前世凡人 今凡神   作:カンピオーネ二次復権派

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大地母神転生の儀式

「ありがとうスミスさん! また今度遊びに来るね!!」

「礼を言うのはこちらの方だ。神祖アーシェラの討伐と、マンハッタンを救ってくれて礼を言おう。今度来るときは、きっちりと飛行機で来てくれたまえ」

 

 スミスさんにお礼を言ってから、僕らは『旅人』の権能で日本に帰る。空間歪曲を通り抜けると同時に、僕の盟約が解除された。

 

「久しぶりの日本って感じがする……」

「一時間も経ってないのに、どっと疲れた感じがするな」

 

 到着したのは、七尾神社の境内だ。ここは僕の聖域なので、いきなり次元の裂け目みたいなのが宙に出現しても見られる恐れはない。

 

「……何年も離れていたみたい」

 

 そう言いながら、祐理さんは玻璃色の瞳で七尾の御社を見つめている。亜麻色の髪と、神特有の人間ではない瞳の色。

 儀式を中断したとて、人間には戻らない。細胞レベルで神の体に置き換えられた祐理さんは、僕と同じような状態だ。

 

「体調はどうだ?」

「大丈夫です。むしろ、今までよりもずっと体調が良いぐらいで……こんなことも出来るんです!」

 

 護堂の問いかけに元気そうに振舞いながら、祐理さんはジャンプして空中で縦に3回転する。

 祐理さんは小さな頃から体が弱く、1キロ走るだけで次の日筋肉痛に苛まれるほどの虚弱体質。僕の滋養料理でかなりその辺は改善されていたが、こんなことが出来るほどじゃなかった。

 

「人間の体とは雲泥の性能差だからね、神の肉体は。詳しい検査をするまでは断言出来ないけれど、祐理さんの体は僕のそれと同等になってる可能性が高い。フルマラソンを30分で完走も夢じゃないよ」

「時速80キロで走れるのか……」

「護堂だって、走ろうと思えば一時間で完走だよね?」

「それはそうなんだが……」

「わ、私がフルマラソンを!?」

「万理谷が驚くポイントはそこなのか?」

 

 ……今のところ、祐理さんの人格に影響は見られない。あの術式の構造は、当初僕が思っていたのとは微妙に違った。先にハードウェアである肉体を改造し、そこにソフトウェアである神格を神招来の要領でインストールさせてまつろわぬ神を完成させる。

 僕は同時に行われると考えていたが、器を造ってから水を注ぎ込む方式だ。そちらの方が、より安全かつ確実に神を招来させられる。

 

 祐理さんはハードウェアまでは置換が終わっているが、ソフトウェアはまだこれからだったのか数%しかダウンロードされていない。だから人格は無事なのだ。

 でも予断が許されるかと言えば、残念ながら首を縦には振れない。

 

「祐理さんはいまのところ大丈夫そうだから、マンションまで戻ろうか。祐理さんの御両親も心配してるだろうし、ひかりさんを元に戻さないといけないから」

「美殊様、その、ひかりがソドムの瞳の犠牲になったことは知っているのですが、お父さんとお母さんは平気だったのですか?」

「御二人とも、帰宅が遅れてたおかげで無事だよ」

 

 行くよと僕が言葉を投げかけたら、了解分かりましたと声が帰って来たので、転移術で虎ノ門の万理谷家に移動。

 

「祐理!」

「お母さん!」

 

 祐理さんの姿を見るや、まだまだ現役女子大生で通りそうなお人が祐理さんに駆け寄る。そのまま娘を抱きしめようとするが、僕は間に挟まってお母さんを静止させる。

 今の祐理さんは神様に成りたて。うっかり力を籠めすぎると、お母さんがぶちっと潰れてしまうかもしれない。

 その旨を説明したら、娘の髪色と瞳を見てお母さんは少し複雑そうな表情をした。彼女には祐理さんに使われた術式について説明してある。

 

 娘がもう人間では無くなったことについて、それは複雑ではあるだろう。お父さんもどうしたら良いのか分からないのか、右往左往している。

 

「そんな顔をしないで、お母さん。ほ、ほら! 私はこんなに元気だから!!」

 

