本編を楽しみにしていて下さっていた方々はスミマセン。今回は番外編です。
何故二章のクライマックスに入ろうとしている時に番外編をやろうとしたかというと……なんと、この作品がお気に入り500件を越えました!
それもこれもこの作品を読んでくださっている読者の皆様方のお掛けです!有り難うございます!
さて、今回最初の番外編ですが……零が絡んだ時のヒロイン達って、普段はどんな感じなんだろう?と考えたので作りました。
そしてタイトルから分かる通り、今回はアリア視点というわけです。
では、500件突破記念短編集、始まります。
(※今回のお話は第一章と第二章の間のお話です。まだシェイはいませんので、ご理解お願いいたします)
~アリア編~
7:00
チュンチュンとことりの鳴く声と、カーテンの隙間からの暖かい太陽の日差しで、アタシは目を覚ます。
ふぁっ、と手を口に添えてアクビをして、しばらくボーッとしていると、いい臭いがしてきた。
……これは、零が朝食を作っているのね。
アタシは二段ベッドの下側に、綺麗に畳んである布団を見ながら、二段ベットの階段を下りる。
そして寝室のドアを開けてリビングに向かうと、キッチンで鼻歌を歌いながら、アタシのパートナー――
赤い髪をキチンと整えており、身長はアタシより30センチ近く離れているし、まるでモデルのようなスラッとした足をしている……今アタシの身長をバカにしたやつ、後で風穴よ。
「お、アリア起きたのか。おはよう」
そこで零がこちらに気付き、振り返る。
赤い瞳に、整った顔立ち。
「おはよう……」
「まだ寝惚けているのか?しっかりと顔を洗ってこい」
そう言って零はまた朝食作りを開始した。アタシもまだ寝惚けているのか、普段考えないようなことを考えているわね。
零に言われた通りに洗面所に向かい、パシャパシャと顔を洗う。冷たい水が適度に脳を刺激し、頭が徐々に目覚めはじめた。
……よし、これで大丈夫。
トテテ、とリビングまで小走りでやってきたアタシに零は苦笑しながら、
「アリア、キンジを起こしてきてやってくれないか?」
「分かったわ」
そう言ってアタシは寝室へと向かう。
しっかし、本当に毎朝遅れてやってくるわね……何をやっているのかしら、奴隷の分際で。
アタシはすぐに朝御飯を食べたい派だから、待たされるとイライラするのよ。
少しイライラしながら、もう一人のこの部屋の住民――
「キンジ、朝よ。起きなさい」
そう呼び掛けながらユサユサと揺らすが、キンジは気持ち良さそうな表情をしていて起きそうにもない。
イラッ
キンジの顔を見て、思わずイラついた。
――コイツ、奴隷のくせに主人を待たすとは、いい度胸ね……
アタシはそのままゆっくりと足を上げ……
「起きろッ!」
キンジの腹目掛けてストンピングをした。
ドスッという鈍い音と同時に、キンジの体がくの字になる。
「イッ……テェな!何しやがる!」
キンジがガバッと起きて抗議してくる。
「アンタが早く起きないからでしょ!」
「だからってストンピングはないだろ!」
「やられたくなかったら、目覚ましでも何でもして、早く起きれば良いじゃない!」
「この前携帯の目覚まし使った時に無意識で携帯を破壊したヤツがどの口で言いやがる!」
グヌヌヌヌ、とアタシとキンジが言い争いをしていると……
「はいはい、二人とも。朝御飯できたぞー」
――スッ、サササ。
零が呼びにきたのでアタシとキンジは言い争いを中断して、急いでリビングに向かう。
この前、ずっと言い争っていたらご飯下げられたことがあった。その時はコンビニ弁当を買って食べたけど、零のご飯は美味しいから食べたい。だからアタシとキンジはご飯の時になったら、何が起こっても素直に零に従うというルールを決めている。
「「「いただきます」」」
食べる前に手を合わせる、ということは日本に来てから初めて知って少し驚いたことだけど、今では自然とできるようになった。それに食に関わっている全てに感謝というのは、日本の良いところだと思うし。
ちなみに今日の朝御飯は、白いご飯にお味噌汁、卵焼き、魚、ほうれん草のお浸しに納豆といった、ザ・和食。
零は別に洋食が嫌いではないけど、朝御飯は絶対に和食にする。理由は、和食にした方が朝の体に良いし、パンとかと違って腹持ちが良いからということらしい。
うん、今日もご飯が美味しい♪
8:00
朝食を食べ終えて支度したあと、アタシ達はバイクの元に向かう。
このバイクはなんと零が造った物で、未だに謎だけど何かしらの機能が搭載されているとのこと。
零が乗ったのを確認して、アタシはその零の後ろに乗り、零の腰に腕を回して抱き付く。サイドカーはキンジが使用しているため、アタシは零の後ろに乗る、というのが普通になってる。まぁキンジがいなくてもサイドカーに乗らないけど。
ブォンブォン。
変わっていく景色の中、アタシは零の背中に顔をつけると、お日様に照らされた葉っぱのような匂いがしてきた。いつもと変わらない、零の匂い。
何で零って、女子でもないし香水をつけている訳でもないのに、こんなに良い匂いがするんだろう?
