「……」
ーー『ゲルモニーク聖典』確保への希望を込めて、ディリータと同道する事になったわけだが。
そもそも、オーボンヌ修道院が越えられないようでは話にならない。
敵は俺たちが全部倒しゃいい、って言えばそうなんだが。
強いやつの後ろにくっついて戦ってるフリだけするような奴を、かつては異端審問の第一線にいたシモンも認めはしないだろう。
となればーーディリータ達も、強化せねばならない。
「……。う〜ーん……」
もう三章の今になって、今さら強化かぁ。
これはこれで悩ましい。
まずは敵の戦力の分析からか。
原作ではオーボンヌ修道院は三連戦。三戦目のボスのウィーグラフがいなくなるわけだから、とりあえず三連戦分の敵が神殿騎士イズルードに率いられて来る、と見た方がいいだろう。
将はイズルード、敵は三個部隊、と。
次に敵の目的。
イズルードの行動はシンプルだ。『ゲルモニーク聖典』の所在を吐かないシモンに地下書庫一階で致命傷を負わせ、地下三階で聖石を確保しようとする。後は念入りに家捜しして、『ゲルモニーク聖典』を確保するつもりだったのだろう。
以上の点から、こちらの取るべき対応はーー
「オーボンヌ修道院地下一階で迎撃。かなあ……」
修道院前庭は多数を相手取るには向いてない。包囲される。
修道院一階は複数出入り口がある。挟み撃ちされる。
ということで出入り口が中央に一つしかない、地下一階書庫で待ち受けるのが最適だろう。
とはいえーーもしもここへ籠城するのであれば、地下という構造上、加えて燃やすものもいっぱいある以上、……普通に煙でいぶり出しとかされかねない。
なので。地下一階に入ってきたところを奇襲し、真っ先に隊長のイズルードを戦闘不能とする。
その後、混乱する敵を狭い地下書庫で分断し、各個撃破ーーといきたいところだが。
三個部隊はいかにも多い。
そう上手くは運ばないだろう。
「このときの、敵の編成は……」
思い出す。確か初戦が時魔と竜騎士で、イズルード戦が召喚士と弓使いとナイトで、ウィーグラフ戦が黒魔と弓使いとナイトだったはずだ。
こいつらをまとめて平押しする(自殺行為)と考えた場合、魔法攻撃と弓がどかどか飛んでくる最中、ジャンプで突っ込んでくる竜騎士の姿しか思い浮かばない。ナイトが接敵する前にこちらが全滅しそうだ。
「俺とティータだけなら。引っ張り回して殴って逃げて、で完封とはいかないまでも、勝てはするだろうがーー」
俺らが勝っても意味がない。
ディリータに勝たせないといけない。
未来のことを知ってるだけの怪しい俺では無理だから、アルマを助けるために実際身を削っているディリータをこそ、信用してもらわねばならない。シモンに。
その為にはディリータが自らの手でオーボンヌを守り切らなければならない。
「……」
ーーその俺の抱える難問は。
炭鉱都市ゴルランドにて、盗賊のアジトに間違えて入った占星術士が「星天停止」と叫び全ての敵を止めた瞬間にーー氷解した。
「!! コレだ……ッ!!」
* * *
ーーゼグラス砂漠。
「さあ!弓使いども!襲いかかるモンスターを一体を残して全部倒すのだ!」
「せめて弓くらい持たせてくれよッ!素手かよ!?」
「その方が戦いが長引いて良い経験になる!しっかりやれ!俺とティータはデジェネレーターを踏むのに忙しいッ!」
ーー港湾都市ドーター。
「よし!俺らが次の戦いで身につける装備は、これだッ!
親父! コイツを5セットくれッ!」
「「「「ええ、コレ!? ダッセええええェ!!」」」」
* * *
オーボンヌ修道院。
無人の院内を踏み荒らしながら、襲撃部隊の長ーー神殿騎士イズルードは焦っていた。
「……何故だ! なぜ誰もいない!