 そう言いながら力こぶを作るように腕を曲げる祐理さんを見て、両親は少しは顔を緩めた……ああ、この後、護堂や祐理さんを含めてしなきゃいけない説明を考えると、凄くお腹が痛い。

 家族が再会を喜ぶ傍らで、僕はマンションを封鎖していた委員会の人に話して、全員配置につくようお願いする。

 

「……僕が主軸でやる。護堂は権能のコピーと、『戦士』の剣をお願い」

「任せろ」

「──陰陽となりて太極を成せ。急急如律令(オーダー)!」

 

 いつも通り呪力を増幅してから、草薙劔を取り出して不動明王の権能を行使する。蛇の如く炎が絡みつき、救世の神刀を一時的に倶利迦羅剣に変化させる。

 ついでに僕の禍祓いを乗せて、権能破りの能力を底上げする。

 

「相棒は美殊のあれを模倣しろ! ──我は言霊の技を以て、世に義を顕す! これらの呪言は強力にして雄弁なり、勝利を呼ぶ智慧の剣なり! ──俺は知っているぞ。ヴォバン侯爵が遺した塩の柱。それを成す神が何なのか、俺は良く知っているぞ」

 

 護堂を中心に黄金の剣が産み出されて、マンション全体を切り刻みにかかる。それに合わせて、僕と護堂は倶利迦羅剣を構えて──

 

「せい!!」

 

 迦楼羅炎が建物内の全てを焼き祓いにかかる。呪力の一切合切を徹底的に焼き尽くし、黄金の剣が権能を破壊する。

 次々と塩の結晶にされた人たちが解呪されて、生身の肉体に戻っていく。

 一分ほどたっぷりと焼いてしまえば、全員が元通りに戻る。

 

 これで解呪の方は完了。あとの始末がし易いように、万理谷家以外の住民全員を精神感応で操作し、ベッドに移動させて就寝させておく。

 

「あとは任せます。そちらの手腕に、草薙陛下は期待されていることをお忘れなく」

「はっ! 必ずや!!」

 

 エージェントにあとの始末を託してから、再び万理谷家に戻ったら──

 

「ひかり!! ああ、良かった……よく頑張ったね……」

 

 と、両親に抱きしめられるひかりさんがいた。本当に良かったねぇ……と言いたいが、僕にとって本番はここからだ。

 

「草薙様……美殊様。御身らには、私達家族は感謝してもしきれません。娘を無事奪還してくださり、誠にありがとうございます!!」

「あの爺さんが俺の身内に手を出したから、ただ対応しただけです。俺は礼を言われることなんて……」

「あいつがこの国を目指した原因は、僕にもある。それに祐理さんを巻き込んでしまったのは僕のせいだ……それに無事……と言う訳でもない」

「──無事じゃない?」

 

 僕の言葉に、護堂が怪訝そうな顔をして、その他は祐理さん含めてギョッとする。無事じゃないとはどういうことだと──

 

「その辺りについて詳しく説明はしますから、全員座って貰っても良いですか?」

「……分かった」

 

 護堂がストンとソファーに腰を下ろしたのを切っ掛けに、全員が同じように座ってくれる。それを見渡し、こほんと咳払いしてから事情を喋り始める。

 

「まず現状の祐理さんですが、髪色と玻璃色の瞳を見て分かるように、肉体が大地母神のそれに変質しています。人間の肉体では無くなりました」

「え? そ、そうなんですか!? 美殊姉様が教えた神祖化の秘術を使っているのだとばかり……」

「あ、ひかりさんは塩になってたから、詳しくないのか。あのね──」

 

 祐理さんの肉体そのものを神に変えて、まつろわぬ神を招来する儀式。その説明を受けたひかりさんは、そんな──と声を漏らした。

 

「祐理さんが神祖返りを起こすほどの媛だからこそ、あれを撃ち込まれても生き残れた。儀式も途中で破壊したことで、祐理さんはハードウェア……肉体だけが神のそれに変化しました。ソフトウェアに当たる中身はインストールされていません。だからこそ、万里谷祐理としての意識を保てている。今の祐理さんは、大地母神・万里谷祐理と呼べる状態だ」

