前世凡人 今凡神 作:カンピオーネ二次復権派
「京都まで早いね!! 恵那も転移術や飛翔術が使えたら、山籠もりと学校の行き来とか、王様との逢瀬とか簡単にこなせるのに」
「逢瀬とか言うな、逢瀬とか。別にひそひそと会う訳じゃないんだから」
「恵那さんと護堂が出会うのは、普通にデートで良いんじゃない?」
東京から京都まで普通に移動したら、ヘリを使ったとしても一時間以上はかかってしまう。だがしかし、こちとら転移と飛行の使い手。3分もあれば到着する。
まずは一旦転移で岐阜市辺りにまで移動。そこからは飛翔術で移動した。なぜ直接目的地である舞鶴まで転移しないかと言えば、護堂の呪力耐性が転移すら弾いてしまうから。
この耐性が無ければ、空間に作用する権能を持つ神様と戦った時に、宇宙空間にでも放り出されたら大変な事になるから仕方が無いと言えば仕方がない。
とは言え完全に飛ばせないかと言えば違い、護堂が一切抵抗しないのであれば200キロから300キロぐらいなら問題なく飛ばせる。この仕様のおかげで、イタリアではサルデーニャからローマまで転移で移動して観光出来たのだから助かると言うもの。
岐阜市からは飛翔術で移動開始。途中サルバトーレがいるであろう地域の上空を旋回してから、僕らは舞鶴を目指した。
普通の飛翔術ではこう言った使い方は出来ない。
飛翔術とは魔女が持つ空を飛ぶ異能で、飛行術としては最速の術だ。僕が使うのはそれの原型とも呼べる術で、普通の飛翔術よりもよほど早い。
それに人間が使うバージョンは目的地に到着するまで解除できず、直線移動しか不可能なルーラだ。それとはかなり使い勝手が違い、自由な飛行が可能。
なので今回みたいな旋回なんて使い方も出来る。僕ら三人は東京から舞鶴まで予想通り3分で到着。全員で降り立ったのは、竜宮浜の漁港だ。ここは舞鶴の中でも北に当たる場所で、海に顔を向ければ見渡す限りの日本海が広がっている。
昼間であれば非常に透き通ったエメラルドブルーの海が綺麗な海水浴場もあるのだが、あいにく既に日が暮れてしまっている。この辺りは山の中にあり、都会に比べると外灯も少ない。車が通る道路にポツポツと灯りがあるぐらいで、それ以外には闇を照らすための道具もない。
僕は昼間と変わらないぐらいには見えているが、護堂と恵那さんにはちょっと暗すぎるようだ。二人とも目をぱちぱちさせて、光量を調節しようとしていた。
「視界は大丈夫?」
「少し見えにくいが、俺はなんとかなるな。清秋──じゃないな。恵那はどうだ?」
「見えにくいは見えにくいけれど、普段籠ってる山はもっと暗いから。これぐらいなら平気だよ」
清秋院と言いそうになった護堂が、恵那さんを下の名前で呼び捨てる。そう呼ばれた恵那さんはと言えば、少し嬉しそうな顔をしていた。はー乙女の顔だ。
ちなみに下の名前で呼んであげたらどう? と提案したのは僕。ここに来るまでの三分の間に、キスをする仲で上の名前呼びは可哀そうだよと言ってみたのだ。
護堂は言われてみれば確かになと言って、僕の提案を受け入れてくれた。良かったねぇ、恵那さんや。おばちゃんとしては、若い子の恋を見るのは嬉しいのじゃよ……
……なんて内心ではボケるが、それを表には出さない。もう少ししたらサルバトーレとアテナがここに来て、神と神殺しの闘争が始まる可能性がある。
その状況でボケ倒す気は僕にもない。
「どれぐらいで来そうだ?」
「サルバトーレさんの方が少しだけ早いよ。あと一時間ぐらい」
「アテナの方は?」
「そっちも捕捉した。島後島上空を通過したところ」
「日本海でそのまま迎撃できないの?」
「逃げられたら困るから、出来ればここで迎え撃ちたいかな」
話しながらも、僕はせっせと若狭湾や山の斜面に砲台や罠を設置して殺し間を形成していく。来る場所が分かっているなら、確実に潰し切れるだけの火力を用意してお出迎えするだけだ。
設置し終えた時には、サルバトーレがすぐ傍まで迫っていた。
三人でそちらに目を向けたら、お? みたいな目をしながら彼は近づいてきた。
「やぁ、また会ったね! こんな場所で奇遇じゃないか!!」
「……数時間前ぶりだね、サルバトーレさん。随分と観光を楽しんでいたみたいで」
