前世凡人 今凡神   作:カンピオーネ二次復権派

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その女神、変な大地母神につき

 ペルセウスさんとの血で血を争う激闘。不意打ちしてもなお、こちらが不利なまつろわぬ英雄神との死闘を辛くも制した僕たちは、今度は地母神ユノが待つアニャーノ競馬場を目指す事に。

 

 こちらにも転移で一秒もあれば移動が完了する。

 

 アニャーノ競馬場は日本で主流のギャロップ競争ではなく、トロット競争が盛んな競馬場だ。かつて火山の湖だった場所を、19世紀に干拓して造られたという珍しい地形をしている。

 トロットとは、人間のレースで言えば競歩が一番近いだろう。全速力で走らず、あくまでも駆け足で進むだけの、ルールが設けられた競技。

 特にこのアニャーノ競馬場では、ロッテリア大賞と呼ばれる格式高いレースが開催される。フランスのアメリカ賞、スウェーデンのエリトロップと並ぶ、世界三大レースの一つだ。

 

 要するにかなりちゃんとした競馬場であり、少し北にいけばアストーニ自然保護区などの広大な森が広がる場所だ。

 そんな場所の平地コースに僕らは転移し、辺りを見回す。現在は時刻21時なので、人っ子一人見当たらない。だが誰もいない訳ではなく、観客席上段。簡素な椅子にその女神は座っていた。

 僕よりは頭一個分は高そうな長身に、現代らしくない白いトーガの上に赤いマント。頭には山羊の頭を模した兜を被り、その厳つい帽子からは黒と白のまだら髪を腰辺りまで伸ばしている。

 彼女は目を瞑り、何かを待つように鎮座していた。

 

「あれがユノさんみたい……だね?」

「なんで自信なさげに言うんだ?」

「いや……なんだろう……ユノさんではあるんだけど、本当にユノ……かな?」

 

 僕の眼は確実に、彼女をユノ・ソスピタだと認識している……どうも別の地母神──アンギティアも重なっているようだけれど。

 でもその奥にもう一つ、何か見え難い何かがあるのだ。簡単には見えない何かがあり、それが正体を掴ませないように揺らめいている。

 

「祐理さんはどう? 僕はユノだと認識しているけれど……」

「私も美殊様と同意見です。かの大地母神は、間違いなく美殊様が予想されたように、ローマの守護神、ユノだと思われます」

「祐理も師匠もそう判断したんだったら、それで正解なんだろうね」

「……うん」

 

 僕は少し引っ掛かる物があるけれど、これ以上は眼では捕捉出来ない。ならばこれ以上の思考は無駄でしかないので打ち切り、護堂を先頭に全員で観客席に近づく。

 

「……また騒がしい客が来よったか」

 

 まだ距離は離れているのに、よく通る声が聞こえた。鈴を転がすような透明感がありながら、どこか古びた真鍮を思わせる重厚な響き。目を瞑ったまま微動だにせず、けれど彼女の存在そのものが、広大な競馬場の空気を支配している。

 

「騒がしい太陽神の申し出を受けて待ち構えてみれば、来るのは(わらわ)と同じ大地の女神が三体と、それにこの気配は……神殺し……か……ぁ?」

 

 ゆっくりと、瞼が重そうに開かれた。濃紺の、夜の海を湛えたような瞳。感情が一切見えない瞳が僕と祐理さん、それに恵那さんを見て、同族かとぼんやりとしていた。その視線が、次は先頭に立つ護堂に向けられて──なんだ? すごく眼を見開いて、驚いたような表情をしている。

 

「……なんか驚いてる?」

「みたいだけど……護堂を見て、驚いたの?」

 

 僕らはユノさんと護堂を交互に見比べる。なぜか向こうは口をパクパクさせた後、目を瞑りゴシゴシと擦り始めた。何事だ、あれは?

