前世凡人 今凡神 作:カンピオーネ二次復権派
「ギリシャ神話には、数多くの女神が登場する。オリンポス十二神に限定しても、ヘラ、アテナ、アフロディーテ、アルテミス、デメテル、あとディオニュソスに譲る前はヘスティア。半分が女神だ。護堂はこれらの女神について、共通する要素はなんだと思う?」
「なんだろうな……ゼウスに困らされた?」
「それは女神どころか、ギリシャ神の8割ぐらいが該当するね。答えを言っちゃうと、この女神達全員が大地母神になるんだ」
「そうなのか? さっき教えてくれた、アテナ以外も?」
「アテナさん以外もだよ。ヘラは古くはギリシャの北部先住民族に広く崇拝されていた大地母神になるし、アフロディーテはセム語系民族が信仰した地母神が、ミュケナイの時代に輸入されたもの。ちなみにこの地母神は、護堂の中に眠るメルカルトさんと深い関係にある神様だよ」
いつものように、啄むように、軽いバードキスで護堂の唇に触れる。もはや慣れたもので、歯がぶつかったりすることもない。
強く押し当てず、あくまでも軽く、そっと触れ合うように。ふとした拍子に護堂の吐息が漏れ出るが、爽やかな香りだ。神殺しの肉体には、きっと不要な細菌がいないのだろう。神を除けば、この世で最も優れた肉体を持つのが神殺しだ。
嫌な臭いをさせるような要因が、体内から全て除去されている。ならば僕の体臭や口臭も、無臭に近いのだろう……護堂評価では、なんか森の匂いだっけか?
「んんっ……ちゅ、ちゅ……なんか護堂も上手くなったね? 若者は成長が早いねぇ……」
「こんだけ濃厚なやつをされていたら、それは上手にもなるだろうなぁ!」
誰のせいでこうなったと思っているんだと憤慨される。キスが上手なのは良い事だよ?
「……なんの話か分からないから、教授に戻るね……」
「いけしゃあしゃあとこいつ……そういうところは、本当に詐欺師だと思うぞ、俺は」
「乙女の嗜みだから無罪だよ。それで話を戻すけれど、アルテミスもやっぱり大地母神。彼女は狩猟の女神で、動物と深い関わりがある神格だからこれは分かりやすいね。女神を見て、野山の動物がその神のシンボルにいたら、とりあえず大地母神であることを疑ってもいいよ。デメテルなんて正に大地母神そのものだ。なにせ名前が母なる大地と訳されるし、司る職能は豊穣。これが大地母神で無ければ、ギリシャ神話には地母神がいなくなるね」
「ヘスティアも大地母神なのか? 俺は窯の神様とか聞いた事があるけれど」
「彼女も大地母神だよ。と言うよりも、ヘスティアの大本になった女神が大地母神かな。ヘスティア自体は青銅器時代以前には存在せず、聖火の概念や文明が進んで各御家庭に竈が存在するようになってから誕生した神様だけどね。それ以前のヘスティアは、プロメテウスやヘルメスとも関わりのある印欧祖語時代の火神だよ。文字がまだ存在しなかった時代だから、もはや口承ですら残ってない時代の神様」
「ふうん? なんだか美殊の話だと、大地母神ばかりなんだな、ギリシャ神話は」
「それはギリシャだけに限らないよ。多くの神話を紐解くと、女神は大地母神に到達することが多いんだ」
太古の世界。まだ人が文字も車輪も開発しておらず、農耕文化すら開いていなかった旧石器時代。この時代に崇拝され、信仰の中心となったのは女神だ。ヴィーナス・オブ・ウィレンドルフ然り、土偶然り女性を象った宗教的モチーフは多く出土されている。
「ホモ・サピエンスがアフリカから出発し、多数の方向に向かって生息域を伸ばしていった時代。まだ農耕の概念もなく、人類の大半が遊牧民だった時代。彼らが祈りを捧げた対象は、大地そのものだった」
この頃から空は男性神、地は女性神の領域だった。しかしのちの遊牧民族と違い、旧石器時代にはさほど天の神は重視されていない。
「天空神がその地位を高めるのは、遊牧民が農耕民になり、遊牧民族のままだった人達が、農耕民族に対して侵攻を繰り返すようになってから。青銅器時代になるまでは、地中海地域では天の神はさほど重視されていなかった。代わりに信仰を集めたのが、大地から恵をもたらしてくれる大地母神なんだ」
旧石器時代であれば、狩猟や採集が日々の糧を得る手段となる。まだ家畜の概念も無いため、肉が食べたければ森で獣を狩り、木の実などを集めるのが主だった。
