「ギュスタブよ……。
そんなにもーー食うものや寝るところが欲しいか?」
「ぐぅっーーああ、そうだ……!俺達にはそれが必要だ!」
「騎士の位を失い平民に落ちたギュスタブよ……。
お前は家畜だ。家畜小屋に住み、飼料を食べるのか?」
「うぅっーーそんな事はしない!誇りにかけて!」
「飼われることを拒絶するギュスタブよ……。
ならばどうする?神に祈るか?だが家畜に神はいない」
「くぅっーー平民に救いなどどこにも無いのか!?」
「誰も助けてくれない事を知っているギュスタブよ……。
家畜に神がいないならーーお前が神になれば良い」
「!!!」
「そうだ。お前が家畜小屋を建て、お前が飼料をつくるのだ。
他でもない。戦い敗れ、逃げ落ちてくる仲間の為に」
「ハッ!?俺にーー骸旅団のみんなを迎え入れろと!?」
「そうだ。その為に必要なものは何だ?
お前が今ーー自らの手で産みだそうとしているものは何だ?」
「……うおおおおおおッ!!」
荒々しい掛け声と共に。
ギュスタブは目の前のパン焼き窯から、焼きたてのパンの並ぶ鉄板を引き出した。香ばしい匂いが台所に広がる。
ここは貿易都市ドーターの高級宿。今俺たちはパン焼き窯を借りて、ずっと製パンの練習をしていた。
ギュスタブの後方で邪神のささやきをしていた俺も、湯気を上げる焼きたてのパンをひとつ摘み上げ、かじる。
うん。笑顔の子供もひとくちで号泣するできばえだ。
「うん!今までで一番まずい!お前よくこんなパン作れたな!謝罪しろ!小麦に!」
「いやアンタが『最後に一番まずいパン焼いてくれ』って言ったんだろうが!一体何に使うんだよこんなもん!?」
「どうしてもーー食べさせたい相手がいるんだ……!」
「嫌がらせだろソレただの!?」
俺たちが言い合っていると、台所にティータが飛び込んできた。
「師匠! 朝に配車を頼んでいた、最高級の馬車と、ボロ馬車の2台が宿前に着きましたよ!
侯爵様とウィーグラフさんの顔の腫れも引いてきましたし、そろそろ出発しましょう!
あっ!新しいパン焼いたんですかひとつもーらいッ!
……ヴォエッ……」
ティータ迫真の戦闘不能ボイスである。初めて聞いた。
「ギュスタブさん……食べ物で遊ぶなって。馬に習わなかったんですか……?」
「おまえ馬と喋れるの!?まじゅう語履修してるの!?
いや、これはお前の師匠の指示で仕方なく焼いたんだよ!」
「師匠……。こんな、飼料にも劣る味のパン。どうするつもりですか?」
「おまえ飼料食ったことあるの……?」
「馬に上下関係叩き込むには、結構効きますよ?」
うわあ。家畜こわい。
それはさておき、俺はギュスタブの焼きたてパンを上質な油紙へ包み始めた。
「人を訪ねるなら手土産くらい持っていかないとな」
「逆に好感度低下しませんソレ?」
「おいギュスタブ。美味しく焼けた方のパンは全部、馬車に積んどけよ。
お前には一足先にランベリーへ行ってもらって、撤退してくる仲間をたっぷり食べさせて、荒地開拓の屯田兵として使うというーー重要な役割があるんだからな。
ああ。墾田永年私財法はちゃんと持ったか?」
「持ったがーーこんな領法、本気で通すつもりなのか?」
新たに開拓した土地は納税するなら所有を認める、という暴法にギュスタブは未だ半信半疑だ。
だが俺の見方では、持たざる者はいわゆる無敵の人だ。
持たざる者が暴れるのは、壊れて困る何かを持っていないから。
だったら与えてしまえばいい。失いたくない何かを。愛着の持てる何かを。根無し草が根を張れる土地を。
腹さえ満ちて、しがらみも増えれば、多少生活が苦しくてももう暴れ出さないはずである。
そこまで行けばもう流浪の賊ではなくランベリーの民といえるだろう。
「まあどのみち、お前の考えてるようにはならないよ。
あ、字が読めない奴にはお前が説明してやれよ?」
「わかったよーーじゃあボロ馬車に、パンを積み込むとするかね」
「ん?違うぞ。お前が乗るのは最高級馬車の方だ」
「なんでだよ!?」
俺はニヤリと笑った。
「救出された侯爵は、ひとまず自領へ帰った。
ーーそう思っておいてもらいたいんだよ。
侯爵様にもご納得いただいているから。侯爵様のフリ、しっかりよろしくな?」
「俺は囮かよ!」
「んー。というか、今度はこっちが奇襲したいんだよな」
「……奇襲?」
話を聞いていたティータも、不思議そうに訊ねる。
「でもーーそれじゃあ。
ボロ馬車に侯爵様詰め込んで、一体どこへ行くつもりなんです?」
俺はクソ不味いパンを担ぎーー不敵に微笑んだ。
「やられたら。
……やり返さなきゃなあ?」