 良く分からないけれど、攻撃の気配などはしない。一応の警戒をしながら、僕らも観客席に上がる。そのまま階段を上がれば、ユノさんのすぐ傍までたどり着いた。

 

「……あんたは神様か?」

「……──────」

 

 護堂が問いかけるが、ユノさんは護堂の顔をジーと見つめた後、なぜか顎に手を当てて考えこみ始めた。いや、なんだろう、この反応は。

 それからうんうん唸ったかと思えば、首を横に軽く二回振ってから、再び眼を見開いて護堂の問いに応えてくれた。

 

「貴殿は今代に生まれし神殺しか?」

「そうだ」

「ふむ、ならば我はそなたの問いに応じてやらねばならんな……然様。我はそちらが見抜いたように神だ。大地の女神にして、このパルテノペにおける最高位の女神。ユノが我の名だ。覚えておくがよい……」

「は、はぁ……これはどうも」

 

 尊大なのに、こちらが聞く前に名を高らかにユノさんが唄う。あ、やっぱりユノであってるんだ。

 

「そちらの名は何という? 後ろの大母も含めて、我に名を示してはくれぬか」

「……草薙護堂だ」

「清秋院恵那。貴方と同じ、大地母神をしているよ」

「万里谷祐理と申します。御身ら大母の末席に座らせて頂いております」

「熊野美殊。アルダーナーリーでも、美殊でも好きなように呼んでね」

「ほうほう、草薙護堂と言うのか。我には縁のない響きではあるが、きっと良い名前なのであろう。それに恵那に祐理……聞いた事もない大母だな。生まれても間もない神格なのか……それに……熊野美殊……ふむ?」

 

 今度は僕の名を聞いて、ユノさんは首を傾げ始めてしまった。なんだろう……今まで数名の神に出会って来たが、この反応は初めてだ。

 何と言うか……すごく人間臭い。なぜかは不明だが、どうにもその仕草に僕は神よりも、人間のような感覚を覚えてしまう。

 それは僕以外も同じだったのか、三人とも不思議な存在を見る目をユノさんに向けていた。

 

「どうしたの、ユノさん? 僕の名を聞いて、妙な反応をしてるけれども」

「……うん? なに、気にするな。何やら、その名が懐かしく思えてな。我はそなたと出会うは初めてじゃが、なぜか既視感のような物を覚えたが……そなた、己が名をアルダーナーリーとも名乗っておったな。そちらには覚えがあるゆえ、そちらに既視感を覚えたのか? ……そうなると熊野美殊とはなんだ? そなた、まさかまつろわぬ身になった事で、己の名を自分の意思で変えよったのか?」

「まぁ、そんなところだよ。祐理さんと恵那さんも、似たような経緯で名を変えた女神だ」

「変化させる前の名は何と呼ぶ?」

「……吉祥天とカーリー」

「どちらも東方由来の名だな……そなたらが我と随分見た目が違うのは、文化の違いからか。はは、まこと面白いのぅ……かかか」

 

 カラカラと笑いながら、ユノさんは僕らを本当に面白そうな眼で見ていた。なんだろう……最初はペルセウスさんみたいに、神殺しと大母か。なら一勝負するか! みたいになるかと思考していたけれど、そんな空気は一切ない。

 何と言うか……口調はまつろわぬ神らしく尊大気味ではあるが、敵意などはない。どちらかと言えば、まつろう神をしていた時のウルスラグナさんに近い。

 そのままカラカラと笑ってから、おお! そうだ! とユノさんが口を開いた。

 

「なぜそなたらは、ここに来た? まさかとは思うが……まつろわぬ我が降臨したことに気付き、神殺しが来たのか? ……ふむ? さて、そうなるとなぜ大母が名を変えて三柱も草薙護堂と? ……我と同じ? ……はてさて、それを問うのは憚られるが……」

 

 我と同じ? とは何のことだろうか。ユノさんは何やらまた考え事をしているが、すぐに無意味な思考だこれはと言いながら、考えを打ち切った。

 

「もう一度尋ねようか。そなたらがここに来たのは、我を打倒するためか?」

「違う。俺たちは喧嘩をしに来たんじゃない。話をしに来たんだ」

「話か……良かろう。既に我とそなたらは会話をしておるが、そう言った言霊を謳いたい訳でも無さそうだ。存分に語り合おうではないか……とそなたらを誘えたら良いのだが、何分我にはすべきことがあってな」

 

 護堂の話をしように対して、ユノさんは鷹揚に良きと言いながら兜を取ってしまった。あれは向こうなりに、こちらと争う気はないとアピールしてくれているんだろうか?