「そこで人々は大地の神様にお伺いするの。どうか僕らに、今日と明日をくださいって。それは一つの民族だけじゃない、人類の始まりがアフリカであり、そこから多数の民族が分かたれた。新たな新天地を目指して旅する彼らの文化は、分かたれる前のそれが引き継がれる」
だから地母神は地中海地域に異常に多いのだ。分岐して派生していった神格達は、元ネタの要素をどうしても引き継ぐ。
「ラーメンみたいなものなんだ。味噌ラーメン、醬油ラーメン、豚骨ラーメンと味付けはアレンジされていっても、ラーメンはラーメン。スープの中に麺がある。このベースとなったのが大地母神。誰それの妹だとか、誰々の妻だとか、どれこれを象徴するとか、卵やメンマみたいにトッピングが増えて行っても、地母神と言う根幹は残り続けた」
「なんか、急に庶民的な話になったな」
「でもこっちの方が、護堂には分かりやすいでしょ?」
「分かりやすくはあるが、なんか神様に対する有難みとかは無くなるな」
「神様を何柱も討ってる魔王様が、何の有難みを堪能するのさ?」
「あー……目の前にいる女神様とか?」
「適当言いよってからに……アフリカを出て、エジプトを通った後、トルコやギリシャ地域に人類は分散していった。アフリカを出ずに、現在のアルジェリアやリビアに定住する民族も登場する。これで地中海沿岸地域に、地母神が多数残る下地の完成だ。あとは民族移動と統合、離散……これを繰り返す事で、数多の地域に地母神の概念は広がっていく。農耕が始まり家畜を育てるようになれば猶更。今まで以上に、豊穣の願いや祈り。牛や羊、その他生物を遣わして下さり真にありがとうございます。その恩として、私たちはあなた方に帰依します……なんてことになる」
しかしながら、これだけが地母神の地位を押し上げた要因ではない。もう一つ、この世界らしい理由こそが、神々の権威を確固たるものにした。
「ここでクエスチョン。地母神は多くの崇拝を集めました。それは当時の生活様式と、地母神の持つ要素が上手く嚙み合ったからではあります……ですが、もう一つ。彼女らの地位を確かなものとした要素があります。それは何でしょうか?」
「なんだよ急に質問とか……生活様式に並ぶ要素か……」
「ヒントをあげるなら、どうしてそこまで簡単に伝播したのか……だよ」
「伝播、つまり伝わっていった理由か? ……分からん。降参だ」
「じゃあ正解を言うね……答えは非常にシンプル。この世界では神様が実在する。現代ではまつろわぬ神と呼ばれる神々は、いつから地上をほっつき歩くようになったのか……」
「……あ!? そういうことか!!?」
「そういうことだよ。不死の領域と呼ばれる神様の世界。そこは神話の世界だと言うのであれば、当然神話が無ければ成立はしない。最古の神話体系と呼ばれるのは、シュメール神話。でもそれだって、成立したのは紀元前4000年ほど。つまり話はこうだ……現代で神話と呼ばれる神様達の物語。それが成立する以前から、神々は
なぜ伝播したのですか? 民族移動にリアル神様も引っ付いていたから。
非常に簡単な答えだ。当時の環境は人間には厳しいかもしれないが、そこに超自然的な存在である神格が一緒にいるのであれば、人類がアフリカを出て世界全体に広がっていくのも難しい話ではない。これが僕の前世である神無き世界であればまた話は違うかもしれないが、この世界は違う。神とは普通に存在し、超常現象が当然の世界。つまるところ、神話が成立する過程が全く違う。
「大昔。うんとうんと大昔。人類は母系社会だったと言われてる。確かに地母神の方が、当時のニーズに合致していたよ? それでも父系社会ではなく母系になったのは、当時のアフリカ人類を庇護していたのが大地母神だから! 昔の神様って、いまほどまつろわぬ身にはなりにくいんだ。なにせそこまでガチガチに神話で縛っていないから。そうすると歪みが最小限に済み、当時の人類が求めた優しく人を保護し庇護してくれる女神様の誕生だ!」
「あ、ありかよそんなの……」
