前世凡人 今凡神   作:カンピオーネ二次復権派

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草薙護堂の本質と本音

 熊野美殊──運命の女王・熊野鬼鏖大神尊がプロレスも流儀も戦士としてのあれこれも全部投げ捨て、一方的にアテナを爆殺するボンバーウーマンになる少し前。

 

 アテナに向かう美殊を見送った護堂は、弓の力を使い恵那を抱えて地上に降りる。

 護堂が目の前に来たのを見たドニは、君が来るんだと薄く笑った。

 

「僕らカンピオーネの目でも闇が深すぎて見え難いけれど、アテナの方には美殊が向かったのかな?」

「そうだが、それがどうした?」

「同族である君との闘いも楽しそうではあるけれど、出来れば女神様のどっちかの方が報酬もあるし面白かっただろうなと思って」

「報酬だと?」

「権能のことさ。神様を倒す武器なんて剣が一本あれば十分だけど、やっぱり強敵に勝ったらレアアイテムが欲しいでしょ? 僕が持っていた神具で強くなったアテナ。僕よりずっと芸達者っぽい美殊。どっちもこれ以上ない獲物だけど……ま、いいや。向こうに行く前に、護堂を倒さないと駄目そうだし」

 

 ドニが護堂に突きつけるのは、漁港の堤防の中にあった鉄筋だ。大地そのものを魔剣に変えたことで切断されたコンクリートの中から、ちょうど良いサイズかつ握りやすい鉄筋を選び出したのだろう。

 その鉄筋も当然のように全てを切り裂く魔剣の神力を帯びていて、直撃すれば神殺しの合金より硬い骨でも一太刀で真っ二つになる。

 

 それを見て多少は背がぞくりとする護堂だが、でも美殊の頭おかしい宇宙兵器とかに比べたらそこまで怖くもないなと思い直す。

 立ち姿を見れば、相当にやばい技量を持った剣士だと言うのも護堂は感じ取ったが、同時に実質武神の美殊よりは何とかなりそうだとも思った。

 

「なんで俺を倒さないといけないんだよ?」

「だって、君、僕を邪魔するつもりだろ? 僕が女神様達の方に視線を向けようとしただけで、さっきから敵意を剥きだしにしてくるじゃないか」

「敵意? 馬鹿言うなよ。俺は平和主義者なんだぞ。別にお前を倒すとか喧嘩をするつもりなんてない。ただ美殊のことは諦めて、イタリアに帰ってくれたらそれでいいだけなんだ」

「うーん、それは無理かな。僕にはカンピオーネとしての義務があるからね! 日本に顕れた女神を二名も放置して帰るなんて、神殺しとしてはあってはならない失態だ!!」

 

 ドニが尤もらしいことを口にするのを聞いた護堂は──ため息の代わりに獰猛に笑う。普段は絶対にしないような顔つきで、目は闘志にギラついている。

 

「……ああ、そうかよ。それじゃ仕方ないな。平和主義を貫きたいが、それをしたら美殊が死ぬかもしれないし、人様の国でまつろわぬ神と神殺しが勝手に周辺を気にしない死闘を始めるわけか。なら、こうするしかないよな」

 

 護堂がグッと拳を握り、ドニを相手にひり付いた気配を放つ。普段は絶対に出てこない、護堂の神を殺す獣としての本質。

 ウルスラグナの時には、あくまでも友にこれ以上の凶行をさせてはいけないという義憤だった為に出てこなかったそれ。

 

 しかし明確に身内に対して害意を発露させると言い切ったドニに対して、一気に闘志のアクセルがフルスロットルで踏み込まれる。

 草薙護堂はどう言葉を取り繕ったところで、神殺しであり闘争本能の塊だ。その気質と性質はかの凶悪な魔王であるヴォバン侯爵に近いそれ。かの神殺しが魔王と呼ばれるに相応しい傲慢と横暴に振り切ったならば、護堂は義侠心や義理人情に振り切っている。

 