 

 ……珍しい。と言うか、まつろわぬ神の中で、ここまで素直に護堂の喧嘩なんてしないぞに応じてくれた神格は初めてじゃないだろうか? なぜかは不明だが、ユノさんはこちらに対して友好的な態度を示してくれている。

 そう言った行動をするのであれば、僕らも距離は取りつつも、警戒を解いて彼女と相対する。

 

「すること……とは?」

「そなたらは、この地に我以外にもまつろわぬ者が顕現したことは知っておるか?」

「ペルセウスのことか?」

「そやつよ。新しき太陽の名を騙る英雄神は、我を倒すべき竜蛇と認定し、決闘を申し込んできよった。我がそれに応じてやらねばならぬ道理はないが、さりとて放置すれば若造に何をされるのか分かったものではない」

「だから決闘に応じたの?」

「その通り。あやつとの戦は朝方に予定しておる。そちらが終わるまでは、そなたらと話し込んでおる時間もない。そちらとの対話に応じてやりたいが、今は許せ。まずは我に決闘を申し込んだ、不届き者を誅してからだ」

 

 対話はするけれど、ペルセウスさんとの闘いをまずは待て、か。ごめんね、ユノさん。それはちょっと難しいかも。

 

「ええとね、ユノさん。そのペルセウスさんなんだけど……僕らが倒しちゃった」

「……なに? そうなのか?」

「うん。ユノさんとの決闘に勝ったら、それから恵那達とも死合うではないかって言うから……夜明け前に、みんなで囲んで袋叩きにしちゃった」

 

 ユノさんはえ~みたいな顔をした後、それからクスクスと、今度は喉を鳴らすような密やかな笑い声を漏らす。

 

「かかか! なるほど、それは傑作よ。我が律儀に待っておったというのに、あやつは神殺しにも勝負を申し込み、まんまとやられおったのか。これは愉快愉快……」

「……ユノ様。御身はペルセウス様と決闘を御約束されていた。私たちがかの英雄神を討ったと言うのに、それは宜しいのですか?」

「良い良い。我があやつとの勝負を受けたのは、露払いのためよ。あやつが討たれたと言うのであれば、我が退屈な戦をせずに済んだだけのこと。そなたらがそうしたと言うのであれば、別にとやかくも言わん。むしろ礼を言おうか……うん?」

 

 頬に手を置き、宙に肘をつくようにしながらユノさんは護堂をまっすぐに見据えて目を細める。なんだろう……あの目付き。獲物を狙う豹のようにも見えるし、けれど親し気な空気も感じる眼だ。

 なぜ彼女は、あんな目で護堂を見ているのだろうか。

 

「あやつが消えたのであれば、我とそなたらには時があるな。さてさて、では対話とやらに応じてやろうではないか。そなたら、我と何を語り合いたい」

「……まず一つ聞きたいが、あんたはまつろわぬ神……で良いんだよな?」

「おうとも。我は神話から零れ落ち、この地で形を得た大地母神ユノ。それをどう表現するかと言えば、まつろわぬユノ以外になかろう」

 

 その口調は事実を確認し、当然を語るのにそれ以外の理由が必要か? そんな感じのあれだが、どうにも僕らは違和感を拭いきれない。

 何と言うか……まつろわぬと呼ぶには、どうにも荒ぶる気配がない。

 それを口にしてみたら、ほほう? とユノさんは不思議そうだった。

 

「我はまつろわぬ身となる事が初めてではあるが、他の神どもは違うのか?」

「違う。もっと彼らは荒ぶり、神話から外れて狂っている。端的に言えば破壊の権化がまつろわぬ神だよ」

「そう言われても、のう? 我はこうしてここにおるのだから、そなたらの見当が外れただけではないのか」

「そんな風に言われたら、僕らには否定する言葉はないよ」

「そうか……考えてみれば、祐理恵那美殊。三大母も、我と同一のまつろわぬ身の筈だが、落ち着いておる。ならば、我も同じように、そなたらの言葉に合わせれば冷静沈着……でも良かろう。かかか」

 

 ……それを言われると辛いね。祐理さん恵那さんはまつろわぬ身ではなく、護堂にまつろう神として定着させてあるから事情は違うけれど、僕は本来であればまつろわぬ神だ。ん? そもそも対魔王討滅神が僕の神格なのだから、今の魔王に侍りのんびりだらりとしている僕は、ある意味神話に抗うまつろわぬ神なのか?

