四月の朝。
リディアン音楽院の校門の前に立ち、暁真琴は深呼吸をした。
春の風が吹き抜け、舞い上がる花びらが頬をかすめる。
その風の中に、どこか懐かしい歌声が聞こえた気がした。
「……これが、切歌の通ってる学校か。
まさか、また同じ校舎に通う日が来るとはな」
数年前に離れ離れになった妹――暁切歌。
再会を果たし、一緒に暮らすようになってから少し経つ。
そして今日、真琴は転入生として、彼女と同じ音楽院に入学した。
ギターケースを背負い、緊張を隠すように笑いながら教室のドアをノックする。
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「今日からこのクラスに転入する暁真琴くんだ。みんな、仲良くしてあげてくれ」
担任の言葉とともに、教室の視線が一斉に集まる。
「暁真琴です。今日からお世話になります!」
明るい声に、教室が一瞬静まり――すぐにざわめきが広がった。
「暁って……切歌の兄貴か?」
「へぇ~、兄妹なんだ! なんか似てる!」
そんな声の中、ひときわ目を引く少女がひとり。
白い髪を首元のあたりでふたつにまとめ、低めのツインテールが肩をかすめて揺れている。
赤い瞳が、じっと真琴を見つめた。
――雪音クリス。
整った顔立ちに、少し強気な雰囲気。
だがそのツインテールが柔らかく揺れるたび、どこか大人びた可愛さが垣間見える。
「ふん、転入初日から元気ね。目立つタイプかよ」
呆れたように言うが、口調にとげはない。
真琴はにこっと笑って返した。
「まぁ、目立つのは得意かもな。よろしく、雪音クリス」
「……は? なんでアタシの名前知ってんだよ」
「席表、見たから」
「ふん……そう」
そっぽを向いたクリスの頬が、ほんのり赤く染まっていた。
その微妙な照れ方が妙に可愛くて、真琴は思わず笑ってしまう。
「な、なに笑ってんだよ!」
「いや、ツインテール似合ってるなと思って」
「はっ!? バ、バカ言ってんじゃねぇよ!」
机に突っ伏して顔を隠すクリス。
周囲から「クリス照れてる~!」という声が上がり、教室に笑いが広がった。
――どうやら、この学校は退屈しなさそうだ。
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昼休み。
校舎を歩いていると、柔らかな歌声が耳に届く。
どこか懐かしくて、あたたかい声。
音のする方へ進み、音楽室のドアを開けると――
「……お、お兄ちゃん!?」
そこにいたのは、金髪のショートヘアを揺らす少女。
明るい瞳と少しあどけない表情――暁切歌。
「久しぶりだな、切歌」
「な、なんでここにいるデスか!? びっくりしたデスよ!」
ぷくっと頬を膨らませる姿に、真琴は懐かしさがこみ上げる。
「お前が元気そうでよかった。
……会いたかったんだ」
その言葉に、切歌の目が潤み、次の瞬間、彼女は兄の胸に飛び込んだ。
「ほんとに……ほんとに、生きてたんデスね……!」
「ああ。もう離れないって約束しただろ」
抱きしめる腕の中で、切歌の小さな体が震えていた。
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「……切歌、よかったね」
穏やかな声に振り向くと、黒髪のツインテールを揺らす少女が立っていた。
静かで落ち着いた瞳。月読調――切歌の相棒であり、真琴にとってはもう一人の妹のような存在だ。
「あなたが暁真琴さんですね。切歌から話は聞いてます」
「そっか、妹が世話になってるな、調」
「いいえ。切歌と一緒にいると、毎日が楽しいから」
調が優しく微笑むと、切歌が照れくさそうに頬をかいた。
「もう、変なこと言わないでほしいデス~!」
「ふふ。ほんと、仲良いね」
真琴はそんな二人を見ながら、穏やかに笑った。
⸻
放課後。
切歌と調に案内されて校舎を歩いていると、背後から声が飛んだ。
「おい、暁!」
振り返ると、白髪を低い位置で束ねたツインテールが風に揺れていた。
雪音クリスが腕を組んで立っている。
赤い瞳が、少し不満そうに光っていた。
「転入早々、女子に囲まれて楽しそうじゃねぇか」
「いや、そんなことないって。
ていうか、クリスもその“女子”の一人だろ?」
「なっ!? ば、バカ言うなっ!」
頬を赤く染めて声を荒げるクリス。
低く結んだツインテールがぴょこっと揺れる。
切歌がニヤニヤ笑いながら兄の肘をつついた。
「お兄ちゃん、クリスさんといい感じデスねぇ~?」
「はぁ!? どこがだよ!」
「どこがだよ!」
二人の声が見事にハモり、調が小さく笑う。
「……息ぴったりだね」
「ふふっ……やめてくれ、照れるから」
「照れてんのはどっちだよ!」とクリスが叫び、切歌が「デスデス~!」と笑う。
放課後の廊下に、楽しげな声が響いた。
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夕暮れ。
校舎の屋上に並んで立つ兄妹。
金髪のショートヘアが夕陽に染まり、オレンジ色の空がゆっくりと沈んでいく。
「お兄ちゃん、今日……楽しそうだったデスね」
「ああ。みんな良い人ばっかりだし、
なんか、もうここに馴染めそうだ」
切歌がにっこり笑う。
「それならよかったデス。これからは、ずっと一緒デスから!」
「……ああ、約束だ」
静かに交わした言葉が、風に溶けていく。
真琴はふと、あの白髪ツインテールの少女を思い出した。
――ツンとしてるくせに、どこか優しいあの笑顔。
そんな想いを胸にしまいながら、
兄妹の新しい日常がゆっくりと始まっていく。