アルガス転生 〜家畜に神はいない(俺以外)〜   作:葛葉狐

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詰みポイント27:偽らザルモゥ

 そのとき、団長私室の扉が激しく叩かれた。

 

「ーー将軍ッ! 大変ですッ!

 ドグーラ峠に央天騎士団のヤツらがッ!」

 

 扉を乱打しての報告に、ザルバッグは表情を変えて応じる。

 

「なにッ!

 ヤツはべスラではなかったのかッ!

 すぐに軍議を開く! 皆を集めよ!

 私も行くッ!」

 

 央天、騎士団……?

 

「では、火急の任なればーー

 失礼致します。ルーヴェリア様」

 

 そのまま王妃に一礼し、俺らにも会釈を返し出ていくザルバッグ。

 部屋を出ていく時の呟きが耳に入る。

 

「……ラムザめ……」

 

 ラムザ……?

 あいつ、何かやってんのか……?

 取り残された格好の王妃へ疑問の目を向けると、親切な王妃は教えてくれた。

 

「……最近。『央天騎士団』を名乗る武装集団があちこちに出没してね。

 北天騎士団や南天騎士団のーー地方駐屯の部隊に接触しては。潰走させたり、大勢の離反者を生み出しているみたいなの」

「寝返るったって。一体どこへ……?」

 

 獅子戦争は起きていない。敵対する相手がいないんだから、寝返る先などないはずだ。

 王妃は扇を顎に押し付け、思案するような顔をする。

 

「ーーわからない。

 『正当なる王権のもとへ侍る騎士団』と銘打って活動しているようだけど……」

 

 正当なる王権?

 先王の嫡子オリナスのもと、先王異母妹にして養女のオヴェリアが摂政に就任した。

 これに対抗できる王位請求者など、もういないはずだが……。

 

「ーー圧倒的な力を見せつけて従えるって話だけど、何をしているのかもよくわからない。

 加えて、騎士団を名乗るだけあって資金力も潤沢のようだけど。その資金がどこから出ているのかもわからない。

 謎だらけの組織ってことね。

 わかっているのは、あちこちで無差別に戦力の引き抜きを行っていることとーー」

 

 王妃は心配そうな目で、アルマの寝ている寝室を見やった。

 

「ーーリーダーが名乗っている名前が。

 『真のべオルブの魂を継ぐ者・ラムザ=べオルブ』、ってことだけね」

 

* * *

 

 王妃と別れてから、俺たちはしばし郊外を歩く。考えをまとめたかった。

 すすき野原をゆく俺に、ティータが問いを投げかける。

 

「師匠……。どういう事ですか?

 ラムザ様が、騎士団の引き抜きを行なっている……?」

「わからん。俺が知る未来にもそんな展開はなかった。

 ただ一つ、言えるのはーー」

「何です?」

「ーーラムザは。

 もともとゴルターナ公の元へ、オヴェリアを連れていくつもりなんてーーなかったんだろう」

 

 え!?と驚くティータ。

 

「でも。それが教会の計画だったんですよね?」

「教会はな。ラムザはゴルターナ公の元へ向かうより先に、裏切るつもりだったんだろう」

「でもーー保護を求めた枢機卿も実際あの通りだったし。

 オヴェリア王女の逃げ場なんて、安全が確保できる場所なんてーー結局、ゴルターナ公の手元以外に無かったんじゃないですか?」

「……それは間違っちゃいないんだが」

 

 立ち塞がるルカヴィをも、二刀流素手で屠り続ける。(そこはプレイヤーのさじ加減だが)

 ラムザが一番気にしていたのはーー身の安全より、健全な関係性だったのかもしれない。

 

「健全な関係性? どういう意味です?」

「……。これはあくまでも、俺の推測だが……」

 

 原作ディリータは、オヴェリアの生存の道筋を無理矢理作り、ゴルターナ公にその身柄を利用させ、そしてーー最後に裏切って王国ごとすべてを乗っ取った。

 一方、ラムザが彼の立ち位置に在ったらどうだろうか。

 

 貴族の体面。武家の矜持。家の面子のために見捨てられて死んだ妹。

 だが自身も貴族である。それも大貴族である。血筋を否定しても始まらない。

 さらにその家名には価値がある。誇りがある。否定するにはもう既に血を吸い過ぎ、大きくなり過ぎている。

 ラムザならーー貴族を否定するよりも。

 むしろその騎士道を、正そうとするのではないだろうか。

 実際、原作では騎士らしく振る舞い続けている。騎士団に所属してないだけで。

 彼自身そう口にする通り。努力はしている。実らないだけで。

 社会人は結果ぁ出して初めて努力してるって言えんだよ(社畜精神)。

 そこでラムザはーーべオルブの正しい騎士道精神を持つ騎士団。

 『央天騎士団』とやらを、作ろうとしたのではーーないだろうか。 

 