 なんてしょうもない考えが浮かび上がるけれど、それは思考の横に置いておく。

 

 だがどうしてだ? どうしてユノさんは、まつろわぬ神なのにまるでまつろう神のように落ち着いているのか。それが気になった僕は、先ほど気になっていた神格の奥に見える何かを捉えようとする。

 するとユノさんはそれに気づいたのか、少し不満気だった。

 

「我の許可なく、我を視ようとするとは何事だ!!!」

「あ、ごめんなさい……どうしてまつろわぬ神様なのに、ここまで落ち着いてるのか気にな──」

「我を視るのであれば、きちんと許可を得てからにせよ! それならば不躾な視線にも、多少の寛容さは認めてやらんでもない」

「あ、許可があったらいいんだ……」

 

 恵那さんのびっくりに僕も同意だよ。なんだ、この女神様は。なんかこう、すごく変な感じがする。まつろわぬ神様は大抵変だが、これはそれらとはかなり違う。

 許可をやるから存分に視よするなんて、神の中でもとびっきり変だ。

 

「でも許可をくれるなら、僕も遠慮なく……祐理さんもお願い」

「はい!」

 

 二人でじっとユノさんの中にある、何かを捉えようとする。それをじっくりと眺めるけれど……やはりよく視えない。ただし別の物が視えて、あー、なるほどと僕は納得する。

 それは祐理さんも同じ……ではないようだ。

 

「なんでしょうか? 川の流れ? 濁流の如きそれではありますが、でも澄んでいる水流……ユノ様に視えたのは、山羊と蛇でした。それなのに水? 川は蛇が這った跡と言うのは、神話では当たり前の事実です。それがユノ様と関係があるのでしょうか? 蛇ですし」

「それとは違うと思う。ユノさんの蛇は、水ではなく生と死に纏わる境界を超える蛇の役割だ。どちらかと言えば冥界と現世を繋ぐ存在としての蛇。ユノさんが関わるとしても、川ではなく洞窟に湧き出す泉としての性質の方が水に深い……ユノさんの中に視える川の流れは、恐らく降臨に関わった霊脈や地脈の流れだよ」

 

 要約すれば、ナポリ含めて南イタリアの霊脈から力が集まり、誕生したのが今回のユノさんだ。彼女を構成したのはこの地の力。それを核としてまつろわぬユノとして顕現しているのが、僕らの目の前にいるユノさんだ。

 

「つまり?」

「ユノの神格を被った、霊脈の具現化。彼女がやたらと落ち着いているのは、全部神話側で構成されたからじゃなく、地上世界にある霊脈を素材として降臨しているから」

 

 ある意味では祐理さんの状態が近い。彼女が人間の魂を核として顕現している吉祥天なら、こちらは霊脈を核として顕現しているユノだ。

 祐理さんの場合は脆弱な人間なのでそのうちまつろわぬ身になっていたが、ユノさんの場合は素材となったのが霊脈。それも国が持つ呪力の半分近くを使用して。これであれば格としても釣り合いが取れるので、まつろわぬ身でありながら、まつろう神に近い状態で顕現する事も可能だろう。

 

 と、まぁこんな感じの考察を披露したら、護堂と恵那さん、それに一緒に視た祐理さんも驚き、ユノさんも我は変な状態で顕現しているなとくかかかしていた。

 

「ユノさんは悪い神様じゃないんだ」

「まつろわぬ神が悪かどうかは定義次第だけど、僕らと対話しているように非常に落ち着いた状態だよ」

「そうか……なぁ、ユノさん」

「なんだ?」

「あんたは変な状態でまつろわぬ神になっているんだよな? そうだとして、これからどうするんだ……例えば、俺があって来た神様みたいに、あちこちに喧嘩を売ろうとしたりとか、都市を火山で焼き払おうとしたりとかは──」