「おいキンジ、携帯をそんな近くで見るな。目が悪くなるぞ。目付きは元々悪いけど」
「お前は俺のオカンか。後目付きは余計だ」
そう言うやり取りをする零とキンジ。確か、幼なじみなんだっけ。
良いなぁ、そういうの。アタシはそう言った人はいなかったし、友達もいなかったから憧れる。
まぁでも、パートナーが零だし、退屈しないから別に良いかも。
12:20
キーンコーンカーンコーン……
「はい、じゃあ今日の授業はここまで」
古典の先生がそう言って教室から出ていくと、ガヤガヤとうるさくなった。
武偵高は基本、一般の授業は4限までしかないから、この時間で終了なの。
「アリア、授業くらいちゃんと聞けよ」
右隣のキンジがまとめていたノートを閉じてアタシにそう言ってくるけど、アタシは気にしない。
だって武偵に必要なのは専門的な知識だし、外国に行く時だって、アタシは17ヶ国語話せるから問題ないわよ。古典なんか、なんで今更誰も喋らない言語を勉強しなきゃいけないのよ。それなら睡眠に当てた方が良いと思わない?
「まぁキンジ、武偵は専門的なことを覚えていればいいんだから仕方ないよ。現に今の時間、ほとんど聞いている人いなかったし」
左隣の零がそう言ってくる。零のノートをチラリと見ると、マーカーでの線引きなどをしっかりとしていて、少し見ただけでも要点が分かるようになっている。
確か、零って白雪と同じくらい勉強できるのよね。
「零、そんなこと言っているから、武偵の偏差値が50切るんだよ」
「その偏差値50切っている武偵高の、だいたい平均くらいしかないキンジが言えるセリフじゃないだろ」
「うぐっ」
……キンジ、平均あったのね。驚きだわ。
アタシの点数?風穴開けられたいの?
「まぁいいや、飯に行こうぜ」
そう言って零がバックから弁当箱を取り出し、キンジは財布を取り出す。アタシもバックから弁当箱と、大好きな桃まんを取り出した。
そして学食まで向かい、適当に机を見つけて座る。その間にキンジは学食を買いに行っている。
基本はアタシ達3人で食べているけど、たまに優男の
でもアタシ、不知火はなんか怪しいというか、信じきれない感じがするのよね……まぁもし武偵活動を一緒にする時は、武偵憲章一条にのっとって信用するけど。
武藤については取りあえず、会ったら一発殴る。理由は単純にウザい。決して身長がデカイからではない。決してよ。
14:00
「とーう!」ダッ
「甘い」スッ
「あうっ」ドタッ
現在アタシがいるのは
今零に突撃して見事に手首を掴まれ、そのまま投げ飛ばされたのは、アタシの
「じゃあ、次はあたしの番っスね」
「ああ、良いぞ。来い」
次に零と対戦するのは、
「行きます……ハァッ!」
ライカがトンファーを持ち出して殴りかかる。が……
「ほい」ヒョイ
「んなっ!?」
零はその場でジャンプして躱した。それだけならまだ分かるけど、跳んだ高さが異常すぎるわよ。何で二階の手すりの所まで跳べるのよ?