「……もしも……そのソフトのインストールとやらが行なわれていたら?」

「完全な神に変化します。今回祐理さんを核として降臨しようとしていたのは、吉祥天だよ……」

「……でも、でもですよ? それが途中で中断されたなら、お姉ちゃんは無事になる筈ですよね!? それがどうして無事じゃないん……ですか?」

「……数%は祐理さんの中に入った。神話を核とした、女神の残滓が入り込んだんです。それは祐理さんの意識と融合している……まつろわぬ性に繋がる要素が、祐理さんにもいずれ影響を及ぼす」

 

 それを聞いたご両親とひかりさん。そして祐理さんと護堂がそんな! と大きな声を漏らす。

 

「いずれ、祐理さんはまつろわぬ祐理になる。そうなれば元の人格から大きく外れ、まつろわぬ性に変化する……まだ人格に影響が出ていないのは、吉祥天の神力が少ししか流入していないから」

 

 僕がそう告げると、部屋の空気が一気に重くなる。助かったと思っていた身内が、いずれはまつろわぬ神そのものに結局は変わってしまう。そう告げられてしまえば、雰囲気の一つや二つ重くなってしまうだろう。

 ……だが護堂だけは、僕の目を見て語り掛けてくる。そんな結果を、お前が許すとは思えないぞ……かな?

 その通りだよ、護堂。僕がハッピーエンド以外許すわけないだろ。そうでなければ、あの時ハイタッチなんてしていない。

 

「ですがご安心を。三つほど、解決手段をご用意しています」

「そ、それは本当ですか! 娘は……祐理が助かる方法とは一体!!?」

「……一つ目。最後の王()が抹殺し、祐理さんを神祖に変える」

「抹殺!?」

 

 お父さんはびっくりしているが、これは割とあり寄りの手段だ。弑逆された大地母神が神祖になるかどうかは運次第だが、僕が殺す限りは100%神祖に転生する。

 

「ただしこれには欠点があり、神祖に転生するのは数百年かかります。それに祐理さんの記憶が引き継げられるかは、一切確約できません」

「……その方法は駄目だな。万里谷が助かるとは、到底言い切れない」

「だよね……次、二つ目。護堂が祐理さんを殺害して、僕が簒奪の儀式を行い祐理さんを従属神として権能化する」

「殺害!?」

 

 お母さんがびっくりしているが、これは割とあり寄りの手段だ。上手くいけば祐理さんをそのまま護堂の権能と出来るので、記憶などは100%引き継ぎができる。

 

「ただしこれには欠点があって、僕が儀式を行ったとしても、本当に権能になるかは運次第。護堂の全てを受け入れる性格ならワンチャンあるけど、それでも賭けになる」

「……その方法も駄目だな。不確定過ぎて、万里谷を無駄に殺すだけの可能性しかないだろ」

「だよね……最後の三つ目。まつろわぬ神になると言うのであれば、その前にまつろわす神として祐理さんを固定させる」

「そ、そんな方法があるんですか!」

「ある……大地母神をまつろわす方法は、既に確立されているから」

 

 僕がそう告げると、万里谷一家も護堂も非常に注目してくれる。確立と言っても、これは僕が考えた方法じゃない。ずっと昔から、神話として語り継がれてきた方法だ。

 

「古くは天空と大地の女王だった大地母神は、歴史が後ろに降るに連れてその地位を剥奪されていく。最後には英雄に倒される竜蛇となり、英雄のパートナーや家族として定着──まつろわす存在に零落していった。ま、ようは英雄と呼べるほどの男性に嫁入りして、そのパートナーになる。そうして大地母神は貶められていった。これは、大母の神に共通するエピソードだ……」

 

 僕は祐理さんを指さしてから、次に護堂を指さす。それで何が言いたいのか察してくれた一同が、大いに驚いた反応をしてくれた。

 

「護堂が祐理さんをお嫁さんとして迎え入れる──まつろわす身に貶める。それが祐理さんをまつろわぬ神にしない方法だよ」

「……いやいや、待てよ。俺が万里谷の夫!?」

「そうだよ……やろうとしているのは、大地母神零落の現代版だ。これには配役として異性の『鋼』の神格も必要になる。僕が男性神としての鋼ならその役目を喜んで引き受けたけれど、生憎女性の『鋼』だからやれないんだよね。その点、護堂には鋼の最源流から派生した桃太郎や、最源流そのものである天叢雲が入ってるから、その役割を頼みやすいんだ」

