前世凡人 今凡神   作:カンピオーネ二次復権派

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最古の魔王のガチ狩り

 僕らを襲う影の正体は馬や牛ほどの大きさがある狼と、古めかしい鎧を装着して手には斧や剣、盾などを持っている死者。

 『貪る群狼』と『死せる従僕の檻』の産物。どちらもヴォバン侯爵の権能で、彼が対集団に優れた魔王と呼ばれる所以。狼は手練れの魔術師なら斬り捨てられる程度の実力しかないが、とにかく数が多い。

 死者の方もそこまでの相手は混ざっていない。僕が眼を光らせるだけで、死者を動かしていた神力が剥がれ落ちる。狼は手で撫でたら破裂して死んだ。

 護堂に襲い掛かった方も、天叢雲を手にした護堂に真っ二つにされている。彼には武の心得なんてないが、天叢雲の補助を受ける事で僕と切り結べる剣の達人になれる。

 僕がやっている武器との合一化。己で武器を使うのではなく、武器に全てを任せたら良い。それと同じことを、護堂の体と一体化している天叢雲は行っている。要するにあの劔を使うとき限定で護堂は鋼の軍神だ。

 

 襲撃者を数秒で抹殺した僕らは、建物全体を『視』る。僕の眼は青白く光り、護堂の眼は黄金の輝きを灯す。

 

「マンション全体が爺さんのトラップゾーンか。ならこうしてやる!」

 

 護堂の眼が更に輝き、建物内にいる敵対者を全て捕捉。彼らは次々と()()()に変化した。

 僕と繋がっているので、護堂の呪力操作能力は大幅に上昇している。蛇の邪眼による石化能力と即死能力を切り替えるぐらい、どうと言うことも無いだろう。

 

「これで相手は打ち止めみたいだな」

「侯爵は逃げたあとか……ひかりさんちょっと待っていてね。マンション全体を祓う前に、あいつの痕跡を探したいから」

 

 手をさっと振り、部屋に残る呪力の痕跡を強制的に可視化させる。空中には無数の残滓が埃のように漂い、淡い光の粒として現れる。

 

「追跡できるか?」

「待ってね………………難しい。かなり高度な術……どころじゃないな。これは魔導の神? 魔道神の匂い……テンプル騎士団が崇拝したとされる偽者の悪魔。現代では悪魔と言えば、彼を思い浮かべる者も多い。エリファス・レヴィがその偶像を創り、アレイスター・クロウリーがその名前を定義した。故に汝の名は──バフォメットか」

 

 僕は七面倒臭い神を弑逆しやがってと悪態をつく。バフォメットは後天的に形作られた悪魔で、魔術師らが崇拝する魔道神として創造された存在。

 バフォメットから簒奪する権能となれば、十中八九魔術関連の能力。どんな権能になるにせよ、それなら僕のレーダーをすり抜けられる可能性が高い。

 

「それって、確か山羊頭の?」

「ざっくりと言えば魔術の悪魔。それを殺して力を奪い取った以上、ヴォバン侯爵は僕に匹敵する地上最上位の魔術王だと考えて」

「お前と同格とか想像したくもないな」

「同感」

 

 力押し大好きな鋼の英雄神みたいな相手ならまだしも、魔術神絡みの権能を持つとなると脅威度は一気に上がる。向こうが持つ手札がそれだけ増えるからだ。

 神や同格の神殺し相手だと攻撃性能には劣るだろうが、今回みたいに僕に隠れてこそこそするならこれ以上のカードはない。

 

「追跡が無理なら…………よし。流石に過去映像までは消していない」

「過去の? それってあれか。サルデーニャで森を直したときみたいな」

「それの亜種だよ。どんな場所にも八百万の神と精霊はいる。彼らが視た過去を、投影させる幻術の類…………これで映し出せる」

 

 僕らの前に過去がホログラムとして投射される。

 

「少し過去過ぎるな。もう少し時間を進められるか?」

「早送りするよ」

 

 家族団らんの姿や、湯上り直後のひかりさんや祐理さんが映し出されたりするが、いま欲しい情報はこれじゃない。かなり進めると──

 

「これが今日の映像だ」

 

