アルガス転生 〜家畜に神はいない(俺以外)〜   作:葛葉狐

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詰みポイント30:『騎士ディリータ』

 

「……う……助かった……。

 攻撃に失敗したヤードーから、延々追いかけられてな……」

 

 負傷していた将はオーラン・デュライだった。

 ゴルランドで盗賊のアジトにうっかり踏み込んでいた占星術士である。

 聞けば。南天騎士団の将として脱走兵を追うさなか、この先の城塞都市ヤードーにて「央天騎士団」を名乗る敵勢力と衝突。敗走したらしい。

 星天停止は強力だが、効かない相手じゃどうしようもなかっただろう。

 アイツも妹のリボンとか持ってそうだしな。

 

「気をつけろーー噂には聞いていたが。

 僕の隊の魔術師もみんなやられた。

 ヤツらは『魔術師殺し』の異名を取る、神出鬼没の部隊。

 立ち向かいたいなら……魔法は使うな」

 

 オーランはそんな忠告を残すと。

 “もし教会と神殿騎士団に異心あらば、必ずや討ち果たす“

 そう、民のための純粋な誓いを告げーー去っていった。

 義父に全剣技を習ってからまた挑むつもりかな。

 

* * *

 

 ーー城塞都市ヤードー。

 

「性懲りも無く追ってくるのか……。

 せっかくの忠告も、何ら意味が無いらしい。

 いいだろう。消えぬ敗北をその身へ刻み、二度と戦場に立とうと思えなくしてあげよう」

 

 広場の中央。

 呆れた様子で腰に手をやるラムザがそう宣告すると、傍らの甲冑巨人が動き出す。

 

「オイ!? 魔法効かないって忠告されたのにまた同じ戦法で挑む気か!?」

 

 聖歌隊装備のディリータが慌てている。

 

「いや……そもそもさ。

 魔法攻撃なんてーー俺らの本命じゃないだろ?」

 

 俺がそう返すと、ディリータは疑問顔になった。

 忘れているのか。まあオーボンヌ修道院では算術魔法が大勢の敵兵相手にあのとおり、猛威を振るったしな。

 それにさっきの逃亡兵狩りもアレで一発だったし。 

 あの戦法の真価というべきものを忘れてしまっても仕方がない。

 

「ーー来るぞッ!」

 

 建物の屋根に飛び上がるラムザの傍には。忍者のような格好をした兵士が並び、投具をかまえて甲冑巨人の孤軍奮闘を支援する構えのようだ。あれは算術のハイト対策か。

 大公の擁する暗殺集団「カミュジャ」の暗殺者に見えたが、みなが央天騎士団の紋章をつけている。人員出向かもしれない。

 

 というかあの甲冑巨人。魔法が効かない事といい、どう見てもーー

 『鉄巨人』だよなあ。

 ゴーグから鉄球買い上げて。ゴルランドから聖石回収して……起動まで持っていったのか。

 こりゃ失伝技術に詳しい人間が裏にいるな。『武器王』の配下にはそんな人材までいるのか?

 

 ラムザが剣を振り上げーー立ち上がる鉄巨人へ命じた。

 

「ゆけーー

 『騎士(ナイト)・ディリータ』!」

 

 己が名を呼ばれた鉄巨人は。その命に応じ、高らかに排気を噴き上げた。

 

「ーー騎士・ディリータ・忠実ナル剣」

 

 構えかけたディリータの動きが止まる。

 

「ぼさっとするなディリータ!いつも通りーー算術ハイトファイアだ!」

「あ……ああ!一切魔法が効かなくてもか!?」

「そうだ!続けろ!この鉄巨人なら未来で見ている!

 アイツはそれほど素早くもないし、攻撃も近接ばかりだ!

 唯一、恐れるべきはーー」

 

 その時、鉄巨人が胸の砲口を開いた。

 

「ーー処理ヲ・実行シマス」

 

 胸から閃光が迸り、俺たちの横列に突き刺さる。

 

「ぐああああっ!?」

 

 地面ごと食らったムスタディオが、土砂を撒き散らし高々と宙を舞う。

 ただの一撃で。ムスタディオがやっつけられた。 

 

「恐れるべきはーーいまの『処理』くらいのものだ!

