アルガス転生 〜家畜に神はいない(俺以外)〜   作:葛葉狐

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詰みポイント2:そもそも誘拐の黒幕がベオルブ家

 

 

「ーー仔細は相分かった」

 

 イグーロス城、軍議室。

 末弟の報告を聞き終えた、ラムザの長兄……にしても歳上過ぎる男、軍師ダイスダーグ卿は。

 静かな声音で、その顎髭を震わせた。

 

「すぐに誘拐されたエルムドア侯の捜索を、兵へ命じよう」

 

 長卓の一番末席に控えてその返答を聞きながら、俺は思う。

 ダイスダーグの答えはウソだ。

 だってこの誘拐はベオルブ家の企てたものと、既プレイの俺は知っている。

 なんならダイスダーグの主君、イグーロス領主にして大貴族のラーグ公爵まで加担している隠謀だ。

 自分達が骸旅団に命じて攫わせたんだから、捜索隊なんて出すはずがない。

 

「城の駐留兵を捜索に出す。

 ーーお前たち候補生小隊は、城の警備にあたれ」

「「はっ」」

 

 ラムザとディリータが返事した。

 俺は何も言わず沈黙している。何を言っても無駄と知っているし、そもそも騎士見習いの身分では伯爵たるベオルブ家当主に直言など許されない。原作シナリオでもそのアルガスの非礼をダイスダーグが咎めていた。見えている罠は踏まない。

 

「……」

 

 誰か喋り出すのを待つような間。

 自然、三人の視線は無言を貫く俺へ集まった。

 

「……アルガス殿といったか。

 まだ襲撃の傷も生々しい。ゆるりと城で休まれよ、と言いたいところだがーー」

 

 ダイスダーグが口火を切った。あ、そっちから話しかけてくるのね。

 

「ーー主君の危機。近衛騎士見習いの貴殿としては、とても座視してなどおれぬだろう?」

 

 いきなり煽る、というか誘導してくる。

 ああこれ、形ばかりの捜索隊に俺も加わらせよう、って流れか。

 横のラムザも、良かったねアルガス!みたいな顔で見てくる。こいつ本当にいい人だな。ただの。

 俺は考える。でもこれ、着いていったらたぶん殺されるな。

 だってそうだろう。侯爵襲撃の生き残りの俺は黒幕からしたら邪魔でしかない。何を目撃してるかわからない。「侯爵捜索中にいきなり賊の襲撃を受け、せっかく生き残った近衛騎士見習いも殺されました」。そう報告にはまとめられかねない。

 しかしこの提案、断りづらいな。まあ断りづらい言い方を選んでるんだろうがーー

 厄介払いってのは、もっとスマートにやるもんだぜ。

 

「いえーー閣下。ご厚志はありがたいのですが。

 おめおめ己が主を奪われ、兵を借りるなど騎士の恥。

 この上は近衛の一員として、私みずからの手で侯爵様を取り戻したく思います」

 

 どうだ。近衛兵のプライドを見せて、協力を断ってやったぞ。

 城から兵を出さなくてすむ名分も立った。

 当人の意思でもあるし、たかが騎士見習い一人がよその土地で出来ることなんて少ない、そう思うはずだ。

 これでダイスダーグは俺を放置してくれるだろう。

 

「そんな! アルガス、まさか一人で探しに行こうっていうのか!? 命がいくつあっても足りないぞ!

 ダイスダーグ兄様! それなら派遣される捜索隊の代わりに、僕たち候補生小隊の同行をお許し願います!」

 

 それならいいだろアルガス?と心配してくるラムザ。いや本当にいい人かよ。

 

「見ろーーラムザ。

 これがまことの、騎士たるものだ」

 

 弟を嗜めるかと思ったダイスダーグ卿は、ひとつ瞑目すると急に、俺に頭を下げてきた。

 ええ。何だいきなり態度変えて。やめてくれ。

 

「捕らわれた主君がため、他者の手を借りるさえ恥とし、ためらいなく己が一命を擲つ。

 これぞ騎士道だ。……ラムザ、それにディリータ。

 今のアルガス殿の姿を、よく目に灼き付けておくのだぞーー?」

 

 今の一礼は、失われゆく俺の命に対しての敬意表明かよ。

 ラムザも息を呑み、俺の顔を見ている。これから死に赴く者ーーみたいな視線で。

 いやまだ死んでないからね俺? それに死ぬつもりもないからね?

 

「そうか……どこか聞き覚えのある家名と思えば。

 ランベリー。ルオフォンデスの、サダルファス男爵か。

 私も幼い頃は。貴殿の祖先の武勲話を、よく聞かされたものだ」

 

 お。意外にも、ダイスダーグは俺の家を知っていたらしい。

 サダルファス男爵家。もとはランベリーの土豪で軍閥貴族だったが、五十年戦争でオルダリア軍に占領され、当主の俺の祖父が虜囚の身となって死亡。味方を売ったという噂だけ一人歩きして、武辺としての威光は地に堕ちた。父はどうにか逃げ延びたものの、祖父の噂により閑職に回され、今でも不遇を囲っている。

 生まれた頃からどうにもならない境遇をどうにかしたくて、アルガスはあがき続けていた。

 それにしても。「幼い頃は」聞かされた、ねえ。

 今の凋落ぶりもよく知っている、って意味なんだろうな。

 