 時刻は夕方頃。僕らが公園で携帯片手の祐理さんに悪戦苦闘していた時間だ。

 まずはリビングにランドセルを背負ったひかりさんが姿を見せる。一番早く帰宅するのは、学校が終わる時間の早い彼女みたいだ。

 いったん自分の部屋に戻り、ランドセルを置いたら宿題を始めた。家族が帰ってくるまでの間、良い子でお留守番をしているみたいだ。

 きっといつもと変わらない日常。その筈だった──

 

 ごとん。何かの音がする。リビングで何かが倒れた音。

 

 ひかりさんがビクンと顔を上げた。

 

「な、なに? ……お姉ちゃん?」

 

 ひかりさんが時計をちらりと見る。時間としては、そろそろ姉が帰って来ても良い時間だと思ったのだろうか。

 だがそれにしては音がおかしい。あんな大きな音をさせる何かを、果たしてお姉ちゃんがさせるだろうか。そんな警戒心の見える表情だ。

 

「もしかして空き巣? ……怖いけど……師匠に貰ったこれで」

 

 僕が護身刀としてプレゼントした刃渡り25㎝ほどの短刀を掴み、ひかりさんはリビングに向かう。それを追って僕らも移動したら……そいつはいた。

 

「君が万理谷祐理……ではなさそうだな。16歳にしては幼過ぎる」

「検索……検索完了。この個体は『万理谷ひかり』。万理谷祐理の妹です」

「おお、そうか。彼女の妹であったか。それなら幼いのにも納得が行く。私が初めて顔を合わせた時の万理谷祐理も、このぐらいの年齢だったのかもしれないな」

 

 知的そうな身なりをしているが、エメラルドの瞳と薄い笑いがそれらを否定する。獣特有の匂いを充満させた姿を見れば、映像越しでもその正体はすぐに掴めた。

 

「こいつがヴォバン侯爵か」

「うん……アポロン、オシリス、ホラティウス・コクレス、イナンナ、祝融、カーリー。三百年生きている割に数は少ないけれど、それでも中々のビックネームを降しているようで」

 

 幻視による映像だろうと、こうして目視出来たなら何の神力を持つのか掴み取れる。ここに判明していたバフォメットと嵐の三位一体を足すことで合計八柱。

 これが侯爵の殺した神の数だ。単独でこれだけ殺すとは、中々の実力をお持ちのようで。

 

「あの隣にいる女の子はなんだ? 欧州の魔術師?」

「……違う。あれがバフォメットから簒奪した権能だよ」

「あれが!?」

 

 護堂の驚愕に頷いておく。侯爵の隣には黒い外套に黒帽子の、これぞ魔女っ娘な恰好をした金髪碧眼の少女がいる。これを眼で視れば正体がバフォメットの権能だと判明。

 ……そういう趣味なのかな?

 

 僕と護堂は正体をすぐに察するが、ひかりさんには不法侵入してきた謎の老人でしかない。彼女は怯えながらも、短刀を握り込んで突きつけた。

 

「あなたは……あなたは誰ですか!? い、家に勝手に入って来て!! 警察……委員会の人を呼ぶよ!?」

「委員会……この国の魔術師か。別に呼ぶのは構わないが……そちらに話が行けば、熊野美殊とやらが勘付くか。そうなると、態々お忍びで来た意味が無くなる。それは些か困り者だ」

 

 では呼べないようにするしかないな。侯爵がそう告げたとたん、ひかりさんが足元から塩に変えられていく。

 

「これ……つよ…………凶を清め、災を退け、厄を祓う! 是すなわち幸いなるものの霊験なり!」

「ほう? 私の力に抗うか」

 

 ひかりさんが禍祓いでソドムの瞳に対抗しようとする。しかし人間の出力で抵抗できるわけも無く、塩化の進行を多少遅らせるぐらいが限度。

 

「破邪顕正の力と推測されます。魔女の素質持つ者の中でも、一握りにしか確認されない貴重な力です」

「貴重か……ならば殺して私の配下にと言いたいが、此度の獲物は三つと決めている。私のコレクションに加えるのは、女神と新参者を殺してからだ。それまでは塩にでもなり、我が僕となる日を楽しみにしてるが良い」

 

 そう語る侯爵に対して、ひかりさんはこの! と言いながら短刀を投げつけるが、それは簡単に受け止められてしまった。

 

