球磨川禊の幼馴染   作:めだかボックスアニメ3期まだですか

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第1箱「それじゃあまた明日」

 

 

 思い返してみれば、あの子たちとの付き合いも長い。

 

 おおよそ僕らしくもない思考だったけれど──おおよそ球磨川(くまがわ)(みそぎ)らしくもない思考だったけれど、しかし実際僕はそんな感傷に浸ったようなことを考えていたのだから、僕はやはりどうしようもないほどに僕なのだった。

 

 久方ぶりにめだかちゃんたち……黒神(くろかみ)めだかちゃんや人吉(ひとよし)善吉(ぜんきち)ちゃん、阿久根(あくね)高貴(こうき)ちゃんに会えて、らしくもなく感傷に浸っているからそんなことを考えた──というわけではない。自分で言うのもどだい変な話だけど、僕はそこまで殊勝な人格(キャラクター)をしていないし。

 

 長い付き合いがあって、ほんの少しばかり因縁があって、のっぴきならない事情があるだけ。ただ、それだけだからね。

 

 いやしかし、めだかちゃん達もまったく酷いもんだよね。よく知らない人たちに攻撃されたから、ちょっと必死で抵抗したくらいで、まるで僕が酷いことをしたのではないかとでも言いたげな視線を向けてくるんだから。

 

 僕が悪い、とでも言いたげな視線を向けてくるんだから。

 

 それは違うぜ、めだかちゃん。

 先に襲われたのは僕の方なんだ。

 まかり間違っても、僕が責められる謂れはない──だから。

 

 ()()()()()()

 

 だって、()()()()()()()()()()

 

「──とでも、そう言いたげな表情(かお)ですね、禊おにーちゃん」

 

『うん、まあね……僕の思考をほとんど全て模倣(トレース)していることそれ自体は、いつものことだったから別にいいんだけどさ』

 

「どうして箱庭学園(ここ)にきみがいるのかな。と、そう言いたいんですよね。分かっています、分かっています。禊おにーちゃんの言いたいことは、全部分かっていますから」

 

『ご明察。その辺り、変わりがないようで何よりだぜ、零度(れいど)ちゃん。三年ぶりかな、元気してた?』

 

「ええ、はい。私はずっと元気でしたよ、禊おにーちゃん。むしろ元気すぎて困っていたくらいです、元気が行きすぎて空元気(からげんき)にになるところでした。禊おにーちゃんはどうでしたか?」

 

『まあぼちぼちかなあ。ここ数年は全国の色々な学校を回ってみたけれど、僕が求めていた人材は一人として見つからなかったしね。はあ、参っちゃうよ、本当にさ。零度ちゃんが空元気なら、僕はまさしく空回りもいいところだった』

 

「おや、それはそれは……お疲れ様でした、禊おにーちゃん。嫌味とかではなくて、単純(シンプル)に労いの言葉として受け取ってください」

 

 うっすらと微笑みながら、そんなことを言う零度ちゃん。まさかこの子が箱庭学園にいるとはね。流石にそこまでは読みきれなかった。

 

 神水(くわみず)零度。

 僕たちは幼少の頃、家がお隣さんだった。

 

 つまるところが、()()()。出会った時期(タイミング)は僕が2歳だった頃──つまり僕たちは、零度ちゃんが0歳だった頃からの付き合いになる。

 

 付き合い、というか。

 ()()()()と言うべきか。

 

 昔からそうだ。僕がいるところには零度ちゃんがいて、零度ちゃんがいるところには僕がいた。一緒に遊んであげたことも少なくないし、それに彼女には、僕の大切なぬいぐるみをプレゼントしてあげたんだけど……案外、それが原因なのかもね。

 

 僕が全国放浪の旅に出てからは、つまりはこの3年間、零度ちゃんと遭遇することはなかった。実のところ、だからなのかもしれない。僕がこうして、昔を思い返しながら感傷に浸っているのは。

 

 箱庭学園の制服に身を包んだ零度ちゃんは、記憶のそれよりも、数段は華やかに、魅力的に見える。濃紺がかった綺麗な長髪も、以前にも増して萌えちまうぜ。

 

 不知火(しらぬい)理事長との面談を終え、その孫娘である不知火半袖(はんそで)ちゃんとの邂逅を終えたばかりの僕にとっては、彼女の在り方は身に沁みる。

 

