サルバトーレは悪戯小僧の笑顔を浮かべる。僕はそれを見て、呼び出しの魔術で武具を取り出す。早速出番が来たようだよ、付喪神君。

 

「権能による従属神は僕も何度か見ているけれど、その神様達を前にしても僕の心は大して燃えないんだ! でも君は違う!! さっきから闘争心がグツグツと煮えるように湧き上がってくる。つまり君は眷属ではなく、独立した神様……そうだろ?」

「違うよ。僕は草薙護堂第一の権能『陰陽の従者』。それだけの存在だ」

「はは、それが嘘なことぐらい僕にも分かるよ。そして──」

 

 模造刀が鞘から抜かれる。それは刃も潰された、ただの玩具でしかない刀。しかしやつの右腕が銀色に代わると、それに呼応するように偽物の刀が咆哮する。生まれ変わるかのような声を響かせて、模造刀が魔剣へと造り替えられていく。

 

「──ここに誓おう! 僕は、僕に斬れぬ物の存在を許さないと──知ってるかい? 僕らカンピオーネは、とあることをする限り何をしても許される暗黙の了解があるんだ」

「──まつろわぬ神が地上に降臨する時、覇者としてそれを撃ち滅ぼす。それが守られる限り、神殺しにはあらゆる特権が赦される」

 

 そうだ。神殺しには世界各国の富裕層やそれに関わる裏の世界の住人が、一つの特権を赦している。神を殺すのであれば、たとえ何をしようとも問題ない。そんな忖度が存在して──

 

「つまりさ。僕には義務があるんだよ。日本に住まう人類を脅かすまつろわぬ神を斬る……特権のためにも、僕は君を斬らなくちゃいけないね!」

「今思いついた建前を笑顔で喋るなぁ……この厄介者は!!?」

 

 サルバトーレが踏み込み、僕に魔剣を横薙ぎしてきた。

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