「そんな理由……でもないのか。万里谷の今後が関わる話なんだから……にしたって、嫁入りって…………前者二つの殺害や抹殺は物騒過ぎるけれど、幾ら何でもこれは……そもそも万里谷の意思を蔑ろにしてるだろ!!?」

 

 と護堂は言うけれど、僕としてはこれが一番納まるところに納まると考えている。なにせ僕の予想が正しければ、祐理さんは護堂に悪い感情を抱いてない。

 だから──

 

「──なんて護堂は言ってるけれど、祐理さんはどう? 幾らまつろわぬ身にならない為だからって、護堂のお嫁さんになるのは御免被る?」

「え、ええと。ええと……」

 

 祐理さんは俯いて、どう答えたら良いのだろうと考えるような素振りをする。その感情が何に起因するものなのか読み取りにくいが、それでも僕は考える。考えて──

 

「祐理さんは……もしも護堂が倒れていたとして。その場には自分しかいない。なら……貴方なら、その場でどんな行動を取る?」

「え? その質問は一体──」

「答えて」

 

 僕が強く告げると、護堂と祐理さん以外がグッと喉を押さえるような仕草をする。神と神殺し以外には、かなり強く感じれるほどに圧を上げた。

 それでもなり立ての祐理さんには相当に辛い筈だが……一瞬だけ考える仕草をしてから、こう答えてくれた。

 

「守ります。護堂さんは私を助けてくれる。そんな予感がするのです……だから私も守ります」

「それは命を賭けても?」

「賭けません。守り切れば、護堂さんは必ず立ち上がってくれる方だからです。だから命を賭けません。護堂さんが立ち上がるまで守り切るために、私は命を賭けてはなりません」

「…………そっか。うん…………僕とは違う答えだけど、それも正解なんだろうね…………じゃあ質問を変えるね。祐理さん、護堂のことが好きでしょ?」

 

 いきなり質問の種類が変わった事に、全員が付いてこれていないのか ん? みたいな反応をする。暫くして理解してくれたのか、まずお父さんが草薙王に! 娘が恋慕を! みたいな反応をして、お母さんがあらまぁ、そうなの? と口を押さえ、ひかりさんはあ、やっぱりそうなんだ! と答えた。

 

「わ、わ、わ、私が護堂さんに、す、好き! 何を仰られるのですか!! 私は、その、護堂さんのことを嫌いとは思っておりませんが、ですが好きかどうかと問われたら──」

「──ああ、なるほど。大地母神はツンデレって、傍から見たらこれなのか……なるほどなぁ~」

 

 過去を振り返ってみれば相当な浮かれポンチだったのに、僕は護堂に友達だと連呼していた……らしい。どういう意味じゃい! とぷんぷんしていたが、なるほどこんな感じに見えていたのであれば、それは確かにツンデレだ。

 凄いね、甘粕さん。大地母神の専門家を名乗っていいよ。

 

 僕は護堂の傍に近づき、祐理さんを指さす。

 

「見てごらん護堂。あれが本当は大好きで大好きで仕方ないのに、思わずツンデレを発揮しちゃう大地母神だよ。どっかの誰かみたいだね! ははは、受ける~」

「……お前、どうしてそんな自虐ネタをかますんだ?」

「……うるさいやい」

 

 先ほどまでの重い空気はどこへやら。僕に振り回される護堂と祐理さんに、万里谷一家は大混乱だ。良かったね、最近色んな人に僕は頭がおかしいと思われているらしいけれど、その洗礼を万里谷パパとママにもお裾分けだ。

 ひかりさん? ひかりさんは僕を指さして、相変わらずの美殊姉様だねと笑っていた。そうだろ~、これが僕の持ち味だぜ。

 

「ね、祐理さん。どちらにしろ、祐理さんはこのままだとまつろわぬ性に呑まれちゃう可能性がある。それを僕や護堂が倒すのは絶対に嫌だ……だからどうか──」

 