「というか、零度ちゃん。そのぬいぐるみ、まだ持ってたんだ。随分と物持ちがいいんだねえ、プレゼントしてあげた僕としては、大切にしてもらっているみたいで感無量の極みだけれど」

 

「はいっ! とってもかわいくて、とっても愛おしくて……この子を連れていれば、禊おにーちゃんをいつでも身近に感じられるんです! だからこの3年間も、肌身離さず──」

 

『はいはい、よーく分かったよ。というか、分かっていたとも。零度ちゃんは本当、僕のことが大好きだねえ──ところで、零度ちゃん。僕のことが大好きなきみに、つかぬことをお伺いするんだけどさ』

 

「? はい、なんでも聞いてください。禊おにーちゃんのことが大好きな私が、なんでも答えてあげますから」

 

『そうかい、そいつは重畳だ──()()()()()()()()()()()()()()は、今どうしてるんだい?』

 

「…………呼びますか? ()()()()()()なら多分、すぐ来ますけど」

 

『そうだね、せっかく3年ぶりに会うチャンスなんだ。本当ならこのまま帰ってもいいんだけど、今の僕は結構心に余裕があるからね。あの子に挨拶するのも、また一興というわけさ』

 

「うふふ……分かりました。それじゃあちょっと、呼んでみることにしますね」

 

 そう口にするなり、目を瞑って深呼吸し始めた零度ちゃん。小ぶりな胸が呼吸と同時に上下しているのを眺めながら、僕は待たせてもらうことにした。

 

 三回、四回、五回──そして、六回目の深呼吸。

 息を吐き切ったタイミングで──()()()()()()()()()()()()

 

 直後、ズバァン! ともの凄い音を立てながら、僕の立っていた場所の隣、すなわち廊下の壁に、()()()()()()()()が形成された。

 

 僕としてはこの程度のこと、もう慣れに慣れてしまったので、『ああ、ドラゴンボールの映画でこういうシーンがあったよなあ』みたいな、そんなことを考えながら、たった今その現象を引き起こした人物の顔を見る。

 

 眼前の人物は、もちろん零度ちゃん──()()()()

 いや、別に僕がぼーっとしてる間に人物が入れ替わっていたとか、そんな馬鹿な理由じゃないぜ?

 

 とはいえ、そうだな。回りくどい説明は嫌われてしまうから、単刀直入に言ってしまおうか。

 

 ()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()

 

 つまりはただ、それだけのこと。

 

『……久しぶりだね。具体的には3年ぶり──元気してた? 僕のことが大好き過ぎる、神水(くわみず)冥土(めいど)ちゃん』

 

「──()()()。よお、会いたくて会いたくて、会いたすぎて会いたすぎて自殺しちまいそーだったぜ、()()()()()()

 

『この3年、変わりはなかったかい? もっとも僕の背後に作られた大穴(クレーター)を見る限りだと、変わりはないどころか、むしろ3年前よりもより凶暴に、凶悪になっていそうだけれど』

 

「つまらねーことこの上なかったっつーの。触れたら壊れる雑魚共(おもちゃ)ばっか。もっと歯応えのある──手応えのある奴がいるかと思って箱庭(ここ)に来たけど、結局さして変わんなかったしさ」

 

『なるほどねえ、可哀想に。つまりきみの持つ過負荷(マイナス)もまた、きみの退屈に応じて成長していったというわけだ。3年前は流石の冥土ちゃんといえど、一瞬でここまでの破壊を振りまくことは出来なかったはずだからね』

 

「成長っつったって断然マイナス成長だっつーの。しかし! 私の怠惰(マイナス)も今日で終わりだぜ。なんてったって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に再会できたんだからな!」

 

『ははははは。いやしかし、本当にきみ達()()は可愛らし過ぎるぜ。まるで僕の心を射止めるキューピッドだ』

 

「おいおいどーしたよ禊お兄ちゃん! そんなに褒めても何も出ねーっつーの! 照れ隠しで手は出しちゃうけど!」

 

 そう言ってぎゃはぎゃはと心底楽しそうに爆笑しながら、僕の胸を小突く冥土ちゃん。こうして笑う彼女を見るのも随分と久しぶりだからか、胸の奥から熱いものが込み上げてくるよ。

