緋弾のアリア~Sランクの頂き~   作:鹿田葉月

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はいどうも、鹿田葉月(*`・ω・)ゞデス。

ということでお待たせしました、本編の方です。何とか間に合いました……ホントに良かったです。

テレビスさんに評価7。
白夜(´・ω・)さんに評価9。
黒村 白さんに評価9。
雅[みやびー]さんに評価9。
まさに外道さん評価9。

を頂きました!有難うございます!

では、第68話、始まります。


68話~『緋弾』

一度向かった出口から再び屋上に出て、そのまま飛び降りる。階段から降りていくよりかは、こちらの方が速い。

着地と同時に全速力で走り、あっという間に強襲科(アサルト)(とう)の第一体育館に駆け込む。

強襲科(アサルト)の体育館とは、体育館とは名ばかりの……戦闘訓練場だ。

闘技場(コロッセオ)とあだ名されるスケートリンクみたいな楕円形のフィールド前に、生徒達が大勢集まっている。

防弾ガラスの向こう、闘技場の中心から……銃声が聞こえてくる。

戦っている――アリアと、カナが。

 

「ちょっと、通してくれ」

 

人だかりをかき分けるようにして、銃声の方へ向かう。

 

札幌武偵高(サッコウ)にあんなすげぇ女子がいたなんて――聞いたことねぇ!」「神崎の無敗伝説、こりゃ本気で終わっちまうぜ」「どうやってんのよ、全然見えないわ、あの銃撃……」

 

闘技場を囲んでいる強襲科(アサルト)の生徒達が、興奮気味の声を連ねている。

 

「やれややれや!どっちか死ぬまでやれや!」

 

という大声に顔を上げると、防弾ガラスの衝立の上に、2メートルはある長刀を何本も背負った強襲科(アサルト)教師――蘭豹(らんぴょう)先生がいた。

カットジーンズから長く伸びた脚でガンガンと蹴っている蘭豹先生は、19歳。

俺達と同年代だが、香港では無敵の武偵として恐れられている。

その後で教職に就いたが……あまりの凶暴さに各地の武偵高を次々クビになり、転々としている。

その蘭豹先生の横に行くように衝立に飛びつこうとすると――

 

「――どけ、どいてくれっ!」

 

人だかりを押し退けながら、キンジも衝立に飛び付いてきた。恐らく理子に話を聞いたのだろう。

キンジが見る先、砂が撒かれた闘技場(コロッセオ)には――

 

――カナが、いた。

 

カナは武偵高の女子制服を着て、既に片膝をついた状態のアリアを見下ろしている。

 

「おいで、神崎・H・アリア。もうちょっと――あなたを、見せてごらん」

 

憂いの色を表情に浮かべたカナは……パァン!

あの、不可視の一撃(インヴィジビレ)を放っている。

バシィッ!とアリアが鞭で叩かれたような音。当たっているのだ。カナの弾が。

 

「うっ!」

 

ずしゃっ!

アリアは短い悲鳴を上げ、見えない足払いをかけられたように前のめりに倒れた。

血しぶきは上がっていない。視えたが、防弾スカートに当たっている。

武偵高の防弾制服に使われているTNK繊維は、銃弾を貫通させることはない。だが、その衝撃のダメージが無くなるワケではないのだ。

聞いた話だが、制服に被弾すると金属バットで殴られたような衝撃を受けるとのこと。

当たり方が悪ければ内部破裂で死ぬことだってある。

 

「蘭豹、やめさせろ!こんなのどう考えても違法だろ!また死人がでるぞ!」

 

キンジが蘭豹先生に対して、怒鳴るように叫ぶ。

実弾・実銃を使った決闘形式の模擬戦は、強襲科(アサルト)のカリキュラムの一つである。

だが、その実施には体中を完全に防護するC装備の着用が義務づけられている。

制服での模擬戦は、現実には生徒同士の私闘やこの蘭豹の命令で希に行われてしまっているが――明らかな武偵法違反行為だ。

 

「おう死ね死ね!教育のため、大観衆の前で華々しく死んでみせろや!」

 

教育者にあるまじき発言をした蘭豹先生は、ぐいっ。

でかくて長いポニーテールを揺らし、手にした瓢箪(ひょうたん)から酒を飲んだ。

酔っている。誰の目にも、それは明らかだった。

キンジもそのことに気付き、蘭豹先生に二人を止めさせるのを諦めたのか、防弾ガラスの扉をICキーで開け放つ。

そして驚く周囲に見向きもしないで、アリアとカナに向かってかけるキンジ。その後ろに俺もついていく。

 

「カナ、やめろ!」

「くォらこの遠山ァ、錐椰ァ!授業妨害すんなや!脳ミソぶちまけたいんか!」

 

ドウッ!

