アルガス転生 〜家畜に神はいない(俺以外)〜   作:葛葉狐

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詰みポイント23:四人目の異端者

 

 

「グ、ーーウオオオオオオオォッ!!!」

 

 全身から悪霊の魂のようなものをいくつも飛び出させ。

 頭を抱えた枢機卿はーーそのまま、大肥漢のルカヴィ……『不浄王キュクレイン』へと変貌する。

 その異貌を見て、恐慌に陥った傍聴人たちが雪崩を打って逃げ出し始める。

 ああああああああ……ッ!!!

 

「なし崩し的に戦闘に突入したーッ!?

 ーーティータッ!」

「はいッ!」

 

 傍聴席の最前列で控えていたティータは即座に飛んでくる。

 黒のマフラーを翻し、ファイティングポーズを取る。

 

「さあてーーまずは褒め合いからですか、師匠!」

「違う!今回はそれやってるヒマがない!」

 

 俺は特別席ーーアグリアスに促され、退避しようとしているオヴェリアを指差した。

 法廷から逃げてゆく人の流れは中庭を抜け、すぐ目の前の城門外へと向かっているようだ。

 このままだと城外へ逃げ、そしておそらくーー鉢合わせしてしまう。

 俺たちは地を蹴り、壁を走ってーー逃げ惑う人波を追い越して城外へ出る。

 

「! 何奴ッ!?」

「ッ、あなたはーー!?」

 

 案の定ーー人々が全速力で吐き出されてゆく城門前では。

 アグリアスが急に襲ってきたらしき神殿騎士風の男と切り結び、

 そしてオヴェリアがーーラムザに手を引かれている。 

 

「何の騒ぎかは知らんが。迎えに行く手間が省けたなッ!」

 

 そう言い捨て、鍔迫り合いからアグリアスを軽々と跳ね飛ばす剛剣の男はーーまぎれもなく、神殿騎士団長ヴォルマルフだ。

 中立と見込んで辿り着いたライオネル城で、ようやく安堵しているはずのオヴェリアの身柄を。

 枢機卿と同じ教会勢力として……引き渡してもらいに来たところだったのだろう。

 想定より早い到着だ。危なかった。

 

「さあーー僕の手を取れッ! 信じろ! 貴女を真の意味で救えるのは、僕だけだッ!」

 

 そう主張しつつ既に自分から王女の手を取っているのは、ラムザである。

 門壁を蹴りーー俺は二人の眼前に着地する。

 

「ーーよう。ラムザ」

「!?……アルガス!?」

「悪いが。お前のやり方じゃーー王女は救えない」

 

 ほとんどゼロ距離で放たれた俺の正拳を二発浴び。

 ラムザは王女の手を放して吹っ飛んだ。

 地面を一回転したラムザが、無念の眼差しの向こうから剣を横薙ぎするとーー巨大な剣気が俺の足元より突き出し、身を削ってゆく。

 乱命割殺打か。王女を巻き込まない技を選ぶあたり、ラムザの主張は本心からのものなんだろうが。

 生憎とーー教会の弄した策では、オヴェリアは不幸になるだけだ。

 王女を庇って対峙する俺たちの傍ら。アグリアスを押し込んでいたヴォルマルフが脇から突っ込んできたティータの痛打を浴び、大きく後退する。

 ヴォルマルフは脇腹を押さえ、ーー城門の奥を睨みつける。

 

「チッ! ヤツめ、しくじったな!?」

 

 一言だけ吐き捨てると、踵を返しーーそのまま城から逃げる人々の背中に紛れ遁走する。

 俺とラムザは。ほんの一瞬、視線を交わしたがーー

 やがて。ラムザの眼差しもまた、逃げ惑う人波に消えた。

 

「ッ、助かった……貴殿は。

 先の審問の請願者、だな?」

「アグリアス、動かないで!ひどい怪我よ!」

 

 剣を杖に立ち上がる護衛騎士と、回復魔法を唱え始める王女に。

 俺は城門を指差してみせた。

 

「城の外にはーー王女の身を狙う待ち伏せがおります!

 あちらも危険ですが……城内へ戻りましょう!

