前世凡人 今凡神   作:カンピオーネ二次復権派

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 『盟約の大法』。これは世界が正しい歴史を辿るために、イレギュラーな事態が発生したらそれを正すために存在する修正力。それを利用した呪力強化(バフ)だ。

 その時代に存在する神殺しの数だけ修正力は強くなる。つまりバフによる呪力の上昇率は、神殺しが多ければ多い程よい。

 ただしこの力を発動するにはいくつかの条件があり、まず救世の英雄の支援者である『運命神』の許可がいる。

 

 つまり僕が許可を出せば、いつでも発動可能状態に移行する。なので第一関門はクリアだ。

 次に地母神の命を贄として鋼として完全な力を発揮しているか、神の間に存在する盟約を批准した神が神殺しの手で殺された時。

 つまり常に蛇の神力で常時完全覚醒状態の僕は、第二条件をクリアしている。

 

 ようするに僕の場合、先代と違っていつでも『盟約の大法』が使用可能なのだ。ただし現在は、運命神が僕の邪魔をしているので完全版の大法は使えない。最後の王になり得る資格持つ『鋼』の神と同じように、相対する神殺しが二人以上でないと駄目なのだ。

 その代わりに、最後の王が使う大法なので出力は他の鋼が使う大法擬きとは別物だ。現在は神殺し二人分しか上がっていないが、それでも普段時や陰陽相済時と比べても遥かに上だ。

 

 体中が神力──呪力とも呼ばれる不可思議の力で満たされる。力が溢れるなんてものじゃなく、力そのものに浸っているかのような感覚。

 

 体内に収まりきらない呪力が熱や雷となって放出されて、僕の周りにいたアテナさんの眷属らを焼き殺していく。これが恵那さんや護堂を連れてこずに、一人で彼女と戦うと決めた理由だ。

 ぶっちゃけると、この状態にまだ慣れていないから制御しきれないのだ。僕の髪の毛から静電気がバチッ! と放出される感覚で飛ぶ雷撃は、護堂が山羊の化身を使い全力で放つ雷の数倍は強い。

 

 護堂ですら巻き込まれたらたぶん即死する。恵那さんなんて巻き込まれたらもっとやばいので、とてもじゃないがこの場には連れてこれない。

 

「ああ、忌々しい。運命がかような暴挙に及んだ結果、このような例外が我ら大母の末裔に名を連ねるなど!! もっとも強き鋼の力をその身に宿した蛇なぞ、気味が悪い事この上ないわ!!」

「僕のことを病原菌みたいに言わないでよ……先に謝っておくけれど──一方的な戦いになると思うからごめんね、アテナさん」

 

 僕は自分の胸に手を当てて、僕が持つ救世の武具達を引きずり出す。最初に出て来たのは戟だ。先端が三又に分かれた槍──シヴァ神が持つことで御馴染み、トリシューラだ。

 ただし僕が持つのはトリシューラではなく、救世の神戟と名付けられている。救世の武具とは、最後の王が持つ最強の『鋼』。

 先代であれば救世の神刀と呼ばれる鋼の剣の原型となった武装で、ありとあらゆる武器の性質を内包しつつ『鋼』が属性として持つ雷を無尽蔵に溜め込んでいる。

 僕の神戟も似たようなものだが、雷とは違い炎を操る能力を有している。

 

 が、僕が持つ救世の武器はこれだけではない。更に続けて取り出したのは片刃斧。長いポールに取り付けられているので、見た目はハルバードのような見た目だ。

 眩しいばかりの白金(プラチナ)に輝く斧からは稲妻がこれでもかと迸り、あまりの眩しさに僕自身が眼を瞑りたくなる。まぶし。

 救世の神斧と救世の神戟の二刀流。片手に雷、片手に炎とビジュアルだけなら格好良くない? と我ながら思う救世の勇者スタイルを取った僕を見て、アテナさんは再度馬鹿なと呟いた。

 

「救世の神刀……その亜種を二つも持つなど……そなたは何を見据えて造られたのだ、一体……」

「全ての神殺しを地上から抹殺するため。あと……地上をほっつき歩く、神話から出てきて歴史をめちゃくちゃにする神も僕の抹殺対象だよ」

「おのれ……おのれ運命め! 神殺しの獣ならず、我ら神々ですら正しき運命とやらからすれば邪魔と申すか!」

「さぁ? それを僕に聞かれても、なんとも言えないかな」

 

