アルガス転生 〜家畜に神はいない(俺以外)〜   作:葛葉狐

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第二章 利用される者する者 〜 THE MEEMATSUNO & SUKUINAINKA
詰みポイント14:一年後、ランベリーにて


 

 ーージークデン砦の悲劇より一年後。

 ランベリーの国は……斜陽にあり。

 サダルファスの家畜暴力王は、すべてを失おうとしていた。

 

* * *

 

 領都のサダルファス家タウンハウス、広大な家族用食堂。

 俺は長机の末席で、ひとり豆のスープをすすりながら、きょうも両親から叱責を受けていた。

 

「アルガスーーお前には本当に。失望したぞ」

 

 お誕生日席でふんぞり返るのは俺の父親、サダルファス男爵。近衛騎士団の留守居役という閑職に長く在ったが、騎士団壊滅と息子の俺の活躍により、ランベリー近衛騎士団の名目上の団長職へと栄進した。もっと感謝してくれてもいいんだが。

 

「そうよ。恥を知りなさいーー息子よ」

 

 その左側、扇子で口許を隠して冷たく俺を睨めつけるのは俺の母親、サダルファス夫人だ。その身にまとうドレスは真新しく、その指に並ぶ指輪は光り輝いている。長きに渡る没落生活から解放され、社交界にかつての名花として返り咲いた結果だ。もっと感謝すべきなんじゃないか?

 

「師匠。残念ですーーこんな事になって」

 

 右側。机上に両肘をつき、組んだ手の上からこちらを睥睨しているのは俺の弟子、ティータだ。というかお前はどんな立場から俺に説教してるんだ。あとそもそも、お前が腰掛けてる位置は嫡子の席、すなわち俺の席だ。座んな。あとむしゃむしゃやっているその肉をよこせ。

 

「ティータ、お前は関係ないだろ……」

「黙れ!」「黙りなさい!」「黙るガス!」

 

 俺の弱々しい反論は、即座に両親に打ち消された。あとティータ今お前さらっと混じって何て言った?

 母が向かいのティータへ手を差し伸べ。労わる目を向けてからーー俺を嗜めるように言葉を放つ。

 

「ーーそもそも、いいですか?アルガス。

 貴方がこんな年端もいかないような、いたいけな可愛らしい家畜を。

 あろうことかーー衆目の前で虐待してみせたことが……すべての悪名の始まりなのですよ?」

 

 父も謝意を瞳に込め、ティータに慇懃に低頭する。

 

「そうだ。アルガス。いくら戦場の習いとは言え。

 こんな、よその家で大切に育てられてきた家畜をーーお前がDVして許されるはずもない。

 ……お前の貴族としての誇りは何処へ行った?」

 

 俺は潜り抜けてきた幾多の戦場を思い浮かべる。

 繰り返された争いーー貴族全員謝罪要求白魔や、あるいは無数の漁師をなぎはらった、浜での死闘を思い出す。

 システム的な最強を追究しなきゃ勝てなかった。手段なんて選んでるヒマは無かった。

 誉れは浜で死にました。

 あと、かばおうとしている相手を普通に家畜呼ばわりするってのは正直どうなんだ。

 一方。自分をいたわっているらしい二人の顔を順番に見回してから、ティータは感動したような声をあげる。

 

「わあ!知り合ってもう一年経つのに、未だにナチュラルに家畜呼びしてくる!

 さすがはお師匠様のお父様お母様ですね!」

「「いやあ。そんなーー」」

 

 ティータの言葉に、揃って照れる両親。褒めてないんだよ。

 今の反応は。どんな時でもけして平民へ取るべき態度を崩さない、一流貴族に対する褒め言葉ーーとでも受け取ったものらしい。

 どんな歪んだ価値観だよ。

 

「ティータこそ。家畜小屋に生まれし家畜が、戦いを通じてこんなにも強くなるとはなあ。

 まさにーー家畜の中の家畜だ!」

「うふふ。貴方ったら。それじゃただの妊娠中の家畜よ?