我々の襲撃が事前に漏れ、どこかに逃げたとでも言うのかッ!?」
高位に似合わぬ若さが、相応しい勲功への渇望を生む。
苛立ちまぎれにイズルードは説教台を蹴飛ばした。
「イズルード様ッ! 書庫へ続く地下階段がありますッ!
ーー大勢が隠れ潜む物音も、そこから……!」
部下の報告に、イズルードは莞爾とした笑みを浮かべた。
「よしッ!
バカめーー袋のネズミだな!!」
駆けつけた地下階段には、既に先行した部下の背中が見える。
長い階段を半ばほど降りたところで、階下の様子が見えてくる。
その光景にーーイズルードは愕然と足を止めた。
「なーー、聖歌隊……!?」
イズルードが場違いな単語を呟くのも無理はない。
視界の先ーー地下一階書庫の最奥。地下二階へ続く階段の手前には、揃いの服に身を包み、横一列に並んだ五人の姿がある。
白いローブに、斜めに被った楕円帽。
横一列に並んでいることも含めーー聖歌隊にしか見えない。
「なんだお前らはーーこの修道院の聖歌隊か!?
我らに聖歌を披露しようとでもいうつもりか!?」
背後の階段からは怯え騒ぐ声が聞こえる。シモン以下、修道院の連中はそこか。
「聴きたければ近づいて来い。
……聖石も。聖典も。ここにあるぞ」
「ーー!?」
唯一、げんなりした顔をしていない聖歌隊がそう答えた。
襲撃の目的を見抜かれていることにーーイズルードは驚愕する。
こいつらは誰だ。聖歌隊ではあるまい。
すでに別の組織に奪われていたのか。
だがなぜ。聖歌隊の格好を……。
「そうか。それならば話が早い!
おとなしく我々に渡せ。
さもなければーー断末魔を歌うことになるぞッ!」
些細な疑問を放って、イズルードは部下に号令を下した。
「ーーいけッ!!」
指示を受け、先頭のナイトが階段下ーー地下一階書庫へと走り出る。
「「「「「ハイト:ファイア」」」」」
「!ーーグアアアアッ!?」
階段を走り降りた瞬間、そのナイトは五回立て続けに魔法の炎に包まれ、その場に崩れ落ちた。即座に後方へ引き摺り込まれる。
「ーーなんだ!?何が起こった!?
黒魔法の射程には遠すぎるぞ!?」
「見ろ! あいつらも燃えてる!
回復しているぞ!?」
「なんだ、何をやった……?
自爆攻撃、なのか……?」
俺らは体に付いた火を消し、チャクラで回復しながら敵の呟きを聞く。
ちなみに俺たち全員もしっかり五回ファイアをくらっている。事前に装備とアビリティで対策はしているので、ダメージは4分の1、計1.25回分で済んでいるが。
今回の作戦。まず俺はーー全員のコマンドステータスを以下の通りに揃えた。
:算術
:拳術
:speedセーブ
:魔法防御力アップ
:テレポ
ディリータ達がそこそこ満遍なくジョブレベルを上げていたおかげで、speedセーブを覚えさせるくらいで済んだ。
ちなみにジョブは算術士である。基礎スピードが高いモンクの方を選ばなかったのは、装備可能防具が原因である。
白のローブ(火属性ダメージ半減)。グリーンベレー(speed+1)。性能から選んだ揃いの装備だったが、仲間たちからは全員ダセーダセーと不評だった。一目見るなり聖歌隊呼ばわりされたのもこれが原因である。
聖歌隊みたいに横一列に並んでいるのは単に、チャクラの回復効果を可能な限り仲間にも重ねるためである。
あとは地下一階の一番奥に陣取って、自分と同じ高さである地下一階の床へと下りてきた敵に対して、ひたすら「算術:ハイト:ファイア」を連発するだけである。
黒魔法の射程より遥かに遠くへ。割合でいうと、敵5対自分1.25のダメージを一方的にぶち込めるというのは、確かに強力ではあるが。
この戦法の真の恐ろしさはーー1撃ごとにspeedセーブが発動し、全員のspeedが1ずつ上がってゆくという点にある。
ここへ来るまでの二戦で、ディリータ達三人のBRAVEも可能な限り上げておいた。全員80は超えている。
つまり五発のファイアで三人のスピードは既に4上がっている。(俺とティータはきっちり5上がっている)
しかも算術はMPもチャージタイムもいらない。算術最強と言われるゆえんである。
「ええい、あれは算術か!?あのようなマイナーな技ッ!」
イズルードは歯噛みしている。確かに算数とか苦手そうな顔してるもんなアイツ。体育以外良くなさそう。
「ーーひるむな! 相手はたった五人だ!