 美殊曰く、護堂は昔ながらのヤクザの大親分みたい。彼女は護堂のことを、一度だけだが江戸から明治にかけて東海で大活躍した伝説の侠客・清水次郎長に例えている。

 来るものは拒まず、明らかに脛に傷があるなんてもんじゃない女神を匿ったり。

 その女神のフリーダム過ぎる振舞いに振り回されることが多々あるが、それをなんやかんや受け入れてしまう。

 誰にでも愛嬌を振りまく人柄ではないが、一度懐に飛び込んできた相手にはとことん甘い。

 そう言った面が多々ある性格だが、一度鉄火場に放り込めば最後とんでもない爆発をする。相手が強大だとか、そんなことはお構いなし。

 ムカつくから戦う。身内に手を出そうとするから、怒りでそれに応える。どこの誰が相手であろうとも、いざ出すと決めたら戦意と闘争心を燃え盛らせて応対する。

 

 平和主義を貫きたいが、それで駄目なこともある。そう言った相手に対しては、実力行使で黙らせるしかないのだ。

 そんな闘争本能を籠めて嗤う護堂の顔を見て、恵那はあはっと笑顔になる。

 

「良い顔してるね、王様。普段の王様の顔も好きだけれど、いまの顔の方が恵那は好きかな」

「なんだよ急に」

「思ったことを口にしただけ。いまの王様は、なんだろう……本当の王様って感じがする。王に逆らう相手を許さない―みたいな」

「本当の俺なんてないだろ。俺は俺だよ。何をしてもな」

 

 そうだ。本当なんてない。草薙護堂とは、どこまで行っても草薙護堂でしかない。

 恵那が好きだと言う闘争心を剥きだしにした護堂も、普段の似非平和主義な護堂も等しく同じだ。

 ただ……現在は怒っているだけだ。怒りを抱くに足る要因があり、その要因をぶっ飛ばす要因が向こうから来たから笑うだけ。

 元来笑うという行為は本来攻撃的なもので、獣が牙をむく行為が原点である。それを体現した護堂を見て──

 

「いいね! ヴォバンの爺様が若い頃の話を聞いたことがあるけれど、きっとその時の顔はいまの護堂みたいだったんだろうな」

「俺を噂に聞く最恐の魔王と一緒にするな。俺は自分勝手なことばかり言うお前に、少し腹が立っているだけだ」

「僕に怒っているんだ。うんうん、怒りの火を糧として打ち倒さんとする獣。女神様達とは違うけれど……護堂を打ち倒し、生き残った女神のどちらかとも戦う。僕が本気を出すに足る相手がこれだけいるなんて、日本に来た甲斐があったと言うものだよ」

「やってみろ。お前の相手なんて、俺一人でも十分だ」

「王様、恵那を忘れないでね!」

 

 すまんすまんと恵那に謝りながらも、ああ、そうだと護堂はなお笑う。

 

 俺はドニ(お前)にキレている。何に対しての怒りなのか。

 神具を持ち込み、下手をしたら都心部で戦闘を始めていたことか? なるほど、これは怒りを抱くには正当な理由だ。俺の庭で他の神殺しが好き勝手するなど、許せるはずがない。

 巻き込まれる人の中には、護堂の知人だって多くいるだろう。知人ではなくとも、知人の友達だっている。

 

 しかし怒りとしてはまだ弱い。ならば自分のことしか考えていない、神殺しらしい発言や行動に対しての怒りか?