 じゃあティータ。今日もまた、家畜によく似合うお洋服を選びに行きましょうね?」

「はい!」

 

 おかしい。親切にされているはずなのに、虐待されているようにしか見えない。

 それを受け入れているティータもおかしい。

 周り全部がおかしいということは、ひょっとしておかしいのは俺の方なのだろうか。

 俺の身につける衣服より数段上等なフリフリドレスを身に纏い。ティータはーーまるで与えてもらったものを再確認するように、そっと己を抱きしめた。

 

「ーー師父様。師母様」

 

 ティータは少し躊躇いながら。大切な想いを届けるように、俺の両親へ呼びかける。おいなんだその呼び方は。

 

「何だね?家畜」「どうしたの?家畜」

 

 俺の両親の呼び方も大概だった。

 

「……わたし、まだ小さい頃に両親を病気で亡くして。

 だからーーこんなに大切にしてもらうの。初めてで……」

 

 大切にされる人の扱われ方じゃなかった気がする。

 親の愛すら知らぬ雛鳥。思わず瞳を潤ませるティータの姿に、ついに感極まった俺の両親はーー椅子を蹴立てて駆け寄り、ティータを両側から抱きしめる。

 

「もうよい!ティータは立派な当家の家畜だ!忘れるな!」

「ええ!いつまでだって家畜小屋に居てもいいのよ!?」

 

 三人の感動シーンに、俺はぼそりと呟いた。

 

「……やはり虐待されているようにしか見えない……」

 

 その指摘に。ティータを抱き締めたままの両親は、揃って首を回しーーぎろりと俺を睨め付けた。

 はい……。

 黙るガス……。

 

* * *

 

「すっかり遅くなってしまった……」

 

 その後も延々と続いた両親の説教。仰げば尊し主君の恩、だの何だのガミガミ言っていたが、適当な所で切り上げて俺は部屋を出てきた。登城に遅れてしまう。

 とはいえーー両親の叱責は、何もティータへのDVひとつを責めているものではない。

 シンデレラがガラスの靴をドロップしそうな真紅の蛇行階段を降りながら、俺はーーランベリー分裂の経緯を思い出していた。

 

 きっかけはーー荒地開拓の屯田兵として吸収したはずの、骸旅団だった。

 骸騎士団解散後にも旅団規模2000の兵を擁していた骸旅団だが、ランベリーに入ったのは1000だった。

 うち500は屯田兵の境遇を受け入れ、次の収穫までの継続的な食糧支援のもと、明日の自作農を夢見てきょうも荒地開墾に励んでいるのだがーー残り500は開拓者への転身になじめず。再度、武装蜂起した。

 そのままランベリー各地を荒らし回るなら、俺率いる討伐軍が責任をもって討伐すればよかったのだが。

 なんと叛いた500はそのまま、俺への支持を表明し、援助を求めてやって来た。

 いや、うっちゃってきた農地に帰れよ、と命じるとか、お前らに支持されるつもりないわ、と問答無用で討伐するとか

すればいいんだろうが。俺もある程度のミスフィッツが出ることは想定していた。世の中には農家が一番多く居るんだとしても、田んぼ耕して生きられねえ人間もたくさんいるのだ。

 奴らの主張としちゃ強い奴にしか従いたくないらしい。ここでいう強さとは、飯食わせてくれる甲斐性だったり名前の通りっぷりから判断した将来性だったりするんだが、さすがの俺も500の食客を抱える大俠客は気取れない。

 そこで。雲集してきた荒くれを使い、考えていた新たなビジネスを展開し、食いつないでいるわけだがーー

 今のランベリーを見た人は言う。

 『サダルファス反乱軍の実効支配地』と。

 