あのような聖歌隊ふぜい、全員で押し包めば勝てるッ!
……突撃ッ!!」
算数のできない人が総員突撃を命じた。旧陸軍かな。
地下一階に敵兵が全員走り降りてくるのを待って。
俺らはありがたく、算術を五重起動する。
「「「「「ハイト:ファイア」」」」」
「「「グアアアアーーッ!!!」」」
あれだけ大勢いた敵兵が、イズルードと竜騎士を残して全滅した。
見れば生き残り達は本棚の上に登っている。ハイトを変えて算術の対象から逃れたか。考えたな。
というかJUMPが低くて本棚に登れなかったやつが全滅したのか。かわいそ。
とはいえ。対象ハイトを変えて算術使えば済む話ーーそう思っていたら、イズルードをはじめ竜騎士たちが次々と宙に飛び上がり始めた。
「ーーどうだ! これならば算術の対象には取れまいッ!」
上空から得意気な声が届く。
確かにあいつらが宙にいる間は、あらゆる攻撃の対象に取れない。
ジャンプ攻撃の対象はーーすべてディリータ。
まともに食らえばオーバーキル、三回は死ねる。
だがーー俺たちは変わらず、自分と同ハイトにファイアを使ったり、チャクラで回復し続ける。
その理由はーー
「……ッ、ばかな!? なぜ、なぜ倒れん!?」
竜騎士達の波状急降下攻撃を受け。
それでもディリータは倒れない。
タネは単純だ。もうspeedが違いすぎる。
攻撃と攻撃の間に、幾度もチャクラで回復を挟むくらいは余裕であった。
speedさえ高ければ、当然、本棚に着地した竜騎士を次のジャンプまでに算術で滅多打ちにすることも容易である。
竜騎士たちは次々と倒れてゆき。そしてーー
「……うおおおおッ!」
本棚に飛び乗ったディリータがサイプレスパイルで突きかかった。その突きは神速を乗せ、イズルードの全身へ幾度も打ち込まれる。
「ぐっ……!」
たまらず膝をつくイズルード。
「認めろというのか、聖歌隊の強さを……!
だが聖石を奪われるわけにはいかん、撤退するッ!」
そのまま転移石のようなものを使い、撤退していった。
待て。聖石パイシーズおいてけ。
このまま地上に即戻れば、チョコボに乗ったイズルードに遭遇できるんだろうけどーーアイツが戻らないと先の展開もややこしくなりそうだし、今回は見逃すか。
* * *
「ーーあれだけの数の敵を相手に。
まさか。正面から倒し切るとは……」
俺らの急報を受け修道院の人たちと地下三階に隠れていたシモンは、地上に出てくるなりそう言った。
地下書庫でファイア使いまくったんで若干キレ気味である。
シモンはしばし瞑目するとーーやがて一冊の本を取り出し、ディリータに手渡した。
見間違えようもない……『ゲルモニーク聖典』だ。
「……ディリータ殿。
神殿騎士団が修道院を襲うようではーーもはや。
聖典の秘密も、それに教会の権威も。守りきれそうにありません……」
シモンは雨の降る空を見上げ、ディリータに本をしっかりと握らせる。
「教会が捜し利用しようとしているアルマ様を、あなただけは。異端者と認定されても助けようとした。
そして今また、我らの命を救って下さった。
ーーこの『ゲルモニーク聖典』は。
正しき者のもとへ、あるべきです……」
そして俺達を正面から見つめ、告げる。
「聖歌隊よ……」
聖歌隊じゃないです。