「ありなんだなー、これが。そもそもこの世界の神話は、この手の事例が山ほどあるんだよ。リアル神様がどこそこで何をしたから、現代では神話として語り継がれましたな話が。そうじゃなくても、過去に神様が何かしたせいで、そこが所縁の土地になったりするし……例えばスミスさんが倒した、ロサンゼルスのアルテミス神。何がどうしたら米国のロサンゼルスに、ギリシャ神話のアルテミスが出現すると思う?」
「え、そりゃ……まさかそれもかよ!?」
「そうだよー。あれはどうして出現したのか不明だと結論づけられているけれど、僕に言わせれば必然だよ。なんせアルテミスさん、過去に地上に降臨していて、その時にロサンゼルスにまでトコトコお散歩して、あの辺で飽きて地上から去ったんだ。そのせいで二回目の降臨がロサンゼルスになり、不幸にもあの辺で暮らしていた人達は動物になりました……とさ」
つまりこういう事だ。この世界の神話は人間が形作ったものだけでなく、それに付随して地上に降臨する神様。そして──
「神殺し。この三つ全てを組み合わせないと、本当の神話が見えない構造になってる」
「俺の同類も関係してるのかよ!」
「大いに関係してるとも。護堂に関係ありそうな事例だと……『ラーマーヤナ』のラーヴァナ。あれの元ネタは神殺しだよ」
「はぁ?」
「はぁ? と言われても……青銅器時代。最後の王を最も追い詰めた神殺しがいた。彼は『十の命をストック』させる権能を持っており、その力故に不死身の中の不死身に近い存在だった。なにせただでさえしぶとい神殺しを、十回殺さないと死なないんだから。その神殺しは、最後の王に献上される筈だった大地母神をあろうことか拉致した。最後にはその大地母神も、雷に焼かれて死んでしまったけれど……この話をラーマーヤナを知ってる人に話せば、まんまラーヴァナが、ラーマからシータを誘拐した話じゃねえか! と反応してくれるよ。最後は焼け死んだのを、アグニの火かとか解釈してくれて」
「つまりインド叙事詩のラーマーヤナは、実際に歴史上で起きた出来事を神話にした物語?」
僕はイエスと答えておく。ただしこれに注釈をつけるのであれば、仮にラーマ王がラーヴァナに遭えば、久方ぶりだなとか答えてくれるだろうこと。十の命を持つ神殺しではなく、宿敵ラーヴァナとしての認識になるが。
どうあがいても、本当の意味で神話からは解放されない。運命の束縛からは逃れられても、神話はどこまでも追いかけてくる。神とは得てしてそう言う存在なのだ……
このほかにも、この神在る世界では僕の知る神無き世界とは随分と違うところがある。この世にはこうあるべきと定められた筋書き──運命がある。その通りに時間が進むことが望まれていて、それを叶えるために歴史の修正力が存在する。神話にしても、人間がこういう物語を創る──そう定められているからこそ、人は神話を書き綴った。
だから神々は人間が神話を創り、己らの枷としたと認識するものもいるが、真相は少し違う。世界がこうあれと定めたからこそ、人は神話で神を縛ったのだ。そのためか、神々の中には『運命』を忌々しいと憎む者もいる。最大の元凶は運命神、貴様だ! ……なんて風に。
けれども、神と神殺しが関わるとそう言った当然は死亡する。定められた筋書き通りに、物事が進まないのだ。これの最大事例は、間違いなく鋼の神格の発祥と伝播だろう。
僕は護堂に『鋼』はヒッタイトが関わり、スキタイがシルクロードの鉄版であるアイアンロードを通して伝播させていったと説明したことがある。これは間違いではないのだが、少し語弊のある説明だ。
この世界ではヒッタイトこそが製鉄技術の始まりであり、それを戦闘騎馬民族スキタイが版図を広げた……とされている。しかし僕の前世である神無き世界では、スキタイが最終的に日本にまで製鉄技術を伝えたのは一緒なのだが、ヒッタイトはそこまで重要ではない。
ヒッタイト王国が真っ先に鉄を実用化に漕ぎ付けたのは事実だが、ぶっちゃけ当時の周辺国家でも次々と製鉄は実用化されていっていた。なんなら、途中からエジプト辺りの方がより純度の高い鉄の精錬に成功していたほどだ。
そもそもヒッタイトだけがそこまで強力な
だがこの世界では、別の理由からヒッタイトは非常に重要な立ち位置になった。
「護堂は神殺しが、いつ頃から誕生したと思う?」