 先導します!ついてきて下さいッ!」

 

* * *

 

 暗い廊下を走りながら、背後のアグリアスが嘆く。

 

「くッ……信仰厚き場と信じ来てみれば。

 城主が化け物とは。とんだ伏魔殿だ。

 先の異端審問、我らも傍聴していたが。

 其方らの異端申請はーー正しかったということか?」

「ティータかわいいよ!」

「師匠カッコいいよ!」

「何をしている!?王女の御前ぞ!!」

「いや戦闘準備を……」

「これやらないと強くなれなくて……」

 ドスッボカッバキッドカッ

「本当に何を!?王女の御前ぞッ!?」

「いやだから戦闘準備を……」

「これやらないと速くなれなくて……」

「ーーよいのです、アグリアス」

「よくはございませんオヴェリア様!このようなDVを姫様の眼に触れさせるなど!」

 ギュギュギュギュギュギュギュギュ

「だから何を!?王女に説明をッ!!」

「いや本当にただの戦闘準備を……」

「これやらないと一撃で殺れなくて……」

「一撃で殺る!?何をだ!?」

 

 暗い廊下を抜け、ようやく戦場が見えてきた。

 大法廷はめちゃくちゃだ。

 目指すキュクレインは、逃げ遅れた人間を片っ端から状態異常にしている。

 その傍ら、漆黒の翼を持つアルマは、黒羽根を連射して逃げ隠れる者の足止めをしている。役割分担しっかりしてんなこいつら。

 アグリアスが焦った様子で叫ぶ。

 

「ちょっと待て!?先導するというからついてきたが、王女殿下を安全な場所へお連れするんじゃないのかッ!?」

「護衛騎士どの。安全な場所というのはーー」

「ーー自分で作るんですよッ!!」

 

 俺の立てた計画、そのものと言える言葉だ。

 ティータと俺は笑みを交わすと。一層速度を上げ、左右に散開しーー高々と跳躍する。

 空中の俺たちに敵どもが気付く。

 キュクレインと黒翼のアルマは、空中で逃げ場のない俺らに。攻撃の狙いを定めーー

 

「バカめ! たった二人で突っ込んできおって!」

「ーー馬鹿はお前だ」

 

 俺が呟いた刹那。

 裁判長席の下より立ち上がったザルモゥが。

 その手のーー裁槌を振り下ろし、弾劾の音とともに宣告を下す。

 

「アルフォンス・ドラクロワ!ーー汝は異端なり!」

 

 異端宣告。

 その対象はグレバドスの教えに反する存在であり、もし眼前に現れれば修道士が何をおいても討ち滅ぼすべき敵である。

 物陰に隠れていた騎士達が一斉に襲いかかった。

 証言台から飛び出したベイオウーフが魔法剣を放つ。

 空に退避していたホワイトドラゴンがブレスを放つ。

 

「なーー」

 

 波状攻撃の滅多打ちを受けるキュクレインを放って。

 俺たちは、黒翼のアルマの懐へ飛び込む。

 

「ーーくそッ! またお前らかッ!!」

 

 ふたたび。俺とティータの拳打を双翼に浴び、漆黒の翼を砕け散らせたアルマはーーその場に昏倒した。

 真横で響く野太い絶叫に振り返ると。ちょうどキュクレインが、侯爵の斬魔刀に切り捨てられーーその肥沃な全身から顔の歪んだ悪霊のようなものを吹き出させながら、急速にしぼんでゆくところだった。

 気を失ったアルマを床に横たえ、視線を交わす俺とティータは頷きをひとつ。

 

「侯爵様ーーちょっとお借りしますよ?」

「?……」

 

 ーー俺は侯爵から借りた斬魔刀を、地に伏すキュクレインの背中に突き立て。

 

「王女様ーーちょっと失礼しますよ?」

「えっ、……!?」

「オヴェリア様ッ!何をするッ!?」

 

 ーーティータは王女様をお姫様抱っこして飛び。キュクレインの前に下ろし、その斬魔刀の柄を握らせる。

 

「ーー見ろ!王女様が……!」「オヴェリア王女殿下が。手づから、トドメを刺されたぞーー!」

「え? え?」

 

 気づいたライオネル勢の歓呼の声に、あたふたするオヴェリア王女殿下。

 宗教画にしなきゃ……!とさっそく矢立を取り出しスケッチを始める猛者もいる。気が早すぎる。

 斬魔刀を突き立てられたまま。枢機卿だったものはどんどん萎んでゆき、やがてーーひとつの聖石となって転がった。

 そうなんだよアイツら死体残さないんだよ。そのせいで原作ラムザも苦労した。あと俺も計画立てるのに苦労した。おもに……この状況作るのに苦労した。

 俺は瓦礫の中へ転がってきた聖石を回収する。よしこれで二つ目と。

 みなの注視が近くの王女へ集まっている状態だったし、誰かに見られてるかなーーとそれとなく辺りを見回すが、皆はーー証拠を残している方に、既に注目を移していた。

 曇天の雲間より法廷に一筋の光明が差し、一人の少女だけを輝かせている。

 つまりーー漆黒の双翼を失って横たわる、眠れる金の髪の令嬢……アルマである。

 ありゃヤバい、と思うがなんか皆の様子がおかしい。

 向けられる視線のすべてが妙に熱い。

 

