前世凡人 今凡神   作:カンピオーネ二次復権派

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そっちがガチならこっちもガチだ

 お腹がいたい……そこだけ火に炙られているかのように、灼熱が宿っている。

 どれだけ痛みを和らげようと治癒の術を使っても、決して元には戻らない。熱さだけがいつまでもじくじくと体を蝕み、下腹部以外に寒気が広がる。

 

 ガチガチと歯が鳴るのは、寒さか痛みに耐える為か。

 

「苦しいかね? なに、その苦しさは君が生まれ変わるために必要な痛みだ……そう言えば大昔に、激痛に襲われる中義母とやらに言われた物だ。この痛みは私が最強の高みに至るために、必要なものだと。最強か……」

 

 視界の中で老人が懐かしそうに眼を細めながら、遥か虚空をエメラルドの瞳で見つめている。その瞳が昔は怖かった。その顔が昔は恐ろしかった。

 稲妻を操る恐ろしい魔王の姿が幻視される。私はどうなっているのだろう……手足が全く動かない。なのに意識だけは鮮明で、霊視や精神感応の力だけが増大していく。

 

 受け取りたくない意識が流れ込む。雑踏の群れが歩く度に何かしらの意識が漏れ出て、こちらに伝わってくる。嬉しい、悲しい、楽しい、怒る。喜怒哀楽、全てが多数同時に押し寄せて、意識を塗りつぶし剥がそうとする。

 痛いのはお腹だけじゃない。時間が経つに連れて、頭痛や耳なりがし始める。

 

 自分の体が自分では無くなるような感覚。何かに乗っ取られていくように、心の底から全てが塗りつぶされていく。

 思わず手を差し出してしまう。誰かがその手を取ってくれることを願って……死ぬよりも悍ましい何かが怖くて。

 

「助けでも求めているのか? 残念だが、救助の手はすぐには来ない。私たちがどこに潜んだのかを探っているだろうからな……熊野美殊と草薙護堂。はてさて、やつらは私を見つけだせるかな? 見つけ出せたとて、その真価を出せはせんだろうがな」

 

 その名前に思わず反応してしまう。自らの人生に深く関わるようになった名前。東京で起きた大神大戦。七頭の神狼と羅刹の君の闘争。

 

 あれが終わった直後、七尾の御社を預かるようになったばかりの、まだ中学生だった自分に委員会からの要請があった。

 羅刹の君の真贋判定。羽田の戦いでほぼ黒と断定はされていたが、それでも99%を100%にしなければならない。

 羅刹の君──もしもそれが日ノ本に出たならば、あらゆる術師はひれ伏さなければならない。彼らが人の身では敵わない、神すら降す地上の覇者ゆえに。

 

 自分にとって、彼らは暴風雨のようなものだった。人の意識なんて気にもせず、踏みつぶされる草花に見向きもしないような暴君。神と戦うことだけが生きがいの、暴虐なる魔王。それが神殺し。

 

 そう思うようになったのは、間違いなく四年前の儀式が原因だ。集められたのは自分より幼い子もいれば、少し年上だった人もいる。大半が状況に困惑し、混乱し、怯えていた。

 中には気丈に振舞う人もいたが、それらは少数派だ。

 自分はどうだっただろうか。平常心を保っていたような気もするし、そうで無かったような気もする。

 

 一つだけ確かなのは、目の前の老人は儀式の贄となって倒れた子らを気にもしなかった。それを改めて問えばきっとこう答えてくれるだろう。

 

その程度で倒れる才の無さを押し付けるのは止めてくれ給え。私にとっても、あの儀式は残念な結果に終わったのだよ。

 

 悪びれもしない。そう振舞うのが当然と思っている相手と同類に──東京の街を破壊しかけた相手に会って、真贋を問えと言うのだ。

 事実上の死刑宣告だと感じた。命を賭けろと言うのに等しい。

 それでも──自分は武蔵野の媛巫女。七尾を預かる身。己にはこの国の行く末を守る義務がある。

 

 しかし義務に準ずる使命感は恐怖を消し去ってはくれない。今よりもまだ神殺しに対する強い忌避感を抱いていた時期だ。

 両親や妹とは死別になるかもしれないと話をした。反応は様々だが、それらが事態を変えるわけでもない。その日の夕食は、自分の好きな食事だったことだけは覚えている。

 

 そうして顔を合わせた少年は──神殺しだった。それもただの神殺しではなく、あの魔王と同じ多数の狼が後ろに垣間見える存在。草薙護堂と呼ばれる少年こそが、神すら喰い殺す獣を引き連れる長だった。