 ムスタディオを助けてから、落ち着いてハイトファイアを続けろ!」

 

 忍者たちからも一斉に放たれる投具を避けつつ、俺は現状維持を指示した。

 俺たちは自分を巻き込みながら効果のない攻撃を続け。

 鉄巨人は自らのHPを削りつつ、俺たちへと攻撃を続ける。まさにお互い消耗戦だ。

 だがこれはーージリ貧ではない。

 ハイトファイア一発ごとに全員のスピードが上がって行く分、いずれはこちらの手番が余る。

 そうなればようやく、反撃の刻が訪れるはずーー

 

「……助けてッ!!」

 

 そう計算していた俺の目論見は、戦場に響き渡った少女の叫びで粉微塵に打ち砕かれた。

 

 両手を広げ、敵意がない事を示し、必死な表情でこちらへ走ってくる褐色の少女はーーラファだ。

 ラファ・ガルテナーハ。大公擁する暗殺団「カミュジャ」の一員である。

 マップ隅の方で二人でごそごそやってるなとは思っていたが、あれは兄貴のマラークと揉めていたのか。

 そういえばここ、ラファの加入マップだったな。忘れていた。

 

「ラファッ!!」

 

 追いかけてくるマラークが、建物下に降りるのに躊躇してたたらを踏む。

 まあ俺らのハイトファイアに巻き込まれるとわかってるからな。

 他方ーー俺らは、一直線に駆け寄ってくるラファを巻き込むわけにもいかず、ハイトファイアを止めてしまう。

 駆け寄るラファは……迫る鉄巨人に振り向き、何やら複雑な印を切った。

 

「死の記憶に眠る音の響きの全てを

 閃光とともに降ろさん… 天鼓雷音!」

 

 詠唱とともに、走る稲光で描かれた梵字があちこちに刻まれ。その直撃を受けてーー

 あれだけ俺たちのハイトファイアを何発も浴びながら、まったく無傷であった鉄巨人が。

 はじめて轟音と共にたたらを踏み、咆哮を上げる。

 

「グオオオオオオォォーッッ!!」

 

 お。なるほど。ラファの『真言』か。

 あれはFAITH関係なくダメージ与える技だったっけ。鉄巨人にも効くわけだ。

 しかも天鼓雷音は雷属性で、鉄巨人の弱点だったな確か。

 なんて的確な攻撃だ。さすがは寝返り組、元味方の弱点ならよく知っているってわけか。

 動きのぎこちなくなった鉄巨人に、ラムザが目を見開く。

 

「くそッーー『ディリータ』がッ!!

 総員! ここはリオファネス城まで退くぞッ!

 まもなく例の公式声明も発表となる! 彼らにはもはやーー何もできまいッ!」

 

 そう、騎士団員たちに撤退を命じると。

 

「ーー『まことの騎士』。

 きみ達にも、きっとすぐにわかる。

 もしも。理想の騎士の姿が見たければーーリオファネスまで来るがいい」

 

 謎めいた言葉を告げーー鉄巨人の肩に乗るラムザは、胸壁の向こうへと姿を消した。

 

* * *

 

 ーーヤードーの酒場。

 俺たちは、ようやく落ち着いた投降者……ラファを奥まった席に囲んで、離反の事情を聞いていた。

 

「ーーバリンテン大公の狙いはただ一つ。イヴァリース国の主よ。

 養育された孤児の私たちは所詮、そのために集められた『武器』に過ぎない……。

 ううん、そもそも私たちの村を焼いたのもあいつ。全部知ってしまったの……。

 だから逃げようって……もう利用され続けるのはやめようって……兄さんに言ったのに……」

 

 褐色の肌のラファは、琥珀色の瞳で涙ぐむ。

 兄のマラークは養育の恩を裏切れぬと言い、妹には従わなかったらしい。

 こんなの単なる大公のマッチポンプに過ぎないわけだが。他に親と慕う相手も全部焼かれたマラークには、憎むべき相手も満足に憎めない。いや神社界でもよく見る手口(以下略)

 ティータがハンカチを差し出すのを見ながら、俺はラファへ頷いた。

 

「ーー事情はわかった。兄さんのマラークを連れ戻したいのなら協力する。

 ただし説得は……ラファ。妹である君にしかできない。君が説得してくれ。

 何度はねつけられても諦めるな。マラークがうんと言うまで俺たちは付き合う」

 

 返答に、ラファは涙で濡れた目をぱちくりとさせた。

 なんでそんなに協力的なのか理由がわからないのだろう。

 まぁーーここでほっとくと、マラークも普通に一回死ぬからだ。(まあ何やかんや生き返るけど)

 

「師匠は。……こういう人なんです」

 

 ティータが誤解にまみれた見解を述べた。心外である。

 ディリータはじめ、周りの三人までうんうん頷いている。実に心外だ。

 俺は単に自分が生き延びたいだけで、別にそこまで面倒見良くはないのだが。

 結果的に、死ぬ運命の人を助けて自分の為に利用しているだけなんだが。

 

