アルガス転生 〜家畜に神はいない(俺以外)〜   作:葛葉狐

10 / 43
詰みポイント9:家畜に邪神はいらない

 

「ギュスタブよ……。

 そんなにもーー食うものや寝るところが欲しいか?」

「ぐぅっーーああ、そうだ……!俺達にはそれが必要だ!」

「騎士の位を失い平民に落ちたギュスタブよ……。

 お前は家畜だ。家畜小屋に住み、飼料を食べるのか?」

「うぅっーーそんな事はしない!誇りにかけて!」

「飼われることを拒絶するギュスタブよ……。

 ならばどうする?神に祈るか?だが家畜に神はいない」

「くぅっーー平民に救いなどどこにも無いのか!?」

「誰も助けてくれない事を知っているギュスタブよ……。

 家畜に神がいないならーーお前が神になれば良い」

「!!!」

「そうだ。お前が家畜小屋を建て、お前が飼料をつくるのだ。

 他でもない。戦い敗れ、逃げ落ちてくる仲間の為に」

「ハッ!?俺にーー骸旅団のみんなを迎え入れろと!?」

「そうだ。その為に必要なものは何だ?

 お前が今ーー自らの手で産みだそうとしているものは何だ?」

「……うおおおおおおッ!!」

 

 荒々しい掛け声と共に。

 ギュスタブは目の前のパン焼き窯から、焼きたてのパンの並ぶ鉄板を引き出した。香ばしい匂いが台所に広がる。

 ここは貿易都市ドーターの高級宿。今俺たちはパン焼き窯を借りて、ずっと製パンの練習をしていた。

 ギュスタブの後方で邪神のささやきをしていた俺も、湯気を上げる焼きたてのパンをひとつ摘み上げ、かじる。

 うん。笑顔の子供もひとくちで号泣するできばえだ。

 

「うん!今までで一番まずい!お前よくこんなパン作れたな!謝罪しろ!小麦に!」

「いやアンタが『最後に一番まずいパン焼いてくれ』って言ったんだろうが!一体何に使うんだよこんなもん!?」

「どうしてもーー食べさせたい相手がいるんだ……!」

「嫌がらせだろソレただの!?」

 

 俺たちが言い合っていると、台所にティータが飛び込んできた。

 

「師匠! 朝に配車を頼んでいた、最高級の馬車と、ボロ馬車の2台が宿前に着きましたよ!

 侯爵様とウィーグラフさんの顔の腫れも引いてきましたし、そろそろ出発しましょう!

 あっ!新しいパン焼いたんですかひとつもーらいッ!

 ……ヴォエッ……」

 

 ティータ迫真の戦闘不能ボイスである。初めて聞いた。

 

「ギュスタブさん……食べ物で遊ぶなって。馬に習わなかったんですか……?」

「おまえ馬と喋れるの!?まじゅう語履修してるの!?

 いや、これはお前の師匠の指示で仕方なく焼いたんだよ!」

「師匠……。こんな、飼料にも劣る味のパン。どうするつもりですか?」

「おまえ飼料食ったことあるの……?」

「馬に上下関係叩き込むには、結構効きますよ?」

 

 うわあ。家畜こわい。

 それはさておき、俺はギュスタブの焼きたてパンを上質な油紙へ包み始めた。

 

「人を訪ねるなら手土産くらい持っていかないとな」

「逆に好感度低下しませんソレ?」

「おいギュスタブ。美味しく焼けた方のパンは全部、馬車に積んどけよ。

 お前には一足先にランベリーへ行ってもらって、撤退してくる仲間をたっぷり食べさせて、荒地開拓の屯田兵として使うというーー重要な役割があるんだからな。

 ああ。墾田永年私財法はちゃんと持ったか?」

「持ったがーーこんな領法、本気で通すつもりなのか?」

 

 新たに開拓した土地は納税するなら所有を認める、という暴法にギュスタブは未だ半信半疑だ。

 だが俺の見方では、持たざる者はいわゆる無敵の人だ。

 持たざる者が暴れるのは、壊れて困る何かを持っていないから。

 だったら与えてしまえばいい。失いたくない何かを。愛着の持てる何かを。根無し草が根を張れる土地を。

 腹さえ満ちて、しがらみも増えれば、多少生活が苦しくてももう暴れ出さないはずである。

 そこまで行けばもう流浪の賊ではなくランベリーの民といえるだろう。

 

「まあどのみち、お前の考えてるようにはならないよ。

 あ、字が読めない奴にはお前が説明してやれよ?」

「わかったよーーじゃあボロ馬車に、パンを積み込むとするかね」

「ん?違うぞ。お前が乗るのは最高級馬車の方だ」

「なんでだよ!?」

 

 俺はニヤリと笑った。

 

「救出された侯爵は、ひとまず自領へ帰った。

 ーーそう思っておいてもらいたいんだよ。

 侯爵様にもご納得いただいているから。侯爵様のフリ、しっかりよろしくな?」

「俺は囮かよ!」

「んー。というか、今度はこっちが奇襲したいんだよな」

「……奇襲?」

 

 話を聞いていたティータも、不思議そうに訊ねる。

 

「でもーーそれじゃあ。

 ボロ馬車に侯爵様詰め込んで、一体どこへ行くつもりなんです?」

 

 俺はクソ不味いパンを担ぎーー不敵に微笑んだ。

 

「やられたら。

 ……やり返さなきゃなあ?」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。