球磨川禊の幼馴染   作:めだかボックスアニメ3期まだですか

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第2箱「ご挨拶してきて欲しいんだ」

 

 

 僕。つまりは球磨川禊、転校2日目の昼下がり。

 混沌よりも這い寄る過負荷(マイナス)であるところの僕が、からっと晴れ渡った青空の下、何をしていたかというと。

 

 先日(というか昨日)約束を取り付けた通り、二歳下の幼馴染である零度ちゃんが作ってきてくれたお弁当を、二人して頬張りながら談笑に花を咲かせている最中だぜ。

 

「どうでしたでしょうか、禊おにーちゃん。腕によりをかけて作ったお弁当だったのですが、もしお口に合わなかったようでしたら──」

 

『まさかそんな! 仮に口に合わなかったとして、幼馴染かつ後輩の女の子が作ってきてくれたお弁当に、僕がいちゃもんなんかを付けるわけがないだろう?』

 

「うふふ……そこで『とっても美味しかったよ』とか、そんな歯の浮くようなときめくセリフを言ってくれない辺り、捻くれ者の禊おにーちゃんらしいですね」

 

『うん。まあ僕はとっくの昔に永久歯が生え揃っているしね。殴られもしてないというのに、まさか歯が浮くはずもない』

 

「ああ、この感覚も久しぶりです。100年の恋も冷めるようなセリフを、そうやって遠慮なく投げかけてくれる禊おにーちゃんが、私はとっても好きですよ」

 

『どういたしまして。僕もこんな僕のことが好きで好きでしょうがないよ』

 

 おおよそ男女の会話とは思えない内容だね。

 しかしこれが僕達の基準(スタンダード)普通(ノーマル)なのだから、そこで険悪な雰囲気(ムード)になるようなこともない。お隣に住んでた時は、こんなの日常茶飯事だったしね。

 

 あまりにも()()()()()()()()()昼下がり。

 醸し出す不穏さとは裏腹に、僕達の表情は穏やかだ。

 

 と、そこで僕は『そういえばなんだけどさ、零度ちゃん』と話を切り出した。表情に変化はないよう努めたんだけど、しかし零度ちゃんの方は、何となく僕の言わんとすることを察してくれたらしい。

 

『きみは僕がここに来る以前から箱庭学園(ここ)の生徒だったらしいけど、()()()()()()()()()()()?』

 

「うふふ、面白いことを聞きますね、禊おにーちゃん。私が何組かなんて、一目見たときから分かっているくせに!」

 

『……箱庭学園が誇るエリート集団こと、十三組(じゅうさん)とか?』

 

「違います、()()()()っ! もう、禊おにーちゃんのことだから、本当は分かってたくせに……」

 

『それ、本当? 正直言って、きみほどの異常(アブノーマル)が一組に配属されているだなんて、僕としては少々信じ難いのだけど』

 

「ああ、確かに、それもそうですね……。まあどっちでもいいですけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()──そうやってふざけ倒すんだったら、私だって策、というよりかは奇策があるんですからね?」

 

『へえ、零度ちゃんが! 具体的には、どんな奇策?』

 

()()()()()

 

 直後、僕が持っていた曲げわっぱのお弁当箱は、()()()()()()()()()()。あーあ、勿体無い。多分いいとこのお高いやつだったんだろうなあ、曲げわっぱ。

 

 なんてことを考え、ほんの少しだけセンチメンタルに沈む僕。しかし彼女の前でそんな風にもの思いに(ふけ)るだなんて、単なる自殺行為に他ならなかった。

 

 僕は勢いそのままに押し倒され、そして床に押さえつけられ、のしかかられた。互いの鼻先が触れ合うほどに顔が近い。全男子憧れの状況(シチュエーション)だけど、しかし()()()()()()()()、そう悠長に構えている暇もなかった。

 

「──()()()()。よお、昨日ぶりじゃんかよ、禊お兄ちゃん! 元気してた? してるわけねーよな、だって禊お兄ちゃんだもん!」

 

『ま、ぼちぼちってとこかな。昨日ぶり、冥土ちゃん。きみの方はどうだった? 元気してたかな』

 

「そりゃあもう元気いっぱいだったっつーの。つーか聞いてよ愛しの禊お兄ちゃん。私ってばこの3年間、()()()()()()()()()()()()。まあつまるところ、いわゆる禁欲っつー奴な」

 

 押し倒した僕の身体に覆い被さり、胸板に頬擦りする冥土ちゃん。普通ならこの後甘酸っぱい展開が待っていそうなものだけれど、しかし彼女の表情はぎらぎらと獰猛なままだった。

 

『へえ、()()冥土ちゃんが3年間も破壊活動を我慢できるだなんて。可愛い幼馴染の成長に、僕は驚愕を禁じ得ないよ』

 