「へー。その言い方だと、僕がどこで何をしていたのか知ってるんだ。うんうん、京都はいいね。御寺観光なんてオーソドックス過ぎるかなと思ったけれど、あれはあれでそこそこ楽しいものだよ」
「そっか。それで京都観光をしていたのに、どうしてこんな寂れた場所に来たの?」
「どうしてと言われたら、こっちに行った方が楽しくなると思ったからさ。ほら、観光も楽しいけれど──」
肩に担いでいたケースから、模造刀を取り出す。それが抜かれると同時に、向こうの腕が銀色に光り出す。
「──僕が一番楽しめるのはこれだからさ」
……なるほどね。神殺しの直感は実に鋭い。たぶんここに来れば、神具を狙っているアテナに会えるだろうと予感したのだろう。普通なら神殺しと言えども、それほどの直感を持ちはしない。
だが神具を持つ神殺しが、その持ち主である神と戦いたいと望んだのだ。運命とは簡単に捻じ曲がる。神と戦うことこそを良しとする戦士が、心の底から闘争を望んだ。ならばここを目指すには必然で、僕らが来たのも当然なのだろう。
「それは正しかったんだ。なにせ来てみれば、君がいたんだから! ……それにそっちの彼。君、僕の同類だろ? 草薙護堂。君も来てくれたんだね、僕と戦ってくれるために!!」
「何が戦うためだこの野郎。俺は喧嘩しに来たんじゃない。とっととこの国から出ていってくれと頼みに来たんだ」
「え~、そんな連れないことを言わないでくれよ……ああ、そうか。まずは自己紹介からだね。僕はサルバトーレ・ドニ。イタリアで君と同じく、カンピオーネをしているものだ」
「知ってるよ……草薙護堂だ。一応、あんたと同じ神殺し……てことになってる。あんたの後輩だな。そんな後輩から一つ言わせてくれ……その神具を持って、この国から立ち去ってくれ。そいつを狙って、まつろわぬ神がこの国を目指しているんだ。神様と俺たちが戦ったら、とんでもない被害が出るのはあんただってよくご存じだろ? 俺は庭を荒らされたくないんだ」
「それは嫌だよ。君たちがここにいると言う事は、まつろわぬ神様も近くにいるんじゃないの? なら下手に移動するよりも、ここで待っていた方が得策なんじゃないかな」
「何が得策だ!! そもそも森の中を彷徨っていたなら、そのまま待機していればいいだろ!! それなのに態々移動するものだから、相手の神様もあんたを見失ったんじゃないのか!?」
護堂が正論を吐いたら、え~でも待っていても来てくれなかったんだから、仕方ないじゃないかと悪びれもせずサルバトーレは笑っていた。
……分かっていたけれど、何というかだいぶイイ性格をしているな、あいつ。護堂ともアレクともスミスさんとも違う。神殺しの中では、一番自由な性格をしているかもしれない。
「あれが剣の王様、サルバトーレ卿か……師匠に近い性格かもしれないね」
「え? 僕、あそこまで悪びれもしないし、自由な発言……したことあるような……ないような?」
「王様や祐理に怒られても開き直る時が多いけれど、反省する時もあるからあれほどではないとは恵那も思うよ? でも系統としては近いと思うな……でもなんだろう……あの人の事は少し苦手かも」
「……それは僕のことも苦手という意味になるのでは?」
なんという事だ。護堂とサルバトーレが会話をしている間、恵那さんとお話をしたら僕が嫌われていることが判明した。弟子であり友達みたいな子で、これから護堂を支える仲間には苦手と思われていたなんて……なんという事だろうか……
「別に師匠のことは苦手じゃないよ。ちょっと癖が強いなとは思う事もあるけれど」
「おかしいな。フォローされたと思ったら、結局ディスられている気がする」
僕は癖が強いのか? ちょっとふざける事はあるけれど、全体的には大人しく良い子だとは思うのだが……
「あの王様、なんだろう……悟りを開いてそうな気配がするんだ。師匠は頭が回るのにふざけ倒す軽いタイプだけど、あの人はなんか違う。頭を使うのが苦手そうな人なのに、根っこの方では……どう言えばいいんだろ?」
「……そう言う事か。恵那さんはサルバトーレさんを、求道者だと言いたいんだね」
「あ、それそれ! なんかこう、一つの道だけを究めた人~て気がするんだ」
その言葉には、僕も思い至る節がある。ほんの数分だけではあるが、僕はサルバトーレと手合わせをした。その時感じたのは、まだ拙い技量……それらを覆い纏わりつくほどの、剣に狂いし剣鬼の匂いだ。
