なんか唐突に。
ディリータがガフガリオンをーー川へ突き落とした。
ーーええええええええ!?!?
道の脇に川が走っていたのだが、そこへガフガリオンは綺麗に頭から滑り込んでいった。
滝近くといってもごく小さな支流で、小流れといった方がいいような大きさだ。大人の膝ほどの深さもないだろう。そんな草生い茂る小川へ、水音とともに消えるガフガリオン。
いきなり何してくれてんのアイツ。ラッドもアグリアス達もドン引きだ。
ひょっとしてこれは……ティータが直前に送っていた、矢文の指示によるものだろうか?
そう思ってティータを見るとーーティータも目を丸くしていた。
「ーーええええええええ!?!?」
お前も驚いてんのかよ。なんでだよ。
川にはまったガフガリオンは、草むらから足を突き出しゴボゴボと罵声を撒き散らしている。ゴボゴリオンだ。
俺はどういうことか説明を求めた。
「……ティータ? 流石にこんな未来は俺も知らんぞ? ディリータに、ガフガリオンはこの後すぐ裏切るから注意しろ、とでも教えたのか?」
でもそれだと小川へ突き飛ばした理由にはならない。イジメかな。
「違いますよそんな事するわけないじゃないですか! だいたいそんなマネして兄さんの行動を明確に変えちゃったら、師匠の知ってる未来から遠ざかってしまって、先が読みづらくなるって話だったでしょう!? やりませんよ!」
そこまでわきまえているのに……。
うん……今まさに展開が読めなくなったんだが……。
「ーー何したん?」
「え。だって師匠が……脱がさないと死ぬ、とか……言うから……」
ティータは口を尖らせて、ぽつぽつと告白する。
「ーーだから川へ突き飛ばせと?」
「違いますよ!わたしはただ、ちょっと"上司の鎧を自然な感じで脱がせ"、ってアドバイスしただけですよ!」
「女騎士の口説き方かよ!そっちの方が難しいわ!だいたい、そんなふざけたアドバイスまともに受け取ってもらえるわけないだろ!」
「ーーいや、そこは。わたしと兄さんしか知らないような秘密を、ちゃんと書いておいたんで。抜かりはないです」
「……。"お前の秘密を知っている"、ね。それで? ディリータだってさすがに、たったそれだけで得体のしれない手紙の指示通りには動かないだろ?」
「ああーーそこは、普通に死が迫っていることをお知らせしました。"言う通りにしないとお前は死ぬ"と」
「さっきから文面が思いっきり脅迫状じゃねえか! 読んだディリータが顔面蒼白だったのそれが理由かよ!」
"お前の秘密を知っている。
言う通りにしないとお前は死ぬ。
お前の上司の鎧を自然な感じで脱がせ。"
なんでそんな、おもしろデスゲームみたいな指示出したん……?
「そうか……。それでディリータのやつ、思い詰めて……」
ガフガリオンを川へ突き落としたというわけか。
歴戦の傭兵ガフガリオンも、もしもディリータが不意打ちで斬りつけてきたならば抜き合わせて「なンのつもりだ、小僧ッ!」くらい言うんだろうが。びしょ濡れにするためだけにいきなり道脇の小川へ突き転ばされるのはさすがに想定外だったのだろう。想定外を通り越してもはやホラーだ。
謎は全て解けた。
だが問題は何ひとつ解決していない。
あ。川から上がってきたガフガリオンがすんごい怒ってる。ディリータを殺す勢いで闇の剣打ちまくってる。効果範囲から逃れたディリータを追って、兜や鎧から水をぴゅーぴゅー吹き出しながら走ってる。
ああ。アグリアスがさすがに止めに入ったか。
今のはたまたま手が滑っただけ、て事で一件落着させようとしている。いかにも苦しい。腰の入った全力突き飛ばしだったからなあ。
ディリータはまだ着替えさせる目的を諦めていないのか、その手に麻のローブを握り、鎧が濡れてしまったからこれに着替えるよう訴えている。いや無理だろ。ちなみに敵ガフガリオンの装備品はランダムなんだが、たまにこの麻ローブを着て戦場に出てきたりもする。
ガフガリオンは怒り冷めやらぬ様子だったが、王女追跡の途中だったこと、もうすぐ標的を捕捉できそうだったことを思い出したらしい。ディリータへの怒りは棚上げにして追跡を再開することにしたようだ。ちなみに接敵が近いと感じているのか、着替えはしなかった。ずぶ濡れ鎧はそのままである。
「おーーでも、これなら勝てるかも」「ホントですか!?」
覗いたガフガリオンのステータスは、speedがすっごい下がっていた。濡れた服って重いからなぁ。兄に脅迫状を送った甲斐があったと妹が喜んでいる。
* * *
そのすぐ後。
俺とティータはゼイレキレの滝の上方より、戦場を眺めていた。
吊り橋で王女をかばうのは、ラムザ。
そこへ襲いかかる北天騎士団のナイト達はーーラーグ公側の用意したオヴェリアの殺害役、といったところか。
多少のアクシデントはあったものの。ディリータ一行はそこへ追いつき、オヴェリア争奪戦へと乱入してゆく。
まず北天騎士団が「オヴェリアの始末」という真の目的を明かして、もともと一味同腹のガフガリオンを寝返らせる。
王女をかばうラムザがその説明を捕捉し、オヴェリアという不用品の始末に併せ、ラーグ公によるゴルターナ公への罪のなすりつけが行われようとしていると告げる。
ラムザはそこでふと、自嘲の笑みを浮かべた。
「ーーいや。
そのシナリオを書いたのはダイスダーグかもな」
松野だと思います。
「ディリータ。
お前もそう思うだろ?」
ラムザがーーガフガリオンの元にいるディリータに、ちらと目をやる。
「ディリータ。久しぶりだな。
相変わらず兄さん達の言いなりか?」
あ。ラムザ目線だと一年前と何も変わらなくて、アルマ殺害に引き続いて今度はオヴェリア殺害と、またも汚れ仕事を押し付けられたディリータが北天騎士団から出張ってきたように見えるんだな。
いや一年前は抗命したお前の仕事をディリータが押し付けられただけだからね?