「ーーいま。聖アジョラの、御名を……」

 

 そう呟き、敬虔な面持ちで胸に手を当てるザルモゥはーーどうもこの場の皆の気持ちを代弁している。らしい。

 とはいえその、聖アジョラの名で呼ばれた誰かが。化け物と共に自分達を攻撃してきたばかりなのだ。

 

「ーー神の試練……?」

 

 あ。そっち行っちゃうんだ。便利だなあその言葉。神社界でも非社家への冷遇によく(以下略)

 

「ーーともあれ。

 筆頭上級異端審問官ザルモゥ・ルスナーダの名にかけて。

 必ずや真相を究明すると、ここに誓う……!」

 

 拳を握り、雲間から光さす天を仰ぐザルモゥ氏。

 なんか厄介なものに火がついてしまったらしい。それだけはわかる。

 あーあー。これどうしよう。どう収拾つけよう。俺が腕を組んで悩んでいると、不意にーー大法廷の入口から、怒号が響き渡った。

 

「ーーダメだッ! やめろぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 怒りの表情を浮かべ。絶叫しながら法廷内へ走り込んでくるのはーーなんとディリータだ。

 

「兄さん……!?」

「おいディリータ! 待てって!」

 

 突然の兄の登場に驚くティータの眼前へは、共にゴーグから戻ったらしいムスタディオも遅れて走り込んでくる。

 ディリータは横たわるアルマの前に立ちはだかると、ザルモゥに向かって両手を広げた。

 決死の表情で叫ぶ。

 

「ーーダメだッ! 異端審問に連れて行かれ、戻ってきた者はいないんだッ!

 この子を……二度も、死なせるわけにはいかないッ!

 それでも連れていくと言うなら。この俺ーーディリータ・ハイラルが!相手になってやるッ!」 

 

 ディリータはそんな事を叫んで、腰の剣に手をかけた。

 異端審問官へこの態度。すでに重罪である。

 見守る修道士達が聞きとがめ、囁く。

 

「二度も、死ぬ……?」「すでにーー復活の奇跡を……?」

 

 オイ余計に勘違いされてんぞ。何してくれてんだディリータ。

 ザルモゥはこの不意の闖入者に、眉を上げーー不思議なほど静かな声で、こう尋ねた。

 

「ーーでは。ディリータくん。

 きみは我々に従えないと言うんだね?

 われわれ異端審問会の判断には、従えないと言うんだね?」

 

 あ。

 ザルモゥが、なんかバルマムッサのレオナールさん構文使い始めたぞ。

 ヤバい。

 

「……そうだ!」

 

 力強く頷き、意識のないアルマをお姫様抱っこで抱き上げるディリータ。

 これが貴公らローディスのやり方なのかぁーッスタイルで立ち向かう。

 ああもう。

 

「……」

 

 ザルモゥはしばらくそのまま、思考の読めない表情で黙考していた。

 荒れ果てた法廷や、熱っぽい視線を注ぐ周囲を見回して。最後にディリータの瞳に燃える炎を、最も長い時間観察してから。

 不意に威儀を正しはじめると、ふたたび転がっていた裁槌を手に取る。

 厳格な声でーー宣告する。

 

「では。ーーディリータ・ハイラル。汝は異端なり。

 お前を異端者と認定する」

 

 弾劾の槌音と共に。その死刑宣告は、廃墟の法廷へと響き渡った。

 

 ええええええええええ。

 

 事の成り行きに仰天する俺らを放って。

 ちょっとわざとらしく、破壊された法廷を見回したザルモゥはーーまるで思い出したように付け加える。

 

「ただし異端者には原則、明状し得る悪を除きーー釈明改心の機会を与えるものとする。

 教会法廷法第十五条に基づき、釈明弁論は異端認定の行われた同法廷にて行われる。

 しかし現状を見るにーー本法廷の修復までまず一月はかかるものと推測される。

 よって……釈明弁論法廷は。一ヶ月先の開廷とする!」

 

 静まり返った法廷に、ザルモゥの声だけが響く。

 

「では。これ以上異端者が、法の庭を汚すは許しがたい。

 ーーすみやかに退廷せよ」

 

 ザルモゥは目で、ディリータに退廷をうながした。

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