前世凡人 今凡神   作:カンピオーネ二次復権派

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そして日常に戻るのだ

 戦利品の山分けも終われば、次は馨さんのところだ。

 マンションにいた委員会所属のエージェントから話は通っているとは思うけれど、いつも通り僕の方でも報告書を作成しておく。変な噂を流布されても困るからね。

 僕が打鍵するのを、護堂達は後ろから眺めている。

 

「師匠なら自動書記とかの魔術もあるのに、態々手打ちしてるんだ」

「僕の癖でね。よほど長い文章なら代筆させるけれど、報告書ぐらいの短い文章なら手打ちの方が好みなのさ」

 

 それに僕には一太郎やワードと言った、頼もしい仲間がいる。ワープロソフトは偉大な大発明だ。僕も発明家の端くれとして、これら強壮なるツールを発明した人には感銘の言葉を贈りたい。

 高速タイピングで文章を作成したら、今回は事情も事情なので四人全員で東京分室までお邪魔する。媛巫女筆頭である恵那さんと、次席である祐理さんが大地母神になると言う特大の珍事は書面で済ませられる問題ではない。

 

 コンコンとノックして中に入れば、腹心である甘粕さんと共に馨さんが待っていた。挨拶もそこそこに、報告書を見せて何があったのか詳細を説明する。流石にエージェントの人達も、スミスさんに協力して貰ったり、ヴォバン侯爵が死亡したことまでは知らないからだ。

 あと大地母神化の術式詳細は伏せる事にした。改良版は地母神の神力が必要なのでまず使えないし、ヴォバンが用意した祐理さんに使われたやつは適合者が全然いない。変に悪用されたら、死人が続出しまくる。

 

「そんなこんながあって、恵那達は大地母神に成ったよ」

「──ははは。まさかそんなおもしろ──失敬。そのような大変なことになっていたとは、流石は羅刹の君です」

 

 と馨さんは何やら楽しそうだ……実際楽しいんだろうなぁ。ま、そんな風に笑って貰えるだけマシではあるが。二柱とも状態は安定していて、結果だけ見れば人類に味方してくれる女神が増えただけ。

 その辺の事情を理解しているからこそ、馨さんは面白いと言いそうになったのだろう。

 

「ははぁ……媛巫女筆頭と筆頭候補が揃って地母神になるとは。これは草薙さんの女運が非常に良い。で宜しいのかもしれませんね」

 

 たははと呑気に笑う委員会の主従コンビに、護堂は相変わらずだなぁこの人達と呆れている。恵那さんは王様の運は良いからね~とこちらも呑気だ。

 

「もう! 甘粕さんも馨さんも、そのような気楽な発言をされて!! ……うう、私は人で無くなったことに悩んだりしたのに、恵那さんと言い、どうして皆さまはここまで軽いのでしょうか……」

 

 再び祐理さんは困り顔になってしまうけれど、そこまで大問題にしてしまうことこそ問題だ。僕らほど呑気になれとは言わないけれど、祐理さんは生真面目過ぎるきらいがある。

 

「まぁまぁ、人間じゃないのは確かだけど、いろんな面で便利な体になったんだと思考を切り替えていこう! この体、幾らスイーツを食べても太らないんだぜ!」

「…………一番気楽そうな御方がおられました」

「へへ、僕元気!」

「あんまり気にするなよ、祐理。あそこにいる女神が、殊更軽すぎるだけだから、な? それにあいつなりに、励まそうとしてるんだよ」

「護堂さん……貴方が私の一番の味方です……」

 

 なんてやり取りをしてから、本題に入ることに。

 

「当面の間は、二人が大地母神になったことは伏せる……で宜しいのですね?」

「当面と言うよりは、まず表に出したくはない。人間から神になる手段がある……馨さんに問うまでもなく予想可能なことではあるけれど、それでも問うね……神に成りたいと願う人間。正史編纂委員会が把握してるだけでも、どれぐらいいる?」

「この場にいる全員で指折り数えても、指の数が足らない。人間の脆弱な体を捨て、不老になれる上に身体能力も呪力も桁違いの体に……人類が追い求めた夢が詰まっているね」

 

 馨さんは恵那さんと祐理さんを見て、さきほどまでの笑いを引っ込める。その眼付は真剣で、上から下までじっくりと観察していた。

 ……そうなるよねぇと僕はその答えに同意してしまう。神の体──神体とは、人間にとって夢のような力が詰まった体だ。

 

 古来から人が追い求めた不老を体現していて、大地母神ともなれば不死に近い。外部からの栄養補給が無くとも生きられるし、大気が無くなっても窒息死しない。

 呪力の量は人間の千倍や二千倍は当たり前で、身体強化の魔術を使わなくても体は頑丈で筋力は強い。

 人間から見れば、夢のような能力を持つのが僕たち神だ。そんな神格に近づける手段が提示されたら……欲しがる人間は山ほど出てくる。

 人の欲を満たせる手段……それが神への変化だ。

 

「護堂の権能──メルカルトから簒奪した代物が、二人までなら従属神に変化させる権能と言い張るのが良いかもね。恵那さんと祐理さんは、ヤグルシとアイムールになってるんだとか誤魔化して」

