前世凡人 今凡神   作:カンピオーネ二次復権派

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決戦前の語り合い

 ユノさんと護堂の一騎打ち。それを護堂は──受けた。これが興味本位からの決闘であれば、護堂は間違いなく断っている。

 なぜなら似非とは言え、彼は平和主義者だから。だが今回のケースでは、それらの理屈は通じない。護堂が決闘を受けないのであれば、ユノさんは自害して大地に還るだけ。

 それを受け入れられないと言ったのは護堂なのだ。だから、今回だけは護堂は受けざるを得ない。なぜなら、あくまでもユノさんに死んで欲しくないと願ったのは彼なのだから──

 

 二人が戦う場所だが、霊脈に呪力を還す関係上、出来れば南イタリアの何処かが良い。そこで選ばれたのは、ペルセウスさんと激闘を繰り広げたヴェスヴィオ火山だ。

 あそこであれば既に結構な破壊を繰り広げた後なので、これ以上の環境破壊があったところでそこまで問題もない。

 場所は決まり、あとはユノさんが指定した夜明けを待つだけ。

 

 ──なのだが、僕はとあることを尋ねたくて、ユノさんのところに向かっていた。僕だけでなく、祐理さんと恵那さんも同行している。

 ユノさんは既に火山に先行している。僕らは転移で火山に到着し、ユノさんがどこにいるのかを探す。

 

「おお、どうしたそなたら。まだ刻限には早いぞ……それとも、そなたらが我を抹殺しに来たか?」

「ううん、それはしない……それよりも、ユノさんに聞きたい事があって、ここに来たんだ」

「問いたいことか……良いぞ。そなたらには、我と草薙の一騎打ちに手を出すなと言う願いを聞き入れて貰って居る。その代わりに我に問いたい事があるならば、存分に問い質すが良い」

「分かった。それじゃ、単刀直入に聞くね。ユノさんは──」

 

 僕がそれを問うと、ユノさんはふむふむと頷いてから──

 

「──であろうな。その認識に間違いはない」

「……やはりですか。ユノ様の行動、まつろわぬユノと呼ぶには違和感が多数ありました。もしかしたら……とは考えていましたが、けれど確証は無かった。ですが美殊様が告げられた真実。それが本当なのであれば、私の違和感にも納得がいきます」

「だね。コロッセオで演武を見た時に、あー……とは思った。そう言う事もあるんだなって……だから、あえて言うね。ユノさんはそれでいいの?」

「良いとは何がだ?」

「イタリアを見捨てて、欧州も見捨てるなら、ユノさんが死ぬ必要ないよね? ……それで良いの?」

「はは、良いも悪いもあるか。我がこの地に還れば、全ては万事上手くいく。そう口に告げたのはそなたら……美殊ではないか」

 

 ユノさんの眼が僕に向けられる。濃紺の瞳には、今更何を聞いておるのだと感情と言葉が浮かんでいて、けれどそれに僕は反論したくて口を開く。

 

「そうだね。その通りだよ。僕がユノさんに死んで欲しいと告げたんだ。でもさ……それだと寂しいじゃないか。それに──ユノさんが護堂に一騎打ちを申し込んだ理由。それって──」

「──言うでない。これは我が選んだこと。我なりの、草薙への問答だ……そのことについて、これ以上をとやかく詰められるのは性に合わんでな」

「ですが……これだけは言わせてください。この一週間の間、御身を見て来たから分かります! 御身は護堂さんの事が……私たちと同じなのですよね?」

「……祐理は詰まらぬことを問うのだな。そなたらと同じかだと? ……それを口にしてどうする。我は草薙と死闘をすると約束した。それが全てだ」

「でも──」

「──でもはない……そなたらが我と同じ立場であろうとも、同じことをした。そうであろう?」

 

 酷く穏やかな視線で、ユノさんは僕たちを見据えてくる。同じことをしたか? ……しただろうね。きっと同じ道を選ぼうとしている。それが最善であり、同時に僕らにとって我儘を叶えられる答えだと知っているから。

