アルガス転生 〜家畜に神はいない(俺以外)〜   作:葛葉狐

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詰みポイント16:プロローグ

 

 ーー払暁。

 オーボンヌ修道院、尖塔の鐘楼。

 そこにーーまるで風に墨を流したように、黒のマフラーをたなびかせるーー1人の少女の姿があった。

 顔の殆どを覆うマフラーの上、ふたつの瞳は……未だ暗い修道院前庭、マントにくるまり寒さをしのぐ一人の傭兵を捉える。

 その傭兵とよく似た栗の瞳が、切なげに揺れる。

 

「……ディリータ兄さん……」

 

 風に消える呟きを拾って、俺は鐘楼の内から姿を見せた。

 

「悪いが。今は顔を見るだけで我慢してくれ。

 ーー感動の再会をさせてやれなくて済まないな」

「いえ……」

 

 仕事に頭を切り替えたのか、ティータは理知的な顔を向ける。

 

「ーー師匠。

 仕事に移る前に……整理させてください」

「ああ」

 

 楽しい楽しい現代史の時間だ。

 こんな授業は貴族学院でもやらないだろう。

 

「まずーー国王オムドリアⅢ世が崩御した。

 後継者候補は三男のオリナス王子と、王の異母妹のオヴェリア王女」

 

 そうだな。まず王候補から見ていくと把握しやすい。

 

「いずれ即位する、若年王の摂政の座を狙う縁戚ーーラーグ公とゴルターナ公。

 ラーグ公は妹である王妃の子オリナスを支持。だが同時に、オヴェリアも先王より託されており管理下にある。

 一方、ゴルターナ公はオヴェリアを支持するしかない」

 

 次に、その支持者たる有力貴族。

 

「そこでゴルターナ公はオヴェリアの身柄確保を目論み、ラーグ公の支配下のこの修道院へ兵を送った。

 一方で。ラーグ公もオリナスの皇位継承の妨げとなるオヴェリアを、もう用済みと密殺してしまおうとしている。

 ーーゴルターナ公にその罪を着せる形で」

 

 次に両陣営の狙いね。にしてもラーグ公クソだな。

 普通に考えたらゴルターナ公が実質唯一の支持者候補を暗殺するはずもないのだが。

 まあこの策がうまく嵌ればラーグ公の勝ちではある。

 

「その一方で。現世権力を伸長したいグレバドス教会教皇フューネラルⅣ世は、両公に共倒れして欲しい。

 だから教会の手駒に王女を確保させ、ゴルターナ陣営へ連れて行き、両者の権力基盤である北天南天両騎士団を相争わせる盤面を作ることで。双方の力を削ぎ、頃合いを見計らって調停に入ることで……場の支配権と人心の支持を得たい」

 

 次はその構図を利用しようとする、第三勢力ね。正直小物だ。あと国力が一番低下する。結局、巷のこととか民のこととか何も考えてない。こういう、自分や自分の係累さえ富み栄えれば神社も斯界もどうなったって構やしないっていう社家どもに裁量与えちゃダメだぞ! 軽い神輿として担いでおくのが一番だぞ! おっといけねえ。

 

「だから今この修道院へは三勢力の兵が殺到している。

 オヴェリア王女を誘拐したい、南天騎士団。

 オヴェリア王女が南天騎士団に誘拐されたと見せかけつつ殺したい、護衛として雇われたガフガリオン傭兵団と、偽りの誘拐役の北天騎士団。

 オヴェリア王女をゴルターナ陣営へ連れてゆき戦争を起こさせたい、教会の手駒部隊」

 

 はい。よくできました。満点。

 視線を返す俺に、ティータは目許を厳しくした。

 

「でーー師匠の見立てでは。

 ディリータ兄さんは傭兵として護送任務しか伝えられておらず、誘拐偽装の計画なんて知らなくて。

 そして、教会側の手駒として現れるのがーーラムザ様。なんですよね?」

「……俺が松野ならそう書き変える」

「だから松野って誰ですか」

 

 俺は修道院前庭でディリータへ話しかける、もう1人の傭兵へ目をやった。ラッドだ。

 ゼイレキレの滝でガフガリオンの真の目的を聞かされ、ラッドも離反する。ということはラッドも話を聞かされていない。ディリータはラムザと違って平民ではあるが、だからといって傭兵の水に染まり汚れ仕事をすすんでやるタイプにはどうしたってなれないだろう。ガフガリオンから腹を割って計画を打ち明けられるとは思えない。