「反抗的だ……だが悪くない。従順なだけの犬よりも、歯を剥きだしにして噛みつく狼の方がよほど好ましい。そう言う人材で無ければ、従僕とするには役者不足だ」

「…………あなたが、ヴォバン侯爵。四年前にお姉ちゃんを誘拐して、変な儀式に参加させた……」

「誘拐とは人聞きの悪い言い方だ。私はただ、ヘルメスの弟子共にこう命じただけだ。まつろわぬ神を招来させるゆえ、魔女を集めよと。君の姉を選ばれたのはただの偶然。別に私が狙ったわけではない」

「そんな言い方! お姉ちゃんがどれだけ、あの時悲しんだと──」

 

 ひかりさんが憎々し気に睨みつけるが、侯爵はどこ吹く風だ。態度に一切の揺るぎが無い。

 

「見当違いな怒りを抱かれても、私としては困るな。私が配下に命じたのは集めよだ。それをどのような手段で行うのかは、魔術師の手腕次第。私の責のように問われても、どうしようもない問題だ」

「ぐぅ……う」

 

 ひかりさんがどれだけの呪力を振り絞って権能に抗おうとしても無駄だった。その手は侯爵に向けられたまま──完全に塩へと変えられた。

 それと同時刻。玄関の扉が開く音がする。トントンと足音をさせてその人物は部屋に入ってきて──

 

「ただいまひかり。ちょっと遅れちゃってごめんね。すぐに御夕飯……に──」

 

 祐理さんは部屋の惨状を見て言葉を無くす。手からはビニール袋が落ちて、卵がぐしゃりと潰れる音がした。

 

「検索……万理谷祐理と断定します」

「ようやくおかえりになったか。私を待たせるとは困ったお嬢さんだ」

「…………ヴォバン……侯爵。なぜ御身が──それにひかりを──ごど──」

 

 護堂の名を祐理さんは呼ぼうとした。危険に陥った時、護堂の名を口にすれば『強風』の第二条件が満たされる。祐理さんは状況を即座に理解して護堂を招来しようとしたのだ。

 それは間に合わない。彼女が名を呼びきる前に、侯爵の影が揺らめき背の高い甲冑姿が飛び出す。彼の動きは祐理さんのような武の素人からすれば、抗いようがない動き。首を掴まれ喉を抑えられた。

 

「何やら、誰かの名前を叫ぼうとしたようだな。とっさに封じさせて貰ったが、何をしようとしたのだろうな。お前の見解はどうだ?」

「推測…………名を呼ぶことで誰かを呼び寄せる言霊だと思われます」

「女神か、新参者か。どちらにせよ、私が用意する盤面以外でやりあう気は毛頭ない。まずは呼べないよう、言葉を封じるべきだな」

 

 侯爵が顎で命じると、仮称バフォメットが祐理さんに向かって魔術を行使。内容は言霊の封力。祐理さんは甲冑の手から解放されるも、言葉を口にできないようにされた。

 それを理解したのか、祐理さんは言葉を発することは諦めてひかりさんのように侯爵に鋭い目を向ける。

 

「ほう? 君の妹も中々反抗心の高い少女だったが、君も同じか。実に好ましい……その好ましさも、これから失われると思うと些か残念だ」

 

 祐理さんの眼がどういうことだと訴えるが、侯爵はその視線を読む気はないらしい。あれを出せと従僕の1人に命じると、一つの矢が侯爵の手に握られる。

 あれは──

 

「deva……輝く者への回帰。旧き世に変える……古への回碌」

「美殊?」

「すなわち血こそが原初への──」

 

 一目見ただけで、あれが何に使われるものなのかは理解した。同時に、どうして護堂の『強風』で祐理さんの元に跳べなかったのかも。

 

「やれ」

 

 侯爵が別に従僕に矢を渡すと、それは矢に番えられた。祐理さんがそれに反応するよりも先に──

 

「────────」

 

 矢が下腹部に突き刺さった。位置からして子宮だ。強烈な激痛だろう。言葉を封じられたことで悲鳴を上げることも出来ず、祐理さんの体が崩れ、矢が刺さった場所を抑えながら蹲る。

 

「あの、あの爺!!」

 