似たようなタイプは撃剣会に所属する人にもいるが、剣の王のそれは違う。もっと根深く、狂気に満ち溢れた剣狂い。
「恵那さんの感じたそれ。たぶん正解だよ。これは僕の所感に過ぎないけれど、サルバトーレさんが本当に楽しみなのは闘いだけだ。観光も食事も、他の全ては闘いが始まるまでの手持無沙汰を埋めるだけの趣味。一瞬だけでも手合わせすれば、視える事は多数ある」
「あー、納得。それは恵那の苦手な人に違いないよ」
僕と恵那さんがそんな話をしている間にも、サルバトーレの説得を護堂はしていたのだが──
「それにアンドレア・リベラさん。あの人に連絡がついたら、日本に来てもらうつもりだ。そうしたら、困るのはあんたの方じゃないのか?」
「アンドレアが? え~それは困るな……と言いたいけれど、僕は日本で君たちを相手に、戦ってもいい理由があるんだよ。それはあの女神様さ」
「美殊がどうしたんだ?」
「おや? ひょっとして、あの女神様から何も聞いてない? あの神様、護堂の権能なんかじゃなくて、まつろわぬ神様だろ? どうして君と一緒にいるのかは知らないけれど……僕らカンピオーネには、神様を殺す義務がある。アンドレアが来たところで──止める権利を持たないよ」
サルバトーレの模造刀の切っ先が僕に突きつけられる。そこに籠められた意思は何者よりも明白だ。これから僕は神様を殺す。だから邪魔をするなよ……だ。
その様子を見て、護堂の気配が若干変わる。明らかにムッとしている。苛ついてるな……
「師匠がまつろわぬ神様? え、でもそれって……あ! だから少し頭がおかしくて、癖が強い性格なんだ。神話から外れたことで、神格が狂って」
「どこで恵那さんは納得してるの? ……サルバトーレさん! 別れる前にも言ったけれど、僕はそこにいる草薙護堂の第一の権能で再召喚された従属神だ。それ以上でも、それ以下でもないよ」
「美殊の言うとおりだ。あいつは俺の眷属で、俺の女だ。俺が打ち勝ち手に入れた物だ。それを殺すだと? させると思ってるのか、そんなことを」
ひゅー! 俺の女宣言とはやるねぇ! ……とは言わない。表向きには、護堂がボコボコにして殺し、そのあと出て来たのが僕と言う神様。そうである以上は、護堂の言い分はあれで正論だ。
だがふぅんとサルバトーレは笑うだけだった。
「なんでそんなことをしてるのかに興味が少しあるけれど……ま、いいや。美殊を殺して権能が増えるか増えないかで、護堂の言い分が本当なのか確かめたらいいだけだからね」
それ以上会話をするつもりがないのか、サルバトーレの脚が動いた。僕に向けられていた切っ先は下を向き、だらりと垂れ下がった手に模造刀を握り、滑るような足運びで護堂に迫る。
それを見ると同時に、僕も後の先で動きだす。取り出すのは錫杖だ。
僕ではなく、護堂に向けられた凶刃。神殺しの本能が、まずは獲物とやる前に邪魔者を排除すべきと判断したのかもしれない。
明らかに不意打ちな刃を、人類でも最高位に近いレベルにまで鍛え上げ技量で振るう。2年近く鉄火場に身を置いた護堂であれば避けられるだろうが、僕はそのもしを好まない。やるなら100%、絶対だ。
僕がそう動くと確信していたのか、目で追いながらも護堂は動こうとしなかった。動く必要はないと、経験と直感が知っているから。その刃は届かないのだと。
ならば期待に応えるのは僕の役目だ。
キンッ! 澄んだ金属音が漁港に響き、静けさを一度だけ打ち消す。けれど飛び散ったのは甲高い音だけで、血などは一切大気に触れない。
魔剣となった模造刀は、しっかりと錫杖で受け止めたから。鍔迫り合いになった僕とサルバトーレだが、向こうは剣を引いて再度振ろうとした。
それを僕は許さない。力点を支配し、サルバトーレの体重移動を強制的に支配する。鍔迫り合いから脱しようとしても、錫杖が磁石にでもなったかのように魔剣を捕らえて離さない。
「本当にやるね! これだけの技量、教主様以上じゃないかな!!」
「僕はその神殺しと出会った事がないから、君の言い分だけでしか判断できないね!!」
それでも、いつまでも捕まえていられるわけじゃない。サルバトーレは僕の干渉を引きはがそうとしている……離させると思うなよ?
