ーー先行するラムザとディリータの背を追って、リオファネス城内を走る。
戦闘継続中のため全員speedが上がったままで、全員めちゃくちゃ足が速い。
悲鳴が聞こえてくるのは……この角の先か。
原作シナリオではその死に様が非常に可哀想と大変好評を博していたーーイズルード死亡イベントである。ああいうのを書かせたら光る松野の筆大爆発である。
イズルードーー間に合うか。無事でいてくれよ。
「何だ!? 一体何が起きてるんだーーうわっ」
曲がり角でラムザやディリータと危うくぶつかりかけたのは……まさにその神殿騎士イズルードだった。
あれ?何でこいつ、変貌した父親に戦いを挑んで死にかけてないんだ?
ああそうか。なるほど。俺は理解した。
教会の不正を記した『ゲルモニーク聖典』を確保しに(マラークを始末しに)行く役が、神殿騎士ウィーグラフがいないから……唯一、同席していたイズルードに回されてきたのか。
じゃあこいつ父親の変貌とか見てないのか。命令されてマラークを追っかける途中で、後ろから悲鳴が聞こえてきたので、命令を遂行すべきか様子を見に行くべきかまごまごしてただけだな。
ーーならばよし。
「生きてて良かったイズルードッ!」
ドゴス(999ダメージ)
「おうふッ」
イズルードは通り過ぎざまの俺の肝臓打ちにーー体をくの字に曲げ、壁まで吹っ飛んで叩きつけられ、そして力なく床に崩れ落ちた。
併走するティータが叫ぶ。
「生きてて良かったってッ!?今ので死んでませんッ!?」
「大丈夫だ!先に算術リレイズもかけといた!」
「ならばよしッ!」
脇を走るムスタディオがちらりと俺たち師弟を見た。ドン引きしている。
ダイナマイト刑事(SS)のQTEばりに鎧袖一触でイズルードを倒しつつ、俺らは悲鳴を響かせる執務室へと飛び込んでゆく。
するとそこにはーー
「ぐああああああッ!」
「ーーおや。また闖入者かのう」
首を掴み上げられ、宙吊りで悲鳴を上げるヴォルマルフと。その首を片手一本で吊り上げるーー白髪白髭に魔術師帽を被る壮年男性の姿があった。
というか……ヴォルマルフ。悲鳴お前のだったんかい。
だいたい、大公はヴォルマルフがおぞましい姿に変貌を遂げた、とか言ってなかったか?
今、首を掴んで宙に持ち上げられてるのって……普通に人間形態なんだが。
何らかのーーよんどころない事情があって、人間の姿に戻らざるを得なくなったのか?
とはいえ。どう見たって。
「ほお……。『融合』を果たした、この人間も珍しかったが。
石が共鳴しておる。ーーお主らは聖石をいくつも所持しておるな?」
よんどころない事情そのものにしか見えないーー魔術師風の壮年男性が喋り出した。
およそ人間とは思えぬ目の色で、じろじろとヴォルマルフを観察していた魔術師はーー俺らに気づくなり視線をこちらへと向ける。その目は、俺らが厳重に隠し持っている聖石のあたりを、しっかりと這い回っている。
「いつものように迷宮の奥底で瞑想しておったが。石に言われて、里帰りもさせてみるものだ。
これだけの珍しいサンプルが。一堂に会しておるのだからのう」
石の里帰り?と疑問に思っていると、魔術師はマント付きローブの内側から、黄色とも橙色ともつかない石を出してきた。
聖石サーペンタリウスだ。
てことは、こいつはーー
「ーーそれは! 五十年戦争の折、ロマンダ軍にわが城を奪われて以来所在不明となっていた、聖石サーペンタリウスではないかッ!?
なぜそれを!『英雄』殿が持っているのだ!?
……魔術師エリディブスッ!!」
窓の外から驚愕の表情を覗かせるバリンテン大公が全部言った。
そう。こいつは五十年戦争の中期、このリオファネス城奪還戦以後ずっと行方不明となっていた大戦の英雄ーー魔術師エリディブス。普通ならネルベスカ島のディープダンジョンの地下十階でずっと寝ているはずだが。
大公はわなわなと銃を向けている。
「そもそも!大戦の英雄どのは、わしよりもずっと歳上だったはず!