落雷のような発砲音とともに、銃弾がこちらに向かってくる。

その銃は世界最大級の巨大拳銃。『象殺し』とあだ名されるM500。一般人が発砲したら、まず間違いなく()()()()()()()

それを酔っている状態で、オモチャのように軽々と発砲した。その銃弾の軌道は正確にキンジの背中を捉え――

 

「なら、ちゃんとした授業をお願いしますよ。蘭豹先生?」

 

――る前に、その銃弾をコウヒノホダシで斬り捨てる。重い感触が刀を通じてくるが、それでもこの刀は刃こぼれすら許さない。

少し呆気に取られている蘭豹先生に背を向け、キンジ同様に駆ける。

 

「……キンジ、零?」

 

と、カナが一瞬こっちを見たスキに――倒れていたアリアは、バッ!バッ!

逆立ちするように跳ね起きながら、左右の脚でカナの顎めがけて蹴りかかった。

カナはそれを、ほとんど動きすらせずに躱す。

 

「――このぉッ!」

 

着地より早く2丁拳銃を抜いたアリアは、カナを至近から撃とうとするが――

とん。とん。

振り向いたカナに左右の手首を軽く押され、銃口を逸らされた。

 

「――!」

 

バスバスッ!がきんがきん!

トリガーを引く指を止められなかったアリアの銃が、スライドをオープンさせる。

弾切れだ。2丁とも。

――だがアリアは今の交錯で、カナの背後に回り込めていた。

そして放り投げた2丁拳銃が宙を舞う中で――

流星を二筋走らせるように、カナの背中に二刀流で斬りかかる。

 

「――やッ!」

 

カナを背後から襲う、起死回生の挟撃だ。

今までやられていたアリアの逆転技に、おおっ!と生徒たちが声を上げる。

 

……だが、カナ程の人間に、死角はない。

 

ギギンッ!

くるくるくる……

かしゃん、かしゃん。

 

と、アリアの小太刀は……闘技場(コロッセオ)の左右に、力無く転がっていった。

誰にも、何も、見えてないだろう……俺以外には。傍目から見たそれは、ただその長い三つ編みの髪を揺らして振り返っただけ。

――サソリの尾(スコルピオ)

昔キンジから聞いたもので、カナの背後に回った敵には、それが襲いかかるのだ。

 

「はぁ……はぁっ」

 

荒い息をするアリアは――よろ、よろ、と何歩か後退した。

その口元からは、先程の攻防で顎を殴打されたために、一筋の血が流れ出ている。

 

「はぁ……はぁ……さ……さっきの銃撃……『ピースメーカー』ね……!?」

 

アリアの目はそれでも、まるで小さな獅子のように闘争心を失ってはいなかった。

 

「――よく分かったわね。そう。わたしの銃は、コルトSAA――通称、平和の作り手(ピースメーカー)。でも、あなたはそれを視ることができなかったハズだけど」

「アタシ、には……分かる。銃声と、マズルフラッシュで。骨董品みたいな古銃だから、はぁ、はぁ……イマイチ、思い出しにくかったけど――」

「じゃあ、もっと見せてあげる」

 

パァン!

カナの右前方が光り、アリアはツインテールを跳ね上げさせて真後ろにひっくり返った。

 

「うぁッ!」

 

胸を撃たれたらしいアリアの両手が、力尽きたように地面に倒れてしまう。

それを見たキンジが、限界だとばかりに二人の間に飛び出す。

 

「逃げろアリア!」

 

ベレッタをカナに向けながら――歯を食いしばって起き上がろうとするアリアと、追撃の銃弾を放とうとしたカナの間に、キンジが割って入る。

パン!パァン!

