イグーロス城中庭、北天騎士団訓練場。
髪をポニーテールにまとめ、動きやすい皮の半袖短パンに身を包んだティータが屈伸運動をしている。
心配そうな三人に囲まれながらーー俺に向かって、慣れた調子で戦闘前確認を行う。
「師匠ー。今回、職業とかどうしますー?」
「うーん。対騎士戦だしな。力を見せつけるためにも、相手の得意分野でやりたいな。
ナイトでいくか」
「はい。でもまた、煽りって受け取られますよ?」
堂々のナイトジョブレベル1である。すっかり上げるのを後回しにしていた。
俺たちは砂漠以後の三戦で、それぞれ話術士、黒魔道士、時魔道士をレベル8に加えてmasterしていた。
というわけで今回の俺らのアビリティステータスは、こういう設定になった。
:戦技
:話術
:speedセーブ
:取得JPup
:テレポ
テレポはいざという時に移動力を超えて移動できる可能性を持つ、その一点だけでも大きい。敵の裏取りも楽な上に、高低差無視で移動できるので逃げやすい。実に俺ら向きなアビリティだ。あと瞬間移動とか武術の達人ぽい。
speedセーブ外せるんなら、MPすり替えとMP回復移動セットして、避けきれない被弾すら一行動ごとに一回は無効にできんだけどな。俺らは実質、この方法以外でスピードをぱっぱと上げられないから外せない。ラムザめ。生まれた家どころかシステムにまで優遇されやがって。
4行目のサポートアビリティがなー。育成完了後は、あまりいい使い方思いつかないんだよなー。せいぜい忍者にして格闘つけるとか、他ジョブで二刀流つけるとかくらい。ジョブの基礎スピードが高いから、俺はラムザ忍者にして格闘つけてたなあ。ごめんなラムザ。ルカヴィ全員素手で倒させて。
あ、ちなみにここまでの3バトルでお互いを誉め合い、俺らのBRAVEはそれぞれ71と70まで上昇している。元値の倍以上だ。
そんな勇気あふれるティータは、同じく勇気あふれる俺に向かってうなずいた。
「はい。じゃあ主職は固定と。
それじゃ補職は、ゼグラスからのいつも通りーーはじめ話術であと基本技、ですか?」
「ヤバくなったらアイテムな。戦闘中に変えるから」
「わかりました」
俺はなんか戦闘中にも編成画面開けるんで、こういう荒技もできる。優遇されてんのは俺もだったわ。
あ、あと、戦闘中編成画面の編成制限については検証を繰り返してわかった。「最大で、俺のキャラレベル回数分まで変更が可能」という条件だった。初めて開いたマンダリア平原でレベル2に達してて良かったわ。1だったら浮かれてポーション習得しただけでアイテムをサブジョブにセットできなくて詰んでたわ。
「ーーちなみに一応聞いておきますけど、作戦は?」
「まっすぐ行ってぶっとばす」
「右ストレートでぶっとばす、ですね。わかりました!」
ティータはいっつもこれを訊く。俺の答えも同じである。なんかの儀式かな。
そんなティータに……気遣わしげに歩み寄る、金髪の令嬢が一人。アルマだ。
馬の尾のような栗色の髪や、勝気な笑みを浮かべるその頬を順に触ってーーまるで悼むように柳眉を寄せる。
「ああ、ティータ……ほんの半月ほどの間に、こんなに陽気になってしまって……」
何だよそれ。陽気だと何か問題あるのかよ。
「きっと戦場ではこれくらい陽気でいないと。とても、生きてはゆけないのね……」
中世末期の傭兵集団ランツクネヒトか。
お前の戦場への解像度どうなってんだ。仮にもベオルブ家の娘だろ。
「大丈夫ですよ!アルマ様!