「……このご時世。

 そんな理想あふれる組織へ応募してくる求道者なんてーー居るんです?」

 

 ティータが指摘しているのは、貧しさの蔓延する今のイヴァリース王国だ。

 そんな民度低い場で高邁な理想を唱えてもーー骸旅団みたいに瓦解するのがオチだ。

 

「どちらにせよーーいくら何でも動きが早すぎる。

 前々から準備してなきゃ、こんなに早くは動けない」

 

 金を出すスポンサー。ある程度の兵力。それに沿った事前計画。

 あとは根拠地、策源地も要るはずだ。

 各地で暴れまわってもーーすんなり逃げ帰って行方をくらませる、そんな都合のいいベースが。

 そう考えると、候補は絞られてくるんだがーー

 

「……えっ!? 兄さん!?」

 

 ーーティータの声に思考を中断される。

 見れば野原の先。裏門を通り町から出ようとしていた一団が、……草むらからぞろぞろと湧き立つ連中に囲まれている。

 包囲の中心にいるのはーー見間違うことなきディリータだ。

 横で同じく動揺する、ムスタディオ、ラッドの姿もある。

 他方。彼ら三人を包囲する男たちを率いている者にはーー見覚えがある。

 とても見覚えがある。

 どう見ても見覚えがある。

 どう見てもーー筆頭上級異端審問官、ザルモゥ・ルスナーダである。

 

「あぁ……。こっちのザルも、来ちゃったかぁ……」

 

 嘆息する俺の眼前で。

 出待ちに成功したザルモゥは、獲物に低く渋い声を放つ。

 

「ーーディリータ・ハイラルだな?」

 

 用件のわかっているディリータは答えない。

 ただザルモゥの目を見返すばかりだ。

 ザルモゥの隣の黒鎧が声を放つ。

 

「ようディリータ。

 ーーお前がお尋ね者になって、俺が正義の味方とはな。

 運命ってのは皮肉なもンだな?」

「ガフガリオン……」

 

 ディリータはかつての上司を見つめた。

 王女の護送に雇われていたガフガリオンは今は異端審問会専属となり、ザルモゥ付きとして異端者狩りの補佐をしている。

 

「ガフガリオンーー通告の途中だ。私情は挟むな」

「へいへい、ザルの旦那……っと」

 

 ザルモゥは手元の羊皮紙を開き、その判決内容を読み上げる。

 

「異端者の疑いにつき二月前に釈明審問の機会を設けた。

 だが釈明審問を欠席。そして今日まで出頭せず。

 よってーー汝を異端者と認定! 死罪に処す!」

 

 いきなり死刑宣告を受けながらも、ディリータは慌てない。

 ゆっくりと相手の目を見て答える。

 

「ーーこの前は。

 見逃してくれたんじゃ、なかったのか?」

 

 ザルモゥはその甘い見通しを、一笑に付す。

 

「見逃す? 神の手たる異端審問に見逃しなどあり得ん。

 前回はーーそう。期待し。待っただけだ。

 お前にあの子が救えるか、と」

 

 その言葉に。雷に撃たれたように震えるディリータ。

 

「だが時は満ちた。いや尽きた、というべきか。

 その反応ではーーこの三月。お前には何もできなかった。そうだな?」

「……」

 

 何も言い返せないディリータは、ただ上目遣いでザルモゥを睨むばかりだ。

 一方、ザルモゥは異端者の瞳に未だ消えぬ炎を認めている。

 

「ーーさあ。あの少女の身柄を渡せ。どうせお前には何もできん。

 さすればディリータ・ハイラル……教会への献身協力として。お前の一命だけは助けよう。

 もっともーー献身といったところで。

 身を捧げるのは。お前ではないがな」

 

 蔑むように司法取引をもちかけるザルモゥを、ディリータは跳ねつけた。

 

「断るッッッ!!!」

 

 ザルモゥは面を外すように表情を変え、にやりと笑う。

 

「ーー合格だ」

 

 そのまま得物の麝香杓(じゃこうしゃく)を、ディリータ目掛けて突っ掛けた。

 ディリータはギリギリのところでそれを躱す。

 

「さあ! あとは楽しい審問の時間だ!

 私が正しいかお前が正しいか! すべては神がお決めになる!」

 

 共に包囲する部下たちに一斉に襲い掛からせながら、ザルモゥは楽しげに笑う。

 

「私が勝てば私が正しい! お前が勝てばお前が正しい!

 お前が正しいと信ずるのならーーお前にあの子が救えると思うなら!