ほぼ同時に二発放たれたカナの銃弾が、キンジの脇腹を掠めてアリアの脇の地面に着弾する。それにより、キンジの体が揺らぐ。

だが、その銃口は逸らさない。キンジが心から尊敬している、カナから。

 

「ど、どきなさい……キンジ……!」

 

そのキンジの背後から、がくがくと震える膝で立ち、顔を上げることすらできないアリアが――

キンジのズボン、そのポケットから抜き取ったバタフライナイフを、構えている。

 

「どきなさい、キンジ」

 

カナも、アリアと同じセリフでキンジに命令する。

 

「あなたのような素人は動きが不規則な分、事故が起きやすい。危ないわ」

「そんなことは分かってる、あんたに言われなくても……!」

「なら、どうして?なんのために危険に身をさらすの?まさか、私と戦うつもりではないでしょう?そこにいる零ならともかく、未完成なあなたが私に勝てるハズは、万に1つも――」

「……れ、い?」

 

キンジとカナの言い合い。そのカナの言葉に反応したアリアは、先程まで下げていた頭を、上げる。

そして、ゆっくりと周囲を見渡すように頭を動かし……闘技場内にいる、俺と目が合う。

追い込まれて気付かなかったのか、そこでようやく俺の存在を認めたアリアは……その瞳を大きく開く。

そして、どこか様子がおかしい。

体が小刻みに震え、それを治めるかのように両手で肩を抱くが、それでも止まらない。

 

「アリア――?」

「あ…ああ……」

 

そこで思わず声をかけてしまったのが……間違いだった。

 

「――アアアァァァァッ!」

 

いつものアニメ声より、少し低い声で叫んだと思うと――

持っていたバタフライナイフを、カナに投擲(とうてき)した。

だがその軌道は、カナから少し外れている。それを投げる時から察していたのであろうカナは、悠長に待ち……。

――何かに気付いたのか、慌てて大きく避けた。何故だ。

疑問に思いながら、ナイフの行く末を見る。

目標を捉えなかったナイフは、そのままフィールドの防弾ガラスに向かう。

そのバタフライナイフの刀身が、うっすらと()()に染まっているのを視認すると同時に、ガラスに突き刺さる。

 

バシュウウウウウッ――――!

 

爆発や銃声とは全く異なる音が、フィールド内を包む。緋色の光が、視界を全て塗りつぶす。

突然起きたことに思わず顔をガードし……腕を降ろすと。

 

「……嘘、だろ……」

 

防弾ガラスが、()()()()()()()()()()

カランカランッと、バタフライナイフをその場に残して。

見学していた生徒達は現状を理解できずに呆然とし、蘭豹先生も、酔って赤くなっていた顔を引き締めている。

キンジは驚きの表情のまま固まっており、カナだけはあり得ないモノを見た、と言わんばかりに目を開いている。

その中で一人、アリアは立っていた。

普段の感情表現が激しい彼女とは思えない程、無表情で。

――マズい。このままだと混乱が起きて、事の発端のアリアに危険が及びかねない。

そう判断したときには、自然と両手を広げていた。

 

錐椰(きりや)(れい)の名の下に』

『当事者以外に休息、及びこの場で起きた事の記憶の消去』

 

ドタッ。

詠唱を終え、両手を降ろすと……俺と、キンジ、カナ、それにアリア以外の人間が、地に伏せていた。すぅすぅと、寝息を立てて。

これで、この件に関しては大丈夫だ。

 

(後は……アリア本人について、だ)

 

辺り一面を確認した後、再びアリアに視線を向けると……アリアも、俺に目を向けていた。変わらない、無表情のまま。

――普段とは違い、その瞳は()()()()()()()

 

『…ゃ……め…………た……』

(――なん、だ……?)

 

すると突然頭の中に、何かが入ってくる。

いや、入ってくるというよりは、聞こえてくるという方が正しいか?

それに何だか、視界がボヤけて……アツい――。

 

「れ……ぃ……」

 

思わず目に手を当てて押さえると、アリアは呟くように名前を呼び……。

ドサッ。

線が切れたように、その場に倒れこんだ。

その瞬間、スッ――と、目元のアツさが収まり、ボヤけた視界もクリアになっていく。

 

「アリアッ!」

 

直ぐに倒れたアリアに駆け寄って抱き寄せ、脈を確かめるが……異常はない。

良かった、どうやら気を失っただけらしい。

 

(でも、さっきのは一体――?)