ーーわたしは最強ですから!」
さわやかな笑みでそう答えて、レベル99の強者のオーラを全身からぶわっと放出するティータ。数歩後ずさる三人。おい相手選べ。加減しろ。
妹だったなにかから後退しながら、ディリータが俺に食ってかかる。
「アルガスッ! ティータは、……本当に大丈夫なんだろうなッ!?」
大丈夫て何だよ。別に洗脳とかしてないだろうが。
そもそも対戦相手にダイスダーグを追加したのは他でもないお前の妹だろうが。
ともあれ、保護者説明も師匠の大切な役目だ。
俺は人を安心させる笑みを浮かべーーグッと親指を立てる。
「大丈夫だディリータ。何も心配することはない。
お前の妹はーー最強だ」
「そういうのを洗脳って言うんだろうがッ!」
あれ。そうかな。
ともあれーー対戦相手の二人も、準備が完了したようだ。
俺はティータを連れ、訓練場いちばん端の開始線へと歩み寄る。
ああーー心配して来てくれたのに喋らないのも悪いから、ラムザにも一応声かけておくか。
「ラムザ。いっつも素手忍者にしてーーごめんな?」
「?……何の話だい?」
土煙舞う広大な訓練場。
黄土色の霞の彼方に、二人の男の鎧姿が見える。
アークナイトとルーンナイト。
俺は攻略情報を思い出しながら答えた。
「破壊魔剣は恐るるに足らんが。
剣技が要注意だな。聖剣技が厄介だ」
「ああ、ではザルバッグ様を警戒ですか?」
「いやそれがーーザルバッグは聖剣技使えないんだ。
ダイスダーグが使ってくるんだ」
「なんでですか!?聖騎士の肩書きの意味!?」
初見殺しというかフェイントである。
まあいずれにせよ、北斗骨殺打に警戒だ。
即死効果を引くと一撃で戦闘不能である。
やがて双方が開始線に達しーー見物席のラーグ公が右手を振り下ろす。
「では両者、尋常にーーはじめ!」
ランベリーの命運を賭けたーー戦いの幕が切って落とされた。
いつも通り、俺とティータは数歩の距離を置いて、すぐさま早口を交わし合う。
開始線は俺たちの希望で訓練場の端と端に設置してもらったが、ザルバッグとダイスダーグは結構な速度で距離を詰めてくる。
ザルバッグが破壊魔剣、ダイスダーグが全魔法の構えに入った。標的範囲は俺たちのぎりぎり前。
見切った俺たちは動かず、足を止めたまま言葉を交わし続ける。
やがて俺たちの視界を覆うように、雷魔法サンダガと破壊魔剣スピードルーインが炸裂した。二人の姿が見えなくなる。
思わず正面に目を瞬いたその死角。真横から、まるで囲うようにーー二人が襲いかかってきた。
俺たちは仕上げを急ぎ、一層の早口で言葉を交わし合う。
「ティータいつもすまないね!ゴメン!そしてありがとう!」
「師匠本当にすみません!ゴメンなさい!そしてありがとう!」
そしてダイスダーグが崩れ落ちた。
高速でほめるを繰り返す俺らを見て、腹を抱えて笑っている。
「ヒュッ!戦いのッ!最中にッ!わはははは!遺言ッ!残してるッ!!」
べつに遺言をお互いに残してるわけじゃねーよ。
そうか確かに遺言にも聞こえるな。
「ーー兄上!?」
ザルバッグが破壊魔剣スピードルーインで斬りかけてくるが発動まで間があるので、二人揃ってテレポで消える。
「消えた……!?」
俺たちは二人の後方に並んで出現し、そしてーー
BRAVEをお互い100まで上げきったので、次はspeedを上げてゆく。
俺はティータと向かい合い、そして素手でどつき合う。
気づいたのはダイスダーグが早かった。
爆笑から復帰したのか、気を取り直して振り向きざまに範囲魔法を詠唱しかけーー俺たちの姿を見て、また固まる。
そして再び笑い声と共に地面へ崩れ落ちる。
「……! …………ッ!」
俺たちを指差し、涙を流して笑っている。
なにか必死に訴えている。
「?……」
ティータとボカスカ殴り合いながら、俺は耳を澄ませた。
「ヒィッ!ヒィッ!そんな!暴力彼氏!みたいにッ!
ーーわはははははははッ!」
とうとう地面に大の字になって笑い始めた。
暴力彼氏……? DV(ドメスティック・バイオレンス)のこと……?