 祐理さんの手を取り、護堂の手も取り、二人の手を繋げさせる。びっくりしたのか祐理さんが手を放そうとするが、それを僕は外させない。

 二人の手に僕の手を重ねて──僕が言葉を伝える前に、なんと護堂が口を開いた。

 

「──万里──祐理。俺は祐理を討つ気はない……美殊が言ってる事が全然見当違いで、本当は俺のことが嫌いだとしても……祐理がまつろわぬ女神になってしまうなら。俺は無理矢理にでも、祐理を俺のものにする。()()()()()()()()()()()()()()

「ご、護堂さん……それは……」

 

 あら~、俺のものにする宣言ですか。僕も護堂に言われてみたい──似たようなことを言われた気もするな。

 護堂から中々大胆な告白を受けた祐理さんは、びっくりするぐらい顔を真っ赤にしている。ただ、それでも迷っているのかあうあうと口をパクパクさせているので、僕は追撃の言葉を投げかけておく。

 

「──祐理さん。これから、祐理さんには大地母神としての長い時間がある。どうか許されるのであれば……僕らと一緒に、その長い長い時間を過ごさせてはくれませんか?」

 

 ──それが止めだったのか。祐理さんは少しばかり俯いて……真っ赤な耳を髪から突き出しながら、こくんと頷いた。

 

 

 

 

 

 僕ら三人は、七雄神社に向かう。ご両親からは、どうか娘のことを宜しくお願いします、草薙王と美殊様と見送られた。

 お願いしますとは、当分の間、七雄神社で僕が祐理さんを預かるからだ。

 神となった祐理さんは、呪力などが今までとは雲泥の差で違う。そのため今までの人間レベルの状態から数百ランクあげた使い方を学ばないといけない。

 権能についても吉祥天が数%取り込まれているので、恐らく使える筈なのだがその検証もいる。

 

 そのための七雄行きだ。それにもう一つ。これから祐理さんをまつろわす身にするための儀式も行う。けっこう……問題のある儀式なので、やるならあそこが望ましい。

 御社の中に直接転移したら、僕は寝室に二人を案内する。そこを見て、護堂はどうしてここなんだと首を傾げていた。

 この寝室は、普段僕が寝ている部屋で、護堂との訓練にも使うところだ。

 

「ちょっと待ってね。恵那さんを呼んでくるから」

「恵那を?」

 

 護堂は更に首を傾げになられたが、これは必要な行為なのだ。向こうに連絡を取り、迎えに行くけどいいのかを聞く。答えは大丈夫だよ。

 どうやら恵那さんも祐理さんが誘拐された件については知っていたのか、すぐに会いたいみたいだ。

 転移して、恵那さん拾って、再び転移して──

 

「祐理!! だいじょう──ぶじゃ無さそうだね。髪の色と目が変わっちゃってる」

「はい……少し、困った色になってしまいました。でもそれ以外は、今のところ特に問題ありませんよ」

 

 恵那さんには、どうなったのかを全て伝える。それと諸事情から、祐理さんが護堂のお嫁さんになったことも。彼女はそれを聞いて──

 

「へへ。なら祐理と恵那と師匠三人で、王様の御嫁さんだね」

「恵那さんは……それでいいのですか?」

「良いも何も、正妻の師匠が許可をだしたんでしょ? なら恵那も問題ないよ」

「……もう。どうして私の周りの女の子は、みんなしてこうなのでしょうか」

「祐理さんは大変だねぇ……」

「大変にしてるやつの筆頭が、また祐理を煽ってる……」

 

 なんて会話をしつつ、僕はとりあえずの準備を進める。その間にも、恵那さんと祐理さんと護堂は何やら会話を進めていた。

 

「でも祐理が大地母神か。なんだか実感がないね……あと、少し羨ましいな。神様になったなら、祐理はすごく強くなったんでしょ? なら恵那みたいに王様や師匠の手助けが無くても、神様との闘いに出られるんだ……そこはいいなー」

「そんなところを羨ましがるなよ。別に強さなんて無くても、喧嘩には勝てるだろ」

「それは王様だけだよ。恵那とかは、強さで相手を圧倒しないとどうしようもないし」

「少し複雑です。私は大地母神になってしまったことを少し悩んでいたのに、恵那さんがこの調子だと、どこに感情を置けば宜しいのでしょうか?」

 