ライカは思わず驚愕の声を出すけど、すぐに切り替えて落ちてくる零を待ち受ける。
「よっと」スタッ
「……え?」
……零、何で自然な感じで
……何で驚かないのかって?新しいアプリが出た時に一々驚く?
「あ……えっ……」
だがライカは上空にいる零を見たまま固まっている。それを見逃す零ではない。
「ハァッ!」
止まっていた時から一転、急に自由落下して呆然としているライカに上段蹴りをしようとする。
だがライカもハッとして顔の前にトンファーを持ってきてガードしようとする――
「フェイクだ」
が、零は足を引いてそのまま着地する。そして顔をガードしているためにがら空きになっている胴体に肘を入れる。
そして体が折り曲がったライカの足を払おうとする。
「――ッ!ラァッ!」
が、ライカはそれを避けて、逆に腕を取って投げに入る。うまい!流れるように動いている。そのまま……
「――よっと」
――投げられる寸前、零がライカに掴まれている腕を逆に掴んで、外側へと捻られる。
そうしてライカも一緒に倒れこむことになり、零はそのまま腕ひしぎ逆十字固めに移行する。
「イタタタタッ!ギブギブッ!」
ライカは耐えられずタップする。それによって零も手を離した。
「まだまだだな」
チッチッチッ、と人差し指を左右に振る零。
「……あー、やっぱり強いっスね。遊ばれているの分かりますし」
「いや、投げに入られた時は少なからず焦ったぞ?おかげで滅多にしない返し技使ったし。前も使っていたけど、あれがライカの得意技か?」
「はい、そうっスよ。投げ返して寝技に入って相手を無力化するんっスよ」
「そうか……ライカ」
「はい」
「しばらくそれ使うな」
「……えっ?」
零の突然の命令に驚くライカ。かくいうアタシも疑問に思う。何で使ったらいけないの?
「確かにその技はとても強力だ。不殺を義務づけられている武偵で、素早く無力化できる投げ技からの寝技は有効的……だが」
そこで零はライカの目をしっかりと視る。紅に染まっている目は澄んでいて、視た者を惹き付けるようだ。
「これはあくまでも、相手との距離が近く、また相手が武器を持っていない時にしか使えない。また、相手が武道を嗜んでいる場合、返される場合がある。しかし、ライカは銃もアサルトライフルだから近距離型だ。やはり近接戦に持ち込みたいはず。そこで……アリア、
「……?分かったわ」
零はアタシに構えるように指示したあと、距離をとった。大体15メートル程。アタシの射程圏内だけど、一体何をするつもりなの?
「アリア。今から近づくから、遠慮なく撃ってくれ」
「分かったわ」
「よし、なら……いくぞ!」
ダッ、と零が地面を蹴って走ってくる。そこにアタシは遠慮なく発砲した。
パン、パァンッとアタシの銃――銀と金のコルト・ガバメント二丁から飛び出される、一般的な9mm弾より大きい45ACP弾が、左肩・右足・胴体・牽制のため体の外回りに二発向かっている。
それを零は――まず左肩にきた銃弾を少し体を捻ってことで避け、続いて右足にきた銃弾は足を開いて避ける。
胴体にきた銃弾はさっき体を捻ったことにより自然と通り抜けて、牽制に撃った銃弾は少ししか体を動かしていないので当たらない。
よって全ての銃弾が避けられた。それと同時に零が距離を詰めてくる。残り5メートルといったところ。
――でも、まだ銃弾は残っている!
アタシは零がくれた金色のガバメントの改造の1つ――フルオート機能にチェンジする。そして残り全ての銃弾を撃つ――
サッ
(……え!?引き金を引ききる前に避けた!?)