そのとき。
俺の視界に例の効果音が流れ、解説画面が表示された。
ポーン。
:< DV彼氏とは >
:DV彼氏の特徴とは、以下の通りです。
: ・すぐに暴力をふるう
: ・暴力をふるった後は謝ったり褒めたりしてくる
: ・でもまたすぐに暴力をふるう
: ・そしてまた褒めたり謝ったりしてくる
「ーー全部該当してるゥゥゥッ!?!?
てかこれ何のヘルプメッセージだよ松野ォォォッ!!!」
俺はDVをふるう手を止め、思わず絶叫した。
その時、訓練場に怒号が響き渡った。
「アルガスッ! よくもティータをッ!
殺してやるッ! 殺してやるぞーッ!」
原作セリフが飛び出した。ジークデン砦かな。
見れば激昂し訓練場に飛び出そうとしているディリータを、ラムザが必死に羽交い締めにして止めている。
羽交い締めにされたまま、ディリータは俺に手指を突きつけた。
「お前ティータに傷ひとつ付けるなって言ったろうが!!」
誤解だ。俺はディリータに必死に弁解した。
「いや、待てディリータ! お前の妹は最強だ!
もうこんな程度では傷つかない!」
「そういう事を言ってるんじゃねえええええ!!」
「誤解よ兄さん!師匠はとっても優しいのよ!
だってーー前は150発殴られていたのに!今はたった、50発しか殴らなくなったのよ!?」
「アルガス貴様ああああああああッ!!!」
「ティータさんちょっと黙ってもらってていいですかね!?」
ダメだ。完全に有罪だ。
ディリータの怒りは怒髪天を突かんばかりだ。
その時。また効果音と共に、解説画面が開いた。
ポーン。
:アルガス・サダルファス(16歳)
:ランベリー近衛騎士団所属の騎士見習いにして団長代理。ランベリーのルオフォンデス出身。
:サダルファス家は五十年戦争で没落した貴族で、アルガスは家名の復興のため功績を上げようとしていた。そのためサダルファス流を創設して最強を目指すも、弟子のティータへのDV(家畜暴力)行為により、『家畜暴力王』の悪名を流す。
「俺のブレイブストーリーがあああああ!?
ーー松野ォォォォォォッ!!!
殺してやるッ! 殺してやるぞーッ!」
あまりの衝撃に。俺の口からもジークデン砦構文が飛び出してしまう。
度重なる有罪行為に、俺のブレイブストーリーが更新されてしまった。
俺は「家畜に神はいないッ!」の名言から長年『家畜王』の異名を取っていたけど、ーーこれで『家畜暴力王』へ格上げである。(悪党として)
松野てめえ。
「うっうっーー」
「師匠なんでガチ泣きしてるんですか?」
ティータが不思議そうな顔で訊ねてくる。人の心とかないんか。
俺は自身の名誉やブレイブストーリーを犠牲にしながらーーそれでもティータと殴り合い続け、テレポで攻撃範囲外に飛びーーそして、やがて。
いつものspeed50物理AT99を迎える。
闘争の終着点だ。
俺は驚愕の表情のザルバッグの前に飛び。拳を固めーー
「ーー待て! 我々の負けだ」
ザルバッグの投了宣言に、その構えを解いた。
ザルバッグの視線の先では、まだダイスダーグが笑いながら地面に転がっている。
「……兄上がこの調子では。
とても勝負にならん」
空を見て笑い続けている兄から視線を戻し。
ザルバッグは、健闘を称えるように握手を求めてきた。
「ーーだが。君達の強さは、みなにも嫌というほど伝わったはずだ。
もはや……ランベリーの独立不羈を疑う者などいまい。
アルガス君。
願わくばまたーー手合わせして欲しいものだな?」
ーーその後。
晴れて疑いから解放された俺らは(誰も襲いかかる勇気がなくなったとも言う)、
笑い過ぎて具合の悪くなったダイスダーグと、未だ怒り狂うディリータの処置を任せ、無事イグーロスを後にした。
「あれが家畜暴力王……」とヒソヒソ囁かれながら。