「海流の支配者ヤムの脳天を砕いた魔法の棍棒。ヤムは男性神ですが、その系譜は地母に近い。洪水をもたらす河川や荒れ狂う海原の神格化ですからね……その武器が変化した結果、地母の末裔を大地母神へと変化させ、自らにまつろわす従属神にした。バアルには天空神らしく、多くの妻がいます。アナトにアスタロト、タニト──それらが複合的に絡み合った結果、二柱の大地母神に変化させる。かなり苦しいカバーストーリですが、羅刹の君の権能と言い張れば、誰も追及は出来ませんか」

 

 甘粕さんの発言に、僕も苦しいのは理解しているよと返しておく。これがベストかと言われたら、全然違う。けれど混乱やその他あれこれを最小限に抑えるのであれば、ベターだとは信じている。

 この点については、神殺しの権能簒奪がかなり特殊なのが幸いしている。簒奪した神力が簒奪者の性格や気質を反映させる関係上、元の神力とはあまり関係なさそうな形で発現することもあるからだ。

 嵐を引き起こす神力を簒奪したのに、逆に嵐を止める権能に変化することだってある。

 奪い取った神力がどのように反応して、どんな権能になるのかは奪った神殺し次第。護堂が二人のことをメルカルトの権能だと言い張れば、その時点で追及のしようもない。霊視などについては、僕が普段からジャミングしているから、本当にメルカルトなのかどうかを確認するのは難しい。

 

 ……権能か。権能と言えば、祐理さんと恵那さん二柱にも発現する予定だ。祐理さんであればヴォバンから強奪して付与した神力の分と、吉祥天の権能が。恵那さんであれば同じくヴォバンの分と、カーリーの権能が。

 二人に発現する権能は、護堂ら神殺しと同じくそれぞれの気質を反映した代物になる可能性が高い。恵那さんであれば持つ神力は、血液を吸い尽くしたカーリーの逸話由来の神力や、祝融の火の神力など。

 これらがどのような形で発現するのかは、恵那さんの気質任せだ。

 

 護堂の権能を調べるように、二柱の体に神力が完全に定着したら改めて調べてみよう……その際の方法は、護堂と同じようにキスするしかない。つまり二人がまた発情するので、護堂と僕でいっぱい慰めてあげるか、少年の加護で状態異常として無理矢理リセットするしかない。

 僕の体質は非常に悩ましい問題だ。

 

「大地母神化の件は承知致しました。委員会としても、媛巫女の身辺が執拗に探られることは望んでいません。こちらからは情報を発信はせず、問われた際には草薙王の権能に関わるため、委員会でも情報の大半は不明である事としておきます……それに僕としても、祐理と恵那の生活に無粋な連中を関わらせたくないからね」

「ありがとうございます!」

「礼なんて結構だよ。草薙さんが望まれたことでもあるし、僕が年下の女の子を困らせるわけがないだろ?」

 

 なんて片目でウィンクしながら、馨さんは茶目っ気たっぷりに返答してくれた。とりあえずは委員会の方で大地母神化については情報を封鎖してくれるみたいなので、あとは任せた方が良さそうだ。

 僕がそう納得していると、甘粕さんは報告書に目を通しながら──

 

「それにしても、ヴォバン侯爵がお亡くなりになられましたか……これは世界の情勢、特に欧州のパワーバランスが酷く変わることになりますね」

「あのお爺ちゃんは、三百年の間欧州魔術界隈に君臨してきたからね。現代の神殺しに対する畏怖と敬意を明確な形にさせたのは、間違いなくあのお爺ちゃんが大暴れしたせい。それが墜ちた以上、相当混乱に陥るし揉めるだろうね」

 

 僕が知る限りでは、ただでさえ欧州はサルバトーレさんの弱体化で荒れている。そこに最凶の魔王崩御の一報が届けば、とんでもない事になるだろう。

 その時、彼らはどんな方針を選ぶのだろうか? ヴォバン侯爵を降した護堂に平伏する? それともイギリスのアレクの元に身を寄せる?

 

 どんな方針にしろ、護堂の異名は轟くことになるだろう。ただでさえ、現状でも新世代最強のカンピオーネとか呼ばれてるのだ。それが旧世代を代表する神殺しの侯爵に打ち勝ち、その御命を頂戴したとなればとある称号が護堂の物になる。

 草薙護堂こそが、現存する魔王の中で最強ではないか? みたいな評価が。

 

 護堂はこんな評価を貰ったところで、肩書きとやらが喧嘩の勝敗に関わることはないと言うかもしれない。だが常人にとっては違う。護堂の名声がそこまで高まれば、良からぬ連中は更に増える。

 ……委員会の仕事はますます増えてしまうだろうが、名声に集る羽虫をどうこうする問題は彼らに任せるしかない。

 話もそこそこに切り上げて、僕らは委員会の建物から七雄の神社に戻る。

 

