港湾都市ドーターの高台で、俺とティータは監視を続けていた。
ーーあの後、鮮血の修道院前庭で。
ディリータは不可解な誘拐犯、ラムザを追いかけることを主張した。護衛対象をさらわれたアグリアスも同行し、傭兵のガフガリオンも引きずられる形でついてきている。
ガフガリオンの行動が奇妙なのは……何かを勘付いたからなのだろうか?
本来ならばガフガリオンは。ラーグ公側の描いた狂言誘拐というお芝居の筋書きにおいてはもう、クランクアップでお疲れ様でした、お役御免のはずである。
そもそもついてくる理由がない。
まとめてみよう。
オーボンヌ修道院にゴルターナ公の黒獅子をつけた兵が、オヴェリアの身柄を求めて襲ってきました。
護衛役の聖騎士隊や護送役のガフ傭兵団が応戦したけど、王女はさらわれてしまいました。
シモンはじめ大勢の修道院僧がそのさまを目撃しました。
探しましたがどこからも王女は見つかりませんでした。
あーあ。くそっ卑怯なゴルターナ公め。王女をどこへやった。
後はラーグ公が上のようないちゃもん声明を出して、ゴルターナ公を公然と非難すりゃあそれでおしまいだろう。
もちろんゴルターナ公は否定するだろうが。担ぎ出すオヴェリアがいなくなった以上、即位するオリナスの新王体制を指を咥えて見ているしかなくなる。摂政の座は新王母ルーヴェリアとその兄ラーグ公に奪われ、寒門と化すだろう。
そう言えばアルガスの家も似たような目に遭わされてたっけ。
もっとも、俺ならオヴェリアを本当に殺しはしないかな。オリナスがまだ一才でちゃんと育つかわからんし。ずっと手元にあった王位継承者候補であれば、引き続き予備として置いとくかな。もしオリナスが頓死したらオヴェリアを即位させるしか手がなくなるしね。誘拐されたってことにして、どこかで幽閉生活でもさせるかな。顔見られたらまずいから鉄仮面でもつけさせるかな。そんでオリナスがちゃんと成長するようだったら、長年の幽閉生活で喋れずもう自分の名前くらいしか書けなくなったオヴェリアをーー祭りの終わったばかりの広場で解放するかな。カスパー・ハウザーみたいに。
うわ松野こういう演出好きそう。
あ。
ガフがここでもし、「自分は護送役として雇われた傭兵ですけどー、護送対象さらわれたんでー、もう契約外なんでー、僕、アルバイトォォォ!帰りまーす」て態度取ったら、いかにも露骨なんだな。
少しは追いかけて王女を奪還するフリくらいしてみせないと不自然なのか。あらかじめ「そういう話ができていた」と、アグリアスあたりに勘付かれるかもしれない。
それに風聞と信用的にも、今後の傭兵業に差し支えるか。
だから一応ついてきているのか。
演技力まで必要とか。ダイスダーグの手駒やるのも大変だな。
ちなみに今は、単騎で逃げたラムザが追われる構図である。
本来なら、ゴルターナ軍に偽装した教会工作員が王女を攫って逃げるんだろうが陽動として全員使い潰された。
ラムザひとりじゃ逃げきれなさそうなんで、わざわざ神殿騎士団長のヴォルマルフが身分を明かしてまで出てきて、傭兵相手に首一つ700ギルで値段交渉してまで足止めを依頼している。
偉物にすんごい尻拭いさせてんなあラムザ。
ギリギリで値段交渉が成立して、あんまりやる気のなさそうな傭兵たちが坂の上から襲いかかったところだ。いくらなんでも泥縄すぎんだろ。
攫われた王女を追うディリータたちは意気軒昂そうに見えるが、聖騎士と闇の傭兵が連携など知ったことかと言わんばかりに動き回るのでもうめちゃくちゃだ。あーあー。ディリータ接敵できなくて石とか投げてるよ。
「……兄さん、なんで王女追う気になったんですかね」
あんなに弱いのに。というティータの声が聞こえてきそうだ。
それはどちらかというとラムザが気になるからじゃないか?