どうしてあの頃から、姿が変わっておらぬのだ!?」
「ーーおお。貴殿はフォボハムの『武器集め』か。
ワシが取り返してやった城の住み心地はどうかね?
なに。ワシは安手で働くと有名なのでな。
礼などーーこの石ころ一個で充分よ!」
カッカッカ、と大笑し、魔術師は石をしまった。
「さてーー」
古文書より数多の魔術を蘇らせた研究者としての冷徹な瞳で、エリディブスは告げる。
「検証したきことは数あれど。
積もる話はーーまずその、聖石を取り上げてからとしようかのう?」
エリディブスの腕がブレる。
ガシャン、という破砕音とともに。エリディブスが片手一本で放り投げたヴォルマルフが窓を突き破って飛び出しーー怒号の尾を引いて落ちていった。避け切れず屋根上へ弾き飛ばされた、大公の悲鳴が響き渡る。
「見るがよいーー『融合』ッ!」
魔術師が秘技っぽく告げると、その身は見る間に人の姿を失い、ゴーグルをかけた有翼の悪魔みたいなものへと変貌を遂げてゆく。悪魔王サーペンタリウスだ。
別に秘技とかじゃなくて、ルカヴィに体を乗っ取られてるだけだと思うんだが……。
まあエリディブスの主観では、己の人格が維持されたまま不老不死になったうえ数百年分の知識まで手に入れられた、とても凄い技術ーーみたいな認識なのかな。
ポジティブな研究者だ。ものは考えようだな。
「ーーみんな!気をつけろッ!
大戦の英雄エリディブスは!独自の召喚魔法を使うぞッ!」
右手を横に振り抜いてセリフを言ってみせる。
ちょっと芝居がかった俺の忠告に、敵味方全員の注目が集まった。
感心したようにエリディブスが髭をしごいた。(ルカヴィ化しているので髭はない)
「ふむ、よく知っておる。勉強熱心なことじゃな。
ならば期待にーー応えるとしよう!」
よしよし。乗ってきたぞ。
「ぬん!ーー『毒ガエル』ッ!」
「うわあ〜ラッドが〜(棒読み)」
エリディブスが召喚魔法を使い、ラッドが毒に苦しむカエルへと変化した。
わあ……。
ソワ……。
俺はこっそり編成画面を開き、皆の編成をいじっておく。
「ぬうん!ーー『蛇遣い』ッ!」
「ぐわあ〜ムスタディオが〜(棒読み)」
エリディブスがふたたび召喚魔法を使い、ムスタディオが生じた蛇に締め上げられた。
わあ……。
ソワソワ……。
「ちょっと!?師匠やられっぱなしですけど何で反撃しないんですかッ!?」
あんなひ弱そうな魔術師あがりなんて一発ですよ一発!とティータが腕をぶんぶん回しているがーー急に動きを止めた。どうやら違和感に気づいたらしい。
チッ。さすがは家畜の中の家畜。勘がいい。
「ーーあれ!?算術使えなくなってる!?え、みんなも!?
その代わりにこの魔法は……召喚術!? てことは召喚士ですか今みんな!?
ちょっと!これやったの師匠でしょうッ!?なんで私たちの職業いきなり変えたんですかッ!?」
味方全員、いきなり算術が使えなくなった。
まあ理由は俺が戦闘中に編成画面開いて全員ジョブチェンジさせたからだ。
突然の俺の裏切りに動揺している皆にーー俺は納得できるただ一つの理由をつきつける。
「しょ、しょうがないだろ……。
こいつからは『ゾディアーク』がラーニングできるんだから……」
召喚魔法『ゾディアーク』は、通常のJP消費では習得できない。
ジョブを召喚士にした上で、ゾディアークを食らい、しかも生き残らないと習得できない。
二度と巡ってこない習得機会なんだぞ!?と力説する俺を、ティータの強烈なボディブローが襲う。必死で避ける俺。
あっぶねえええ!? 避けなかったら死んでたぞ!? お前いま物理AT99だって事忘れてんじゃねえのか!?