 横にいる大地母神は権能による従属神と伺ってはいたが、従者なんて呼ぶにはあまりにも強大な力の持ち主。力の大きさだけで言えば、主である羅刹の君すら遥かに凌ぐ。

 

 自分のような矮小でちっぽけな人間とは違う、狼と巨象。それらを前にして平伏し、命を差し出すからどうかこの国の人間には手を出さないで欲しい。そんなお願いをしたことを覚えている。

 受け入れて下さらなくとも仕方ないと諦められるような、儚い願い。それをお聞きくださった魔王と女神は顔を見合わせて──

 

「おいおい、馬鹿言っちゃあいけねえぜ。僕が天然美少女さんの命を奪うように見えるなんざ、これはお天道様もだまっちゃいない。お花は愛でるものであり、詰むのは御法度。これがこの世の真理なんだよ」

 

 ──当時は何を言っているのか分からなくて、ぽかんとした。現在でも分かるかと言われたら頭のおかしい方なので真意が掴めないことも多いけれど、当時はなおさら理解不能だった。

 女神がそんな感じなことに天を仰がれた羅刹の君は、私にこう仰られた。

 

「……万理谷さんだったな。あんまり気にしなくていいぞ。俺も最近分かって来たんだけど、この女神様はこんな性格なんだ」

「こんなとは何さ、こんなとは」

 

 それが初の顔合わせ。普通の真面目な少年にしか見えない羅刹の君と、どこかズレた御解答をされる変な女神のコンビ。

 

「祐理さんは自分の美少女っぷりに無自覚だねぇ……こんなに可愛らしい顔をしておいて、私なんてとか嫌味な謙遜だよ」

「み、美殊様! そのように寄りかかられましても、私など御身の足元にも及ばないと言いますか……」

「万理谷が嫌がってるだろ!! 全くこいつと来たら!!」

「もひゅもひゅほっへふぁおもひぃさんみたいになる~」

「く、草薙さん。私は大丈夫ですので、美殊様の頬を解放してあげてください」

「いーや、駄目だぞ万理谷。そんなことをしたらこいつは学ばないからな。万理谷も遠慮せず、このお馬鹿に説教してもいいぞ。それぐらいしないと、反省しないからな」

「反省はしているさ! 後悔をしていな──あ、待って。僕の親指はそっちにまがらない──」

 

 神様らしくない神様と、神殺しらしくない神殺し。いつからだろうか……困った性格の美殊様と、それに振り回される護堂さん。そんな御二人といるのが楽しくなったのは。

 

 君臨するような大君では無いけれど、一緒にいると心が落ち着く羅刹の君。面倒見が良く、遊び方まで伝授しようとするやんちゃな性格の従属神。二人とも人間なんて及びもつかない力を持つのに、どこまでも優しかった。

 ……いつからだろう。少しだけ美殊様が羨ましく思ったのは。

 権能となっても、神としての力を損なわなかった鋼の力を持つ大地母神。護堂さんが戦場に立つ時、必ず傍にいて背を守る。あの関係を羨ましく感じたのはいつからだろうか。

 

 ──私も、護堂さんのお役に。恵那さんのように──何を考えているのだろう。熱で体がおかしくなっている。脳の中で血が泡立ち、思考を犯していく。自分はまだ残っているのだろうか。

 

「血涙を流すか。泣けるうちに泣いておけ。その体の置換が完成した時、君は私の獲物となるのだ。そうなれば泣くことなど不可能になる……なにせ私に狩られるのだから」

 

 狩る……獲物()。そうなった時、私はどうなるのだろうか。せめてもう一度、恵那さんや家族に──御二人の……手を……

 

 

 

 

 

 

 万理谷祐理の拉致から一夜経ち。護堂はいつも通り学校に登校し、いつも通り着席する。いつも通りの日常だが、唯一の違いは隣の席に美殊がいないことだ。

 

「あれ? 熊野さんは御休み?」

「ん? ああ、らしいぞ。俺のところに連絡があった。身内に不幸があってこれないらしい」

「そうなんだ……大丈夫かな、熊野さん」

「声は少し覇気が無かったけれど、そこまで心配はいらないと言ってたから、たぶん大丈夫だ」

 

 ……身内の不幸とは言うまでもない。祐理は美殊に取って身内同然だ。護堂にとっても、付き合いが長い少女。

 既に正史編纂委員会には事情を伝えていて、草薙王の成すがままにと返答されている。

 普通であれば媛巫女一人攫われたところで、相手が神殺しである以上委員会は黙殺するしかない。だが護堂がやる気で、美殊が殺意に溢れている以上は事情が違う。

 