また、弱くても思う通り行動できる、というのはーーひとつの強さだ。
強さを確立してからじゃないと自由に行動できない俺よりも。ディリータはずっと強い。
あとは、まあーー
「ーーこれ以上。女の子を殺したくなかった、ってだけだろ」
「……」
俺はすぐ横で眠る、アルマの横顔を眺めた。
ディリータは恐らく自分がアルマを射殺したと思っている。
それでも、騎士団を辞めてもなお傭兵として戦い続けるのは、他に食う道がないからだろうが。
剣のトラウマを抱えたまま。それでも剣を振るい続けるのはーー強くなければできない。
そんな強いはずのディリータの。連携のなってない味方。にわか仕立ての足止め役。まずい戦いは続いている。
ようやく剣を振るう兄を見つめながら、ティータが訊ねた。
「……師匠。ラムザ様って、アルマ様を失ってああなったわけですよね? 教会の手先というか」
「まあ、多分な。ベオルブ家への復讐が目的だとは思うが」
「だったらーーアルマ様が生きてることを教えてあげて。アルマ様を返してあげたら。……それで止まりません?」
俺はティータの視線の先、買い上げたチョコボの背で眠るアルマを見つめた。
ティータの言う解決策は所詮、対症療法に過ぎない。
運が悪ければ簡単に家の犠牲にされてしまう、という根本原因は除けない。
妹ひとりを楽園へ連れて行って、地獄に目を背けて暮らすタイプのやつならそれでもいいんだろうが。
生憎とラムザはそういうやつじゃない。
それにーー
「……。あの黒い翼を見たろ? 俺は二度目だ。
この一年、どこでどうしていたかは知らないがーー
もしもまた絶望して。変貌するようであれば……
あるいは聖石がらみで。変貌するようであれば……」
とてもラムザの元へは返せない。
死んだと思ってた妹に会えたらルカヴィになった。上げて落としすぎである。
だいたいアルマはラスボスである。
厳密にはラスボスの転生先として適合した肉体である。
だからあのいきなり黒羽根生やす変貌も、十中八九聖石がらみと思ってよい。
こいつこそ最優先で聖石から隔離しておくべき人間なのだが……今はそれができない。
石を残していけば回収されるだろうし。
アルマを残していっても回収されるだろうし。
だから仕方なく両方拾ってきたのである。
「ーーあ。勝った」
ティータの声に視線を戻すと、傭兵を全員地に這わせ、勝ったはずの一行がぼろっぼろのまま言い争いをしている。
もっと同じ相手狙って少しずつ頭数減らせ!とキレるアグリアスと、
MOVE3で短足過ぎンだよ!ドン亀!のろま!とキレ返すガフガリオン。
見事に足並みが揃っていない。それにディリータもろくな経験が詰めなかったようだ。
試しにステータスを見てみると、見習い戦士のままである。
お前、一章で本当に城の警備くらいしかしてなかったんだな……。
「……うーん。このままじゃ、ふつうに死ぬなあ……」
「え!?兄さんですか!?でも戦いを見てた感じ、聖騎士の人と闇騎士の人がいるから戦力的には大丈夫じゃないですか!?」
今言い争っている二人か……。
まあ連携がズタボロでも、この二人が揃っている限り、確かに負けはないんだが。
「あのガフガリオンーー闇騎士の人の方な。アイツさあ。この次の次のマップで裏切るんだよ」
「えッ!?ヤバいじゃないですかッ!?」
「今のディリータの感じだと。そこ抜けるのは、難しいなあ……」
「じゃあ師匠が見た未来では、そこどうやって切り抜けたんですか?」
「ん?ーーそりゃもちろん、全裸にしてたよ?」
「全裸ッ!?」
「だって裏切るってわかってんだから当たり前だろう? 鎧から何から全部脱がしてたよ」
「男脱がすんですかッ!?」
「いや勝つためだよ?」
「勝つためだったら何でも許されるんですかッ!?」
ティータがなんかラムザみたいな事言い始めた。
「だいたいどうやって脱がすんですかッ!?」
「いや、ふつうに編成画面開いて。装備外してさあ」
「あッ!あれですか!?いきなり弓使いの極意を伝授してきた、師匠の謎能力の事ですか!?」
「うーん。でもガフガリオンは今の俺の自軍扱いじゃないから、やっぱりできないわ」
「逆に自軍扱いだったらできるんですか!?わたしとかも脱がせるんですかッ!?」
「いや、しないから……」
ティータは自身を抱きガードの構えに入った。
おかしい。こんな話をしていたはずじゃない。
もっと真面目なマジトーンの話をしていたはずだが。
「でもここであの闇騎士を脱がさないとッ!! 兄さん死んじゃうんでしょうッ!?」
「言い方よ……。まあ、何とかするさ」
当然だが。俺はあんまり原作シナリオから外れた流れになると先が読めなくなってくる。
だから、ラムザとディリータが立場入れ替わってるだけでストーリー展開がさほど変わらない現状(二章)であるのなら、介入のタイミングは慎重に測りたい……という方針をティータに伝えてはいた。
でもそれ以前に。経験積んでないせいでディリータが死んでしまう、なんて事はあってはならない。(それ俺のせいだし)
ディリータを救うためならば。以後の話が千々に乱れたとしても、俺は戦場に飛び込んでいって助けるつもりだった。
だがティータはーーどうやら、俺の方針を遵守するつもりのようだった。
次マップ、アラグアイの森。
ブラックゴブリンが木々の合間に入り乱れて拳を振るい、相変わらず連携の悪い一行は散り散りバラバラだ。
ちなみに、ここで本来襲われているはずのチョコボのボコはいなかった。まあ当然だ。本来の乗り手のウィーグラフと共にランベリーへ移って元気に暮らしているからだ。
森の遠く離れた場所から、また俺たちはディリータ一行を監視していたのだが……その時ふと、ティータが動いた。
鋭い挙動で何かを投げる。
各個に分断され、単独でゴブリンの応戦をしていたディリータの足に。それは突き刺さった。いや足かよ。
突然飛んできて足に刺さった、一本の苦無。そこには矢文めいた手紙が結び付けられている。
ゴブリンを倒してから辺りを窺い、その手紙を開き読み始めたディリータの表情がーー顔面蒼白へと変わる。
ディリータはそのままーー怯えたような眼で、周囲をきょろきょろと激しく見回し始める。
……ティータはいったい、何を書き送ったんだ?
ーーその答えがわかるのは直後だった。
アラグアイの森を抜けて。
道は、流れる川沿いをずっと遡ってゆく。
もうすぐゼイレキレの滝が見えようか、というところでーー
不意に。ディリータが。
横の川へとーーガフガリオンを突き落とした。
……ええええええええ!?!?