「せんよ。まだ少し見たばかりではあるが、我は所詮神話からの異邦者であろう。それが地上世界を壊す……それをそなたらは危惧しておるのではないか? 生憎と、我にはそのような趣味はないでな。今後はそうだな……ふと気になった事があるのだが、良いか?」

「どうしたの?」

「我はこの地の地脈の力が集まり、ここに顕現したのよな?」

「うん」

「その我がこの地を離れたりすれば、まずいのではないのか?」

「………………あ」

 

 僕が思わずあ、と言ってしまった事に、護堂らの眼がマジで? みたいに向けられる。

 

「……不味いのか?」

「まずい。長い時間をかけたら地脈はその内元に戻るけれど、枯れてる間はその土地の運気がどんどん減っていく。下手をしなくても、ナポリやシチリア島。それに地脈が通じている以上、サルデーニャやローマ。直接関係なくても、ミラノ辺りだってどんなことになるのか……」

 

 僕の言葉を聞いて、まずいどころじゃないよね、それ? と恵那さんが口にだす。はい……端的に言えば、イタリアが国として終わります。金融都市であるミラノが陥落したら、欧州全体にも影響を及ぼしかねません。

 それにローマが終わったら、バチカンも大変なことになる。バチカンが大変なことになれば、キリスト教全体にも影響を及ぼす。

 下手をすれば、魔術界隈がドンパチだ。

 

 そんな僕らの様子を見て、全くとユノさんは呟く。

 

「我が離れたら、それだけでパルテノペは陥落するか。それではこの地から出る訳にもいかんな……それにこの提案は、人間に都合が良すぎるか……良し。ではこうしようか。我から一つ提案がある」

「なんだ?」

「我はこの地に留まる代わりに、そなたらが案内人として我を楽しませよ」

「……はい?」

「聞こえなんだか? 神殺しの魔王が、当代のパルテノペを案内するのだ。神殺しを召使いやしもべとさせた神など、そうはおらぬぞ……うむ! これであれば、我としても存分に満足できるやもしれん!!」

 

 どうやらユノさんとしては、護堂に──カンピオーネに案内させることで、神殺しを従えるという神としてメンツを保ちつつ、この地の霊脈を繋ぎ止める役目を果たしてくれるらしい。

 それは実に平和的な解決法だが、念のため僕らはちょっとタイム! と言ってから、作戦会議をする。

 

「どうする? ユノさんが霊脈そのものである以上、まず変に倒して終わり! とはならないよ」

「俺に案内か……割と良い落としどころなんじゃないか?」

「こちらに都合の良い提案ではありますが……なぜでしょうか。私はユノ様に、何やらほかの思惑もあるように思えるのです」

「そうなの? 恵那はそうは思わなかったけれど、祐理はそう感じたんだ」

「思惑がどうであれ、乗るしかないだろ。こちらから話し合いを提示して、穏便な解決策をユノさんが出してくれたんだ。祐理の気づいた思惑が少し気にはなるけれど、このまま野放しにして、変にまつろわぬ性とやらが出てきたりする方が嫌だ」

「だね~」

 

 とりあえずの方針としては、ユノさんが当代のパルテノペ──イタリア観光をしたいと言うのであれば、乗ってあげようじゃないか。

 僕らは向こうに近づいて、護堂がユノさんに手を差し出した。

 

「交渉成立だ」

「この仕草はなんだ?」

「握手だよ。お互いに手を握ることで、これから仲良くしよう。そんな契約を結ぶんだ」

「……そうか。仲良くか。良いではないか」

 

 そう言いながら、ユノさんは護堂と握手して──握手──長くない? もう一分は握ってるぞ、この大地母神は。

 

「ふむ、ふむ。随分と大きな手だ。悪くない。おのこの手はこうでなくてはな……ふむ……」

 

 何やら満足気に、ユノさんはむふーと笑っていた。手を離した後も、なぜか自分の手を擦り喜んでいる。なんだろう……あの奇妙な反応は。神殺しを従えてかつて統治した当地巡りを出来るのが、そんなに満足なんだろうか。

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