 

 それでも……

 

「寂しいじゃないか……ほんの数日であっても、一緒にいた誰かが……」

 

 祐理さんは眼を伏せ、僕も顔を伏せる。恵那さんも、神妙に俯いてしまった。この先に何があるのかを知っているから……きっと、彼女が何を選ぼうとしているのかを、今の問答できっちりと知ってしまったから。

 そんな僕らの様子に、ユノさん……かかっと笑った。

 それから近づいてきて、僕ら三女神を抱きかかえてしまう。

 

「ユノさん……?」

「……良いんだよ。我はそれで納得してるから。例え数日であろうとも■■と一緒にいられた。それ以上を願うのは、我の我儘だから。それに我がどうなろうとも、君たちが彼の傍にいる。ならそれで良いじゃないか……美殊」

「何?」

「今回だけは、本当に手を出さないでね。ペレとの闘い以降、警戒心が強くなったのは知ってるけれど……それは流石に情緒が無いからさ」

 

 喋り方の変わったユノさんの言葉に、僕は──僕らはうんと頷いておく。それで彼女との問答はおしまいだ。僕らは転移でミラノの拠点に戻り、床に就こうとして──護堂とばったり出会った。

 

「どうしたんだ、三人とも? どこかに行ってたのか?」

「ええと……ユノさんのところに」

「あいつのところにか? なんでまた」

「それは……それはちょっと確かめてみたいことがあって……」

 

 僕ら三柱が確かめて来た真相。それを護堂に話しておくべきだろうか。二柱と目配せして、やっぱり話すべきだよねと決心する。

 

「ねぇ、王様。聞いて。ユノさんなんだけど、あのユノさんはユノさんじゃなくて──」

「知ってる」

「──え?」

「知ってるって……まつろわぬユノじゃないことに、護堂は気づいていたの?」

「ああ」

 

 短い返答に、僕らは驚いてしまう。特に僕が。だって護堂って、こういうのに疎いタイプじゃないか。なのに知ってたなんて──

 

「い、いつから?」

「競馬場で握手をした時だな」

「そんなに早くからですか!?」

「そりゃな。あの仕草をされたら、嫌でも勘付くよ……どれだけ、俺があいつの仕草を見て来たと思ってるんだ」

 

 その物言いに、あれ? と僕は気づく。護堂が女性を呼ぶときは、君とかあんたとかが普通だ。あいつなんて呼び方はしない。お前と言う呼び方もよほどのことが無いと。

 ……ああ、そうか。なら納得がいく。護堂はナポリにいる時から、ユノさんをこう評してたじゃないか。マルゲリータを喰わせる時に、はいはい、我儘な女神様だよ……と。

 

「そっか……それだけ見て来てくれていたんだね」

「当たり前だろ? どれだけ長い間、一緒にいたと思ってるんだ。ああも露骨であれば、嫌でも気付くよ」

「……それを知った上で、王様はユノさんとの一騎打ちに応じるの?」

「応じる。あいつがあんな我儘を言い出すなら、止めてやれるのは俺だけだ。あいつが自殺してやるなんて言うなら、手足をへし折って動けなくしてでもな」

「……怖いね、その覚悟は。僕らもおんなじ目に会っちゃうのかな? 例えばまつろわぬ身になってしまったら」

「するよ。それぐらいしないと、美殊も恵那も祐理も止まらないだろ ……美殊は、本気であいつに死んで欲しいなんて言ったのか?」

「……ううん。出来れば、生きていて欲しいかな。でもそれは、ユノさんの覚悟を踏みにじる行為だから。だから僕は、あの場でああ言うしか無かった」

 

 ユノさんは僕が言わなくても、自分が死ぬのが一番確実で早いと理解していた筈だ。だからあの場で問いかけた……その正しい方法を口にさせるために。

 僕の言葉を聞いた護堂は、そうかと短く返答する。

 