 ……この私に、勝って道を切り開けッ!」

「ーーうおおおおおぉッ!!」

 

 ディリータ渾身の一撃を受け、ザルモゥは包囲網の外まで吹き飛んだ。

 麝香杓を杖に膝をつく。笑みを湛える双眸は、獲物というより弟子を見るそれに近い。

 ザルモゥが何かを言いかけたところでーー

 

「ーーよっと」

 

 ぼうん。

 いいところではあったが、俺の投げた煙玉が辺り一帯を煙幕に包んだ。

 ピュイッ、とティータが独特な口笛を吹く。馬の調教に使う音域らしい。

 ほどなくーー煙幕を突き破り、ディリータが仲間を引き連れてこっちへやってきた。

 

「あの口笛……やっぱり、ティータか!?

 それにアルガスも!?」 

「話は後だ。王宮まで逃げるぞ」

「まて、俺は異端者だぞ!?」

「顔隠して俺らの連れってことにすりゃ入れるだろ」

 

 俺たちは壁伝いに走り、別の入り口へと向かってゆく。

 はン!こんな子供騙しでこのガフガリオン様から逃げようなどとぐわぁーーッ!?という叫びが後方から響いた。

 どうやら煙幕を抜けて追いかけようとしたところで大規模魔法の直撃を受けたらしい。

 あれはひょっとして王妃かな。感謝しておこう。

 

* * *

 

 王宮の庭園。

 涼しげな水を吹き上げる噴水にもたれかかり、逃亡者三人は息を整えていた。

 

「助かった……礼を言う、ティータ。アルガス……」

 

 ディリータが鎧の上衣、フードを深く被ったまま立ち上がる。汗みずくだ。

 

「そうか……アルガス。お前は、ランベリーの『草』だったのか……」

 

 突然、ディリータが妙な事を言い出した。

 だからあれだけ色々先回りして、動いていたんだな……と勝手に勘違いをしている。

 都合がいいからそういう事にしておこう。今俺、たしかに忍者だし。

 忍び笑い(忍者だけに)をしているティータを放って。俺はディリータに声をかけた。

 

「ーーアルマの事ならもう知ってる」

「!? そうか。それで……王宮に逃げ込めたのか」

 

 王妃が協力者であることはもう知っているらしい。

 いや俺らが逃亡先にここを選んだのは自分たちが立ち入りを許されてるからなんだが。

 まあいいか。

 

「……。新たな聖石は見つかったのか?」

「いや、ハズレだ。また見つからなかった……。

 このままじゃアルマ様は。いつまでも、あの呪いに……。

 くそッ……」

 

 天を仰ぐディリータに、俺はーーこいつならもしかして、と期待をかけ始めていた。

 

「ディリータ。

 ーーもうすぐ神殿騎士団が、オーボンヌ修道院を襲う」

 

 次のマップはオーボンヌだ。

 今の俺らなら、突破はできるかもしれないがーー目的を果たせるかはわからない。

 

「!? それも草としての情報なのか!?」

「ああ。違いますよ兄さん。師匠はーー『未来』が見えるんです」

「!?!? そんな事いきなり言われて信じられるわけ……」

 

 ティータがまたサラッとネタバレした。

 俺は構わず続ける。

 

「神殿騎士団の目的はーー聖石『ヴァルゴ』の強奪と……それから。

 『ゲルモニーク聖典』だ」

 

 ヴァルゴはーー三月前に、俺らが確保した。

 ゲルモニーク聖典は……未だシモンの手元にある。

 これは聖石と異なり、シモンが致命傷を負わされてもその死の直前まで、しかもラムザにしか所在を明かさなかった本だ。所在は厳重に秘匿されているとみるべきだろう。

 また、どこまで解読が進められているかもわからない。だから俺は手を出さなかった。

 

「ゲルモニーク? あの、聖アジョラを売った、弟子の?」

「そうだ。禁書中の禁書だ。

 だがシモン院長がオーボンヌの書庫から見つけて、長年解読を進めている」

 

 シナリオでは、確か……

 神殿騎士団は、『狭間』へ通じる扉のコマンドワードーー地下六階の魔法陣の起動鍵を探して、この禁書を求めていたはずだ。

 だが、手に入らずに引き上げた。

 シモンがその命と引き換えに守り抜いたからだ。

 これを手に入れるのはーー非常に困難だと言わざるを得ない。

 

「……」

 

 ディリータは左右のムスタディオ、ラッドと顔を見合わせると、強張った表情で頷く。

 

「そこまで知り得ている、という事が既に、単なる『草』の情報量を超えてるだろ……。

 どうやら。『お前が未来を知り得る』という与太話も、信じなきゃいけないみたいだな……」

 

 だが。

 すべて知っているからといって、何でもできるってわけじゃない。

 

「ディリータ。

 お前ならーー『ゲルモニーク聖典』。託してもらえるかもしれない」

 

 どこかにアルマの像を留めたままでいる、ふたつの瞳を見つめ。

 俺はディリータと真正面から向かい合いーーその希望を告げた。

 

「……。

 俺、が……?」

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