「久しくその名を聞かずとも武の名門。さすが、子息の教育はしっかりしておられるものだ。

 ーー我がべオルブ家も見習いたいものだな?」

 

 そう言うと、ダイスダーグはじろりと弟の顔を眺めやった。ラムザは小さくなっている。

 まあ、貴公子がヨソ者に軽々しくついていきます!とか言い出すのは確かに軽率だったな。

 あと「久しくその名を聞かず」とか言うな。

 

「さてーーそこまで言われてしまっては。

 貴殿を捜索隊に加えるのも。愚弟をつけて送り出すのも。どちらも無粋、というものだ」

 

 ダイスダーグは一人で侯爵を探しに行くという俺を、誇り高き騎士の自害と捉えているらしい。おい。

 まあ一人にしてくれるんなら何でもいいか。

 俺の目的は……ただ一人だ。

 俺が一人で往くって言っている以上、もう話などないだろう。頭を下げ席を立つ俺に、ダイスダーグが髭に微笑をたたえて尋ねる。

 

「しかしアルガス殿。敵は無数の、骸旅団。ーーはたして勝算はおありかな?」

 

 何か腹案があるか探っている……というよりも、これは単純に面白がっている顔だな。

 ヨソの土地に来た騎士見習い一人、何もできないとタカをくくっているのだろう。

 面白い。俺は挑発に乗ってやることにした。

 

「あります」

「ーーほう!」

 

 俺の返答に隣のディリータがギョッとしている。

 平然とした顔のまま、俺は昨日の野営中からずっと考え、用意していた設定をつらつらと述べる。

 

「ーー実は当家には。代々受け継ぐ、家伝がございます」

「ほう。家伝。やはり武術かね?」

「はい。『サダルファス流』といいます」

「そうか。寡聞にして聞いた事がない。それは一体、どんな武術なのかな?」

 

 唐突な話題転換なのに結構食いついてくるダイスダーグ。こういうの好きなのかな。

 席を立ちかけたラムザとディリータも、なんだなんだと動きを止め見守っている。

 

「武術というか……修行法ですね」

「ほう。何の修行、いや、何を目指す修行なのかね?」

「ーー『最強』を」

 

 俺の返答にダイスダーグはヒュッと息を吸い込み、そしてーー大声で笑い出した。

 

「ぶふっ、わははははは!そうか!『最強』か!わははははは!

 そ……それは何とも、心強いことだな……、ぷ、ぷふっ!」

 

 噴出する笑いの発作を何とか堪えようとして、死にそうになっているダイスダーグ。

 あれ。そんなにウケたかな。

 傍らを見ればラムザが、唖然とした顔をしている。

 たぶんだが、親子くらい歳の離れた長兄がこんなに爆笑するところを見たことがないのだろう。

 

「私の記憶が……正しければ……ぷふっ。

 貴殿は……骸旅団に……殺されかけていたのでは……なかったかな……?」

 

 顔を伏せ、肩を震えさせ、切れ切れに言葉を発するダイスダーグ。瀕死かよ。

 俺の最強修行宣言がそんなにおもろかったのか。別に嘘は言ってないんだけどな。

 ダイスダーグのもっともな指摘を、俺は力強く否定する。

 

「いえ。それは違います、閣下。

 サダルファス流を、修行していたおかげでーー

 ーー騎士団で唯一、俺だけが生き残れたのです!」

「ぶふぉっ!?な、なるほど……それは確かに……道理だな……?ぶふふふっ!」

 

 もう笑いすぎてまともに喋れなくなっているダイスダーグ。

 呆然とするラムザとディリータ。

 いや別にダイスダーグの度肝を抜くのが目的じゃないんだが。

 

「その……最強サダルファス流で……骸旅団に……立ち向かおうと、いうのかね?ぷふっ!?」

「いえ。ーー実はサダルファス流の修行には、才ある『修行相手』を必要とするのです」

「ふっ、ふふ……『修行相手』……くくくくっ……それで?」

「このイグーロスに。とてつもない才を秘めたーー『新弟子』の気配を。感じ取りました」

「ヒィッ!ヒィッ!ア、アルガス殿、もう、もうやめてくれ……後生だから……ヒィッ!」

 

 ダイスダーグの顔がとうとう真っ赤になり、勝手にひきつけを起こし始めた。

 これほっといたら勝手に死ぬんじゃないか。黒幕。

 

「その……新弟子、ヒィッ!ヒィッ! その人物を……このイグーロスにて、弟子入りブフハハハさせたいのかね?」

「はい。ーー強敵(とも)の気配を、感じます」

「強敵(とも)! ヒィッ! もうホントよしてくれアルガス殿! これ以上笑わせられたら死んでしまう!

 それで……どこに行けばその、最強を目指す強敵(とも)とやらに会えるのかね……ぷふっ」

「池のある庭園のような場所から、闘気(オーラ)を感じますね」

「闘気(オーラ)やめて……もうホントやめて……。

 ふむ、ブフッ、それは恐らく城の中庭だな。

 よし行こう。すぐ行こう。案内しよう。こっちだ」

 

 必死に笑いをこらえるダイスダーグは、俺の両肩を後ろからばしばし叩きながら、城の中庭へと追い立てるつもりらしい。仕方なくラムザとディリータもそれに続く。

 というかあんたも行くのかよ。

 

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