「吾が身は成り成りて成り合はざる処一処在り。我が身は成り成りて成り余れる処一処在り」
もっとも得意とする聖句。僕の神力が一気に回り始め、錫杖を持つ手に紫電が放出され始める。持つ錫杖をコイルとして、電流を流す事で一時的に電磁石に変える。
「うわ!」
今までが技量だけによる引きつけで、そこに磁力による吸引も組み合わせる。魔剣がギチギチと音を立てて、苦しいと悲鳴を上げ始めた。
引っ張られる力が強くなったことで、サルバトーレの体勢も崩れた。そこに──
「我は大いなる輝きの主を援けん!」
僕が顔を右に動かすと、後方から光を帯びた石が飛んできた。それはたたらを踏みそうになったサルバトーレの顔に直撃し、彼を十数mほど弾き飛ばす。
「とりあえずこの魔剣は……ふうん。なるほどね。そういう権能でもあるのか……燃えろ!!」
錫杖に引っ付いたまま残された魔剣を、僕は『眼』で解析してから強く睨みつける。それだけで溶鉱炉に入れられた鉄のように、模造刀はドロドロに溶けてしまった。
「武器は奪ったから安全……と言いたいけれど、あの権能は手に持った刃物を魔剣に変えるではなく、手が触れたものを魔剣に変える権能だよ。そこらに落ちてる石でも、テトラポッドでも木でも、なんであれサルバトーレさんが触れれば魔剣に代わる。最悪、海ですら彼の剣となるから気を付けて」
「いまので解析したのか?」
「この世にある『鋼』は全て僕の眷属に成り得る子達だ。魔剣にして所有権があると主張しても、模造刀は元来僕の子。彼がそれを教えてくれたよ」
護堂の石が直撃したサルバトーレだが、いててと言いながらすくっと立ち上がる。今の石礫、88㎜砲の数十倍は威力があるのに、それを受けても殆どへこたれないか。
僕も鋼体を持つから分かるけれど、この権能は防御用としては非常に優れている。やはり真正面から破壊力頼みで壊すよりも、熱やあれで溶かす方が早いか。
「刀が燃やされちゃったか。武器をこうも早々に盗られると、少し分が悪いのかな?」
「俺たちとあんた、いまのでどっちの方が上か分かっただろ! 一対一ならまだしも、こっちは三人だ! これ以上やるなら、あんたは怪我だけじゃすまないぞ」
「数的不利は認めようじゃないか。それでも──僕より絶対に強い女神様と、僕を吹き飛ばせる攻撃が出来る君。こんな美味しい獲物を前にすごすご退散なんてしたら、後悔しちゃうよね?」
「何が後悔だよ、こいつ」
まだまだやる気らしいサルバトーレを相手に、僕ら三人は全員身構える。
身構えながらも、僕は開戦がちょい早いと内心舌打ちする。くそ、本格的に始まる前にアテナさん来てくれないかな。早く──と言う願いが届いたのか、サルバトーレが飛びかかるそぶりを見せたところで、彼女はようやく姿を見せてくれた。
「蛇を追い東の島国にまで来てみれば、アルダナーリーと神殺しが二人? これはどうなっている」
「あ、アテナさんだ」
待ち人ならぬ、待ち神がようやく来てくれたのだ。
カンピオーネ二名・女神二名「来ちゃった」
舞鶴の明日はどっちだ