アルガス転生 〜家畜に神はいない(俺以外)〜   作:葛葉狐

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詰みポイント29:造反者たち

 

 オーボンヌから一路北上、ルザリアへと帰る。道中、俺はディリータ達に現状を説明していた。

 ディリータが納得したように頷く。

 

「ーーつまり。

 いま目の当たりにした通り。教会は強引な手を使ってでも聖石を集めている、というわけか……」

「正確には神殿騎士団が、だけどな」

「? 何が違うんだ? 新生ゾディアックブレイブの結成、てのは結局ーー教皇の指示なんだろう?」

「教皇が指示してるのはそこまでだ。教皇も利用されているだけだ。

 神殿騎士団長ヴォルマルフは、聖石を集めーーそれに依代の絶望を吸わせ、ルカヴィをこの世に召喚しようとしている」

「依代の、絶望……」

 

 ディリータの追憶の瞳によぎるのは、きっとーージークデン砦で自動弓を向けた時の、……アルマの絶望の表情だ。

 依代に絶望を与え、聖天使アルテマ召喚のきっかけを作ったのはディリータだ。

 今は八方手を尽くし、その不完全な召喚を抑え込もうとしている。

 それはディリータにとって、一生続く悪夢を拭い去るためのラストチャンスなのだろう。

 

「枢機卿がそうだったようにーーヴォルマルフもまた既にルカヴィへと変じている。

 やつは仲間や眷属を増やすため。

 聖石を集め、依代に相応しい肉体を捜し、そして死者をも眷属と成しーーまた、「狭間」に至る為の魔法陣を開く為、起動鍵の記された記録を求めている」

「それがこの『ゲルモニーク聖典』というわけか……」

 

 ディリータはびっしり注釈の書かれた付箋の貼られた、古書をパラパラとめくった。

 ライオネル城へは遅れて到着していたが、枢機卿の変貌は一通り見ているらしい。

 まあアレは俺が「ディリータはルカヴィ戦で詰む」って思ったから、異端審問裁判ふっかけて介入して戦わなくてすむようにした、って部分もあるんだけどな。

 ……そういえばゲルモニークって、聖アジョラが恐らく既に聖天使アルテマと融合した状態で、あの「狭間」に続く魔法陣を開く単語まで聞いてるんだよな。

 詰んでない?

 ここからどうやってファラ教にアジョラを売って捕らえさせたの? 相手ルカヴィだよ? アジョラ処刑の時にミュロンドの大半が沈没したってことは無力化もできてないよね?

 あ。そういや原作じゃラスボスが倒される時に言ってたな。お前はもしや、かつて我を倒した者の末裔か、って。

 てことはラムザーーベオルブ家の祖先が倒したのかな。

 ゲルモニーク聖典を横から覗き込んでいる妹へ手渡し、ディリータは訊ねる。

 

「聖石を手に入れるなら、ルカヴィに操られる神殿騎士団をまず倒すべきだな。

 ーー奴らは今どこへ?」

「イズルードが逃げていった先でもあるが……フォボハム。バリンテン大公領だ」

 

 俺はルザリアの北を治める、老いた王族の名を挙げた。

 

「ーー大公は神殿騎士団と手を結ぼうとして、ヴォルマルフを招聘している」

「『武器王』? ーーあの?」

 

 フォボハム領主の異名を呟いたのはムスタディオだった。

 

「マイスター・ベスロディオーー俺の親父のお得意さんだよ。

 『武器王』……五十年戦争の頃から、バリンテン大公はさまざまな武器を収集していることで有名でさ。それこそ最新鋭の武器から、遺跡から発掘された失伝技術の武器まで、多種多様なコレクションを抱えてるって話だ」

 

 と、そこでムスタディオは横のラッドと視線を交わし、何かを思い出すような顔をした。

 

「……小耳に挟んだ話じゃ。ほんの二月前にも親父の工房から大枚はたいて遺物をいくつも買い付けたって話だけどーーあんな使い方さえわからないモン、一体どうするんだろうな?

 ーーそれよりも。五十年戦争にも兵を送ってる大公の『武器』は、もちろんそれだけじゃなくッてさ……」

「『カミュジャ』。孤児を引き取って英才教育を施した、大公直属の暗殺集団ーーだな」

 

 ラファとマラーク……ガルテナーハ兄妹が所属する組織だ。

 彼らもまた大公の『武器』の一部である。

 ムスタディオはお手上げといった様子で両手を差し上げる。

 

「さすがは『草』。やっぱり秘密組織には詳しいのか?

 噂じゃーー暗殺だけじゃなく、各地の情報収集の任も兼ねるって話だ。

 今言ったみたいな。神殿騎士団の独走、暴走を察知するくらいは……容易いんだろうな」

 

 そこでディリータが不思議そうな顔をした。

 

「大公が神殿騎士団を呼び寄せたっていっても。

 ……人がルカヴィと手を組んでどうするんだ?

