アルガス転生 〜家畜に神はいない(俺以外)〜   作:葛葉狐

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第一章 モテざる者 〜 THE MATSUNOOOO 〜
アルガス転生


 

ーーこいつ、まだ息があるようだぜ。

  どうする?

ーーわかりきった質問をするな。

  侯爵の身柄さえ手に入ればいいんだ。

 

 どこか遠くから、誰かの会話が聞こえてくる。

 水面へ浮かぶように意識が覚醒してゆく。

 声は頭上から聞こえ、頬に草の感触。どうやら俺は地に伏しているらしい。

 後頭部に残る鈍痛は、気絶の原因がそこへの一撃であることを明確に伝えてくる。

 ただし大したダメージはないらしい。俺はふらふらと身を起こす。

 

「ーー、うう……」

 

 うなだれたまま膝をつくと、頭上から再び声が降ってきた。

 

「小僧。恨むなら、お前の運命を恨むんだな」

 

 音もなく差し掛かる二本の細い影。頭を押さえ視線を上げれば、逆光の中ーー俺を囲み、手に持つ何かを振り上げる二つの人影が目に入った。

 銀光を跳ね返すのは刃。手に持っているのは、剣だ。

 意識を取り戻して早々ーーどうやら俺は、またも命を奪われようとしているらしい。

 その俺の処刑を中断したのは、大勢の足音にも似た地響き。

 

「なにっ!」

「北天騎士団か!?」

 

 うろたえる処刑者たちの背中越しに見えるのは、若武者の一団。

 身につける武具も真新しく、みな初陣もまだのようなあどけない顔だ。格好からして士官学校の学生だろうか。

 ただ、実習にしては帯同の教官の姿も見えないし、武装も実戦仕様だ。

 しかし、そんな些細な違和感よりも気になったのはーー

 

「……ラムザとディリータ!?」

 

 一団の先頭にいた二人が、とてもよく見慣れたキャラであった事だった。

 FFT。ファイナルファンタジータクティクス。

 往年の名作シミュレーションRPG。中世の搾取社会を舞台に、構造圧に抗う者達を描いた傑作だ。

 社会を知らぬ学生として初プレイし、会社に使い倒される社畜として共感プレイし、過労から病を得た病人として実感プレイし、そして労災係争中に俺が病死する間際までずっとプレイしてきたゲームだ。いや、もはや人生とも言える。

 その二人の主人公、ラムザとディリータがいま俺の目の前にいる。

 戸惑いの表情を浮かべて。

 

「「!?」」

 

 まあそりゃそうだ。殺されかけてる人に出くわしたと思ったら、いきなり名前呼ばれるんだもんなぁ。

 それもーー全然知らない人から。

 

(あー……。この顔、見間違えそうもない。

 どういう訳かは知らんが。

 今の俺は、どうやらーー)

 

 草に転がるロングソード。騎士見習いらしく、よく磨き上げられたその表面は、まるで鏡のように俺の顔を見返してくる。

 そこに映る顔は、紛れもなくーー

 

(アルガス・サダルファス。

 ……FFTきっての嫌われキャラだ)

 

 七三分けの金髪、神経質そうに跳ね上がる細眉。

 口元は気性を隠せず固く結ばれ、何よりもその瞳はーー不平と猜疑に満ちている。

 悪相ーーまずその感想しか出てこない。

 殺されかけてるんだからそりゃ当たり前だが、べつに殺されかけてない時でもこいつはデフォでこの表情である。

 なぜならばこいつは。自らの置かれた境遇そのものに、生まれてからずっと不満を抱き続けているからである。

 

(さて。先刻のセリフから察するに、ここはーー

 マンダリア平原か。

 FFTの第一章、アルガスの初登場シーンだな。

 骸旅団の襲撃。ランベリー近衛騎士団の壊滅。

 エルムドア侯爵の誘拐。

 ……アルガスの不幸の始まりの場所、とも言えるな)

 

 俺は灰石岩の乱立する草原を見渡す。

 襲撃の場にたまたま駆けつけた、ラムザ達ガリランド士官アカデミーの候補生によってただ一人命を救われたアルガスは、さらにはベオルブ家の末弟ラムザの知遇まで得て、あまりの豪運に「なんて俺はラッキーなんだ!」と叫ぶ。

 しかしこの出会いは逆に、アルガスに自分がどれだけ不幸かを思い知らせるだけの結果となる。

 

(FFT屈指の詰みキャラとしても有名だったな……)

 

 アルガスは不遇な生まれの没落貴族で、齢16にしてランベリー近衛騎士団の騎士見習いとして働いている。が、家名の再興を狙って独走しがちで、すでに自分勝手な奴という悪評を得ていた。戦争時に祖父が味方を売ったという噂と相まって、これでは騎士団内での出世などとてもおぼつかない。

 もっとも、ランベリーの領主エルムドア侯爵も五十年戦争時に武功で名を上げてはいるが、一度は所領のランベリーを失陥している。もし戦争末期にランベリー奪還が成らなかったら没落貴族の仲間入りをしていたはずなので、主君としてアルガスの焦りには一定の理解があるだろう。あと本人は実力主義っぽい雰囲気もあるから、戦場で役に立つ人間ならどんどん使い倒してくれそうではある。

 とはいえ好材料はたったのこれだけであり、そもそもアルガスはシナリオ第一章のラストで死ぬ。今にも零れ落ちそうな貴族の立場にすがりついて、庶民を踏みつけ、最終的に平民ディリータの妹ティータを兄の眼前で射殺する。

 貴族の権威主義と中世封建社会の悪いところを煮詰めたような「現実」として立ちはだかり、そしてカタルシスと共に主人公に気持ちよく討ち取られる、そんな仇役でしかない。

 あと主君エルムドア侯爵も誘拐されて命も危ういところ、アルガスがどうにか助け出すのに、後で雑にナレ死する。(流れ矢で戦死) そして怪物として転生する。

 やる事なす事全部嫌われる上に報われない。アルガスはそんなキャラなのである。

 

「援軍か?