 それもまた護堂のイラつきを加速させている要因だ。似たような悪びれないタイプにアレクもいて、あっちとも護堂は相性が悪いが、向こうは護堂よりも体裁を気にするので理屈を持ち出せば割とどうにかなる。

 さて、そうなるとドニはどうだろうか。嫌いとまではいかないが、なんて勝手なやつなんだと護堂はその点に対しては間違いなく怒りを抱いている。

 

 だが──これらも護堂の苛立ちとしては、割合としてそこまで多いわけではない。一週間も寝たらすっかり忘れ、いつも通りに戻るだろう程度の軽い苛立ちだ。

 

 だから護堂が、ここまで一気に最高潮に達した理由。それは一つしかない。

 

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 熊野美殊を害そうと言うのであれば、こいつは俺の敵だ。それ以外の理由などいらない。

 ドニは敵意の無い美殊を相手に、刀を抜き斬り付けた。美殊が何かしたのであれば、護堂はそれをいつものように叱ろう。

 だが今回は違う。こいつは美殊が神だから、戦えば楽しそう。それだけで害意を向けたのだ。

 

 むろん美殊が、それで死ぬなどとは護堂も思わない。単純に強い弱いだけで言うならば、護堂の100倍は美殊の方が強い。事実ドニの剣技を軽くいなし、戦いを嫌う性格から速攻で護堂のところに戻って来た。

 しかし相手は神殺しだ。帳尻合わせの末に、格上である神を弑する反骨の戦士。ほんの少しボタンが掛け違えば、美殊が命を落とす危険性もある。

 

 美殊が斬られたとしよう。それで万が一亡くなれば?

 美殊の死体を前に自分は嘆き悲しみ、別れの言葉すら遺せなかった事に嘆くのか? やはり自分も行くべきだったと後悔するのか?

 愛しい人がいなくなった事実を心の傷として、残された長い一生を悲しみと共に歩み続ける?

 

 ……馬鹿馬鹿しい。そんな生き方は草薙護堂の生き方ではない。魔術師が王と崇め、神々が宿敵と定めるような魔王の生き様ではない。

 そんなくだらない生き様を受け入れるなど、()には到底無理だ。それが人として正しいのだから受け入れろと神が定めて邪魔をするなら神を殺し、悲哀と共に諦めるのが人の生き方ですと説き強制するなら仏を殺す。

 つまらない運命とやらが立ち塞がるならば、神々から奪い取った権能で以って障害物として踏み潰す。

 

 それが神殺しの生き方だ。美殊を殺さんと七頭の獣が立ち塞がったのを最後には殺したように、邪魔をするなら蹴散らし殺す。

 その程度出来ぬして、どうして最強の女神を射止められようか。どうして闘いを好まぬ女神に、生涯を尽くして守るとまで宣言させられようか。

 

 思い出せ。心に描き続けろ。()()()泣いていた姿を思い出せ。死を間近に体験したことで、一時期は刀すら握れなくなった運命の女王の姿を忘れるな。

 熊野美殊が俺の命を寿命まで守り切ると言い切ったのなら、(お前)が運命に命を狙われる女王を守り切れ。正しさこそを押し付ける神々に向かい、吠えて叫び続けろ。

 俺を殺さない限り、あいつに手を出せるなと声高くどこまでも。己に侍り命を差し出した女のために、応えてやるのが男の務めだ。

 

 獰猛に嗤え。運命を潰せ。神を殺す同胞ですら敵になどならぬと示せ。この世の末法に顕れる最後の王が侍るに足る覇道を歩め。

 だが決して、傲慢にも横暴にも進まぬ自制心を持て。それを忘れたが最後、運命の女王は俺の敵となり立ち塞がる。俺に覇道を歩ませる究極の一振りは、俺を自滅させる諸刃の剣となる。

 

 さしあたって、敵はこいつだ。美殊をまつろわぬ神と呼び、斬れば楽しそうと語るこいつを叩き潰せ。俺にまつろう事を選んだ女神を……俺の女を敵に回すと言ったのだ。ならば敵だ。俺が歩もうとする道を塞ぐなら、神々だろうが魔王だろうが関係ない。

 草薙護堂が道を歩むと決めたのだから、そこを退け!