 そもそも、手が組めるのか?」

 

 んー。

 原作では交渉したつもりがヴォルマルフの怒りを買って、リオファネス城内まるごと皆殺しにされてたからなぁ。(イズルード含む)

 俺はぽつぽつと憶測を話してゆく。

 

「大公が何を狙っているかだがーー

 そもそも、大公はもともとのフォボハム王家の直系で、今のアトカーシャ王家と血は繋がっているが……征服者と被征服者。ラーグ公やゴルターナ公よりもさらに遠縁ということもあって、王位継承の目は薄い。

 となれば、当然欲するは摂政の座あたりになると思うんだがーー」

 

 俺はルーヴェリア王妃とザルバッグ聖将軍の顔を思い出しつつ、続きを話す。

 

「仮にーー王妃の専横に抵抗して元老院と大公が手を組み、元老院と……

 “ルーヴェリア王妃の王子達を全て暗殺したら、死んだオヴェリア王女の替え玉を王位継承者として擁立したうえ、バリンテン大公を摂政として迎える過半数の支持をとりつける”

 ……なんて約束をしていたとするだろ?」

 

 ラーグ公閥である王妃の明確な政敵はゴルターナ公だが、ゴルターナ公は別に王子殺さなくても摂政になる目は十分にあった(強権的な王妃が元老院の大半と対立してたから)ことを考えると。

 王子暗殺と偽王女擁立はーー暗殺組織抱えてるけどけして政治の主流には乗れないバリンデン大公と、元老院との悪だくみーーって考えた方がしっくり来るんだよな。

 

「でも、第一・第二王子は確かに早世しているがーー第三王子のオリナスはまだ生きている。

 この時点で。失敗した大公の出る幕はもうないんだよな」

 

 とーーそこまで話したら全員が足を止めた。なんだなんだ。

 

「え……? ちょーーちょっと待て。今聞き捨てならない単語が飛び出したんだが……

 死んだオヴェリア王女? 替え玉?

 本物の王女は死んでるのか? じゃあアレ、誰だ?」

「え。知らない」

「お前未来知ってんじゃないのかよ!?」

「未来でも素性なんか出てこなかったよ!文句は松野に言えよ!」

「松野って誰だよ!」

「まあーーさっきの、王子二人の暗殺が大公と元老院の約束に基づく結果だった……とするならさ。

 あの偽オヴェリアの正体はーーおおかた、フォボハム王家の遠縁の娘あたりじゃないか?」

「? なんでそう思う」

「いや、仮に大公の計画がうまく行ってさーー王子三人とも暗殺できたとするじゃん?

 そしたら後に擁立する偽オヴェリアは。アトカーシャ王家よりも、フォボハム王家の流れを汲む人間であった方が扱いやすいだろ?」

「何故だ?親戚だからか?」

「違うよ。

 成長して言う事を聞かなくなったり、あるいは自分が偽物であることに気づいた時に、"お前は本当は違う王統、フォボハム王統の人間で、アトカーシャ王統を乗っ取った存在なのだ"って言ってやれるのさ。もしこの真実が明るみに出れば、周囲から自分は排斥されるかも知れない……という恐れから二度と逆らわなくなる。それにバリンテンとしても、イヴァリース国の王統を、自分の王統ーーフォボハム王統で乗っ取ることができるんだ。やらない理由はないだろ?」

 

 説明すると、全員なぜか一歩下がった。

 ドン引きされている。おかしいな。神社界では普(以下略)

 

「……悪辣……ッ!!

 ーーまさか。

 師匠が、すべての黒幕……?」

 

 ティータがぶるぶると震えながら、両手で喉輪と目潰しのかまえを取る。殺意高えなオイ。

 

「違うわ!俺は敵の行動を予測しただけ!」

「それにしては解像度がーー」

「やはり真実の悪でないとーー」

「未来を知るというのも嘘でーー」

 

 三人ともラスボス戦のかまえを取った。もう帰ろうかな。

 

「……とにかく! 脱線したけど。

 元老院との悪だくみに失敗したなら。現政権にバリンテン大公の席はない。

 オリナスとオヴェリアの後見として、ラーグ公とゴルターナ公が合議で国を動かしてゆくなら。なおのこと、バリンテン大公の政治的発言権はない。

 これをどうにかしたければーー両公の軍事的基盤、すなわち北天騎士団や南天騎士団に匹敵するほどの軍事力でも持たないと。まずお話にならない。

 そのための、『力』としてのーー聖石や、ルカヴィを。

 大公は欲してるんじゃないか。

 ……そういうことさ」

 

 強引にまとめた俺に、ディリータはなおも半信半疑だ。

 

「だが。そのような力ーー

 人々に受け入れられるとは、到底思えないんだが?