 た、助かった……」

 

 その時、俺の唇が勝手に言葉を紡いだ。

 恐らくこれは原作のセリフだ。

 目にする様々なものに対する知識といい、恐らく俺はーーアルガス・サダルファスの意識の操作権を握っている。

 操作せず放っておけばこのアルガスはゲームのシナリオ通りに振る舞い、第一章ラストの悲惨な末期に一直線だろう。

 だが。さっき二人の名前を呼んだように。その意識、行動を上書きすることができる。

 というか、しないと俺が死ぬ。

 他でもない目の前の二人に殺される。

 俺は迫り来るラムザとディリータ、二人の死神を眺めやる。

 

「……北天騎士団の名誉を傷つけてはならない!

 彼を助けるのが先決だ!」

 

 名を呼ばれ一瞬とまどったものの、ラムザは俺を助ける選択をしてくれた。

 おお。いいぞ。ラムザのBRAVEが10上がる。

 俺はゲーマーの目線でラムザを見つめ、微笑んだ。

 とーーその身体の表面に、聞き慣れたシステム音とともに半透明の画面が浮き上がる。

 ポーン。

 

(ん? あ、これ、ステータス画面か?)

 

 音だけでなく画面構成も、よく見慣れたFFTのステータス画面だった。

 見ればディリータにも、他のモブ士官候補生たちにも、個人ステータス画面が表示されている。

 よく見ようとすると視界に大写しになって周りの世界が消える。時間も止まっているっぽい。便利だな。

 

(うわあ初期ステ。見習い戦士。そうそう、こんなんだったなー……)

 

 死ぬ前にプレイしていたのは終盤付近だった。俺は懐かしさと共にキャラ達の、ほとんど成長のないステータスを眺める。

 セットされているコマンドも、たたかう、ガッツあるいは基本技、アイテムの3種くらい。まあまだ見習い戦士とアイテム士しかジョブ条件満たしてないんだから当たり前か。

 厳密には、士官アカデミーのある魔法都市ガリランドに逃亡兵が入り込んだため、その掃討を行ってからこのマンダリア平原に来ているはずなので。すでにみな一戦闘は経験しているし、その分くらいは成長している。

 とはいえ。

 シナリオで言えばこのマンダリア平原は、戦闘マップでいうと2マップ目にあたるわけだが。

 

(2マップ目にして早速、ゲームオーバーの洗礼を浴びせてくるんだよな……)

 

 そう。いわゆる初見殺しである。

 何となく戦っていれば勝てた1マップ目とは違う。

 アルガスを救わない選択肢を選べば楽に勝てはするのだが、ほとんどのプレイヤーはそちらを選ばない。

 初見プレイヤーはアルガスのキャラを知らずただの可哀想な襲撃被害者にしか見えないから救おうとするし、既プレイ者はBRAVEが一時的に10上がるこちらの選択肢を選ぶ。ちなみに戦闘終了後にも永久的に2上がったままになる。BRAVEてのは物理攻撃力に直結している数値なので、これを操作する話術士のいない最序盤では、上げられる機会なんて他にない。みなアルガスを救いに来てくれるわけである。

 ちなみにアルガスのBRAVEは34である。とても低い。むしろアルガスのBRAVEを上げる選択肢こそ欲しい。

 

(でもこれ、最初のワナなんだよな……)

 

 そう。今こうして俺が、剣を振り上げた奴に囲まれているように。

 アルガスの初期位置は、骸旅団の見習い戦士二人に岩場を背に囲まれた状態からスタートする。当然この二人は行動順が来ると目の前のアルガスを攻撃してからどっか行くので、その場には瀕死のアルガスのみ残される事となる。しかもこのアルガス、敵を追いかけて突っ込んでいくので放置しておけばそのまま死ぬ。先のような、戦闘勝利条件が「アルガスを救え」になる方の選択肢を選んでいるとそのままゲームオーバーである。おい。

 それを防ぐためには、最序盤の今、アイテム士が突撃してアルガスにポーションを投げるしかないわけだがーー

 

「……え!? あれ!? ウソだろ!?」

 

 ラムザ達士官候補生のステを確認していた俺は、あるとても重要なことに気づいた。

 そもそも、出撃メンバー六人の中にいねえのである。

 アイテム士が。

 全員見習い戦士というまさかの脳筋編成である。

 何考えてんだこのラムザ。お前はバランスとか考えねえのか。

 

「はは……まさか。

 そうだ、"アイテム投げ"をセットしてるんだよな?

 そうに違いないッ! そうだって言ってくれッ!」

 

 松野節(FFT)っぽく叫びながら、六人の見習い戦士たちのセットアビリティを確認してゆく。

 現実は非情である。そんなもんどこにも見当たらない。

 ーーこの瞬間、俺の死亡とラムザのゲームオーバーが確定した。

 

「なんだよッ! このラムザ初見かよおおぉッ!」

 

 俺は叫び、そして崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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