 

「恵那。使え!!」

「了解だよ王様!! 我は最強にして、全ての勝利を摑む者の加護を賜りし者なり!! 全ての敵と悪魔を挫く王の言葉を体現するものなり!! 今こそ、その力を示さん!!」

 

 護堂の命令と共に、恵那が少年の加護を解放する。これの方が動きやすいよと美殊に渡されていたジャージが、巫女服に早変わりする。巫女装束の上には千早を纏い、頭に前天冠とかんざしを身に付けた神楽舞のための姿。

 護堂と言う神殺す王のために舞う戦士としての姿がこれだった。

 

「おー! そっちの女の子、急に存在感が増したね。さしずめ力を与える権能かな? 僕に通じるといいんだけどね」

「通じるか通じないかは……これを見てからにしてよね!! かけまくもかしこき美殊のおおまえにかしこみもうさく……らせつのきみにしづみしおおかみのみたま、いまこそ合せ祀る御祭に奉りたく、大神のくしく妙なる大威徳をかからしめ賜び給ふ!! 力を貸して草薙劔!! その本質をここに顕し給え!!」

 

 恵那は躊躇しない。相手が神殺しだと言うのであれば、戦力の逐次投入など愚策だ。初手から全力かつ殺す気で行って、ようやく立ち向かえるかどうかと言う強敵。

 神がかりを使い古老の神力を体に呼び込むと同時に、美殊から渡された力も使う。

 それは一振りの大太刀だった。サルデーニャにおいて、メルカルトの背中を斬り、腹を裂いた神刀。

 救世の神斧と同じ白金(プラチナ)色に輝く劔からは、バチバチと音を立てて凄まじいまでの放電が行われている。

 

 それを見たドニの顔から、余裕そうな表情が消える。一目見ただけで、彼も理解したのだ。恵那の持つ劔が生半可な武装ではないことを。

 

「それ何かな? とんでもない力を感じるんだけど」

「これが何なのかは、自分で喰らって確かめてみてよ」

 

 少女が握り込んだ劔に、持ち主である美殊から膨大な呪力が供給される。それは力の咆哮だった。雷撃が今まで以上に放出され、周囲を照らしだす。魔王を殺さんとする、殲滅の従属神が吠えていた。

 草薙劔改め、救世の神刀・影打ち(レプリカ)。本物に限りなく近い力を持つ神刀が、最後の王が盟約の力を使い始めたことに歓喜していた。

 

 恵那が持つ草薙劔。これは伊豆諸島騒乱を引き起こした元凶とも呼べる神具だ。

 二代目最後の王である美殊に使われることを求めて、かつて壇ノ浦に沈んだ神器が再び地上に浮上した。

 それが先代最後の王・ラーマの神具ではないかと睨んだグネヴィアと、その動きを掴んだアレクサンドル・ガスコインが来日。グネヴィアが魔導の聖杯と呼ばれる神具から力を注いだことで、ボロボロだった劔は復活した。

 

 その果てが桃太郎の降臨だ。桃太郎はラーマ王から派生した神格。ラーマの復活を願った神祖がいて、しかしラーマは復活を拒んだ。

 そのため代役として選ばれたのが桃太郎なのだ。救世の神刀から派生した草薙劔には、エクスカリバーなどと同様の神刀擬きの力があった。

 そんな草薙劔は、最後には桃太郎を拒んだ。神刀が選んだのは、二代目最後の王・熊野美殊だった。そのせいでグネヴィアは真相を知り発狂したが、それはまた別の話。

 

 最後の王である美殊に仕えることを選んだ草薙劔を見た美殊はと言えば──

 

「うーん。レプリカだからちょっと力が弱いね……あ、そうだ! なら鍛えなおそうか!」

 

 などと言い、騒乱の時に自らが処したアーサー王の神力を使って、草薙劔を強化した。アーサー王はラーマから派生した神格。レプリカとは言え、救世の神刀を鍛えるのにこれほど適した神力もないだろう。

 かくして最後の王が鋼の神格を一体犠牲にして、全力で打ち直したことで偽物は本物の領域へと近づいた。

 

 ゆえに……この武器は例え相手が神殺しであろうとも通じる。なにせ魔王殺しの兵装、それの本家本流に最も近い兵器。対魔王用の武器としては十二分だろう。

 