 神殺しが戦えば被害が出るだろうが、護堂は退く気なんてない。一発までなら我慢しよう。二発までなら説得しよう。だが身内を殴られて黙っている気は一切ない。

 

「……ヴォバン侯爵」

 

 どのような意図があったのかは分からない。護堂はその名を呟き、クラスメイトらは一瞬だけどうしてか鳥肌を浮かべる。

 誰も気づかない。表面上はいつも通りの護堂だが、既に戦意が十分溜まっていることに。

 それでも普段通りに学校に来たのは、これが護堂にとっての戦闘前の普通だから。

 野球をやっていた時からそうだった。シニアリーグの選抜大会前日でも、呼吸を整えたり精神を集中したりなどはしない。何か特別なことは一切しない。

 普通の日常から普通じゃない非日常にシームレスに以降する。

 

 それが護堂の戦い方だ。これを崩すつもりはないし、崩せば勝てないと本能が理解している。祐理を攫われたことに怒りを抱いて、喚き散らしたところで侯爵には勝てない。

 その瞬間まで普通の護堂であれ。自分が焦る必要も、激怒も不要。それらは闘争に不要だ。必要なのはその瞬間に発露する闘争心のみ。

 

 だから護堂は待つ。世界のどこかを飛行し、転移し、監視カメラの映像を網羅し、精神感応で多数の意識を覗き込み、どこかにいるであろう侯爵を捜索する美殊の連絡を待つ。

 たった一人でもいい。目撃してくれていれば、そこから追えると美殊は断言した。それが無理でも、()()()()()()()()()使()()()()()()()に見つけると約束したのだ。

 

 だから護堂は不安がらない。己が持つ最強をすら超える、『究極』が絶対とまで言い切ったのだ。だからその瞬間まで──神殺しの獣は餌を待つ。抑え込もうとしてもふとした拍子に漏れ出し、護堂がそうであると知らぬ同級生が、本能的に怯えるほどの牙を覗かせて。

 

 

 

 

 

 コンコンと扉が叩かれる。その音にヴォバンは反応した。

 

「ルームサービスは頼んだ覚えはないのだがね」

 

 まさか見つかったのか? そう思うヴォバンだが、然しそれならなぜノックなどすると怪訝そうな表情をした。

 追い返すか、それとも確認するか。

 

 その思考をヴォバンはふんと鼻で笑う。此度の狩りは本気を尽くすと決めはしたが、臆病な狩人のように四方八方を警戒するのは己の流儀ではない。

 見つかったのであれば真っ向から噛み砕き、そうでないのであれば別段何の問題もない。

 

「入れろ」

 

 ヴォバンがそう命ずれば、死人の従僕が一人扉まで行き来訪者を招き入れる。

 上から下まで確認すれば、それはヒスパニック系の女性だった。制服を着用し、ワゴンにはワインを積んでいる。

 

「貴様は?」

「ウィリアムズ様がご用命された、ワインをお持ち致しました」

「ワイン? 私はそんなものを頼んだ覚えはないのだがね」

 

 ウィリアムズとは、ヴォバンがいる部屋を借りていたどこぞの富豪の名前だ。今回の潜伏に当たり、ヴォバンはとある場所のホテルを選択した。仮にあの二人を迎え撃つのであれば、ここが相応しいと判断して。

 そのとある場所とは──マンハッタンの五つ星ホテル・『ザ・カーライル・ローズウッド』。

 

 なぜここを選んだかと言えば、今回の獲物として選んだ二人が、何かしらの破壊権能を持つとバフォメットの予測に引っかかったから。 

 狩りの基本とは獲物の得意技を封じることにある。ヴォバンがいるここは南に行けば金融の中心地『ウォール街』もあり、ホテル周囲にしても多くの人間がごった返している。

 もしもここで破壊特化の力を使えばどうなるのか。神殺し同士の闘争は歴史上においてそれなりにあるが、その中でも比類なき犠牲が出る。マンハッタン島がこの世から消滅すれば、世界規模の大混乱に陥る。

 

 むろんヴォバンは人命も金融も世界経済も日米の関係も気にしていないが、護堂たちの方はどうか。それらの闘争には必要ないお荷物を抱えて、どこまで戦えるか……

 だからここなのだ。ヴォバンはまだ宇宙兵器などは知らない。しかし300年も生きれば、経験則と直感が危険物を嗅ぎ分けてくれる。

 こここそが、強者であろう二人に枷を付けられる絶好の狩場なのだ。

 

 そんな思惑はさておいて、借主であったウィリアムズは物置で塩になっている。だからルームサービスなどは知らない。ヴォバンの警戒心が強くなり、とりあえずこのホテリエを塩に変えるかと思い──