 話しながらも僕は神戟と神斧を空に突きつけて、巨大な光球を生成させる。

 アテナさんが闇の神格として再臨したことで、周囲を覆っていた漆黒の見通せない闇。それらが二つの太陽によって一瞬で駆逐される。

 空に浮かぶ光球は、片方は無数の稲妻の糸で編まれた雷撃の殲滅球だ。直径100mほどの『白き恒星』。数千、数万、数十万……下手をすれば億に届きうる雷が集まった事で、京都全域を照らしうるほどの光量を放っている。

 

 もう片方は白き恒星の対となる紅き恒星だ。紅蓮の大火に輝く光球は、白き恒星よりも太陽に近い色で炎熱を燃やし続けている。二つの太陽が照らし出すことで、地上を彷徨っていたアテナさんの闇精霊達。それらが次々と蒸発していき、最後には何も残らなくなった。

 

 なおこれらを用意している間にもフクロウや蛇が無数に僕に近づこうとしていたが、僕に近づくだけで蛇は燃えて炭化し、フクロウは稲妻に焼かれて蒸発していく。

 ついでに撒き散らす火力が高すぎるせいで、周囲の森や大地が燃えたり溶けてマグマ化していく。現在の僕らは竜宮浜の1.5㎞先にある浮島・磯葛島にいるのだが、そこにある自然が何一つ残らないのではないかと言う有様だ。

 ……街中で使えないね、これは。

 

 アテナさんは流石にヤバいと察したのか距離を取ろうとするが、僕はそれを赦さない。

 

「古き大母に命ずる。運命が定めし盟約に従い、その命と力。最後の王に献上せよ!」

「そなた、なに──がぁああ!! こ、これは……まさか妾の力が、蛇の力がそなたに吸い取られて……!!」

 

 ごめんね、アテナさん。あなたが大地母神である以上、どうやっても僕には……最後の王には勝てない。なにせ先代にしろ、僕にしろ、機能として大地母神の命を吸い上げ覚醒する機能を有している。

 その力に加えて、普段は運命の担い手対策に使っている運命神としての権能を組み合わせることで……アテナさんが喰らって苦悶に顔を顰めているように、僕ら最後の王に隷属する地母神として強制的に弱体化させられる。

 普段は出力が足りていないので対運命の担い手対策にしか使えていないが、大法で強化されている現状なら違う。担い手対策をしつつ、運命神としての力も十全に使用可能なのだ。

 

 これがアテナさんを何としても蛇に戻したかった理由。普通なら蛇に戻して強化するなんて愚策も良いところなのだが、今回のケースのように神殺し二名が揃っているなら、地母神は僕にとってただのおやつに過ぎない。

 むしろ相手が強ければ強い程、吸い上げる力が強くなり僕は強化される。僕の力が強くなれば、なおさら吸引力は増す。相手が強い地母神であればあるほど、加速度的にこちらは強化される。

 

 それを察したのか、アテナさんの目線が一気に強くなった。睨みつけているだけではない。どうやら石化の眼で僕をなんとかしようとしているようだが、残念ながらそれは通じない。

 

「凶を清め、災を退け、厄を祓う! 是すなわち幸いなるものの霊験なり!」

「その力は……破邪顕正の!? 妾の神力を全て無効化して──」

「当たり前だよ。僕の禍祓い……これは救世の英雄が使う破邪の力だ。権能であろうとも、無効化されるに決まってるでしょ」

 

 僕の視界内に収まるアテナさんの引き起こそうとする、権能による大破壊も石化も闇の神力も、一切合切の全てが掻き消されていく。

 禍祓いとは呪力や魔術をかき消す媛巫女に発現する才能だ。通常であれば権能を消すなど不可能だが、僕の使うそれは本家本元の破邪顕正。そもそも僕の持つ神力の中には、不動明王──シヴァと同一視されるアチャラナータも含まれている。

 かの明王が持つのは倶利伽羅剣。貪瞋痴の三毒を切り裂き、あらゆる厄災を切り伏せ、仏に仇名す仏敵を力づくで叩き潰し帰依させる降魔調伏の力の象徴。

 