「なら、ユノが口にしたことが真実か。やるべきことだから、やるんだって……俺はその言葉を受け入れない。あいつが口にした言葉が道理なのかもしれない……知った事か。道理や常識なんて知った事か。俺がどうするのかは、俺が決める。あいつが死ぬのを黙って受け入れるつもりはない……でも美殊達が少しでも協力する素振りを見せたら、あいつの性格だと本当に自害すると思う。でも事前準備をしてはいけないなんて、あいつは口にしていない。だから俺に知識をくれ。魔導力も……あいつと戦うための武器を、俺に渡してくれ」

 

 お願いと言う名目だが、護堂の視線はまっすぐに僕らを見据えている。ユノさんの正体を考えたら、事前準備はしてもし足りないぐらいだ。

 僕としてはユノさんの意思を尊重して上げたい部分もあるけれど、同時に護堂の意思を蔑ろにしたくない面もある。

 祐理さん、恵那さんと共に、僕らはユノに纏わる知識と──彼女の本当の神格についての知識も授ける。ユノさんを生かせば、悪い方向にだけ進むと分かっている。彼女の真意はもしかしたら──なんて考えもあるけれど、それも護堂には渡しておく。

 劔を研ぎ澄ませる……勝つための武器を。護堂が──神殺しが勝つと決めたのだ。それがどんな結末になるにせよ、僕ら三女神は見届けるつもりだった。

 

 

 

 

 

 そして──ひと眠りしてから、夜明けがやってくる。護堂はぐっすりと寝た。いつもと変わらない睡眠時間。例えこの戦いがどれだけ特別であろうとも、彼のルーチンは変わらない。

 ここを変えたりすれば、自分が敗北すると理解しているから。

 

「行くぞ」

「うん」

「はい」

「了解」

 

 短い言葉だけを交わしてから、僕らは再びヴェスヴィオ火山に。東の方に目を向ければ、夜が明けて光が差してくるのが見える。

 逆に西に目を向ければ……ユノさんは槍を地面に突き刺し、山羊の兜を被って待っていた。その眼が開かれて、濃紺の瞳が僕らに向けられる。

 

「……よう来た、草薙。やはり俺は平和主義者だから、喧嘩は無しだ……などと言うて、来ぬかと危惧しておったよ」

「それをしたら、どうせ夜を待つまでもなく自決するだろ?」

「当たり前であろう。来ぬ客人を待つほど、我は気が長くないわ」

 

 かかかと笑うユノさんからは、これから死闘をしようと言う気配や、護堂に勝ったとしても死ぬつもりな様子は一切見せない。

 そんな彼女に対して、護堂は──

 

「最終確認だ。俺が勝ったら、お前は俺の言う事を聞く。時間はかかるし、その間にイタリアはとんでもないことになるかもしれない。でも是正する手段はあるから、この地の霊脈は最終的にはちゃんと修復される」

「我が勝てば、我は倒れ伏したそなたの前で、自らの命を絶つ。そして、この体に奪い取ってしまった霊脈どもを解放し、この地に還元してやる……これ以外に確認したいことは?」

「……俺に倒されても、あとからやっぱり駄目だ! なんて言うなよ」

「それは我の台詞よ。刻一刻と状況の悪くなるこの土地を見て、やはり我に亡くなってくれ……などと泣きつくでないぞ」

「それはない……俺が来たのは、お前を止めるためだ。それ以上でも無いし、それ以外もない。イタリアの霊脈のために、自殺するお前を見るつもりもない。全部取るぞ。何一つ取りこぼさない。それが俺の生き方だ」

「はっ! 随分と傲慢な口を叩きよるわ!! 何も捨てずに、全てを手に入れるとぬかすか!! その傲慢な在り様こそ、汝が神殺しである証左よ!! 幾ら平和や平穏を口にしようとも、いざとなれば力尽くで手に入れんとする……お主に穏やかな人生なんぞあり得ん……」