 過去の映像に怒りを向けたところで意味はないが、護堂の口から明らかな怒りの火が漏れ出す。

 ……それは僕も同じ。体温が上がっていく。殺すための刃が体内で研ぎ澄まされる。僕の怒りを力に変えて、魔王を殺さんと救世の武具が暴れ狂う。

 まだ待て。まだ早い。その怒りは()()と対面するまで取っておくんだ。

 

 侯爵が倒れた祐理さんを見て、状況を観察するような目をする。

 

「……様子はどうだ」

「検診を行います……正常に儀式は稼働しています」

「宜しい……さて──」

 

 侯爵の視線が僕らに向けられる。

 

「──熊野美殊か草薙護堂。どちらかは知らないが、どうせ見ているのだろう?」

「こいつ、まさかこっちを認識してるのか!?」

「違うと思う。たぶん僕がそうするのを見越して、こいつは言葉を態と残したんだ」

「──そちらがどのような反応をしているのか、どんな言葉を私に浴びせたいのかについては興味もない──単刀直入に告げておこうか。私はスポーツをしに来た。狩り(ハンティング)がしたいのだよ」

 

 楽しそうに語る侯爵に向かって、僕は中指を立てる。何がハンティングだこの爺……

 

「アルダーナーリーはまつろわぬ神である……ふふふ。これが事実にしろ、違うにしろ、女神の実力は調べれば本物のようだ。それに草薙護堂。まだ成って2年程度のキャリアで、新世代最強のカンピオーネと呼ばれているとか。その称号に相応しく、フェンリルにアテナと名高き神々を葬っているようだ」

「別にそんな称号いらないけどな」

「それにしてもフェンリルか……実は私には一つ夢があってね。私も狼の権能を持ち、それを指して狼王などと呼ばれることがある。狼の王と呼ばれることに異議はない……と言いたいが、その呼ばれ方を確かなものにするために倒してみたい神がいたのだよ。君が倒したフェンリルだ。主神を喰い殺したほどの強き獣。これを打ち倒し、我こそが最強の狼であることを証明する。この歳になると最強であることを口にするなど些か気恥ずかしいが、長年の夢なのでな。そして──」

 

 過去の映像だから認識なんてしてない筈なのに、侯爵のエメラルドと護堂の黄金が交差する。

 

「フェンリルを倒した貴様もまた、狼の権能を手にした。私と貴様、どちらの方が真に強靭な狼王なのか、雌雄を決してみるのも面白い……光栄に思い給え。お前たち二人は、この私が直々に本気で狩るに相応しいと判断した」

「何が光栄に思えだ、こいつ」

「とは言え、貴様らの領地でやりあうつもりはない。あのドニ(痴れ者)が敗北した以上、そちらの縄張りで戦うのは得策ではないからな。狩りとは何も追い立てるだけでなく、こちらの用意した罠に飛び込むのを待つのも醍醐味……そこで万理谷祐理だ」

「なんだと?」

「万理谷祐理は貴様が祭神を務める社に仕える巫女だそうだな……アルダーナーリー。魔術に詳しいらしい貴様であれば、私がこの巫女に何をしたのかを理解しているだろう」

「……もちろんだよ」

「もし理解していなければ、貴様は自らの巫女を失う……私は巫女を連れてこの国を去り、どこかに潜伏する。それをお前たちは探してみろ。もしも見つけられなければ、万理谷祐理は私の手によって命を奪われる。見つけたのであれば、私から奪い返せばよい。そういう趣旨のゲームだ。ああ、それともう一つ。このマンションには手土産を残していこう。諸君らの健闘を祈っているよ」

 

 その言葉を最後に、祐理さんを連れて侯爵は転移で消えていく。僕は転移術の痕跡からどこに跳んだのかを辿ろうとするが──

 

「駄目だ。転移先を追えないように、複数の地点を挟んでる。明らかに追われ慣れている経験がある動きだ」

「──探せるか」

「時間はかかるけれど、手段が無いわけじゃない……問題は時間があまりないことだけ」

「時間が? ……そう言えばあの爺さんは、万理谷の状態について言及してた。あいつは一体万理谷に何をしたんだ? そもそも万理谷を景品代わりにするなら、どうして弓矢を仕掛けたりしたんだ」

 

 護堂の疑問。それに対して、僕はある程度の当たりを付けている。あの矢に籠められた術式の解析は済んだから。

 

