(挿絵あり)カルトスーパーの次は学園ハーレム 作:アウトレットホール
希望を決して捨てない由紀たちと絶望に折れたデヴィッドの対比を楽しんでいただけましたら幸いです。
「デヴィッドさん…?」
猫耳帽子を深く被った少女が怪訝な表情を浮かべてこちらの顔を伺う。
カチリ_
拳銃は彼女の方を向いていた。
この一発で彼女は救われる。ビリーと同じように_
真意を理解した彼女の目が見開かれる。
「どう…して…?」
「すまない…。ユキ…」
引き金にかけている指に力を込める。
***
世界は平和になった_
精神病棟の施設内にある一室で壁を眺めて何時間も過ごす。
汚れ一つない白い壁を眺めて何をするわけでもない。
この生活が板について何年経っただろうか?
あれだけ最初はげんなりしていた他患者の耳障りな叫び声も俺の日常の一部と化していた。
「…」
硬いベッドにゴロンと寝がえりをうつ。
霧の事件、それは突如として俺たちに災厄を振りまいた。
霧の中の化け物が殺戮の限りを尽くす。
アメリカの片田舎が地獄に包まれたのだ。
事態が収束した後、政府は公表した。
『此度の事件、我々にも不可解な限りです。
…えぇ、皆様の不安はごもっともです。
様々な見解がありますでしょうが、早急な要因解明とともに、
つきましては被害に遭われた皆様のケアも万全に_』
こんなのはクソにまみれた建前だ。
政府が全ての元凶だったことを少なくとも俺の周りの奴らは知っている。
これは政府による実験で俺たちは手前勝手な実験に巻き込まれた被害者であったことを。
ガンッ
ベッドを殴りつける。
目を閉じるたびにあの凄惨な状況を嫌でも思い浮かべる。
そして、目を開いて傷だらけの自分の手を見つめたときに思い出す。
自分の息子、ビリーを手にかけたことを_
「ウッ・・・あぁ…!」
あの悪夢が嘘であることを願わずにいられない。
身体が震えて止まらない。心臓が止まるんじゃないかというほど早く脈打つ。
「誰か…!!誰か…!!!」
カツカツ!
足音が聞こえる。かなり急いでいるようだ。
モニター越しに俺の様子を見てこちらに来ているのだろう。
「まーた暴れてんのか」
看守が呆れた様子でこちらの様子を見ている。
隣には主治医の姿もあった。
「早く鎮静剤を打ってやってくれ。…彼がここに来て7年、もうこちらに手の施しようはないのかもしれん。やれやれ」
「おつかれさん、ドクター。借りるぜ」
看守がドアロックを解除して中に踏み込んでくる。
ベッドの側に座り、慣れた様子で俺の腕に注射針を刺した。
あれだけ暴れてた問題児がすっかり落ち着いたことを確認するとため息を一つ吐き重い腰を上げた。
「ふー」
カランと空の注射器をステンレス台に移すと顔をグッと近づけてくる。思い切り目があった。
「最初の頃に比べちゃマシになったな。ここに運ばれてきたときは手に負えない暴れっぷりだったのに」
俺は何も答えない。
どうせ答えたところで何も変化なんてない。
「まぁその分最初の腐りきった魚のような目が…んーなんだ。まるで生きた屍みたいな目にはなってるかもな…」
安全を確認した主治医も部屋の中に入ってくる。
はぁ…とため息を吐いて話を続けた。
「デヴィッド・ドレイトンくん。もう私には君をこれ以上どうすることもできない…。どうやら君は誰に対しても心を開いてはくれないようだからね」
何も答えない。構わず続ける。
「そこで君にはもうこの病院を退院してもらうことにした。…勘違いするなよ?病院を移すという話だ。唐突かもしれないが精神病患者の環境変化はよくある話…君にとっても最良の選択となるだろう」
少しだけ顔をあげる。興味が出たわけではない。
まためんどくさい手続きが待っていると思い、げんなりしているだけだ。
もう俺のことなんて放っといてくれたらいいのに。
「そんな顔をするな。すでに手続きは済ませてある。