しかしもう引き金を引く指は止まらない。
そのまま銃弾は発砲され、ガキンと撃ち尽くした。
「ほい、終わりっと」
そして零にそのまま近づかれて距離がなくなり、腕を掴まれた。
「……というわけで、ライカにはコレを完璧にできるようになってもらうぞ」
「……え?今のをッスか?」
「ああ」
「む、無理ッスよ!そんな、
「……ライカ。ちゃんと見てたか?」
「はい、見てましたけど」
「……ハァッ」
零が頭に手を置いて溜め息をついた。
「え?あたし、なんか変なこと言いました?」
「……アリア、説明してやってくれ」
「……ライカ。零が今やったのは、
「……え?」
「そういうこと。誰も音速近い銃弾を見切って避けろとは言わないよ……俺はできるけど」
「でしょうね」
「ですよね」
「寧ろできないと驚きますッスよ」
「……ついに誰も驚かなくなったな」
アタシ、あかり、ライカの三人にスルーされて逆に驚いている零。何を今更……と思う。
「ま、まぁとにかく、ライカに覚えてほしいのは『見切り』。相手が何を、何処を狙っているのかを些細な言動から読み取って対処することだ」
「見切り……スか。でも、そんな簡単にできるものじゃないッスよね?」
「当たり前。相手が素人ならともかく、それなりの力を持っている奴ならフェイクだって入れてくる。今のアリアの攻撃だって、狙ってくる所は一瞬しか見ていないし、その前まで銃口は別の所に照準を定めていた」
「じゃあなんで零先輩は狙いが分かったんスか?」
「さっき言ったろ?『一瞬しか見ていない』って。裏を返せば、絶対に一瞬は見ているってことだ。ということは、見ている所以外は狙ってこないから、見ている所から特定して、そこから避ける。ただ、特定するのには並外れた動体視力や洞察力、経験が必要になる。ライカは動体視力が良いからできるようになると思うが……やれるか?」
「……はい。教えてください!」
「分かった」
そう言ってライカに教え始める零。それ事態は別に良いけど……
(……ちょっと、近すぎない?)
ライカの体を軽く動かしながらパターンを教えているから、必然的に体が密着している状態になっている。ライカも満更ではないような表情をしているし。
「あ、あのアリア先輩?顔が怖くなっています……」
後ろからあかりが何か言っているようだけど、そんなのはどうでも良い。
(何よ。零ったら、後輩ばっかり構って……アタシにも、もうちょっと構ってくれても良いじゃない……)
そう思いながら、アタシは零がライカに教えている姿を見ていた――
18:00
「アリア、帰るぞ~」
しばらくたって、零が帰る支度を済ませてアタシの方にやってきた。
けど、今のアタシはそれに返事をする気分じゃない。そのままスタスタと歩き出す。
「……?どうしたんだアリア、黙りこくって」
「……別に、何でもない」
零が不思議がって声をかけてくるが、アタシは素っ気なく返す。すると――
ポンッ
とアタシの頭に零の手が置かれ、そのまま撫でられる。
零の手から感じられる、確かな温もり。
「ごめんな、アリア。また何か俺がしたんだろ?」
「……ううん」
そして撫でながら謝ってくる零。アタシはそれに対して首を横に振った。
(……別に零が悪い訳じゃない。アタシがただ拗ねてるだけなのに……)
零はとにかく優しい。自分が悪くないのに自分の責任にして、決して人に責任を擦り付けない。そして困っている人がいたら助ける。これが零の人格。
「このまま桃まんでも買って帰ろうか」
「……うん」
アタシの大好物の桃まん。零とのパートナーになった時の思い出。
(……そうよ。これくらいのこと、零がいなくなった3年間よりずっとマシじゃない。だって、いつも零が側にいてくれているんだから)
そう考え直したアタシは頭に置かれていた零の手を掴んだ。
「じゃあ、早く行こっ」
そう言って零の手を掴んだまま走り出す。
「おっと……やれやれ、退屈しないパートナーだな」
零が後ろで何かを呟いたようだけど、アタシには聞こえなかった。
夕日に染まる道を、緋色と紅色が駆け抜けていった――
これがアタシ、神崎・H・アリアの、
何気ない、ある日の1日だった――
どうでしたでしょうか?
好評だった場合、他のヒロイン達の視点も作るかもしれません。
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。