 

普通に考えてみれば、超能力(ステルス)を使ったと思うのだが……アリアは超能力者ではない。小さい頃から一緒だったんだ。その頃から一度も使っていないことは分かっている。

だが、防弾ガラスを跡形もなく消し去ったというのが、実はただの物理攻撃でした、何てことも有り得ない。仮に出来たとしても、バタフライナイフが損傷していないことへの理屈が通らない。

 

「――『緋弾』……」

 

さっきの現象に裏付けが出来ない理論を考えていると……目を見開いたままのカナが、ボソリと呟いた。

それに後から気付いたのか、口元に手を寄せる。思わず出てしまった、と言わんばかりに。

 

(『緋弾』……?何だ、それは?)

 

何かの暗号だろうか。いや、暗号にしては言葉の形成が簡単すぎる。そのままで意味が通じるものだろう。

緋弾。緋色の、弾。

緋色と言えば、アリアの髪と瞳。これは昔は違った。キレイな金髪(プラチナブロンド)で、碧眼だった。

そういえば、先程のバタフライナイフも、刀身が緋色に染まっていたが――。

 

(……待て。もし、もしもだ。アリアの髪や瞳が原因不明の病気とかじゃなくて……)

 

()()()創られた、人為的なモノだとしたら――

 

「――ぃ。零ッ!大丈夫かっ」

 

前方からの呼びかけに、ハッとする。

見ると目の前にキンジがいて、俺の肩に手を置いていた。

 

「あ、ああ。少し考え事をしていただけだ。アリアも気を失っているだけだし」

「そうじゃなくて……お前、気付いていないのか?」

「何がだよ」

「お前、アリアがおかしくなってから、倒れるまで……」

 

――瞳が、緋色に光っていたぞ――

 

 

 

 

 

カナももう仕掛けるつもりも無いようなので(そもそも『あの時期』が近付いていたのか、呑気にアクビしていた)、アリアを背負って救護科(アンビュランス)に向かう。あの後のことはキンジと、何故か婦警の変装した理子(周りの生徒や蘭豹先生が倒れていることに変装しているのを忘れて驚いていた)に任せてきたので、問題ない。

小救護室に着いたが、救護科(アンビュランス)衛生科(メディカ)の面々は武偵病院で実習をしていて不在。

とりあえずアリアをベッドに寝かせて、適当に薬品箱を漁る。

 

「ん……ここ、は……」

 

すると後ろから声がしたので振り向くと、アリアが目を開けてぼぅ、としている。良かった、起きたんだな。

 

「――カナはっ!?決闘はッ!?」

 

しばらくそのまま天井を見つめていたアリアだったが、急にガバッと上体を起こして叫ぶ。

 

「アリア、落ち着け」

「あっ……零……」

 

カナと戦って傷ついた身体を酷使させる訳にはいかない。そっと肩に手を置き、ベッドに寝かせる。

徐々に脳も覚醒してきたのか、落ち着いた様子で……しかし、悔しそうに目を伏せ。

 

「アタシ、カナに負けた、んだ……」

 

消え入るような声で、呟いた。

負けた、と言っていることは……

 

(あの出来事の、記憶が無いということか)

 

覚えているのなら勝ち負けがどうこうというより、周りのことに意識が及ぶだろう。

であるとすれば、あれはやはりアリア自身の超能力(ステルス)ではないだろう。偶然あの時に覚醒した、というケースもなくは無いが。

 

「いきなり、カナが強襲科(アサルト)に現れて、アタシに決闘を挑んできた。逃げるわけにも、負けるわけにもいかなかった」

 

ギュッ。

アリアはあまり力が入らない両手を握りしめ、目に涙を浮かべる。

 

「……アリア、知っておけ。世の中にはSランク武偵を鼻で笑うような、そんな猛者達がいるんだ。カナも、その中の一人だ」

「だめ!だめなの!アタシは、アタシは強くなきゃいけないの!いくら差戻審(さしもどししん)になったって……ママはまだ勾留されてる!1審の終身刑だって消えてない!アタシが、アタシが強くなきゃ……ママを……助け……られ……ない……」

 

とうとう堪えきれなくなったアリアは、その瞳から大粒の涙を流す。

 

「……アリア、大丈夫だ。アリアが強いことは、俺も良く知ってる。それに、俺だっているんだ。そのためのパートナー、だろ?」

「零……ありがと。でも、アタシは、零に何も、何も返せてない。初めて会った時から、ずっと。それに、零も、(のぞみ)ちゃんのことが――」

「アリア」

 