…君もそろそろここのキチガイたちの奇声にはうんざりしていたはずだ。
だが、新しい場所でならそんなことはない。
厳格な隔離施設もあり、一人の静かすぎる時間を過ごすにはうってつけだ。
今の君にとっては最適なんじゃないかぃ?」
上体を起こす。
俺を一人にしてくれるなら何でもいい。
ここじゃないどこかへ行きたい_
「…あぁ、いつか誰か殺してしまいそうで大変だったんだ。
それで?その素晴らしいオアシスはどこにあるんだ?」
俺の言葉を聞いてニヤリと笑う。
同意を取れたことに満足して部屋から出ていこうとしたところで
こちらに向き直ると告げる。
「_日本だ」
***
「…」
私の名前は佐倉慈。
巡りが丘学院高校の教師をやっている。
今はいつものように車で学校へ向かっているところだ。
「私、教師向いてないのかな…」
助手席に置いてる携帯が通知を知らせてくる。
今朝、確認したら相手は母親だった。内容は私に対する心配ばかりだった。
その気持ちは本当に嬉しい。でも、私だってもう大人…。
子供たちを責任もって率いていく存在でなくてはならないのに…。
ピーポーピーポー
「サイレン多いな…。どうしたんだろう」
少し違和感を覚えるが日常に戻ろうとする。
しかし、背後で起きたことはそれを許さなかった。
バァン!!!
「…!!!?」
なに!?さっきの救急車が…!!?
交差点に差し掛かったところで別の車に衝突されるのをバックミラーで確認してしまう。
どうやら白いワゴン車が救急車に突っ込んでしまったらしい。
『一般社団法人患者移送サービス』と書かれたワゴン車は路肩に乗り上げてようやく止まる。
救急車の方は横転してしまい大事になっていた。
「大変…!!!」
車から降りて路肩のワゴン車に駆けつける。
シュー…とエンジンから流れ出る音を聞きながら中の様子を伺う。
運転席に座ってる人はハンドルにもたれかかって反応がない…。
嫌な予感が拭えず声をかける。
「大丈夫ですか!!?い、今救急車を…!!
しまった携帯…!!」
車の助手席に置いてきてしまったことを思い出し急いで取りに戻ろうとする。
すると_
「~~!!~~~~!!!!」
「声…!!?誰かいるのね!!?」
ワゴン車の後ろから助けを呼ぶ声がしたので、ハッチバックに移動する。
曇りガラスのせいで外から中の様子が確認できない…。
もしかしたら中で患者さんが苦しんでるのかもしれない…!!
「誰かいるのね!!?
ここを開けて!!!」
ドンドンとドアを思い切り叩く。
中の様子はわからないが医療スタッフが気づけば…!!
しかし、反応はない。まさか死んでるんじゃ…!!
「お願い!!誰か!!!患者さんが苦しんでるわ!!助けてあげて!!!」
バンっ!!!バンっ!!!
と力の限りドアをたたき続ける。
そして、バックドアがついに開く。
ようやく誰かが気づいたらしい。
「うっ…!一体何が…?」
中から出てきたのは警官だった。
困惑した表情で状況を整理しているらしい。
車内には他に気絶した医療スタッフが2名いた。
そして、声を出していた張本人はストレッチャーに縛られた状態で必死に身をよじりながら助けを呼ぶ。
「help…!!!please…!!!」
「だ、大丈夫ですか!!?今救急車を呼びますから待っててください!!!」
警官がハッと目を見開く。
視線は私の後ろ。外を向いていた。
そして、このとき見た光景を一生忘れることはないだろう。
振り返るとそこには_
ア…アァ…
ウオォ…ァ…
ゴォォォァ…
皮膚は黒く変色し酷くただれ、目は白目を剥き口からはボタボタとヨダレを流す人…。
いや、人であるかどうかもわからないナニかが3体こちらに向かってきているのだ。
ヨタヨタと確実に_一歩ずつ_
「ひっ…!!!?」
「な…んだ…!!?おい!止まれ!!」
腰から抜いた拳銃を構えて牽制を試みる。
しかし、「かれら」が止まることはない。
ウオオオオォォ…!