「ほう。まことに勉強熱心じゃな。
ならば教えてしんぜようーー最後の学びになるやも知れぬが、なあ?」
エリディブスは俺を標的に、念願のゾディアークを撃ち放ってくれた。
うわぁ〜。俺は笑顔でそれを受ける。
光の一反もめん的な何がが縦横無尽に走り回ってデンプシーロールよろしく俺を打ち据える。
標的を仕留めた会心のエリディブスの笑顔に。
まったくもって無傷な俺も笑顔を返す。
「なに……無傷だと? いやーー魔力が枯渇しておる。
魔力への傷に切り替えたのか? 器用な真似を……」
MPすり替えで生き延びた俺を。再度打ち貫くべく、また詠唱を始めるエリディブスだったが。
笑顔のまま俺は一歩だけ移動した。ふたたび魔力が回復する。
「なっ……事実上の無敵ではないか!?」
そうです。
すべてはラーニングのため。
さっき編成画面を開いた時、俺は全員のアビリティコマンドをこのように変更しておいた。
:召喚
:拳術
:MPすり替え
:魔法防御力UP
:MP回復移動
これでたとえ、仮に999ダメージを受けたとしても(BRAVEパーセントで)HPではなくMPに入るのでまったく死なずにすむ。
さらに言えばspeedもMAXの50なので、すぐ行動順が回ってきて一歩でも移動すれば、ゼロになったMPも即回復する。MPが1でも回復していさえすればMPすり替えは発動するので、行動順がくるたびに(一回分の)無敵シールドが発生しているのと同じ状態になるわけだ。
おかげでゾディアークをラーニングできた。
まあラーニングしても別に使わないんだけどさ。
ホラ、ね? 取り返しのつかない要素回避というか、ゲームプレイヤーとしての収集癖がね? わかるでしょ?
まあでもーーせっかく召喚士になってるし、MPを速やかに回復する手段もあるわけだし(移動+チャクラ)、一回くらいは使ってみるか。ゾディアーク。
「絶対なる真理を知らしめ給へ! 偉大なる戒律の王… ゾディアーク!」
ちゃんと光の一反もめん的な何かが出て「コイツ俺らでシメときますんで」と言ってエリディブスをシバいた。そういう感じなんだ。召喚魔法。
一方、食らったエリディブスは呆然としている。
「なっ……! 一度見ただけの魔法を再現しただと……!?
ーー見つけたッ! 恐るべき才ッ!」
目をぎらりと輝かせるエリディブス。何か違うスイッチが入ってしまったらしい。
俺はひらひらと手を振り、否定してみせる。
「いやいや。ここにいる全員、それくらいはできますよ? ーーなあみんな?」
広範囲魔法ゾディアークにしっかり巻き込まれていた仲間たちが頷く。
「はい師匠ーー『ゾディアーク』」
「そうだなーー『ゾディアーク』」
「できるよーー『ゾディアーク』」
「簡単だなーー『ゾディアーク』」
「ゲロゲローー『ゲローゲーロ』」
「今の世代ってみんなこうなの!?凄くない!?」
光の一反もめんに滅多打ちにされながらエリディブスはジェネレーションギャップに打ちのめされている。痛くなければ覚えませぬ。そのために我々には伊勢という地獄が用(以下略)
気づけばエリディブス、というか悪魔王サーペンタリウスはもうよれよれだ。ゾディアーク5発も食らって生きてる方が凄いけど。最強魔法を全員にレクチャーしてくれるなんてずいぶん親切な敵だなあ。
いやもう敵じゃなくて師匠では?
俺はエリディブスへ頭を下げる。
「師匠ーーご教授。有難う御座いました」
「なんも教えてない……」
最上の評価だ。
さてーーご指導も終わったところで、そろそろ幕引きとしたいのだが。
ずっと考えていた。ラムザも大公も、現政権に対して反対の立場や、明確な敵対行為を取り過ぎている。
このまま事を収めると、後に行いを咎められ、政争の敗者となった両者へ過剰な処罰が加えられかねない。
それを避け、また周囲に集まった人々をも納得させるためにはーー『大公とラムザは、この悪魔出現を予期し、誘き寄せて退治しようとしていた』くらいのカバーストーリーが必要となるだろう。
よし。俺の安寧と事後処理のため、ここはもう一芝居打っておくか。
俺は少し考え、編成画面でラムザだけ編成し直してから、いきなり声高らかに叫ぶ。
「ーー今だッ! ベオルブの勇者、ラムザよッ!