 

 げほ。

 ぐるぐる。

 ぎゅるぎゅる。

 ごぽ。

 

 胸の奥から込み上げてきた熱いものというのは、どうやらこの場合、()()()()だったらしい。

 

「あっ、やべ。心を撃ち抜いて射止めるつもりが、心臓をぶち抜いて仕留めちまった。ぎゃはは、私ってば、本当に手加減が下手っぴな!」

 

 冥土ちゃんに軽く小突かれた僕は、先ほど作られたばかりのクレーターに向かってぶっ飛ばされ、壁に激突。血反吐を吐きながらも、大穴の拡張工事に一役買って出た。

 

 あー、流石にこれはしばらく動けないなあ。幼少の頃からそうだけど、本当に冥土ちゃんは僕のことを頑丈なサンドバッグとして認識してるのかもしれない。僕としては、そう思わざるを得ないよ。

 

「禊お兄ちゃん、だいじょぶ? もし苦しいのが嫌だったら、今ここで超絶かわいい美少女の冥土ちゃんが、手ずから手掴みで安楽死させたげる!」

 

『…………いや、大丈夫だよ、まったく問題ないとも。ただ、そうだな。しばらくの間は指一本も動かしたくない気分だよ。だから冥土ちゃん、話の続きはまた明日にしよっか』

 

「ふーん? ちぇっ、つまんねーの。せっかく念願の禊お兄ちゃんを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったのに──ま、動けなくて抵抗できない禊お兄ちゃんなんかぶち殺したところで、そんなの全然つまんねーし! ぎゃはは、命拾いしたな、禊お兄ちゃん!」

 

『本当にね……じゃ、冥土ちゃん。また明日』

 

「うん、また明日殺し合おうな、禊お兄ちゃん!」

 

 どれほど物騒な内容とはいえ、幼馴染の可愛い女の子と遊ぶ約束を取り付けられるとは、僕の人生もなかなか捨てたものじゃないらしい。らしくもなく心が躍るぜ、胸が弾むぜ。

 

 ま、多分これただの不整脈なんだけどさ。

 

「っと。そーだそーだ、危ない危ない忘れてた。私だけ挨拶したってしょーがねーじゃんな。ちゃんと零度ちゃんにも挨拶させたげねーと、危うく今日の夜ご飯が肉の焦げカスになるところだったぜ。すぅ、はぁ──」

 

『…………』

 

「──ということで、禊おにーちゃん。これから毎日私がお弁当作っていってあげますから、明日のお昼ご飯は楽しみにしておいてくださいね」

 

『…………』

 

「これからも私と、そして冥土おねーちゃんと仲良くしてくださいね。それからそれから! 今度また昔みたいに三人で遊びに行きましょうね! 約束ですよ! それじゃあまた明日、です!」

 

 胸部の痛みでもはや返事を返す気にもならない僕に向かって、零度ちゃんはそう言いながら手を振り。にこにこ笑顔で僕があげたぬいぐるみを抱きしめながら、帰路に着いて行ってしまった。

 

 ……もう行ったかな? よし、それじゃあさっさとこの怪我を()()()()()()にしてしまおうか。

 

『ふうっ。こんな過負荷(マイナス)を持ってるなんてことがバレたら、それこそ本格的に()()()()()()()()()()……』

 

 僕の仮初の過負荷(マイナス)、「大嘘憑き(オールフィクション)」。現実(すべて)虚構(なかったこと)にする、()()()過負荷(マイナス)だ。

 

 うーん、冥土ちゃんの前でだけは、これは使えないかなあ。

 あの子、僕のことが好き過ぎて、もはや()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思っている節があるし。

 

『まあいいや、その時はその時でどうにかなるだろ……僕の人生がどうにかなったことなんて、今まで生きてきてただの一度だってないんだけど!』

 

 そういえばさらっと約束したけど、零度ちゃんの作るお弁当を食べるのも3年ぶりか。あの子の料理はとてつもなく美味しいからね、たくさん食べられるよう、しっかりお腹を作っていかねーとな。

 

 ようやく正常なリズムに戻ってきた心臓を高鳴らせながら、鼻歌まじりでスキップなんかしながら。

 

 転校初日の僕は、ご機嫌に箱庭学園から下校したのだった。

 

 






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