 その力まで乗せた禍祓いは権能ですら消去してしまう。ましてやアチャラナータにとって、悪しき竜蛇とは踏み潰す対象でしかない。僕の視界内や周囲において、もはやアテナさんの権能は機能しないと言ってもいい。

 

 その上で僕は一切の手を抜かない。手札を潰されつつあるアテナさんがそれでも足掻こうとしていたが、僕はここで頭上にある二つの太陽に命じた。

 

 爆撃を開始せよ、と。

 

 プラチナ色の雷球から、雷の雨が降る。幾千、幾万の雷撃がアテナさんを打ち払わんと降り注ぐ。一つ一つの稲妻が、神獣程度なら一撃で消し炭に変える大火力。それだけでなく、もう片方の紅蓮の太陽からも光線や炎弾が土砂降りの雨となって降り注いだ。

 僕は島から離れて空中に浮き、爆撃に晒される磯葛島を観察する。アテナさんは僕の破邪顕正にもどうにか対抗しようと神力を必死で練り上げ、アイギスらしき盾を翳して死の物狂いで砲撃を耐え凌ごうとしていた。

 

「ふうん。アイギスは神王ゼウスから贈られた、山羊アマルテイアの皮で造られた盾。山羊は雷の象徴でもあり、だからこそ雷に対しても高い防御性能を誇るのか」

 

 よく見たら雷撃を放出して、雷球と太陽からの爆撃を凌ごうとしている。どうやら僕が距離を取った事で破邪顕正の力が弱まっているのか、なんとか権能が使えるようになったようだ。

 近づけば消去は出来ると思うのだけれど、自分の爆撃に巻き込まれたら嫌なのであまり近づきたくない。

 別にこのままやっても削り取れるような気はするのだが、念には念をおしておきたい。逆転の芽は全て潰さないと、僕は不安で不安でたまらないのだ。

 

「大地の御陰やかえし者! 火炫毘古と申し、またの名を火迦具土といふものなり!!」

 

 空に浮かぶ救世の神戟が産み出した、紅蓮の太陽。それにとある神力を僕は混ぜる。するとそれは効果てきめんだったのか、すぐにアテナさんに異常事態が現れた。

 

「く……この……なに? 焔の質か変わ──グ……ぎ……これ、は……」

 

 アテナさんが防ごうとした火だが、今までのただ勢いがあるだけの火とは違い、明らかに別種の特性を持たせてある。それは僕の母親を焼き殺した火──火之迦具土の火焔だ。

 

 火迦具土とは言うまでもなく伊弉諾が最後に産んだ子であり、火の神である彼を産んだ事で女性器に酷い火傷を負って偉大な大地母神は死亡する。

 ゆえに火迦具土の火とは、不死身に近い大地母神ですら焼く特性を保有しているのだ。不死殺しの火と言えばいいのだろうか。

 それを混ぜ合わせられたことで、アイギスの皮が燃え落ちていく。そうなれば当然、アテナさんも火に巻かれてしまう。

 ただ火力が高いだけであれば蛇由来の再生力が元に戻すのだろうが、僕に力を吸われ続けている状態では従来の治癒能力は期待できないだろう。

 それに火之迦具土の火は大地母神殺し。蛇となったアテナさんにとっては、天敵と言える権能だ。

 

 ……ん? アテナさんの唇が動いているな。なぜそなたが、火之迦具土の火など? かな。

 

「別に大した理由じゃないよ。僕が持つ職能は運命神。そしてもう一つ、僕には持たされた機能がある」

 

 自らの神話を綴る。そのために搭載されたのが人間の魂だ。

 

 けれどこの機能には、一つの欠点があった。この世を正しく回す運命神が承認しなければ、自らの神話を然う然う簡単には綴れない。そんなセーフ機能があったのだ。

 正しき歴史を綴ろうとしているのに、二代目である最後の王が自分の神話を好き勝手に構築したら最後、何が起きるのか分からない。

 もしかしたら違う神話に影響を与えるやもしれない。だから人間の魂でこう言った神話にしたいですと申請をして、それに運命の担い手が承認する形式だ。

 ……つまり盟約の大法で運命神としての権能を任意で行使できるようになった僕は、自らの神話を自由自在に書き換えられる。

 