「サルバトーレの王様……覚悟!!」

 

 先手を仕掛けたのは恵那だった。振り下ろされるのは、ドニの鋼体すら切り裂く豪刀の一撃。直撃すれば最後、剣の王とて敗北する致死の太刀だ。

 それをドニは魔剣で受け止めて、一気に体勢を崩される。これを受けてドニはおかしいと感じた。あの太刀が強力な武器なのは一目瞭然だが、それは使い手が英雄神の時だけだ。

 どんなに強力な武装であろうと、使い手がへぼであれば襲るるに足らず。そして恵那とは、ドニからすればその辺の素人と大差ない相手でしかない。

 

 神がかりのことなどドニは知らないが、それを使われたとしても敵にすらならない。護堂の少年の加護があろうとも、まだまだ何とかなる相手だ。

 だが今のように、ドニの方が押されるほどの豪の剣を繰り出してきた。なぜと考える前に、再び恵那の神刀がドニを殺さんと迫る。

 

 ……サルバトーレ・ドニは知らない。なぜここまで恵那が強烈な太刀を出しているのかを。護堂と恵那ですら、実のところ良く分かっていない。ただ僕の加護があれば、恵那さんは強くなるよと美殊に教えられただけだ。

 理解しているとすれば、美殊と運命の担い手と──幽世から観戦して美殊が何をしたのかを察して豪快に笑う古老──速須佐之男命だけだ。

 

「はっ! 俺の妹はつくづくなんでもありだな!! まさか恵那のやつを、俺だと誤認させて最後の王に仕える従属神に仕立て上げるか!! ……運命のやつも馬鹿野郎だ。煮え切らねえ男に腹を立て、代替品として造った鋼がまさかのあれだ。世界を救済する英雄の筈が、世界を終焉に導けるようなとんでもねえバケモン産み出しやがって……」

 

 清秋院恵那が神がかりで呼び込む神気は須佐之男の力。体に宿せる力は一万分の一程度に過ぎないが、それでも神の力を一時的に宿せる。

 それを護堂の少年の加護で増幅させて、倍近くまで上昇させる。それとは別に少年の加護により、ウルスラグナの神力が恵那には宿っている。最後の駄目押しが、美殊からも供給される神がかりだ。

 鋼の三位一体とすることで、ようやく恵那は救世の神刀を振るうに足るだけの資格を得る。ウルスラグナも須佐之男も美殊も、全員神刀を使う資格を持つ鋼がゆえに。

 

 が、ここからが美殊の本領発揮だった。草薙劔を通して恵那には膨大な呪力が供給されている。盟約の大法で強化した、美殊の呪力が。

 その総量は護堂に匹敵する量であり、今の恵那は神殺しと同等の呪力を扱える。

 そんな恵那の中にある神力で、一番巨大なのは須佐之男の力。須佐之男の力を持って、神殺し相当の呪力を持つ存在。それを美殊はこう定義づける。

 

『かの者の力、正に暴風神の如き! ゆえにあれは須佐之男であろう……そなたを最後の王の従者として運命が命ずる!! とく働き給え!!』

 

 最後の王には鋼の神格を従属神として導く職能がある。これには神具が必要になるが、それを運命神としての権能で補う。

 すなわち美殊は恵那を須佐之男として認定して、従属神を強化する権能を使用している。

 

 その上で更に重ねるのは、須佐之男の神格を利用したバグ技。世界中に点在する最後の王の資格持つ英雄神達。

 その中には須佐之男も含まれている。要するに須佐之男とは盟約の大法を行使可能な神格の一柱だ。

 

『よし。恵那さんは須佐之男なんだね! じゃ、運命神()が君を救世の英雄として支援しようじゃないか!!』

 

 カラカラカラカラカラ──────────

 

 恵那の耳には奇妙な車輪の音が聞こえる。それが何なのかは彼女には不明だ。だが車輪が回る音が響く度に、全身に力が漲る。これが何かは知らない。だが誰が自分に力を与えてくれているのかぐらいは手に取るように分かる。