 

「そのワインは私からの贈り物だよ」

「なに?」

 

 ヴォバンが振り返ると、その人物は部屋にいた。どこから来たのかは知らない。どうやって入ったのかも不明。確実に言えることは、酷く奇妙な恰好をしていることだけだ。

 黒い衣装と、昆虫の複眼を思わせるバイザーという奇抜な衣装に身を包む漆黒の怪人。見る人が見れば、これを変身ヒーローのパクりと言うのかもしれない。

 ヴォバンはとっさにソドムの瞳を光らせるが、その人物は今までの犠牲者のように塩にはならない。まるで何事も無かったかのように、漆黒のマントを翻らせてブーツを鳴らす。

 

「……この国には、奇妙な恰好をする私の後輩がいると聞いた。貴様がそうか」

「いかにも。サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン侯爵だな。お初のお目にかかる……ジョン・プルートー・スミスだ。人にはジョンやスミスと呼ばれている」

 

 恭しく、そして大仰に礼をする彼を見て、ヴォバンは目を細めた。同類がなぜここに? と言わんばかりの視線だ。

 その目つきを読んだのか、手を大きく振りながらスミスは説明を始めた。

 

「そのように睨まないでくれ。侯爵のような輩がこの国に顕れるのであれば、私が対応せざるを得ない……ロサンゼルスの守護聖人などと呼ばれてはいるが、あいにくとこの国全土が私の守るべき領域なのだよ」

「ふん……それで不法侵入か。どうやって私を察知した」

「それを教える義務があるかな? ヒーローには秘密がつきものだ。そうだろ?」

「ヒーロー? つまらぬ言葉だな……まあよい。顔を見せに来ただけであればそれで結構。私は忙しいのでね。お帰り頂こうか」

「それはこちらの台詞だ、侯爵殿。あちらの部屋の気配──」

 

 スミスがある部屋を指さし、パチンと鳴らす。

 

「あちらからまつろわぬ神の気配がする。それを放置して帰れとは、些か無粋ではないか?」

「貴様には関係のない問題だ……と言ったら、君はどうするのかな?」

「この国を守る身としては、こうするほかないだろう」

 

 いつの間にかスミスの手にはリボルバーが握られている。見た目は何の変哲もない拳銃だが、それを見てヴォバンは面白いと呟く。あの銃からは、己を殺せる力を感じ取れるのだ。

 

「……それは私と争う。そう判断することになるぞ」

「その判断で正しい。貴殿にはよからぬ話が多くあり、数年前にはまつろわぬ神招来の儀式など、くだらぬことを企んだ話がな……私が察するに、その儀式をここで行っている。その結果として、神が降臨しようとしているのではないか?」

 

 ならばこうするほかない。そうだろう? 突きつけられたリボルバーの引き金に力が入り、正に発砲される寸前だ。

 ヴォバンが臨戦態勢に入り、意識が眼前のスミスに向けられる。

 部屋の中にいた従僕らも、全てがスミスに向かって各々の武器を取る。

 VIPルームには一触即発の空気が漂い、神殺し二名の間で殺し合いが始まろうとして──

 

「がふっ!!」

 

 侯爵の胸──心臓の位置から刃が突き出された。()()()()()の輝きをした、大振りな刃が。

 

「かくもかしけき大神の刃。御前の御命頂戴いたす」

「ごっがっがっが──」

 

 見た目には顕れない、莫大な電流が侯爵の肉体を内部から焼き斬ろうとする。ついでと言わんばかりに、数百数千の呪詛が体内から蝕み、細胞全てを毒素に犯していく。

 

「ぎざ……ま……」

「──注目するよね。スミスさんが……同格が、お前を殺せる武器を持って狙ってるんだ。そっちに注目しないとまずいんだから──」

 

 刃を握るのは、先ほどワインを運んできたピスパニック系のホテリエ……などではない。その姿が幻像のように揺らぎ、本当の姿を見せていく。

 

かの御子、草薙劔を持ちし者。ゆえに草薙劔を持つ汝の名は、ヤマトタケルと運命は定義するものなり。

 

「くまの──」

「お前が僕の名を呼ぶな」

 

 左目にいつもの青い目を。そして──右目を紅蓮色の灼眼に輝かせた美殊が、手首を返して救世の神刀を上段に跳ね上げる。

 心臓の部位から上に一閃。狙いは首を断つ。

 

「ぬくああああ!!!」

 

