アルガス転生 〜家畜に神はいない(俺以外)〜   作:葛葉狐

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詰みポイント1:誰もポーション投げてくれない

 

ーー人生はいつも、初見プレイ。

 

「ふう……」

 

 俺は生前、幾度も反芻していた金言を思い返し、心の平穏を取り戻していた。

 そうだよな。初見なんだからしょうがない。きっとこのラムザも、士官アカデミー出たばかりの孵化ほやほやのひよっ子で、初陣であるガリランドでの敗残兵狩りでも何にも学んでなくて、ただ何となく見習い戦士そろえて敵にぶつければ勝てると思ってるんだろう。

 まあゲーム的にはまだ2マップ目だしな。油断してもしょうがない。

 もしかしたら捨てプレイのつもりで様子見してるだけなのかもしれないしな。

 まあそのプレイのせいで死ぬのは他の誰でもない、俺なんだけどな!

 

「なにか……なにか手はないのか……」

 

 アテにならないラムザ達は放って、俺は生存の方法を模索する。

 そうだ。別にポーション投げてもらえなくても、俺が自分にポーション使えればそれでいいんじゃないか。

 一章ラストじゃオートポーションをセットしてたくらいなんだ。アルガスおまえポーション好きなんだろう!?と目を血走らせつつ、自分のステータス画面を確認する。

 基本技。以下余白。

 

「終わった……」

 

 アイテムひとつ使えない事が確定した。俺はふたたびうなだれる。

 まあ最悪、俺の行動だけは操れるわけだから……敵に向かって突っ込んで行くのではなくラムザたちの後方に下がらせることは、できる。できるんだが、問題は目の前の骸旅団二名だ。

 星座相性が悪いと二発もらっただけでふつうに死ぬのだ。

 

「これは開幕からお祈りタイムかなーー、おっ?」

 

 自分のステータスを矯めつ眇めつしていた俺は、ふとある事に気づいた。

 俺のステータスだけ。なんと、編成画面が開ける。

 いつもの(肩の力が抜ける)曲が流れ出す。

 編成画面は、非戦闘中にいつでも開ける部隊編成決定画面であり、ここで各キャラ毎にセットコマンドの指定や、戦闘経験により取得したJP(ジョブポイント)に基づいたセットアビリティの習得・配置を細かく行うことができる。

 俺は試しにアイテム士のアビリティ習得画面を開いてみた。

 

「おっ。やっぱり、初期JPでポーションくらいなら習得できるよな!」

 

 各キャラはそれぞれのジョブに初期JPというものを持つが、これはごく少ない数値である。

 ちなみに、ポーションや毒消しは習得できるがフェニックスの尾は習得できない、くらいの微妙な数値である。

 ここでポーションを習得すると「アイテム」コマンドでポーションが使えるようになる。

 逆に、ジョブポイントを消費・習得した上でコマンドセットしていないとたかがポーションさえ戦闘中に使えないのである。

 回復薬の使用にすら薬剤師免許を必要とされるのだろうか。なんて恐ろしいシステムだ。

 

「じゃあ、ポーションを習得して。

 そしてコマンドリストのサブコマンドに、『アイテム』を入れてーーっと」

 

 俺のスカスカなコマンドアビリティ画面が、「基本技」「アイテム」の二行に変化した。

 

「よし!これで戦闘中にポーションが使えるぞ!とりあえず死なない!」

 

 俺は快哉を上げつつ、しげしげと編成画面を眺める。

 戦闘中に編成画面開けるなんてこれ、チートだな。

 そう思って色々と操作してみるがーーおかしな事に、もう操作を受け付けない。

 もうただのステータス画面だ。そういえばいつの間にか、あの曲もやんでいる。

 ついさっきまで出来た、サブコマンドの設定や、アビリティの習得が行えなくなっている。

 

「もしかして一度だけなのか……?」

 

 戦闘中の編成可能条件はわからないが、そこまで便利な機能でもないらしい。

 俺は編成画面を閉じた。

 途端に、停まっていた時が動き出す。

 ロングソードを拾って草むらから立ち上がる俺に、骸旅団の盗賊二人が向き直る。

 先手を取って動いたのは俺だった。

 

(俺の、アルガスとしての初行動かーーよし。ここは待機)

 

 NPCアルガスと同じく、ロングソードで賊へ斬りつけてもいいのだが、システム上、何か行動してしまうと次の行動順が回ってくるのが遅くなる。

 どうせこの後、目の前の二人の賊から一太刀ずつ浴びるんだから。ここは治療を速くするため、手番をパスするのが最適解だろう。

 俺はロングソードを構えーー何もしなかった。

 賊二人はやや意表を突かれたような顔をしたが、気を取り直して剣を振り上げ、さっそく一人が斬りつけてきた。

 回避しそこねた斬撃は薄い皮防具を貫き、まあまあの傷を負わされてしまう。

 二人目の賊が動く前にーー俺の手番がまた回って来た。

 俺はさっそくポーションを取り出し、血を吹き出す裂傷へ振りかける。あっというまに傷がふさがる。

 ほとんど間を置かずに二人目が斬り下げてきたがーー致命傷には程遠い手傷。同じくらいのダメージで済んだ。

 一撃目をもらった直後に回復していた事もあり、俺は瀕死にならずに済んでいる。

 まだ一発くらいは耐えられるが、俺はその場で待機を続ける。どこにも移動しない分早く行動順が回ってくるので、俺は再びポーションを使い、自身の傷を全快させた。

 そしてーー俺に一撃を加え去って行った賊たちに、追いすがる。

 

「なっ!? コイツっ!」

 