 

 だから──とユノさんは小さな声を漏らした。小さな声は僕らにも届かない。けれど……それ以上語るつもりはないのか。

 ユノさんは槍を地面から引き抜いて、僕らに付きつけた。

 

「さて……我は一騎打ちを申し付けた筈だが、なぜそなたらまでこの地に赴いた? まさかとは思うが、やはり草薙を援けんと、供として参ったのか?」

「手助けはしません、ユノ様……ですが、私どもは結果を見届ける義務と義理が御座います。護堂さんと御身、どちらも私共と縁の繋がった御仁です。御身らの対決を、遠く離れたミラノで待つなど、あり得ません」

「……そうか。祐理が……そなたらがそう決めたのであれば、我も口出しは出来ぬか。ならば火口の縁にでも座っていろ……手出しの気配がすれば、即座に我は死亡する。それだけは覚えておけ」

「了解だよ、ユノさん……王様」

「なんだ?」

「勝ってね。ユノさんとは、まだ遊びたいことやしたいこと。たくさんあるから」

「ああ。勝つよ……全員で、日本に戻るんだ。この夏休みでイタリアの霊脈を治してからな」

 

 祐理さんと恵那さんはスタンスを示した。ならば僕も……改めて表明しておこう。

 

「ユノさん……僕の意見だけど、祐理さんや恵那さんの言葉を聞いても変わらない。あなたが死んでくれるのが、僕としては一番早く、かつ確実に事態を収束させる方法だと考えてる」

「それは我の意見とも一致しておるな……それを改めて宣言し、そなたはどうしたいのだ?」

「……これは僕の理性としての考え。ここからは僕の個人的な考え──ユノさんには生きていて欲しい。この地や欧州がどうなるにせよ、生きて欲しい……僕も悲しいし、護堂だって悲しい想いをするからさ」

「──心には留めておこう。実行はあり得んがな」

 

 それだけを言って、ユノさんの視線は僕らから護堂に。これ以上を、僕らと語るつもりはないようだ。ここからは神と神殺しの一騎打ち。僕ら大地母神が手を出して良い領域じゃない。

 離れた僕らを見送ってから、ユノさんはこれが最後の問答と言わんばかりに口を開く。

 

「……なぁ、草薙。一つだけ、最後に答えてくれ」

「なんだよ」

「この一週間……楽しかったか? 我のしもべとして案内人を務め、我の我儘に振り回されるだけの日々……お主にとって、我と過ごした時間はどうであった?」

 

 それは、神としての問いではない。ただ一人の連れ添った相手としての──長い時間を共にしたパートナーのような素朴で、純粋な問いかけだった。護堂は少しだけ目を丸くし、それから──ふっと、いつもの困ったような、けれど優しい笑みを浮かべた。

 

「楽しかったよ。困らされることも多いし、美殊に聞かないと分からないような知識を問われることも多かったけれど……面白かったよ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ユノさんは満足げに、本当に嬉しそうに目を細めた。朝日に照らされたその表情は、どこまでも透き通っていて、儚げで。

 

「そうか。……ならば、良き旅路であったな」

「ああ。良い旅だった……だから続きをやるぞ。これで終わりになんかさせない。日本でもどこでも、また旅をするぞ」

「……本当に、手のつけられぬ強欲な男よ。叶わぬ願いを口にするか」

 

 くかかと笑い……今度こそ濃紺の瞳に殺意が宿る。突きつけられた槍には一切のブレが無く、迷いも、未練もない。あるのは、ただ一人の神殺しに挑まんとする、まつろわぬ女神の狂気だけだった。

 

「礼を言うぞ、草薙護堂。我が心、今、満たされたり。……さあ、来るが良い! これが正真正銘、我らの最後の遊びだ!! 我を最期まで楽しませろ、草薙ぃ!!!」

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