普段の勝ち気なアリアとは違う、弱々しい姿。でも、それは不自然じゃない。

いくらSランク武偵の二つ名持ちだとはいえ、中身はまだ16歳の少女なのだから。

その小さい頭に手を置き、目線を合わせる。

 

「そう思うのなら、ここから始めていこう。今はカナが……自分より上の人間がいることを認めて、ここからその人達を抜いていこう。その後でかなえさんのことも、(のぞみ)のことも、一緒に解決しよう」

「零……」

「それにな、アリアは俺に何も返せてないって言ったけど……」

 

――出会った時に大きな()()、貰ってるから。

 

 

 

 

 

気持ちを整理するから、今日は女子寮に帰る。

手当てを終えた後、アリアは一人で帰っていった。

こればかりは、俺がどうこうするという問題じゃない。少しは励ましたが、結局はアリアの気持ちの持ちようだしな。

ということで、珍しく一人で下校して、男子寮の自分の玄関を開ける。

 

(……?)

 

そこでふと、違和感を覚える。だが、それが何に対してなのかが分からない。

取り合えず中に入ってドアを閉め、辺りを見渡すと……違和感の正体が分かった。

――靴が三足、並んでいるのだ。

この部屋には俺、アリア、シェイの三人が暮らしている。つまりアリアが帰ってこないで、俺自身が履いている靴を除けば……ここにある靴はシェイの一つか、ゼロであるはず。

それが三足。しかも、普段シェイが履いている靴はない。

一足は白のスニーカーで、残り二足は……サイズ、色が同じの革靴だった。

 

(どういうことだ……?)

 

一応警戒して紅のガバメントが入っているホルスターに片手を伸ばしつつ、静かに靴を脱ぐ。

しかし、一体誰なんだ。シェイが誰かを呼んだというのであれば連絡してくるだろうし、不法侵入者ならそもそも律儀に靴を脱がない。

がちゃり。

不意に、後ろから――脱衣所のドアを開ける音を耳が拾った。

反射的にガバメントを取り出してセーフティを外し、振り返る。

 

「動くなっ!」

 

ジャキッとコッキングを済ませて、標準を合わせる――と共に、絶句する。

何故ならそこにいたのは……

 

「あら?帰ってきたの」

「零さん、お帰りなさい」

 

――風呂上がりだと直ぐに分かる、()()姿()()()()()()G()()()()

 

(……ッ!)

 

あまりのことに、身体が固まって動けない。

紫色と、水色。風呂上がりで火照った、しかしそれでも白い肌を包むように装着されていて、まるで二輪の花がそこにあるかのようだ。

 

(……って何考えているんだよッ!頭沸いてんのかっ!?)

 

ようやく身体が動くようになり、顔を背け銃をしまう。その間もネリーとGは平然と(見ていないが)した表情でこちらを見つめている。

何だ、何だよこのイベント。『男子寮に帰ったら昔のチームメイトの女子二人が下着姿でお出迎え』?一体どこの三流ライターが描いたシナリオだよ。

それにマズいのは、ここが玄関の目の前だということ。つまり誰かが入ってきたら、まず間違いなく誤解される。

しかしこの二人、言って聞くような奴らじゃない。いや、Gだけなら聞いてくれるかもしれないが、ネリーは確実に面白がって邪魔してくる。

 

(ならばここは、逃げるが勝ちっ!)

 

そう判断した俺は、一目散に廊下を駆け抜け――何とか邪魔されずに済んだ――バンッ!

何故か開いていたベランダにある、防弾物置に入って鍵をかける。

アイツラなら余裕で突破してくるだろうが、流石にそこまではしてこないだろう。これでようやく一息つける。

 

「――零さん」

「うおっ!」

 

ポンッと肩を叩かれ、吐こうとした息を止める。

振り返るとそこには……何故か武偵高の制服を着崩している、涙目のBがいた。

 

「Bか、驚かすなよ……何でここにいるんだよ」

「フロ……三人……連行……」

「分かった。分かったから、その目をやめろ。怖い」

 

ハイライトが消えた目で、カタコトをしゃべるB。見た目は美少女にしか見えないし、『GOW』内ではGと同じく最年少。

そりゃあ、弄られる対象になるよな。双子の妹であるGも、おもちゃぐらいにしか思ってないだろう。

 

「取り敢えず、服をちゃんと着ろ。どうせアイツら、着替える頃には飽きているだろう」

「はい……」

 

