アルガス転生 〜家畜に神はいない(俺以外)〜   作:葛葉狐

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第三章 偽らざるざる者 〜 THE VALIYABAI 〜
詰みポイント25:試練の立会人


 

 二ヶ月後。

 ーー王都ルザリア、アトカーシャ王宮。

 空位の王座にオリナス(2歳)を座らせ、オヴェリアの摂政就任式は無事執り行われた。

 オリナスは王として即位しているわけではないが、これは同席した王妃以下、ラーグ公陣営の顔を立てた形だ。

 王族ふたりの後見人、ラーグ公とゴルターナ公はこれから合議制で実質的にイヴァリースを治めてゆくことになる。とはいえ、ウチの退魔の摂政宮におかしな真似ぇさせへんやろなと見つめる異端審問会の視線は無視できない。大丈夫かな。いつか我慢できなくなって爆発しないかな。獅子戦争起きちゃったりしないかな。不安は尽きない。

 とりあえず、就任式も終わって今は合議制の開始に際し、後見人各陣営の顔合わせの最中だ。オヴェリアを挟んで、ラーグ公とゴルターナ公が談笑している。直接の摂政補佐官としてオヴェリアの傍らに立つのはエルムドア候だ。侯爵は言葉少なに、まさしく異端審問官のごとく、ただやり取りを眺めている。やりづらそうだ(お互い)。

 俺は侯爵の近衛として、少し離れた後方へ控えていた。

 その俺に向かってまっすぐに視線を据え、近づいてくる者がいる。

 俺は垂れていた頭を起こし、近づく足音へ向き直る。

 艶やかな金髪に光るティアラ。白いドレスの腰に両手を当て、立ちはだかっていたのはーールーヴェリア・アトカーシャ。

 ルーヴェリア王妃だった。

 ふたたび低頭しようとした俺を押し留め。王妃はその勝気そうな美貌に、挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「写し絵で見ていたの! ずっと会いたかったわーー聖騎士アグリアス!」

「……。違います……人違いです……」

 

 俺はオヴェリアの背後に控えるアグリアスを見やった。

 アグリアスは何かに耐えるような顔をしている。

 

「ーーあら。じゃあ貴女は誰?」

「アルガスです……」

「アルガスーーなるほど!アグリアスの愛称ということね!

「違います……」

「でも愛称まで男性名を名乗るなんて念入りね!本当にーーどこからどう見ても、男にしか見えないのに!」

「男です……」

「なるほど!女と疑われたらすぐに男と否定するのね!

 貴女を男として育てたと聞いていたけど、オークス家の教育は筋金入りね!気に入ったわ!」

「本当に男です……」

「うんうん!わかってるって!」

 

 ダメだ。絶対わかってない。

 ラーグ公の背後あたりでダイスダーグが上体を折り、必死に笑いを堪えている。またか。

 一方、面を伏せたアグリアスは震え、今にも無双稲妻突きを放ちそうなチャージ具合だ。ヤバい。

 王妃は俺の隣のティータに、明るい色の瞳を向ける。

 

「ーーそして貴女は護衛騎士のアリシア・ラヴィアンよね!貴女も写し絵で見たわ!」

「え。違います……」

「あら?じゃあ貴女も愛称を教えてくれるのかしら?」

「ティータです……」

「うふふっ!本名に少しもかすらない愛称なのね!可笑しいわ!」

「こっちが本名です……」

「あら?でもその、綺麗な栗色の髪と眼ーーそれにティータという名前。昔、どこかで……」

「! 覚えておいでなのですか!?」

 

 ん? こいつら面識あったのか?