「止まれと言ってるだろ!!止まれ!!!
おいあんた!!早く逃げ_」
よそ見をしてしまった隙をかれらは逃さなかった。
そこから先は今でも本当に思い出したくもない。
ガブッ!!!
警官の眼前まで近づいていた1体が腕に噛みついたのだ。
「ぎゃあああ!!?や、やめろ!!!」
体勢を崩した警官に他の2体も群がるように貪りついた。
1体は腕、2体目は腰、3体目は首もとに…。
抵抗する術もなく地面に倒れた警官にさらに追撃するかれら。
「ごべっ!やべで!!やだ!!やだああ!!
おがあざあああん!!!」
ガジュ!!ぐちゅっ!!ボキィッ!!!!
「あ…」
放心状態だったが悲痛な叫びと生々しい音で意識がハッキリする。
このままだとまずい。拘束されていた患者さんはスッカリ大人しくなっていた。
ハッチバックから車内に乗り込みストレッチャーに手をかける。
「ひっ…はっ…!!!」
ガチャガチャと拘束具を一つずつ外していく。
首、足、腕となぜここまで厳重な拘束が必要なのか考える余裕すらなかった。
端正な顔立ちをしている外国の方は先ほどの光景で完全に放心状態だ。
「ねぇ!!しっかりして!!早くしないと私たちも…!!!」
私の掛け声で我に返り彼も拘束から逃れようと力を込める。
「…!!Damn it!!」
ガチャンと拘束が順調に外れていく音がするが、かれらにそれが聞こえていたらしい。
ウァアアアア…!!
『食事』を終えた3体がこっちに視線を向ける。
「はっはっ…!!早く…!!早く…!!!」
最後の留め具に手をかけて解錠する。
だが、もうすでにそこまで来ていた。
ガアアアアァァァ…!!!!
「いやああああ!!!」
座り込んだまま目を塞ぐ。
もうだめ…!!!
「shiiiiiit!!!」
咄嗟にさっきまで横たわっていたストレッチャーを力いっぱい押し出す。
キャスターがガラガラ!!!と大きな音を立てた。
その音から察するに退けるには十分な威力だっただろう。
ドンッ!!!
グアアアアアァァァ…!!
ストレッチャーに押し出された3体は地面に転げまわった。
それを好機と見るや否や、傍で震えている女性の手を掴むと車外に飛び出した。
そのついでに食い散らかされた警官の横に転がっている拳銃も回収しようと手を伸ばす_
ガァァァァアアアアア…!!!
「…!!!」
信じられない_
警官が息を吹き返した。しかし、その様子はさっきのかれらと全く一緒だった。
拳銃を素早く回収し、一目散に駆け出す。
「まって…!!車!!マイカー!!!」
女性の言葉に立ち止まる。
「what?」
「私の車!!そこにあるの!!」
赤と白のラインが入った中型車を指さす。
意思が伝わったようだ。
二人が車に乗り込むと女性がカタカタと震える手で鍵を回す。
「早く…!!かかってお願い…!!!」
ブゥン!!とエンジン音と共に急発進する。
一時の地獄からついに抜け出せたようだ。
助手席から周囲の様子を伺ってみる。
キャアアアア!!
助けてぇえ!!!
そこかしこで人が人を襲っていた。
そして、襲われた人も彼らと同じように別の人を襲っていく連鎖…。
これはまるで…。
「holy shit…!」
「お母さん…!!」
運転席の彼女に目を向ける。
どうやら携帯の連絡を確認しているようだ。
スマホを覗いてみる。
母親と書かれている人からの連絡は数十件にものぼっていた。
件名:返事して
件名:お願い、返事
件名:至急
そんな通知が羅列している。
意味は分からないがおそらく安否確認をしようとしてる家族のものなんだろう。
「出て出て出て…!!お願い…!!!」
それを見た彼女は携帯を耳に当てて連絡を試みている。
今自分が置かれている状況を整理しながら俺は目を瞑った。
日本で一体何が起きている…?
地獄から地獄へ_