「俺たちがか? 神殺しの誕生には、神様がいる。そうなると……もしかして、さっき話してた大地母神。あれが最初に倒された神様なのか?」
「流石に違うよ……と言いたいけれど、それは当たらずとも遠からずだね。なにせこの原初の地母神様は、多数の地母の原型となる神格。彼女から派生した神格の中には、当然ある女神様も含まれている……パンドラさんが」
「神殺しの母か。確かあの女神様も、元はオリエント世界の大地母神……」
「イエス! あの女神様はギリシャに取り込まれた後、原初の女性となった。なぜ彼女が原初女性になったのかと言えば、その元となる神格が原型の女神の直系だから」
パンドラさんは神殺しの母。なぜ曲りなりにも女神が人の味方をして、神殺しなんてものを誕生させる存在になったのか? それはパンドラさんが、アフリカで誕生した現人類の保護者をしていた女神──今からざっと50万年以上前に誕生した、人類に『与える女』から派生していった神様だからだ。
パンドラさんがどこまで自覚しているかは不明だが、例え神々や神の法に背くことになっても、彼女は神の死を贄として、神殺しを誕生させる。己が保護し、庇護しようとした者らに対して、与えることこそを神格のコアとしているのだから。
「神殺しが誕生したのは、今から6000年ほど前。パンドラさん……当時はまだ、パンドラなんて呼ばれていなかった神格。彼女が簒奪の円環を手にして、初めて神殺しの誕生する下地が出来上がった。でもそれは、世界に中指を立てる行為そのもの。人間なんて脆弱な生き物の中から、正しい歴史をしっちゃかめっちゃかにする神殺しなんて強者が誕生するんだから、それはそれは『運命』もお怒りになったよ……それを是正しようとすれば、生半可な修正力では追いつかない」
だからその神格は誕生した。僕の先代である神殺し討滅の勇者──ラーマが。
ラーマさんが有名なのはラーマーヤナの主人公としてだろうが、それ以上に
ラーマは汎ユーラシア的英雄だとされている。しかしこの評価、神無き世界の神話学者が聞いたら首を傾げるだろう。ラーマは確かに重要な立ち位置の怪物退治の英雄ではあるが、汎ユーラシアなんて称号を抱くとすればインド神話の中ではインドラだろうと。
そもそもラーマーヤナの中で、ラーマ自体に『最後の王』と呼べる鋼的なエピソードがない。ヴィシュヌの化身で鋼としての在り方で言えば、斧を持ったパラシュラーマ・無敵のクリシュナ・燃える剣を持つカルキなどの方がよほど『鋼』だ。
それでも神在るこの世界では、ラーマさんこそが『鋼』として重要な神格となったのは、神話ではなく史実として最強の
「神殺しが誕生すれば西へ東へお構いなく移動し、『鋼』を手に魔王を討ち殺す。先代最後の王はね、製鉄技術がまだ無く、青銅器が主だった時代に鋼の武器を持ち込んだ存在。当時の最先端どころか、二千年以上は先にしかない概念を、剣と言う形で持ち込んだチート。そんなのが許されたのは、彼を遣わすのがこの世界の『運命』だから」
そうして神殺しを抹殺していた彼は、紀元前17世紀ごろにはヒッタイトにいたと言う。つまり話はこうだ。
『鋼』の概念を保有するラーマが在留していたことで、ヒッタイトには製鉄に関する知識が他国よりも多く蓄積されることになった。そんな当たり前の話。
そんなラーマさんがいながらもヒッタイトが滅んだのは、海の民を率いていたのが神殺しだから。しかも一人ではなく、ラーマ王をぶっ殺さんと多方面から4人も神殺しが侵攻。
最後にはラーマさんが勝ったが、余波でヒッタイトの住民も建物も崩壊しまくり国としては完全に滅亡。勝ち残ったラーマ王は、その後スキタイを率いていた腹心の鋼と合流し、世界各国で魔王を殺し続ける。
これが鋼の伝播の真相だ。鋼の神の真なる最源流と呼べる神格が、『鋼』の武器を振るい続けた。その結果、世界には救世の神刀をモチーフとする武装が数多く残った。本物の神が使い、天地を切り裂き、人間とは思えない怪物である神殺しを真正面から粉砕する超兵器。それはさぞかし、古代人の脳にこびり付いたことだろう。