 運命すら踏みつぶす魔王(護堂)の加護と、運命(美殊)の支援を受けた恵那はこの瞬間だけ、人の域を遥かに逸脱する。

 美殊と須佐之男の二重神がかり。救世の神刀を通して呪力の無限供給。軍神の加護。従属神に与える最後の王の献身。そして運命の支援。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()。鋼の英雄となった恵那が手にするのは、魔王すら両断する最強の武器である救世の神刀。

 たとえサルバトーレ・ドニが剣の魔王であろうとも……易々と防ぎきれるものではない。

 しかも敵は恵那一人ではない。

 

「サルバトーレ・ドニ。俺は知っているぞ。あんたが一体何の神様達を倒したのか……俺たちは知っているぞ!!」

「今度は何かな!?」

 

 最初はポツポツと湧きだした黄金の輝き。それは護堂が言葉を口にする度に、急激に数を増していく。

 

「我は言霊の技を以って、世に義を顕す! これらの呪言は強力にして雄弁なり! 強力にして、勝利をもたらす! ……あんたが殺したのはケルトの神王ヌアダ! そして北欧の英雄ジークフリードだ!!」

 

 黄金の輝き──剣が触れる度に、ドニの神力が削げ落とされていく。それを受けて即座にドニも理解する。これらが権能を断つ剣なのだと。

 

「ジークフリート。かの英雄はニーベルンゲンの歌に語られる英雄。ネーデルラントの英雄・龍殺しのジークフリートの物語。その始まりは5世紀のライン河畔フランケンの領地だ。フン族によって発生したゲルマン人の逼迫。西ローマ帝国の滅亡。これらにより民族の大移動が始まり、ニーベルンゲン伝説は各地に伝播していくことになる。これがキリスト教の影響を受け、騎士物語と結びつき十三世紀初頭に成立したのが、お前が殺した鋼を産み出した物語だ」

「くっ面白いね!! 僕の権能そのものを破壊しようとする、黄金の剣か。それすらも全て斬って見せようと言いたいけれど……この!!」

 

 護堂の剣に対抗しようとするドニだが、そちらに意識を向けようとすればスサノオと化した恵那が飛び込んでくる。

 恵那に対処しようとすれば、黄金の剣が無数に襲い掛かる。こうなると八方塞がりになるが、それでもドニの戦意は死なない。

 

「剣よ砕けろ!!」

「このっ!!」

 

 鉄筋がバラバラに砕け散り、破片が恵那を襲う。疑似スサノオになっている彼女はその程度で死にはしないが、迎撃するために多少の手間を取られる。その間に──ドニは全速力で走り出した。

 

「あ、逃げた!!」

「悪いけれど、僕の不利な場所でやるつもりはないよ!!」

 

 追いかけようとする恵那だが、護堂がそれに待ったをかけた。

 

「追うな恵那!!」

「でも──」

「追撃は別の攻撃でするから追うな……我が元に来たれ、勝利のために! 不死の太陽よ、輝ける駿馬を遣わし給え。駿足にして霊妙なる馬よ……汝の主たる光輪を疾く運べ!!!」

 

 それは東の空から来た。つい先ほどから暗闇を切り裂いて、大地を照らしていた美殊が造り出した二つの恒星。それとは違う暁が顔を見せたのだ。

 ウルスラグナの化身『白馬』。発動条件は大罪人か、日中で太陽が空にあること。

 このうち大罪人の条件を満たしていたドニは、当然のように白馬から放射された太陽フレアのランスに貫かれる。

 

 紅蓮の業火に呑みこまれ、ドニは地獄の窯で焼かれていく。

 

「あ、くそ。あいつまだ動いて逃げようとしてる」

「恵那も追撃するよ!」

 

 恵那が草薙劔を天に掲げると、美殊の作るそれに比べると遥かに小さい直径10mほどのミニ『白き恒星』が完成する。

 それがフレアの槍と共に空から落下して、ドニを破壊しにかかった。

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