「……まさか! 俺は何も知らなかった。
それに今は騎士団も辞め、ただの傭兵だ。
こんな計画に加担しているなんて知らなかった!本当だ!」
ディリータはけっこう迫真の弁解をしている。
まあ当たり前か。一年前は眼前で妹を射殺し、今またーー殺されかけている女を守ろうとしているラムザの前に、敵の配下として現れたんだからな。
お前どんだけ可哀想な女殺すの好きなんだって誤解されても仕方のない面ばかり見せてしまっている。
「……そうだ。ずっと、逃げ続けてきた……。
俺が、俺がアルマ様を殺したんだ……」
アルマなら俺の隣で寝てるよ。(チョコボの背で)
王女誘拐の真実を聞き。ガフガリオンの想定に反して、ディリータだけでなくラッドまでもが王女防衛側についてしまう。3対3のつもりが1対5だ。
このときガフガリオンを全裸にしておくと、「いいかげン現実を見ろッ!」と説教しながら、吊り橋下の岩場をぴょんぴょん飛んでいき全力で水遊びを楽しむ全裸のガフガリオン、というひどく矛盾した存在が見られるがーーまあ今のガフガリオンも水びたしなので正直あまり変わらない。
全身水を吸って動きが遅いせいで五人からぼこぼこにされ、窮地に陥ったガフガリオンはとうとう、ディリータに向けて両手を広げた。そのまま親指でおのれの胸板を擬す。
「ーーディリータ!俺を見ろッ!
これがお前の未来の姿だッ!」
思わず剣を止めたディリータへ、ガフガリオンは続ける。
「平民に生まれ!戦場で功績を上げ!騎士団で分隊長だって務めた!
手のお綺麗な貴族様に代わって、汚れ仕事だってやってやったンだ!でも貴族どもはそンな俺に難癖をつけ、騎士団から放り出した!汚れた手は騎士には相応しくないとッ!」
ガフガリオンは己の人生とディリータの遍歴とを重ね、熱弁する。
怠惰な上から押し付けられた命令に従っただけなのに。何ら報われることなく。貧乏おみくじだけ引かされる。
非社家はつらいね。おっといけねえ。
「ーーだったらもういいじゃねえかっ!
得意な事をして何が悪いッ!?
そもそも誰のせいて得意になったと思ってやがるッ!?
あとはお貴族様にはできない汚れ仕事を!うンと高値を吹っ掛けて請け負ってやるとしようッ!
奴らからふんだくってやった大金で!お前も俺と同じように!死ぬまで楽しく暮らすンだッ!
ーーだから俺の味方につけッ!ディリータッッッ!!!」
ガフガリオン迫真の勧誘はーー
「断るッッッ!!!」
ディリータの怒りの一刀のもと、すげなく拒絶された。
「……この解らず屋めッ!!」
ディリータの一刀を浴びたガフガリオンは、恨みの眼差しを残し、転移石のようなアイテムを使って撤退していった。
その後。
残りの北天騎士団ナイトを片付けて戦闘は終了した。というかラムザが強すぎた。エールに加えて聖剣技とかもはやチートだろ。ほとんど一人でナイト倒してた。王女様も無事だ。
ーーそして次は。生き残った連中で、オヴェリアの身柄の奪い合いが始まる。
「僕は人質にされた者を殺すような真似はしない。
僕に王女を預けるんだ。
……よく考えてみろ。きみたちに行き場なんてないぞ。北天騎士団とラーグ公は敵。ゴルターナ公の元へ連れてゆけば、公は誘拐の首謀者として非難される上、きみ達は誘拐犯として処刑される」
「じゃあーーラムザならどうするって言うんだ?」
「きみ達にはできないことをするだけさ」
うーん。ラムザのこれさぁ、結局他にオヴェリアが安全確保できる場所なんてないから、多分しれっとオヴェリアをゴルターナ公のもとへ連れてくつもりなんだろうけど……名の知られてる人物だし、どういう立場でお届けするつもりなんだろうね?
ちわー!ベオルブ家の末弟でーす!王女一丁お届けに参りやしたー!って訪ねたら普通に敵方の誘拐犯扱いされて公開処刑されるよね。
「……今はきみ達に、王女を預けておく」
あ。ラムザが退いた。
まあ1対5じゃ勝ち目ないし、それにこの後一行が向かおうとする場所がもう分かっているからだろうな。
そこにーー自分達の手がすでに回っていることも。
「だがーー覚えておけ。
王女を生かしたいならば。この僕に預けるべきだ、という事を」
意味深な捨て台詞を残して、ラムザはひとり、去っていった。
* * *
「……う〜ーん。なんとか兄さん、死なずに済みましたね。ーー師匠? どうしたんですか?」
「…………、あれ…………?」
ーー緊張から解き放たれ、大きく伸びをするティータの隣で。
俺は、ひとつ。とても大きな勘違いをしている事にーー気づき始めていた。