 ーーその結果が、目の前の光景である。

 俺は階下の玄関大広間ーーめいめい勝手に過ごしている、無数のモヒカン頭と肩パッドを眺めやる。

 モヒカン頭は荒くれの証。肩パッドは、前にティータが「わたしの修行もーーまず石を150発投げる事から始めました」と語っていたのを聞きつけ、大切な肩を保護するために皆つけているらしい。屋内を見回せば、アイシングをしている荒くれや、投球練習をしているモヒカンもいる。外でやれ。

 

「押忍! 総師範! どこかへお出かけですかい?」

 

 階段を降りる俺に気付き、モヒカンの1人が話しかけてきた。俺を総師範と呼ぶこいつらは、サダルファス流の門下生という位置付けを誰の許可も得ず自分で勝手にしている。正直やめて欲しい。

 

「ああーー登城する」

 

 俺は答えながら、階段裏のバーカウンターへ回り込む。

 ここにはバーテンが常駐しているが、別に荒くれに酒を出すためじゃない。俺の新しいビジネスのためである。

 酒場の主人が用いる噂魔法。あれを利用してーーイヴァリース各地の酒場に寄せられる「儲け話」の情報を収集し、ここにうんとこさ余っている荒くれ達を派遣し、外貨を稼ぐーーそれが、俺の考えた新しいビジネスである。全国どこでも荒くれ派遣サービスである。荒くれAmazonと呼ぶか。

 派遣された荒くれどもの報酬の三分の一はサダルファス家に入る。人材派遣業の相場である。

 獲得した外貨は城や食糧支援にも注ぎ込まれ、これでランベリーは食糧不足から脱したかに見えたが、今度は荒くれが我が物顔でランベリーを闊歩し始めた。反乱軍実効支配と言われる由縁である。そして俺が反乱の首魁と呼ばれる最大の理由でもある。

 なかなか思うようには運ばない。主に俺の評判的に。

 

「この前の依頼で。手に入れてきた財宝があっただろ?

 あれを出してくれ」

「ーーはい」

 

 バーテンはグラスを拭く手を止め、カウンター下から一振りの刀を出してきた。

 とある探検依頼に同行した荒くれが持ち帰ってきた、『斬魔刀』である。

 

「……!! そ、総師範……! まさかこれを持ってーーお城へ登るって、言うんですかい……?」

 

 モヒカンはなぜか驚愕している。

 俺は刀を眺め回しながら答えた。

 

「ーーああ。侯爵様に似合いそうだろ?」

 

 屯田兵への食糧支援の経済的負担が大きくて、近頃の侯爵様はろくな差料を携えていない。

 たぶん反り刃の剣はお好みじゃあないだろうが、妖刀っぽいし好きだろう、と俺は差し上げるつもりだった。

 モヒカンは汗をだらだら流しながら答える。

 

「ええーーきっとその首には。似合うことでしょう……」

 

 首? そんなところに装備するのか?

 三刀流かな?

 モヒカンは突然、涙を拭い始める。

 

「苦節一年……。

 ついにこの日がーーやってきたのですね」

「???」

「旧国とはいえ。国ひとつを我らが手中に収める、その時が。

 ーーみんな! 総師範がついにお覚悟を固められたぞ!

 これより城へ登り、偽りの支配者……エルムドアを討つ!」

「「「おおおおおおおッ!!!」」」

「バカ!違えよ!」

 

 集まってきたモヒカンたちは俺の着ている寝巻きみたいな服に目を止めると、はっとした表情でーー赤絨毯の両脇に並び、正面玄関への花道を作る。

 そして口々に大声で、陣触れを告げる。

 

「総師範、御出陣!」

「家畜暴力王陛下、御出陣!」

「ランベリー王陛下、御出陣!」

 

 うるさいやめろ勘違いだ。あとロマサガ2やめろ。

 俺が玄関を押し開けた先では。大勢の通行人が足を止め、ランベリー内乱発生という歴史的瞬間を脳裏に刻もうとしている。

 違うからね。通報しないでね。そこの人お城に向けて走るのやめてね。

 

 

 

 

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