 

「兄さんが何も知らないのは理解できるんですがーー正直。

 ラムザ様が教会に加担するかな、っていうのが。

 一番疑問符がつくところなんですが……」

「ーーいや、あいつはベオルブ家の滅亡、くらいの目的であれば協力するだろ」

「……」

 

 ジークデン砦を思い出したらしいティータは口を噤む。

 注ぎ込まれた憎悪の量は同じでも、底の浅さ根の深さは人によって違う。

 ラムザは周囲にまき散らして終わるタイプだろう。子沢山の犬の匂いがする、と言われただけでキレ散らかして大陸を乱したカンタール侯の長女と同じタイプだ。

 ーーそんなサガフロ2の話よりも。

 俺にはどうしても気になっている点が一つあった。

 

「……。俺の知ってる未来には。

 あんな人物はーー登場してなかったんだけどな?」

 

 俺は修道院天井裏より飛び出す形の鐘楼、陰から階下の様子を伺う。

 祈祷祭壇の前にはちょうど王女オヴェリアが訪れたところだ。出発前の祈りだろう。

 修道所長のシモンと挨拶を交わしーーそして傍らに立つ、フードの人物と親しげに語らう。

 この天井裏からでは深いフードに阻まれ、その人物が誰かまでは伺い知れない。

 見れば。シモンも、また王女護衛隊長の聖騎士アグリアスまで、笑顔でその人物と会話している。

 ……随分昔から、この修道院に居る人物なのだろうか?

 だがシナリオではこんなやつ出てこなかったはずだ。

 いったい、誰だ……?

 

「ーーまあいい。

 ティータ、王女の動向に注意が集中している今のうちだ。

 手筈通りーー潜るぞ」

 

 俺とティータは音もなく天井を伝い、すぐそばの通用口へ飛び込んだ。

 

* * *

 

「ーーこれか……」

 

 オーボンヌ修道院地下書庫、地下3階。

 少ない人影をうまく躱し、辿り着いたそこではーー処女宮の刻印の光る巨大な宝玉が、あまり人も足を踏み入れぬ閉架図書の区画、中央欄干へと掲げられていた。

 これがーー聖石。乙女のヴァルゴ。

 なんでもオヴェリアを預かるにあたり寄贈された奉納品らしい。

 シナリオでラムザが妹より聞き出した、所在のわかっている唯一の聖石だった。

 

「師匠。早く……」

「わかってるーーよっ、と」

 

 ティータが出口を気にしている。獲物を前に舌なめずり、三流のすることだったな。

 今は忍者なので高所のものを取るのも容易い。

 俺は軽々と壁を蹴り。欄干の聖石を外し、着地する。

 手にした聖石を確認するより早くーーその足元に何かが突き立つ。

 

「ーー師匠!」

 

 本棚の陰へ飛び退いたティータが、鋭く警告を発する。

 足先に突き立ったのは漆黒の羽。

 俺はーーそれが飛んできた、出口を見やる。

 地下書庫三階唯一の出入り口にはーー例のフードの人物が、立ち尽くしていた。

 

「……その聖石は。奪わせない」

 

 ぼそりと呟くとーーフードの内側の闇から。次々に鋭い羽根を発射してくる。

 俺は素早く本棚を盾に回避しーーティータと共に逃げ惑う。

 逃げ惑いながら、ひとつ頷き交わすと……おもむろにお互いを褒め合う。

 

「師匠カッコいい!師匠上忍ッ!師匠シノビ・エクスキュージョンッ!」「ティータかわいい!ティータくのいちッ!ティータお色気の術ッ!」 

 

 今日はジョブが忍者なので忍者として褒め合う。ちなみに俺らのBRAVEはもう92と91に達してるので二、三回褒め合えば事足りてしまう。

 

「ーーえっ……まさか……ッ!?」

 

 フードの奴が追い縋ってきてーー褒め合う俺らの声を聞いた途端、動きを止めた。

 当惑しているらしい。まるで知り合いだったかのような反応だ。

 誰だお前は、と誰何する間もなくーー

 ーーばさり。とその背中からは、巨大な漆黒の双翼が鎌首をもたげる。

 

「ああ……自己紹介はいらんな」

 