 ……ふぅん。恵那さんは大地母神が羨ましいのか。するとどうしよう……あるんだよなぁ、その悩みを解決する手段。黙っていてもいいけれど……恵那さんは友達で仲間だからあまり隠したくない。

 少し悩んだ末に、それを開示することにした。

 

「恵那さんは、大地母神の体が羨ましい?」

「少しね。やっぱり、師匠を見ていると、元の強さがある方が王様の助けになれるなーとか思うもの。恵那が師匠の半分でも強ければ、八丈島の時に王様はもっと楽だったから」

「そうだよね…………一応…………あるんだ」

「何があるの?」

「恵那さんを大地母神に変える方法」

「──は?」

 

 僕がそう告げた途端、護堂が声を出し、残り二人が僕の顔を凝視してくる。実はあるんだ。今回僕を産み出した秘術を劣化版とは言え解析したのと、以前から研究していたテーマの一つ。それを組み合わせることで、大地母神に変えてしまう手段が。

 

「まさか……私に使われた術を恵那さんにも使われるのですか!?」

「それはしない。あれは祐理さんみたいに、元から超が付く素質の子だけに許された秘術だよ。恵那さんも世界に唯一の降臨術師と貴重だけど、才能値の優劣だけで言えば祐理さんの方が上。あれをそのまま恵那さんに使ったら、1分以内に即死する」

「ならどんな方法を?」

「これ」

 

 僕がそう言って見せたのは、タブレットに映し出された人体構造の解剖図。それと二体のぬいぐるみだ。三人はこれを見て、また僕が変なものを出して来たと呟いた。

 

「説明を」

「了解! ……この人体図は、神殺しの肉体を解剖研究した事で判明した、筋肉や骨が何で出来ているのかの詳細図」

「解剖……もしかして、王様の体を勝手に切り開いたり……とか?」

「美殊……お前……」

「してないしてない! 僕そんなことしてない!! 使ったのは、この間手に入れたサルバトーレさんの手足だよ!!?」

「……なんでしょうか。それでも随分とマッドサイエンティストではないかと、私の脳裏に過りました」

「ぐ、それを言われると辛いな……気を取り直して。僕はこの頑丈な肉体を、どうにか再現できないかと研究してみたんだ。それと護堂の神殺し転生を間近でみている。あの時の記憶を解析し、どんなプロセスで人間の体から神殺しの肉体に変化したのか。これを研究したおかげで、人体構造変化術とでも呼ぶべき代物の理論は完成している」

 

 そして神殺しの肉体は、神に近い。すなわち神擬きを産み出す秘術こそが、神殺し転生の儀なのだ。

 

「僕はこの理論を安全機構として、祐理さんに使われた術に組み込める。流石にどんな相手でも変化はさせられないけれど、恵那さんほどの媛なら条件を満たせる……祐理さんより安全に、大地母神転生の儀を行えるんだ」

 

 だがこれをするにしても、安全機構を組み込んだ分転生の儀の性能は少し劣化する。才能の低い相手を使う関係上、最大の素材であるまつろわぬ神を招来させるほどの誘発剤には使えないから。

 だから必要なのは、神を招来させる代わりに変化剤として使用可能な神力。それも大地母神限定の神力が必要となる。

 そんな都合の良い神力だが──現在僕はそれらを持っている。

 僕は二つのぬいぐるみを恵那さんの前に置く。

 

「それは?」

「ヴォバン侯爵から奪い取った権能──神力だよ。このトカゲさんにはイナンナが。こっちの熊さんにはカーリーが入っている。この二つは転生の儀に使える、大地母神としての条件を満たしている……恵那さんは……もしも叶うなら、大地母神に成りたい? もしもなりたいのであれば、僕は全力でさぽ──」

「なるよ。王様の御役に立てて、師匠や祐理と一緒に並んで戦える。なら悩む理由なんかないもの」

「恵那さん! 私は偶然そうなってしまっただけです!! 貴女まで人間をやめるような……美殊様! どうしてこんな話を恵那さんに──」

「師匠を怒らないで上げて? 師匠は提示しただけで、それを選ぶかどうかは恵那に任せてくれたんだもの。だからこれは恵那の判断……選んだのは恵那だよ」

「でも……人の寿命では無くなるんですよ? それなのに──」

「え? でも師匠や祐理や王様も一緒なんだよね? なら別にいいよ。一人で一生を、なら寂しいけれど、頭のおかしい師匠や大好きな王様や祐理がいるんだもの。退屈なんてしないから」