悪魔に裁きの、聖光爆裂波をッ!!」
「え? あれ!? いつの間にか剣装備してて聖剣技使用可になっててしかもまだ未習得だったはずの最強技、聖光爆裂波まで使えるようになってるッ!?」
全部やっておきました。
俺はいい笑顔で親指を立てる。
「ーー説明しよう!悪魔退治のベオルブ家の末裔ラムザは!緊急時になるとその秘めたる力が解放され!『ベオルブの勇者』の聖なる刃で悪魔を薙ぎ払うのだッ!」
「嘘くさい説明ですね師匠……」
やかましい弟子よ。
俺は執務室のそこかしこに倒れているリオファネス騎士たちへと声を放った。
「ーーしかしベオルブは皆の為に戦う正義の戦士! 皆の声援がないと、負けてしまうかも知れないぞッ!
さあ! 皆もベオルブの勇者、ラムザを応援しよう!」
死にかけ騎士たちが顔を見合わせ、弱々しい声を上げる。
「頑張れー…」
「ラムザ。頑張れー…」
「声が小さいッ!」
「相手怪我人ですよ鬼畜ですか師匠?」
「頑張れ!」
「ラムザ!頑張れ!」
「違う!コールは『ベオルブ・ラムザ』だッ!」
「ベッオルブッ!」
「ラッムッザ!」
「「ベッオルブッ!ラッムッザ!」」
「何の茶番だこれは……」
「よおおおし!皆の声援パワーも溜まったところで、大悪魔サーペンタリウスもいい加減お待ちかねだッ!
今だラムザ! 悪しき魂を打ち砕く聖なる一撃! トドメの、聖光爆裂波だああああッ!」
その時ラムザがこそっと耳打ちしてきた。
(待って聖光爆裂波の詠唱とか知らない)
(何だよその辺は適当に何か言っとけよ)
逡巡は一瞬。
ラムザはキリッとした表情を浮かべ、聖なる光を宿す剣を頭上へ高々と振り上げた。
「クポ〜。くるくるぴゅー… 聖光爆裂波ッ!!」
おい。どうして数ある詠唱の中からそれを選んだ。
聖なる剣気が直撃し、大悪魔は断末魔を響かせる。
「ぐああああッ!?
このワシが…破れるのか…こんな大規模ショッピングセンター屋上ヒーローショーに…!」
あ。ルカヴィの膨大な知識の中にそれあったんだ。
大悪魔は無数の怨念を噴き出しつつその巨体を消失させ、そしてーー後に残った聖石ひとつだけが床へと転がる。
よし、聖石サーペンタリウスも回収と。これで三つ目だ。
俺は皆の視線を誤魔化すように、MCを締めた。
「ありがとう! 皆の声援で無事、ベオルブの勇者は大悪魔サーペンタリウスを討ち滅ぼしたぞッ!
今一度、悪魔退治の勇者ラムザ・ベオルブに大きな拍手をッ! ありがとうッ!」
剣を胸の前に掲げ、一応ポーズを取ってくれるラムザ。
パチ…。パチ…。まばらな拍手が執務室に響く。
コール&レスポンスに付き合わされ、そろそろ重傷者たちの体力も限界らしい。天に召されつつある。
回復に走る俺の横で。宗教画にしなきゃ!とまた猛然とスケッチを始める重傷者がいる。何でいつもいるんだこういう奴。
破れた窓から差し込む光に。ふと窓の外を見ればーーようやく夜が明け、リオファネス城下町を曙光の元に照らしていた。
屋根の縁に屈み込む後ろ姿は……ラファだ。
涙を流し。嗚咽の声を漏らしながら、重そうな何かをーー必死に引き上げようとしている。
長い影を引き、俯くままに少し離れた場所に立っていたマラークが。意を決したように駆け寄り、妹に手を貸し、その屋根端に引っかかっていた人物を引き上げる。
ようやく引き上げられた老人は。屋根の上に横たわって荒い息をつき、そしてーー兄妹に何度も礼を述べる。
兄妹は答えない。兄はただ黙って、へたり込んだ妹の肩を抱き。そして妹は、見捨てられずに助けてしまった老人ーー大公の前に、ただ泣きじゃくっている。
長い夜の果ての光が、ようやく三人の頭上を照らした。
俺は窓へ近づいた。青く光る街は未だ、朝の静寂に包まれている。
屋根の下にはーー落ちたはずの男の姿はなかった。
「逃がしたか……」
ーー面倒な事にならなければいいが。