「本当はもうちょっと、この世界の神話構造に関わる話をしたいけれど、それは長すぎるからまた今度するね……話を戻すと、大地母神が実在したことで、地中海の神様支配図は一気に地母神のそれに塗りつぶされる。これが無くなるのは、地上から件の女神様が去る頃だ。それがちょうど、遊牧民族が侵攻を開始するころと重なるんだから面白いよねぇ……さてと。ここからが本題。今日本に向かっているアテナさんは、そんな地母神の系譜に連なる神様だ」
アテナ。ギリシャ神話でもアテナと呼ばれる神格。彼女が誕生したのは、紀元前1万年以上前。北アフリカの大地で産声を上げた。
「今で言う、アルジェリア辺りが彼女に捧げられた信仰の原点だよ。当時の北アフリカでは、蛇信仰が盛んだったからね。アテナさんはそんな蛇信仰の源流とも言える大地母神。ギリシャ神話に取り込まれる頃には、蛇信仰そのものが下火になっていたけれど……でも、彼女への信仰そのものは消えていなかった。都市守護神として絶大な人気を誇っていたからね。だからこそギリシャ神話が成立した後にも、オリンポス山の中心的神格──オリンポス十二神として崇め奉られたんだから」
それにアテナの神格から、大地母神としての要素が消えたわけじゃない。彼女には大地母神らしいエピソードが、ギリシャ神話にも残っている。
「ヘファイストス、あるいはヘーパイストス。アテナさんと同じくオリンポス十二神の一柱になるけれど、彼は火と鍛冶の神。同時に火山神でもあった。そんな彼はアテナさんに恋をして、とあることをしちゃったんだ。そのとあることと言うのは、ここを──」
僕はそれを服の上から撫でる。ずっとキスをしているせいで性的に興奮したのか、護堂の鋭く近寄り難くなったそれを。
僕が上下にゆっくりさすさすと撫でると、護堂の吐息が少し変わる。こら、腰を動かして逃げるなよ。
「こうしていると出る液体。それをアテナさんの足にかけたんだ。護堂も僕にやってみる?」
「お、おま! おま、この馬鹿!! あくまでもキスをするだけなのに、どこを触ってるんだ!!?」
「どこって……護堂の雄?」
「そこを触るのはやめろぉ! 流石に我慢が──」
「我慢してるの、護堂は? それなら手じゃなくて──」
手の代わりに、僕は自分の鼠径部を護堂のそれにぴったりと密着させる。少し腰を動かしたら、護堂の反応が凄く良くなる。
「こっちの方が嬉しいよね」
「~~~~~~~っっっっっっ!!!!!!!!!!!」
唇を舐めながら小さくそう呟いたら、護堂が強く僕を抱きしめてきた。力強いなんてもんじゃなく、普通の女の子なら恐怖すら覚えそうなほどの怪力だ。
どっどっどっどっど……僕の心臓の音なのか、護堂の音なのか判別がつかない。護堂の呼吸は非常に荒く、ふーふーと何度も何度も雄の吐息が漏れ出している。
彼の手は僕の尻に伸び、少しでも熱を発散させたいのか鷲づかみにしている。教授の術をしている間、僕と護堂の唇は繋がったままだ。僕の腰も動きっぱなしだ。
その間にも護堂の手はまるで愛おしいものを触るかのように、僕の尻を服の上から揉んでいる。だがそれで我慢できないのか、運動向きとして着替えていたジャージの中に手が突っ込まれる。
それでも満足出来なかったのだろう。とうとう下着の中に手が入りそうになり……止まった。
護堂の感情が精神感応を通して伝わってくる。
駄目だ……駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ、まだ駄目だこれ以上は駄目だでも我慢が違う駄目だやめろでもしかし目の前の雌は神だ犯せ敵だ犯せ駄目だ──
ごちゃまぜになった感情が爆発しそうになっていて、だから僕は──
「護堂ならいいよ?」
そう言った。護堂の心臓が大きく跳ねる音がして、それで護堂は爆発……しなかった。手がジャージの中から引き抜かれる。尻の代わりに護堂が握ったのは、右手の中に眠る『鋼』──天叢雲劔だ。
左手に鋭き鋼を持ち、刀身に右の掌をあてる。それを横にさっと引けば、たちまち護堂の掌から血が滴り落ちた。
「ジカンナイ、カラ、チシキ、ノ、ツヅキ、タノ、ム。オレ、ドニ、アテナ、タオス、ダカラ、タノム、タノム」
「ご、護堂が片言に……それに手に怪我が……」
「コレ、ナオル、ヘーキ、ヘーキ、ミコトナオス、ヘーキダイジョブ……」
「そ、それなら教授の続きをするよ」
大変だ!
強い権能(二代目最後の王を従者にできる)には相応のデメリットがある