「伊弉諾が最後にお産みになられたのは火之迦具土。かの神が最後の子であるならば、熊野夫須美が最後にお産みになられた子は、火之迦具土と同一視される子に違いない」

 

 ……アテナさん。僕は屁理屈さえ用意すれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。普通ならGM(運命神)が通さないだろうが、大法を使っている間だけは僕にも承認権が付与される。

 凡ての神話の体現者(凡神)。それが普段は平凡な神様である、僕の救世の勇者としての在り方。だからこんなことだって──

 

「我は大いなる神意を以て、父たる天空を討たん。盾を鳴らし掻き消せ、山羊よ育てよ。其の物の名は、遍く天空を示す名なり……僕の父は天空神だ。印欧祖語より以前にまで遡れば、あなたがギリシャで父として慕ったゼウスと言い換えてもいい。ゆえに僕が持つ稲妻とは、すなわちゼウスの雷霆(ケラウノス)にも繋がると言える」

 

 空に浮かぶ雷球に、神話を書き加えてケラウノスの特性を付与させる。こうなれば、もうアテナさんに防ぐ手段はない。なにせ今までなんとか凌ぎ切れたのは、アイギスあってのものだ。

 火之迦具土の火焔でその力を殆ど失ってはいたが、その力の源であるゼウスの雷撃はアイギスで防げない。防御を失った大地母神の体が、紅蓮と紫電に呑まれ破壊されていく。

 それでもなお逃げようとしていたが、逃げる為の神力を破邪顕正で破壊していく。

 

「最後に光球を二つ落して……終わり」

 

 空に浮かぶ二つの太陽が地に堕ちて、大地に二つの御柱が現れた。それは宙高くまで打ち上げられて、雲も何もかもを消し飛ばす。

 ……磯葛島と沖葛島が消滅してしまった。これでアテナさんは死んだだろう……とは思わない。なぜなら神力を吸引した時に、僕は呪力のGPSとでも呼ぶべきものを押し付けてある。

 その反応を追えば……いた。最後に残っていた力を駆使したのだろう。闇夜に紛れて、一羽のフクロウがこの場から立ち去ろうとしていた。

 

「……装填(セット)急急如律令(オーダー)

 

 空に飛んでくれたのは都合が良い。若狭湾に仕込んでいた砲門が全て開き、フクロウを殺さんと弾やらミサイルやらが一気に殺到する。

 最後に近くまで呼んでおいた戦艦から『それ』が発射された。闇の神格を100%確実に殺すために用意した、恒星の群れ(ニュークリアクラスター)

 空中で小型爆弾が散布され、僕の眷属としての意識を持つ『鋼』の群れは、アテナさんを確実に殺すために空路を全て塞ぐように宙を舞う。まるで蛍の群れが一匹の羽虫を襲うように群がり──起爆。

 

 舞鶴の空を照らすように、太陽の爆発が起き続ける。いつ死んだのかは僕にも分からない。ただ666の恒星が輝いたあとには──まつろわぬアテナの反応は消滅していた。

 

「本当に消えたのかな? 地図を取り出して、占って……凶兆はなし。光学レーダーにも……反応なし。爆発時の監視映像にも……良し」

 

 これでまつろわぬ神の退治は完了した。ふぅ……こちらに絶対的に優勢な戦いだった筈なのに、まさかフクロウになってまで逃げようとするとは。流石は僕のような偽神と違い、本物の神様だ。とんでもない強敵だったよ。

 

 ……一応大地母神の力の吸引が出来ないかも確かめて、もう一度死体チェックはしておく。これにも反応がないので、たぶん大丈夫……一応レーダーは厳戒態勢にしておこう。万が一はあり得るからね。

 

「かかった時間は……5分13秒か。3分で決着をつけるつもりだったのに、やっぱりまつろわぬ神様は強いな……さて次は護堂への救援だ。待っていてね、護堂、恵那さん! すぐに行くからね!」

 

 護堂らがいる場所に向かい、僕は転移術を使用した。




ウオォ! これが愛と絆で育んだ力ぁ! 護堂を守りたいと願い誓った乙女のパワーだ! by美殊
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