 それに……そもそも。制御できるとも思えない」

 

 枢機卿のもたらした破壊の痕を思い出す。

 人智を超えた破壊の力に、対抗するにはーー

 

「ああ。そこは、おそらくーー」

「何だ?」

 

 俺は言葉を呑み込んだ。

 

「……いや。まだ確証が持てない」

 

* * *

 

 その後。

 ルザリア郊外の北天騎士団公邸に立ち寄って、安らかに眠り続けるアルマの寝顔を確認した俺たちは、そのまま足を北へ向けた。

 王都の北はもうフォボハム領内だ。

 

 領の入口、グローグの丘へとさしかかったところで。

 前方から一団の兵が逃げ崩れてくる。敗走兵かな。

 紋章は黒獅子。ゴルターナ軍というか南天騎士団のようだ。

 敗走とは。一体誰と交戦したんだろう、と思って見ていると、丘の斜面を降り切った彼らはへたり込んで会話を始めた。

「い、一体何だったんだ……アイツは……!」

「オイ!それより隊長殿を置いてきちまったぞ!」

「ほっとけ!今さら助けられん!」

「だが指揮官を置いて逃げたとなれば俺たちも……!」

「脱走兵を追ってきた俺たちがこんなことになるなんて……」

 

 様子を見るに、どうやら敵前逃亡兵らしい。

 しかも隊長を見捨ててきたらしい。

 とーーその内の一人がこっちを見た。

 

「おい!アレを見ろ!」

「ん?通りすがりの聖歌隊だな。それがどうした?」

「いや十分に異常だろうが!いやそうじゃない!

 アレだ!聖歌隊の中のアイツ!

 手配書で見た!アイツはーー異端者だ!」

「異端者!?」

「なるほどーーアイツを捕まえて帰れば!」

「敵前逃亡の罪もーー許されるってワケだな!」

「「「「「行くぞお前らァッ!」」」」」

 

「「「「「ハイト:ファイア」」」」」

 

「「「「「グアアアアーーッ!」」」」」

 

 雑に襲ってきた彼らは、雑に全滅した。

 

「いったい何だったんだこいつらは……」

 

 息も絶え絶えの連中をよけて進むと、丘の上から戦闘音が聞こえてくる。

 

「……行ってみよう」

 

* * *

 

 夕暮れの丘。

 そこには、並んだ影法師が二つーー長い尾を引いていた。

 姿は逆光で見えない。

 

「……う……うう……」

 

 並んだ影の前にできた、すり鉢状の穴。

 その底に。ボロボロに傷ついた人影がもうひとつ、膝をついているのを認めーー俺たちは即座に攻撃を開始した。

 

「「「「「ハイト:ファイア」」」」」

「ーーおっと」

 

 片方の人影が、隣の巨大な人影によじのぼった。

 刹那。五連の魔炎が、その巨大な人影のみを襲う。

 しばらくしてーー防御体勢を解いた、その巨大な全身甲冑は……なんと無傷のようであった。

 

「この距離からの攻撃ーーやっぱり算術か。

 対処しておいて良かったよ」

 

 そう言って、巨大な全身甲冑の肩から飛び降りる人影。

 ーーその声には確かに。聞き覚えがあった。

 ディリータがよろめくように、歩み寄る。

 

「……ラムザ……ッ!?」

 

 沈む夕日の残光を遮り、俺らの前に現れたのはーーあのラムザだった。

 ラムザは残念そうに、俺たちの後方を見やる。

 

「なんだ。彼らはきみ達が倒してしまったのか。

 ーー彼らはきっと、新しい同志候補に加わってくれる。そう信じていたのに」

 

 その胸には見たことのない意匠の、騎士勲章が光る。

 あれがーー央天騎士団、の紋章なのだろうか?

 ラムザはディリータに笑いかけた。

 

「ディリータ。王女が摂政に据えられて一安心か?

 きみは問題の先送りをしただけさ。

 何度でも言うが、きみに王女は救えない。

 ーー他者から与えられた剣で、他者の剣をつとめるしかないきみには。

 とっととその借り物の剣を捨て、馬飼いとして幸せに生きるんだな」

 

 ディリータはその知らない騎士章を見つめ、訊ねる。

 

「ラムザこそ……。

 央天騎士団の噂は、聞いてるぞ……。

 あんな連中を迎え入れることがーー正しき騎士道の追求だなんて。

 まさか、本気でそう思っているのか……?」

 

 ラムザは両手を広げた。背後の全身甲冑が、剣を捧げ持つような姿勢を取る。

 

「弱いところは鍛えればいい。

 最も大事なのはーーなにものよりも強い力に対する、信奉だ」

 

 ラムザは眼下に膝をつく将を見下ろす。

 従うべき、抜きん出た力を示すためーー兵達の眼前で、この隊長を蹂躙してみせたのか。

 

「それは。騎士の剣に対する冒涜だ……」

 

 誇りを問うディリータに、ラムザは答えない。

 命ぜられて少女を撃つ騎士に、誇りがあろうはずもない。

 やがてーー興味をなくしたように踵を返そうとするラムザへと、ディリータか叫ぶ。

 

「ラムザ! 剣を捨てろッ!

 今ならまだ間に合うッ!」

 

 ラムザはむしろーーその無知を憐れむように、叫び返す。

 

「わからないんだ!

 ディリータ、きみにはわからないッ!」

 

 ーー妹を殺した、きみには。

 ーー妹を殺されていない、きみには。

 

「……ッ……」

 

 その、言外の訴えに。

 ディリータは何も答えることができなかった。

 いやーー答える資格を持たなかった。

 

 そのままーー肩にラムザを乗せた巨大甲冑が、猛然と走り去ってゆくのを。

 見守ることしかできなかった。

 

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