「次は……エリカに電話か?」

「そうだよ。ヴォバン侯爵を退治した話と……あの話もしないといけないからね」

「あの話と言うと、あれか。<青銅黒十字>とか言う魔術結社が、あの爺さんに話を持ち込んだせいで美殊を狙ったやつ」

「それだよ」

 

 ヴォバンの足取りを追っていた時に、どうしてあの魔王が僕を狙うに至ったのか経緯は把握している。イタリアの魔術結社が、ヴォバン侯爵の機嫌取りのために教えたのだ。

 別に<青銅黒十字>に対して、そこまで恨みはない。彼らが教えなくとも、どこかから話は漏れていた……だとしても、此度の騒動に彼らは深く関わっている。

 そうである以上は、何のお咎めもありませんでは通らない。欧州の価値観に合わせるのであれば、彼らは神殺し草薙護堂に喧嘩を売り、その身内に危害を及ぼしかけたのだ。

 

 これを放置すれば、あ、なんだ、草薙護堂はこの程度では怒らないのだと思われかねない。そうなれば、またよからぬ何かを企む連中が出てくる可能性がある。

 禍根は根から断て。<青銅黒十字>には、たっぷりと責任を取って貰うつもりだ。

 

 エリカさんに電話をすれば、割と早く出てくれた。

 

「どうされましたか、美殊様?」

「ヴォバン侯爵に関する事で、話があるから連絡したんだ。実はね──」

 

 ヴォバン侯爵は僕らの手でこの世から処分したこと。どうして侯爵が日本を目指したのか。侯爵を支援しようとしていたのは、どこの結社なのか。

 それらを伝えられたエリカさんは──

 

「侯爵との対決での勝利。誠におめでとうございます。<赤銅黒十字>を代表して、エリカ・ブランデッリが祝辞を述べさせて頂きます」

「その言葉、護堂にはしっかりと伝えておくよ……エリカさんに御願いしたいことがあって、まずヴォバン侯爵の所有物だった物件や、その他の魔術具。それを全部護堂名義で押収して欲しいんだ。出来る?」

「可能で御座います。我ら<赤銅黒十字>だけであれば難しいですが、草薙陛下の御威光を借り受けられるのであれば造作もありませんわ」

「ならお願いするね。押収したら、それらの管理は護堂の名代としてエリカさんに任せたい。僕らはそっちの事情には疎いからね」

「承知致しました。草薙陛下に代わり、しっかりと管理させて頂きます」

「それとこれが最後のお願い……<青銅黒十字>に伝えておいて……妾の主、草薙王は此度の騒動において心を痛めている。我が国の民であり、守るべき巫女の身に危険が及びかけたが故に。<青銅黒十字>には、ヴォバン侯爵に付こうとし、かの魔王を支援しようとした容疑がかけられておる。従来であれば、この時点で妾の勘気に触れるに等しい行為。怒りを以って返礼をせねばならないが、我が王は慈悲深き王であられる。こちらの時間が空き次第そちらに向かうので、その場で弁明の機会を与える。その言い訳が我が王の気にいる物でなければ……そなたらには、差し出さなければならぬ物が多くある。こちらの言葉に置き換えるのであれば、首を洗って待っておれ──そう伝えといてくれるかな?」

「──承知致しました。必ずや<青銅黒十字>に、その旨お伝えしておきます。時間が空き次第とのことですが、いつ頃になるでしょうか?」

「んっとね~……夏休み。日本の学校は七月の終わりから長期休暇に入るから、そのタイミングでミラノにでもお邪魔するよ」

「七月の終わりですね……ふふ、きっとリリィを含めてみんな驚くわよ。侯爵閣下を倒された神殺しが、憤怒を抱えてイタリアに来られるのだから。その日が来るのをカレンダーを眺めながら、毎日神様にお祈りするでしょうね」

 

 そりゃ、神殺しが申し開きを聞くために伺いますなんてなれば、死刑囚みたいな気持ちで日付を眺めることになるだろう……あとリリィって誰? もしかして<青銅黒十字>のリリアナさんのこと?

 などと聞きたくなるが、それは向こうでじっくりと聞けばいいだけのこと。エリカさんとの会話を終えて、お待たせーと護堂に向き直ったら──

 

「お、ま、え、は! また適当なことを言いやがって!? 何が心を痛めるだ! 何が妾の勘気だ!! 確かに怒っているし、祐理が死ぬかもしれないと思って悲しんだが!! 幾らなんでも脚色し過ぎて、実情とかけ離れてるだろ!!?」

「らって、このぐらいのいいひゃたじゃないと、むこうもひゃめたないどになるかひょうせいが──」

「護堂さん落ち着いてください! 美殊様の頬が取れてしまいます!!」

「らいりょうるらよ。らってそこまでちからはいってないもの──さいきんわかってきたんだけどね、じつはぼくMッ気があるみたいで、護堂に頭を掴まれるのとか、御尻ペンペンされるのが割と嬉しくて」

「そうか。ならもう少し力が強くても、大丈夫そうだな」

「え? ──雄牛の力を感じるゥ!!」

 

 ……まぁ、そんなこんなで、ヴォバン侯爵との対決後にやっておかないといけない事も大体終わり。

 僕らはようやく日常に戻るのであった。

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