 ティータは驚きの表情で、おのれの胸に手を当てた。

 

「ルーヴェリア様が王家に嫁がれる前に、一度だけ。お目にかかった事がございます……」

「あら?そうだったかしら?」

「ーー王妃殿下。

 その者はかつて、殿下がまだ公爵家に居られた頃……我がベオルブ家で引き取った娘にございます」

 

 優雅に首を傾げる王妃に、助け舟を出したのはダイスダーグだった。

 話をしていたゴルターナ公とラーグ公に挨拶をすると。

 笑いを隠しつつ、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「そうですな……婚姻前の殿下が我が屋敷をお訪ねの折。まだ引き取ったばかりのこの子らが、お目にかかったことがあったやも知れません」

「ああ!思い出したわ!確か、バルバネスおじ様がーー暴れる軍馬をひと睨みで黙らせる子供たちを引き取った、って言ってたのよね! あの時は、まだ小さいラムザがお友達を連れてきたのかと思ったわ?……それにしても大きくなったわねえ。あら?でもどうしてこの子、名前を変えて騎士をしているの、ダイス兄?」

 

 ダイス兄、という呼び方にラーグ公が首を振っている。

 そうか。王妃から見てダイスダーグは兄の幼なじみか。

 爵位の近い貴族子女もイグーロスには居なかっただろうし、幼い頃は親しく付き合うお兄さん的存在だったのかも知れない。

 とは言え歳が十は離れているから、幼なじみとは少し違うか。

 

「王妃殿下。懐かしい名ではございますが、どうかベオルブ伯とお呼び下さい。

 ティータはイグーロスの貴族学院に通っていたのですがーーある日急にこの、ぷぷっ、アグリアス殿ひきいる最強サダルファス流に入門しまして。今日まで最強をめざし修行を重ねてきたのです。なあ、ティータ?」

 

 ダイスダーグは笑いの発作を抑えながら答えた。

 お前もわざと名前間違えんのやめろ。勘違いが加速するだろうが。

 

「はい!ダイスダーグ様もザルバッグ様も強敵(とも)でした!」

 

 ティータの返答に、ダイスダーグは腹を抱え背を向けしばらく行動不能に陥った。

 

「あら、二人とも手合わせしたの? それは本当に凄いわね!

 でも貴族学院に通ってた女の子が、いきなり武者修行なんて。さすがはベオルブ家で育った子ね?

 あっ。たしか貴族学院には、アルマもーー」

 

 そこでルーヴェリアは失言に気づき、口を噤んだ。

 その名はもういない人間のものだ。年若い末妹はすでに代々の墓に入っており、しかもーーその死の責任は兄たちにある。

 空気を変えるように、俺はダイスダーグの背に頭を下げる。

 

「ダイスダーグ卿。お久しぶりでございます。『会合』にてたびたび顔を合わせてはございましたが……ザルバッグ様とは、本当にあの時のお手合わせ以来でございます。

 将軍はルザリアにおいでと聞き及びますが。宜しければ一度、ご挨拶に伺いたくーー」

 

 摂政就任式へ参列したラーグ公陣営の中にザルバッグの姿はなかった。

 原作シナリオではこの時、ザルバッグはルザリアに居たはずだ。

 気を取り直したようにダイスダーグが振り返り、答える。

 

「うん? ああ。弟なら騎士団の急務で出席取り止めになってな。

 王都の屋敷ではなく、騎士団公邸へずっと詰めている。

 その元気ではちきれんばかりの顔を見せればティータへの心配も薄れるだろう。貴殿もどうか、会ってやってくれ」

 

 やっぱりか。俺はティータと目配せを交わした。

 想像した通り、ザルバッグは屋敷にいない。公的なレセプションへの出席も取りやめ、兄のあまり近づかないだろう騎士団公邸に籠っている。

 なぜなら。今頃は、おそらく既にーー

 

「あら! 貴女達、ザルバッグに会いに行くの?

 私も久しぶりに会いたいわ!

 一緒にお邪魔してもいいかしら?」

 

 えっ。

 思わぬ提案に動揺した俺は、ティータと顔を見合わせる。

 そんな俺たちにぐっと顔を近づけーー

 花の薫る扇子に隠した口許で。低く、王妃は囁いた。

 

(……大丈夫。

 貴方たちの事情なら全部知っているからーーね?)

 

 

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