「恵那さん……貴女は……もう」

「ほーら。祐理は泣かないの」

 

 恵那さんが祐理さんの涙を拭っている。その光景は実に良き友情と言いたいのだけれど、恵那さんの大好きカウントから僕が外れているのが気になる。

 ……恵那さんの中では、頭はおかしいは褒め言葉なんだよね? そうだよね? ……不安だ。実は僕は嫌われていて、大地母神となった恵那さんと祐理さんに後ろから刺されるとかないよね?

 

「護堂……やっぱり大地母神は怖いよぉ……」

「……良く分からんが、美殊も大地母神じゃないのか?」

 

 言われてみればそうだ。なーんだ、つまりは兵器ってことじゃないか。一体何を僕は怖がっているのだろうか…………仮に怖い点があるとすれば、これから護堂は大地母神を三柱相手にしなければならない点。

 果たして彼は大丈夫なのだろうか。腎虚とかにならない? 神殺しだから大丈夫?

 

「ようし! そうと決まれば、まずは恵那さんに転生の儀を施す。神殺し転生の儀を応用として組み込むから、祐理さんほどの時間はかからないよ……とそうだ。恵那さんはカーリーか、イナンナのどっちの方が使いたい? 僕のお勧めとしてはカーリーだけど」

「どっちが良いとか分からないから、カーリーにしておこうかな」

「ならカーリーにしようか」

 

 カーリーをお勧めしたのは、僕の中にあるドゥルガーがカーリーを産み出した逸話由来の権能を使い、転生の儀をサポートし易いから。それに戦女神カーリーには鋼の相もある。

 大地母神となっても神がかりは使えるので、呼び込む力である古老が『鋼』である以上は、カーリーの方が相性が良い。

 念のため、清秋院のお家に電話はしておく。はい、はい。こういう理由で御宅の娘さんが大母に……はい……。

 

 すげえ。一瞬で許可が降りちゃった。一人娘なのに、羅刹の君のお役に立てるのであれば本望とか返されちゃった。

 もはや誰にも止める理由が無くなったので、恵那さんを転生させることに。

 それじゃちょっと行ってくるねと恵那さんと一緒に席を外して、隣の部屋で処置を施すこと20分。

 

「ただいま」

「おかえり……恵那は祐理と違って、見た目の変化とかないんだな」

「護堂の見た目が変わらなかったのと同じだよ……よし。ならここからが本題だよ」

「本題と言うと、まつろわす神にする儀式だったか……そう言えば、どうして恵那を呼んだんだ? さっきの大地母神転生の儀とやらは、本題じゃ無かったんだよな?」

 

 確かに本題じゃない。恵那さんが偶々羨ましいと仰られたので、こういうのがあるよとお勧めしただけだ……恵那さんを呼んだのは、別の理由があるから。

 彼女は人間だった頃は、護堂の戸籍上のお嫁さんになる筈だった……大地母神になってしまったけれど、この辺どうしよう? カーリーはアスラ軍を滅ぼした逸話由来で盟約の大法条件を満たせるから、運命偽装救世主戦法とかは問題ないけれど。

 ……清秋院家と恵那さん当人が気にしていないから、僕が口を出せる範囲ではないのかもしれない。とは言え不安は不安なので、後で祐理さんや恵那さんとこの辺の話はしっかりしておこう。

 全員を前に僕は居住まいを正し、喉の調子を確かめてから声を発する。

 

「……まつろわす儀式。これをするためには、一つの作業を行わないといけないんだ」

「それは一体なんなのですか?」

「これ」

 

 僕が指で輪っかを造り、そこに人差し指を入れたり出したりする。それだけで察してくれたのか、護堂はえ、まじで? と声を出し、意外と初心なのか恵那さんは顔を真っ赤に。祐理さんは真っ赤を通り越して、タコみたいな色になっていた。

 

「と言う訳で……まずはみんなでお風呂入ろうね!」

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