「……あの矢は魔術具だよ。あれはまつろわぬ招来の儀……の改良版。それに使うための呪具」

「万理谷が参加させられたやつを改造したってことかよ!」

「うん。元の儀式は時期に左右されるし、贄にされる魔女に左右される。それに対して、あれは素質ある魔女さえ用意できるならそれで問題ないタイプの術式」

「その……あれを万理谷は腹に射られた。そうなると、どうなるんだ?」

「元の儀式では魔女の血を暴走させて、意図的に大地母神の気配を強くさせる。そうすることで地母に絡む神格──鋼の英雄神を呼び出す。改良型は魔女や媛の素質を持つ子に撃ち込むことで、血を際限なく暴走させる。普通ならそんなことをすれば死ぬけれど、あの矢には別の術式も刻んであった」

「それは──なんだ?」

「──()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 護堂の眼が見開かれる。それが意味するところを、僕と護堂は良く知っている。なにせそれの類似例が、ここにいるのだから。

 

「美殊と同じ、やつなの、か?」

「厳密には違う。僕に使われたのが権能なら、あれは魔術版。元からすれば超劣化版だ……劣化版とは言え、効果そのものは同じだけど」

「そうだとしたら、あの矢に射られるとそいつは神になる?」

「誰でもは無理。祐理さんレベルの、先祖返り──神祖返りを起こすほどの強力な霊能者しか素材に出来ない……まずは元の儀式と同じく、媛の血を一気に暴走させる。そうすることで、神祖に匹敵するぐらいの霊格を一時的に付与させる。魔女の素質を持つ子でも、99%以上がここで死ぬだろうね。それを乗り越えたら、ベースにした子で神招来の儀を行い、同時に神構築の儀も併用させる」

 

 今回のケースで言えば、祐理さんと招来される神を素材に女神を造り出す儀式だ。彼女の血のベースになったのは玻璃の媛君──大地母神シータ。神として降臨するとなれば、そのシータか更に大本であるラクシュミー。更に遡って王権を与える女神シュリーなどが候補になる。

 

「僕が熊野夫須美の神格を持つ子となったように、祐理さんはまつろわぬ神の子と言う扱いで、招来されるであろう女神を母体とした形に再構築される」

「……万理谷はまつろわぬ神になる」

「運が良ければ、僕みたいに人格を保ちつつ生きられるかもしれない。でもそれは運が良ければの話。招来される神に意識を塗りつぶされるかもしれないし、祐理さんの人格が残っても僕みたいに神話を常に構築する機能はないだろうから……まつろわぬ性に囚われて人格が歪む」

「……俺の『強風』で無理なのは、万理谷の肉体が変質し始めてるからか」

「まだ始まったばかりだろうけれど、もう護堂の化身の対象外になるほどの進行速度。タイムリミットはそこまでない。祐理さんが完全に神になれば、侯爵は獲物として殺しにかかる……そこが制限時間だ」

 

 ……糞みたいな儀式だ。どんな意図があってこれをしたのかは察するが、それでもふざけるなと言いたい。場合によっては、お前から潰すぞとそちらに意識を向けておく。

 

「……ひかりやマンションの住人は後回しだな」

「悪いけれどこっちに時間や力を使っている場合じゃない……僕は侯爵の捜索に全力を尽くす。護堂も力を溜めておいて……見つけ次第、乗り込んで祐理さんを奪還し、あいつを殺すから」

「……そうだな」

 

 殺しは無しだとは護堂も言わない。これはライン越えだ。僕は術を行使して、地球全土からあいつがどこにいるのかを探す。地球全土ではなく、もし幽世にでもいたらお手上げだが。

 

 その間に、護堂はひかりさんに近づき伸ばされた手を握っていた。

 

「あの爺さんを止めようとしたのか? ……もしかしたらお姉ちゃんを攫いに来たのかもと思って……待っててくれ。お姉ちゃんを連れて戻って来て、ひかり達全員も助ける。誰一人として取りこぼすつもりなんてない……それは()()()()()()()()()()()

 

 立ち塞がるなら容赦はしない。漏れ出す戦意は神殺しの獣。護堂がそう望むのであれば、僕も全てを捻り出して見つけてやる。

 

「待ってろ老害。最悪の事態になれば、お前には()()()を見せてやる」

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