 巨大な蟷螂のごとき影に背を向け、俺は再び走り出した。

 開いた漆黒の翼より、黒羽根の弾丸の斉射が俺たちを追う。 

 弾幕の中。本棚を駆け上がり天井を走り、三次元機動で回避する俺たちは、並走しつつ殴り合う。また二刀流なので二発ずつ貰って地味に痛い。

 すでに以前、一度対峙している。

 こいつの正体はーー

 

「ーー師匠!」

 

 いくつかの本棚の間をくぐりぬけ。speed50物理AT99に到達したティータが、目で問うてくる。

 前にこいつを撃退したのは俺だ。あの時はどうやって倒したか。

 そうだーーあの翼に、一撃をーー

 

「ティータ、あの黒い翼だ!一撃入れればヒビが入る!」

「はい!じゃあ多重(デュアル)で行きますよ!」

「おお!」

 

 俺とティータは揃って飛び、天井を蹴ってUターン。

 そのまま、両側の本棚を蹴倒しながら左右に大きく蛇行、黒羽根の連射を続ける有翼フードへとまるで挟み込むように迫りーー

 ドゴス(999)ドゴス(999)ドゴス(999)ドゴス(999)と、左右の翼にそれぞれ二発ずつ拳打を見舞った。

 また前みたいに皹が入るか、と思った翼はそのまま。あっけなく一瞬で砕け散りーー

 飛び散った破片がフードをずたずたに引き裂く。

 そのまま。力なく地面に崩れ落ちたーーフードの下の、その顔は。

 

「……アルマ様!?!?」

 

 ーー見覚えのある、金の髪の快活な令嬢だった。

 かつて同じ家で暮らしたティータの驚きは当然だ。

 ジークデン砦で消えてから。この一年ーーアルマは、ずっと行方知れずとなっていたのだ。

 葬いもとっくに済んでしまった。戦没者扱いにされ、もうべオルブ家代々の墓にも入れられてしまっている。

 

「どーーどういうことですか!?」

 

 当惑するティータ。俺は、さっき祈祷祭壇前で見た光景を思い出していた。

 あの時。ひょっとして、アルマはここへ逃げたのか。

 もしかして……

 長く暮らしたこの修道院にーーずっと匿ってもらっていたのか?

 意識を失って目を閉じるままのアルマの横顔は、何も答えようとしない。

 

「…………」

 

 俺は無言のまま、床に転がる聖石ヴァルゴへ手を伸ばした。

 そして異変に気づく。

 欄干から外した時に比べ。宿す光がーー少し、薄れている。ような気がする。

 ーーそういえば。これだけ大騒ぎしたにも関わらず、誰も駆けつけてはこない。

 頭上を見上げると、ズン、と地響きが天井より埃を降らせた。

 どうやら地上でもーーとうとう。始まってしまったらしい。

 ……三つ巴の戦いが。

 

「ティータ。回収した聖石を持っていてくれ。俺はアルマを運ぶ」

「はい!え、ここから連れ出すんですか?」

「ーーこのまま放っては行けんだろう」

 

 地下書庫の入り口は恐ろしいほど静かだ。

 誰もここには近づいていない。

 その時ーー絹を咲くような悲鳴が、どこか遠くから響いた。

 あれは王女オヴェリアのものだろう。

 南天騎士団を偽装した工作員を陽動に、裏口から侵入したーーラムザが。

 王女を連れ去ったのだろう。

 

 俺たちは騒ぎで無人と化した修道院内、再び屋上に続く通用口へと戻る。

 アルマを肩にかけたまま。俺は鐘楼に足をかけ、外の景色を覗き見る。

 修道院裏口で揉み合う二人が目に入る。

 

「あ、あなたはッ!?」

「ーー悪いな。恨むなら自分か、神様にしてくれ」

 

 当身で意識を刈り取られる王女。

 チョコボが川に飛び込む水音。

 そのままーーチョコボの背に王女の体を乗せ、……ラムザは去っていった。

 

「…………」

 

 遺体転がる戦場跡と化した、修道院の前庭。

 川下へ消えてゆく幼馴染の姿にーー血刀を下げたまま、ディリータが呆然と呟いた。

 

「ーーラムザ。生きていたのか。

 しかし、なぜゴルターナ軍にいるんだ……?」

 

 

 

 遥か頭上、鐘楼よりその光景を見下ろしながら。

 俺はつぶやく。

 

「ラムザ……。

 お前が連れてゆくべきは。王女じゃないだろ……」

 

 気を失ったアルマの体を抱える、その俺の傍らで。

 ティータの持つ聖石が……にぶい光を放った。

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