 侯爵はどうしてを問わない。既に見つかり奇襲を受けた。それだけを理解していれば、まだどうとでもなる。刃が首を斬り飛ばす前に、前身して回避。

 心肺が焼かれたのと、いまなお呪詛が体内で暴れ狂っているが全て意志一つでねじ伏せる。

 振り向きざまに『疾風怒濤』による雷撃を仕掛けようとするが、美殊の灼眼が──破邪顕正の迦楼羅炎が禍祓いとして機能し権能を焼き尽くす。

 

「侯爵閣下。私から目を離すのもまずいのではないか?」

 

 スミスが発砲。リボルバーの銃口から飛び出したのは、彼が持つ権能──アルテミスの矢だ。青白い光はヴォバンを殺さんとせまるが、それを体を捻って無理やり避ける。弾丸は美殊に向かって突き進み──

 

「あげる」

 

 それを()()()()して、美殊は投げ返した。ボンッと音を立てて、ヴォバンの腹部が弾け飛ぶ。

 

「グ……オオオオオ!!!」

 

 普段であれば狼に変身する、従僕を盾にするなどで防げたが、美殊が『盟約の大法』を発動している以上、あらゆる権能が強制的に機能停止させられる。

 さらに言えば──今は()()()。アテナを5分で抹殺し、ドニを秒殺した二人版から更に強化されている。

 それでも──美殊は容赦するつもりはない。

 

「護堂、来て」

 

 運命は定義する。いま最後の王は三人の神殺しを前にしている。つまりは危険な状態だと。すなわち『強風』の化身の条件を満たした。

 室内に風が吹き、護堂が出現。

 

「我は最強にして、猛る駱駝の印を掲げるものなり!!」

 

 出現と同時に、雄牛と駱駝の二重化身。蹴りは寸分違わず首に当たり、ヴォバンの頭をさく裂させ、首から上を消滅させる。

 腹部が消滅し、心臓と肺が焼かれ呪詛がいまだに荒れ狂い、頭が砕けた。どう見ても死んだとしか言えない状態だが、美殊の手は止まらない。

 

「封!」

 

 先ほど刃を突き込んだ心臓部位にお札を差し込み、メルカルトの時と同じ要領で封印……なのだが、それでも彼女は止まらない。

 

「護堂。指輪貸して」

「これか? ほら」

 

 プロメテウスの指輪を嵌めた美殊は、続けてこう定義する。

 

かの王はプロメテウスの力を持つ者。ゆえにプロメテウスと解釈することが可能。ゆえに汝には偸盗の力も受け継がれている──

 

「奪え」

 

 封印されたヴォバンのぬいぐるみから、次々と神力が奪い取られる。アポロンもオシリスもバフォメットも──一切合切を赦さず強奪。

 まだ終わらない。ヴォバンの入ったぬいぐるみを、どこかから取り出した簡易護摩壇にセット。

 

「ノウマク! サラバタタギャテイビャク! サラバボッケイビャク! サラバタタラタ! センダマカロシャダ! ケンギャキギャキ! サラバビギナン! ウンタラタ! カンマン!」

 

 不動明王の火界咒。それも大咒。使うのは盟約を発動した、本物の熊野美殊(不動明王)急急如律令(オーダー)を一切使わず、一心不乱にあらゆる障害や障りを打ち破り、取り除く破邪を焼き払う炎を唱え続ける。

 

殺す(ノウマク)滅ぼす(サラバタタギャテイビャク)滅す(サラバボッケイビャク)誅す(サラバタタラタ)潰す(センダマカロシャダ)毀す(ケンギャキギャキ)崩す(サラバビギナン)亡ぼす(ウンタラタ)(カンマン)

 

 一心不乱に人形を焼く美殊に、今回呼ばれたスミスと、も、もういいんじゃないか? と止めるべきか悩む護堂の二人を差し置いて、それでも熊野鬼鏖大神尊は燃やし続けた。

 投入される呪力は神殺し十人分以上。たった一人の魔王を魂まで焼き尽くすために、彼女は一切の手を緩めない。

 ……護摩壇が燃え尽きた時には、侯爵の入った人形は残っていなかった。

 

「ふぅ……23時間か……」

 

 強かったと美殊は呟いた。




美殊『僕らは警戒対象だったかもしれない。だがスミスさんはどうかな?』

Q:相手がガチならどうする?
A:無関係な魔王を動かし、盟約を強制発動。八咫烏の権能で見つけ出し、無関係な魔王に囮になって貰って、意識が反れたところを完全ステルスから三人版盟約ソードでアンブッシュ。何かする前に三人版破邪顕正で動きをけん制しつつ、魔王をもう一人召喚。魔王二人がかりで勝利の運気を無理やり呼び込み、封印してから復活に使用できそうな権能を含めて神力を完全強奪。それらが戻る前に魂まで焼き祓う
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