言われた通りに服を着直すBを尻目に、防弾物置の扉をゆっくりと開ける。そして少しだけ顔を出し、部屋の中を覗く。

そこには私服に着替え終わった二人が、リビングでテレビをつけながらくつろいでいた。

ネリーの衣装は黒色をベースにし、胸の部分にワンポイントで『N』とピンク色で書かれたシャツと、白と黒の縞模様のウォームアーマー。青のデニムショートパンツから覗くスラッとした長い足は、紫色のガーターベルトに包まれている。

Gの衣装は薄いピンクのペプラム・トップスに、丈の短い黒のフリルスカート。表情は乏しいが、しっかりとお洒落をしている。

良かった、弄ってくる雰囲気ではなさそうだ。

少し安堵し、着直したBと一緒にリビングに入る。

 

「……で?お前達がここに来た理由は?」

「さあ?何かサイアが集まってくれって連絡してきたのよ」

「だから私達も、理由は知りません」

 

帰ってきてから思っていた疑問を聞くと、何とも要領の得ない回答が返ってきた。

 

「何だそれ、意味分からないぞ。これでつまらない内容ならただじゃ済まさないぞ」

「良く分からないのは同意するわ。でも、つまらない内容じゃないことは確かだと思うわ」

「……珍しいな、ネリーが毒を吐かないなんて」

「集まれって連絡、『コレ』で来たから」

 

そう言ってネリーが差し出したのは……()()()()()

その携帯についての形状や色については、特に語ることはない。普通にどこでも売っていそうな、ありきたりの携帯である。

――ただ、差し出した人物と、差し出された人物に対しては、『普通の携帯』には当てはまらない。

おい……それって。

 

「『GOW』時代の……」

「そう。『仕事用』の携帯。アンタはタブレットだったと思うけどね」

 

それはともかく、とネリーは一呼吸おいて。

 

「――現在も『GOW』メンバーのサイアが、ふざけ半分でコッチで連絡する訳無いでしょ?」

「……なるほど。だからネリーも、()()の時の格好なんだな」

「まあ話し合いで終わると思うけど、一応ね」

「――ゴメン、遅れたね」

「全員集まっているな」

 

ネリーと話していると……ヴォンッ。

何も無い所から、黒い穴の様なモノが現れ……スタッ。

そこから、武偵服姿のシェイ。と、サイア出てきた。

俺。ネリー・リチャード。サイア・クロニクル。B。G。シェイル・ストローム。

俺がリーダーだったチーム、『GOW』。その全員が、この部屋に集まった。

 

「全員集合したんだ、世間話の一つや二つでもしてみたいが――どうやらそう言う感じじゃ無さそうだな」

 

軽口を叩くが、直ぐに止めた。

サイアの顔がマジになってる。久し振りに見たぞ、コイツの真剣な表情は。

 

「それで?真剣なのは分かったけど、さっさと本題を話してくれない?アタシ達、理由は知らないんだから」

「「サイアさん」」

「――少し前に、減ってしまった『GOW』メンバーの補強として、新たに二人入ってきた。俺とシェイで先程会合してきた」

「……単なる自慢じゃ、無いのよね?」

 

ネリーの一応の確認に、頷くサイア。

 

「その内の一人が、とんでもない超能力(ステルス)の持ち主で、『全世界の鏡に映し出されるモノの観察』――つまり、鏡に映るモノ全てに対しての監視カメラだ」

「それは……凄いな。窓とか水溜まりとかも利用できるなら、隠れる所が無くなるぞ。この上無く捜査に使える」

「ソイツにダメ元で()()()を頼んだ。そしたら、見事やってくれたよ」

「何をだ?」

 

思わず聞いた俺に対して、サイアは真っ直ぐに視線をぶつけてくる。

その蒼い目は、しっかりと俺の紅目を捉え……

 

「――(のぞみ)ちゃんの、居場所を見つけた」

 

その口から出た言葉は、その場にいる者の耳を疑わせた――




はい、どうでしたでしょうか。

今回は原作とは違ったルートをご用意致しました!これからどうなるのか……是非ご期待ください。

疑問や批評などを感想や評価で頂けると嬉しいです!私もできる限り答えて行きますのでよろしくお願いいたします!
コラボなども大歓迎です!

それでは、ごきげんよう。(*・ω・)ノバイバイ。

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