「……はいはい。偽悪者偽悪者」

 

 俺の表情を読んだか、ティータはそんな事を言う。横でディリータも頷いている。

 はああああお前だけには言われたくないわお前原作が発売された時クリアしたプレイヤーがまず言った感想で一番多かったのが「ディリータは偽悪者」って(以下略)。

 

「この人なら助けてくれそうだ、と思ったから投降したけどーー

 私の勘は正しかった。ってことでいいのね?」

 

 連中を見回しなぜか笑顔になるラファに、俺はずっと気になっていた事を訊ねた。

 

「ラファ。教えてくれ。君は「カミュジャ」の一員のはずだがーーなぜ『央天騎士団』の紋章をつけている? 団員なのか?」

 

 ラファはおのれの騎士紋に目を落とすと、それを躊躇いなくむしり取ろうとしてーーやめた。

 

「……まさか。

 『央天騎士団』はもともと、あのラムザがーー“王女をこのリオファネスに迎える“という約束のもと、大公からの支援で立ち上げた思想集団よ。

 北天南天両騎士団からの戦力引き抜きにあたり、私たちはカミュジャから出向させられて、あの『魔術師殺し』部隊の支援をしていただけよ。私の『真言』もまた、敵の信仰に関係なく傷を与える特殊な技だからね」

 

 複雑な印を組んでみせるラファを、俺は驚きの目で見つめた。

 ラムザはーー王女をゴルターナ公のもとへ連れて行っても、利用される境遇は変わらないと考え……バリンテン大公の元へ連れて行こうとしていたのか。

 しかし。バリンテン大公とてオヴェリアを利用するだけではないのか?

 いったい何が違うんだ?

 俺の疑問をよそに、ラファは言葉を続ける。

 

「ーー私たち以外にも。リオファネス城に招いている神殿騎士団からも、出向の人員が出ていたわよ?

 なんだっけーー神殿騎士というよりは機工士みたいな。やたら絡繰に詳しい。

 確か……バルクって言ったかしら」

 

 その言葉に反応したのは、ムスタディオだった。驚いたように眉を上げる。

 

「バルク!? 機工士のバルク兄貴か、もしかして!?

 ……俺がまだガキの頃。ゴーグで散々、機巧いじりを見せてもらったんだ。数ある工房でも腕は一流だったぜ。

 ただーー兄貴は貴族様に楯突いて、騎士団に殺された、って聞いてたんだけどな。生きていたのか……」

 

 ムスタディオは鉄巨人の威容を思い出すように天井のあたりを見て、頷く。

 

「なるほどーーバルク兄貴が、あれを整備し起動まで持っていったと考えるなら。あの鉄巨人がラムザに付き従っているのも、理解できるな……」

 

 腕を組むムスタディオの横。俺は……複雑な色を浮かべるそいつを見る。

 しかしーー『ディリータ』。

 その名は。果たしてどんな想いで名づけられたものなのだろう?

 胸の奥を零すように、ラファが呟く。

 

「……そう。私たちは。

 別にーーあのラムザの理想に共鳴した人間、ってワケじゃない……」

 

 言葉とは裏腹に。

 その指はーー破り捨てようとした『央天騎士団』の紋章の上を、未練がましく這い回る。

 俺はラファを正面から見つめた。

 

「ラファ。教えてくれ。

 ーーラムザはいったい、何をしようとしているんだ?」

 

 俺の問いに、ラファは再び騎士紋へと視線を落とした。

 

「……」

 

 やがて意を決し、ラファが語り始めようとした刹那ーー

 

「ーー新しい噂話を受信したぜ!」

 

 酒場のマスターが、カウンターの上へと風魔法で作った噂話画面を置き据えた。

 そこにはこう書かれていた。

 

:バリンテン大公、オヴェリア女王即位を支持表明

:つい先日のオヴェリア王女の摂政宮就任により和解をみたラーグ・ゴルターナ両公であるが。

:それを良しとせず、本日、フォボハム領主バリンテン大公がオヴェリア女王の即位をこそ支持するとの公式声明を発表した。

:バリンテン大公は五十年戦争でも多種多様な兵を派遣した『武器王』で、その配下には孤児より育て上げた忠心厚い「カミュジャ」と呼ばれる暗殺者集団がいると噂される。

:また近頃はグレバドス教会の神殿騎士団に接近しているほか、領内にはオヴェリア女王へのみ剣を捧げる「央天騎士団」なる集団まで勃興。支持勢力の輪を広げている。

 

「「「「「ーーーーッ!!!」」」」」

 

 ラムザの言っていたのは。これか……!

 

 

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