 動揺した敵は振り向きざまに斬りつけてきた。

 また一撃もらうがすぐざま回復する。そして何もしない。俺はその場に立ち塞がっているだけである。

 敵は岩に囲まれた、長細い通路に逃げ込んですし詰めだ。追ってきた俺に反撃を行えるのもせいぜい二人。俺が岩場で区切られた狭い交差点みたいなところに位置取りしているから、他の敵も他の味方もここで立ち往生せざるを得ない。

 敵は長細い通路の先を回り込んで出てくるつもりらしい。が、そこで同じく迂回するラムザ達とぶつかる。

 出口で三方から殺到された賊は次々と倒れてゆく。状況を打開するべく、進行方向を通せんぼしている俺を二人の賊は必死に斬りつけるが、俺は不動のままポーションを次から次へと使い続ける。ここは絶対通さない。

 

「ーーぐあっ!?」

 

 ついに、相対している敵の背後にまで味方が回り込み、攻撃を始めた。

 目の前の賊たちはその対処のため俺に背を向け、俺の手番が余る。暇になる。

 絶好のチャンス到来だ。

 

「何、だと……!?」

 

 ためらいなく俺は傷ついた賊めがけてーーポーションをぶっかけた。

 背後から突然回復された敵が驚いている。眼前で行われた奇行に、味方の候補生もドン引きしている。

 俺はそのまま向きを変え、もう一人の賊にもポーションをぶちまける。ビビる賊。突如現れた敵の回復役に、振り下ろす剣を止めてしまう味方。

 急に賊側のHPが回復しだして戦いは長引いたが。

 最終的にラムザとディリータも戦列に加わって、賊どもは全滅した。

 無事、救出対象の俺は助け出されたわけだがーー

 なぜか士官候補生たちは、剣を俺に向けたままである。

 襲われていたはずなのに急に利敵行為をはじめて、正直、敵か味方か判別できないせいだろう。

 一方、俺はステータス画面を確認して浮かれていた。

 

「レベル3! 見習い戦士レベル4! それにJPも500! やっぱ"おこぼれ"デカいなぁ!」

 

 俺が無駄に戦闘を長引かせた理由がこれである。

 味方が全員見習い戦士なので、味方の一行動ごとに獲得ジョブポイントの25%が俺にも入ってくる。

 ピンチはチャンス。窮地にはあったが、稼ぎ時と思ってつい、敵を回復させてまで稼いでしまった。

 俺はウッキウキで編成画面を開き、ジョブアビリティを習得、セットする。

 

 取得JPup:250

 投石:80

 

「おっと。見習いレベル2でジョブチェンジ条件満たしてるから、転職もしておくか」

 

 俺は弓使いにジョブチェンジもしておく。

 これで俺のアビリティステータスは

 

 チャージ

 アイテム

 

 取得JPup

 

 の3行表記になった。

 初手で取得JPup習得はFFTプレイヤーの定石だが。

 なぜ投石なんぞ取るのか。なぜいきなり弓使いになるのか。

 意識を取り戻してからずっと考え続けていた。

 俺なりに考えた、アルガス育成計画に基づく行動である。

 

「あの……ウッキウキのところ、邪魔して悪いけど……」

 

 剣を突きつける一同を代表してラムザが話しかけてきた。

 そうだった。こいつらのことを忘れていた。

 俺はアルガス育成計画を引っ込め、真面目な顔で礼を言う。

 

「危ないところを助かった。礼を言う」

「ホントに危ないところだったのか? さっき賊に回復薬使ってなかったか?」

「いやーー窮地に陥り、つい取り乱してしまったらしい。恥ずかしい処を見られた」

「……窮地に陥って取り乱すと敵を回復するのか?」

 

 ディリータの突っ込みは無視し、俺は己の胸板を擬す。

 

「俺はランベリー近衛騎士団の騎士見習い、アルガス・サダルファスだ。

 見ての通り。賊徒の襲撃を受け不甲斐なくも、エルムドア侯爵閣下が攫われてしまった。

 ーーすぐにお救いせねば」

「それにしてはやけに落ち着いてるな……」

 

 ディリータの呟きはふたたび無視する。君のような勘のいい家畜は嫌いだよ。

 一方、ラムザは素直に驚いてくれている。

 

「何だって! それは大変だ! 北天騎士団にも急報しないと!

 僕はーーああ、僕たちの名前はもう知っているんだっけ。

 僕ら士官候補生隊はこれからイグーロス城へ向かうところだけど、この通り、道中の安全はとても保証できない。

 良かったらきみも同行するかい?」

 

 親切な御曹司は、仲間を失っただろう俺を悼みつつ、そんな提案をしてくる。

 本来なら渡りに船と、ラムザの厚情に飛びつくところだろうがーー既プレイの俺は知っている。

 どうせイグーロス城へ行っても、期待したようなベオルブ家の助力は得られない。

 一日かけて行くだけ無駄足だし、それに攫われた侯爵の行き先はもうわかっている。砂漠の集落跡、砂ネズミの穴蔵だ。

 ここで同行を断り、一人で先回りして救出のチャンスを窺うなりした方がいいのだろうが……

 侯爵を救出するにも危険地帯を進むにも俺一人では、「まだ」心許ない。

(過去にラムザ一人旅というやり込みを達成しているので、まあやりようはある)

 あと色々と考えてみたが、アルガスの最強育成法は、やはり最低でも相棒が一人いないと成立しない。

 それにーー

 

「ああ。同行を頼む」

 

 ーーある一人の人物の顔が、俺の脳裏には焼き付いていた。

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