「ぎゃははは! だろ、そうだろっ!? つーわけで褒めろ! 撫でて! 私のことどろっどろに蕩けさせるくらいに!!」

 

『はいはい。そういう可愛げのあるところは変わってないみたいで安心したよ──僕はきみの、そういうところが好きなのかもねえ』

 

「それじゃあ、愛してる?」

 

『どうだろう? 僕には僕のことなんてまるで分からない。だからきみを愛しているのかどうかまでは、僕の与り知ったところではないさ』

 

「いくじなし。そんなんだからいつまで経っても禊お兄ちゃんは禊お兄ちゃんなんだよ……ま、私はそんな禊お兄ちゃんでも愛してやるけど!」

 

 そんな風に悪態なのか照れ隠しなのか、よく分からない言葉を吐く冥土ちゃん。僕はその頭を構わず撫で続けた。

 

 昔っからこの子は、本当に撫でられるのが好きだねえ。おかげで僕の技術(テクニック)も右肩上がりだ。

 

 ここ最近は人の頭を撫でるだなんてすっかりご無沙汰だったものだから、僕の腕が鈍ってないかと心配だったけれど……冥土ちゃんの表情を見る限り、その心配は全くの杞憂と言ってしまってよさそうだぜ。

 

 そうしてしばらく撫で回し続けること、およそ3分。

 冥土ちゃんは「よーし満足だ。ありがと、禊お兄ちゃん」と言って、僕の胸板に頬擦りをするのを止め、そして今度は両方辺りに手を着きながら上体を起こした。

 

「可愛い私の小粋なアイスブレイクはこの辺にしておいて、だ。話を戻すんだけど、私ってば3年間禁欲してたっつったじゃん?」

 

『ん? ああ、そういえばそんな話もしていたね。つまりは昨日のアレが3年ぶりの破壊ということになるわけだけど、それがどうかしたのかな?』

 

「いやさ、その禁欲──破壊絶ちの理由っつーのがさ。禊お兄ちゃん以外の雑魚共(おもちゃ)は私がほんの少し小突いただけで()()()()()()()()()()()()()()()わけよ」

 

『……まあ、きみの破壊に耐えられる人類の方が、むしろこの場合は珍しいということなんだろうけどね』

 

「そーなんだよなー、私って本当に手加減が下手っぴだからさ? とはいえ流石に私としても、一発で壊れる粗悪品を叩き潰すのは忍びねーのよ。ほら、そんな勿体無いことしちまったら、生産者さんに申し訳ないし!」

 

 親御さんのことを「生産者さん」と言い表してしまうその感覚(センス)だけは、流石に考え直した方がいいと思うよ、冥土ちゃん。

 

 零度ちゃんも、その辺りこの子に何か言ってあげてもいいのにね。

 

「んで私、禁欲後初の破壊は何があっても絶対に壊れない禊お兄ちゃんにするって決めてたのな。そして昨日! ついに3年越しの悲願は叶ったっつーわけよ!」

 

『それはよかったよ。僕なんかがきみのお役に立てたなら、きっとこれに勝る喜びはないぜ』

 

「ぎゃははは! 禊お兄ちゃんってば謙遜が上手──ってのは置いておくとして。ちょーっと昨日の破壊に伴って、結構のっぴきならない事態に陥っててさ?」

 

『……と、いうと?』

 

「いやさ。せっかく頑張ってらしくもない禁欲なんかしてたんだけど──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()♡」

 

 めりっ。直後、冥土ちゃんは僕を地面へとめり込ませた。当然床に沈み込む僕の身体。

 

 肩に添えられた手にどんどん力が込められていく。抜け出せそうにもない。冥土ちゃんの表情は、まるでご馳走を目の前にした空腹の猛獣だった。

 

「ね、お願い、禊お兄ちゃん。()らせて?」

 

『…………』

 

「もう我慢できない、3年も我慢したのに、これ以上なんてもう無理、待てない、限界……! ねっ、ねっ? ありとあらゆる手段を尽くして、最後まで気持ちよく()かせてあげるから、後悔させないから──」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──ッ!! 本当か、本当だなっ!? うん、それでいい、それがいい! 私は何をしてくればいい、破壊か、鏖殺か、虐殺か!?」

 

 顔を紅潮させつつ、鼻息荒く興奮した様子でそう問いかけてくる冥土ちゃん。そんな彼女にこんなことを頼むのは、何だか子供を騙すみたいで罪悪感を覚えかねない行動だった。

 

 まさか今更こんなことで、罪悪感を覚える僕でもないけど──

 

『ちょーっとさ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ご挨拶ね、請け負った! ねーねー、禊お兄ちゃん。上手く挨拶してこれたら、愛してくれる?」

 

『きっとね。冥土ちゃん、期待してるぜ?』

 

 ──ま、何でもいいや。

 いずれにせよ、僕は悪くない。

 

 だって、僕は悪くないんだから。

 

 






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